リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
氷塊のビームがラムに迫る。
憤怒の極みは、ラムの体を抱えると空中に飛び上がって回避した。
「・・・・・ッ!!」
下から、エミリアが憎しみのこもった瞳で睨み上げてくる。
スバルも憤怒の極みの行動に驚いていた。
まさか、ここまでラムを律儀に守ろうとするとは。
半身にラムを庇いながらも、エミリアからの追撃を警戒する姿は守護者そのものだ。
「ラムの頁を選んだのは・・・・・バルス自身の選択です・・・・・エミリア様。あなたのこの攻撃は望まれていません・・・・」
憤怒の極みに自らを守らせながら、ラムはエミリアを見下ろした。
「うるさい!ラムが、誑かしたんでしょ!・・・・・許さない!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
やめろ。ラム、これ以上エミリアを怒らせるのはまずい。
エミリアの激情に比例するように、力はどんどん高まっていく。
無数の目。金書庫を埋め尽くす全方位からの氷たちの視線が、憤怒の極みとラムをロックオンしていた。
「・・・・・・・・」
ガッ!
憤怒の極みは、飛びあがったまま天井のくぼんだ部分を掴んでぶら下がった。
動きが止まった。ラムを片手に抱えたまま、落ち着いて状況を観察している。
「ッ!!」
スバルは動かせない自らの赤い瞳が、驚愕に見開かれたことを自覚した。
氷のエミリア達、1対1体の全てが手のひらをこちらに向けていたのだ。
まさか、使えるのか?全員が氷塊のビームを・・・
エミリアは傲慢の権能を躊躇せず使い続け、スバルから力を引き出し続けている。
どんどん進化する。その勢いには際限がない。
「・・・・・・ラムなんかの憤怒で・・・私の全部を受け止められると思ってるの・・?」
氷の兵隊たちは氷塊のビーム発射を構え、エミリアの本体も全身からマナが溢れだしていることが分かった。
何か、違う存在に生まれ変わろうとしている。
その禍々しい雰囲気を、スバルはサテラが顕現する時のものと重ねてしまった。
ガタッ・・・ガタッ・・・
「・・・・バルス・・?」
憤怒の極みは、まるでシステムエラーを起こしたかのように震え出した。
内側のスバルには、それが自らの恐怖が反映された結果にも思えてしまう。
もう、エミリアへの存在適応しかない。氷魔法の技に適応したとしても、彼女は進化してしまう。
だが、もう遅い。とても間に合わない。
エミリアは自ら手放した勝機を、再び手繰り寄せたのだ。
氷の兵隊ら全方位から氷塊のビームを撃たれれば、憤怒の極みはラムを守り切れない。
ラムが死んだあと、憤怒の極みが解けるのかどうかも分からない。
分からないが、地面に落下した後エミリアの本体に終わらせられるだろう。
存在適応さえ・・・・・まだまだ時間が足りない・・・・
「何を、怯えているの?・・・・いつまで遠回りをするつもり?」
え?
終わりの時間が迫る、この刹那で。ラムの口調に震えは一切なかった。
この状況で、何が見えている?
「エミリア様との傲慢の繋がりを・・・・・・断ち切ってしまいなさい」
「・・・・・・・・・・」
ラムの言葉を聞いて、憤怒の極みの体の震えは止まった。
氷魔法に、適応する必要などなかったのだ。
根源の、エミリアを強くするこの権能の繋がりを断ち切ればいい。
憤怒の極みがあらゆる事象に適応できるなら、その最適解が分かればいいのだ。
待て・・・。それを断ち切れば、もう二度とエミリアに力を送れなくなる。
あのシリウスを討ち、エルザを退け、いずれ王になるために必要なこれだけの力を。
エミリアはスバルにとって特別だ。いつかは、傲慢の極みに達するだろう。
それは、レムのような特質性か?ラムのような頭脳か?ラインハルトのような精神力か?
そのどれでもない、個としての圧倒的な強さなのかもしれない。
その可能性を、ここで断ち切れというのか?
憤怒の極みは、ラムの本心を確かめるように彼女の表情を見た。
「・・・・・・・・」
その笑みには、重症の辛さを無視した、勝機を手にした者の確信が見えた。
狙っていたのだ。
ラムは憤怒の極みの力を利用できることを確信してから、この機を狙っていた。
エミリアから傲慢の権能を取り上げる。
憤怒の極みがそうするしかなくなる状況を、彼女を挑発したときから作り上げていたのだ。
それでも、ラムの憤怒と一つになったスバルには分かる。
この事に、ラムに一切の悪意はない。むしろ、エミリアへの善意しかなかった。
自らが傲慢の極みに達し、その道をエミリアから永遠に取り上げる。
それは、彼女から回復や力を奪うものになる。
でも、それ以上にラムがエミリアを想ってそうするべきだと判断したのなら・・・・。
「・・・・・・・・・!!」
憤怒の極みは天井のくぼみを掴んでいた手を離し、その手を胸に当てた。
支えるものがなくなり、二人は落下する。
スタッ・・・・・
だが、床に落下しても至近距離にいる氷たちは手を伸ばしてこなかった。
「あら?こんなに近くにいるのに、攻撃してこないのね」
腕を組んだラムは、彫刻のように固まった氷のエミリアの頬に触れる。
「待っッ・・・!まって!待ってまてっ待って!!!!」
本体のエミリアは、憎悪と殺気を忘れたかのように取り乱し、現状の自らの身に起こっていることに悶えだした。
数歩だけ憤怒の極みに向かって走り出したが、すぐに立ち止まって自分自身の胸を押さえた。
「・・・・・・・・」
憤怒の極みも同じように胸を抑えて、傲慢の鎖を断ち切ろうとその繋がりを探している。
イメージできれば、確信があれば、憤怒の極みにはそれができるだろう。
「どうしました・・・・・・?今バルスは、集中しているようです・・・ラムに攻撃する好機ではないですか・・・・?」
ラムの言うとおり、憤怒の極みは今は繋がりを探すのに必死で動けない。
エミリアは、この繋がりが断ち切られる前に氷のビームを撃てばラムを殺せる。
でも、それができない。それができないと分かっているから、ラムは挑発する。
エミリアは自分の胸を押させて、必死に繋がりが切られないように守っている。
それを失うのが恐ろしくて、手が離せないのだ。
「・・・・・分かったわ・・・やめて!もうやめて!やめるように伝えてッ!!」
スバルには分かる。もうすぐ、憤怒の極みはエミリアとの傲慢の鎖を見つけてしまう。
胸に手を当てて、それを見つけ出した時、奴は躊躇しないだろう。
エミリアは、冷汗と涙を流しながらラムに叫んだ。
「・・・・もうやめる!戦いもやめるし!殺しもしないわ!後で・・・殺すなんて悪口言っちゃったこと・・・すごーく謝るから!!お願い!・・・」
「そうね・・・・エミリア様にあんなひどいことを言われて・・・ラムの胸は張り裂けそうだわ・・・今のあなたのように・・・・」
ドォオオオオオオオ・・・・・
傲慢に輝く、ラムの紅の瞳。その輝きに、スバルとエミリアは同じ恐怖を感じていた。
一人はその力を羨み、もう一人はその力に狂わされる。
「・・・・・・ラムの言うとおりにする・・・!お願い・・・約束するから!そう、約束は大事なの!明日からも・・・すごーく約束守るからッ!!」
「では、約束してください。エミリア様・・・・・バルスだけのためではなく、自らのために生きてください」
ラムはエミリアに向かって、一歩近づいてそう告げた。
それは、必ずエミリアの傲慢の権能を取り上げる宣告だった。
「・・・・・・・あなたは・・・!!この世界でも・・・私から全て奪って!!!!・・・・あああっ!」
その時、憤怒の極みは胸に当てていた手を強く握りしめた。
バキンッ!!
心の中で、その音は聞こえた。エミリアとスバルの傲慢な繋がりは、ついに断ち切られた。
バキバキバキバキバキバキッ!!
周囲の氷のエミリアたちは、音を立てながら崩壊していく。
まるで偽物だったように、本来存在しない力は失われた。
エミリアも、力が抜けたように膝から崩れ落ちる。
「・・・・・ああ・・・・あ・・・・・」
まるで我が子を失った母親のように、エミリアは廃人のようになってしまった。
輝いていた紫紺の瞳が、スバルの視界には白黒に戻ってしまう。
もう分からない。これが正しい選択なのかどうかも。
ラムの真意も、スバルには分からない。
それでも、もう憤怒の極みはエミリアに攻撃しようとしなかった。
彼女の戦意はもう終わったのだ。
「エミリア様は、強く成られる方だと・・・ラムは信じています」
ラムは、膝から崩れ落ちたエミリアに手を差し出した。
もう敵意も、挑発も感じられない。本来の主従関係への敬意を表している。
「・・・・・私は・・・負けた・・・あなたに、全部奪われて・・・・」
エミリアは崩れたまま床を見つめる。ラムの方を見上げない。
「ラムは、エミリア様の敵ではありません・・・。それに、エミリア様はまだなにも失っていないでしょう・・・?」
その言葉を受け、エミリアは顔を上げる。立ち尽くす憤怒の極みを見つめた。
「・・・・・私も・・・・・あなたみたいにスバルの力で・・・強くなりたかった・・・」
「でも、この力にのめり込んではしまっては、抜け出せなくなってしまいます。ですので、取り上げさせていただきました」
分かっている。ただ傷を癒し、力を与えてくれるものだったらどれだけよかったことか。
それだけに終わらない危うさが、傲慢の権能にはあるのだ。
一度、それに縋り問題を解決すれば、もう抜け出せなくなる。
それが無くては生きていけなくなってしまう。
もしも、エミリアが今後もスバルの傲慢の権能を使い続けたととしたら、スバルを傷つける世界の敵たちを滅ぼす、誰にも止められない厄災になっていたかもしれない。
この戦いも、エミリアが勝っていれば、ラム、レム、ベアトリスの3人は殺されていただろう。
エミリアが本来生きてやりたかったことは、そんな事ではない。
スバルは、ようやくラムの真意を理解した。
「・・・・・あなたは・・・どうなの・・・?その力を・・・自分のものにしておいて・・・・」
「・・・・ラムはもう、手遅れかもしれません・・・・ですが、エミリア様は大丈夫です」
ラム自身の手遅れという言葉を、スバルは聞き逃せなかった。
傲慢の極みに達してしまったから、手遅れなのか?
手遅れとはどういう意味だ?
ラインハルトも手遅れだったのだ。王国の剣として、傲慢の極みの力から抜け出せなくなっていた。
だとしたら、ラムにとっての一番は・・・・
「・・・・・・それでも・・・失いたくなかったの・・・受け入れられない・・・」
エミリアはもう一度、俯いてしまう。
「えぇ・・・・。これには、痛みを受け入れる時間が必要です」
ラムはそう言うと、憤怒の極みの方に向いた。
もう終わった。後は、レムとエミリアをここから連れ出さなければ。
憤怒の極みは、倒れているはずのレムの姿を探した。
「はっ・・・・!?」
同じように、レムの姿を見つめたラムがそうこぼした。
どうしてそんな驚き方をする?全て、ラムの思い通りじゃないのか?
ラムにとっての一番は、すなわち彼女にとっての弱点でもある。
だから抜け出せない、傲慢の力を手放せないのだ。
「何をしているのっ・・・!?レム!!」
姉の悲痛の叫びが響いた。その憤怒と一つになったスバルも、心の底からの痛みを感じる。
また、見誤った・・・・・。また、間違えた・・・・・・。
完璧な人間などいない。傲慢さで成り立っている力など、完璧にはなれない。
レムは、うつ伏せのまま地面を這って少しずつ移動していた。
そして、今も這い続け、目的地に辿り着こうとしていた。
「なんで・・・?千里眼で・・・・視界は真っ暗だった・・・・馬鹿な・・・・・どうして・・・・・」
どうして、そんなに取り乱す?お前はこれからも、正しい道を示してくれるんじゃないのか・・・?
スバルは、何かとてつもない嫌な予感を感じてしまった。
そして、ラムが呟いた今の発言だと、千里眼でレムと視界を共有できていたらしい。
これも共感覚の応用だろうが、レムが勝てない訳だ。ボコボコにされて当然だ。
でも、尚更どうして見落とした?
「・・・・・・・・!!」
「いいからっ・・・!!力づくでいいから止めなさい!」
自らの過ちに様子を乱すラムに言葉を返さず、憤怒の極みは駆けだしていた。
ただ、その頁の導きを実行するためだけに・・・。
あれは・・・・俺の血痕だ・・・。レム・・・・どうして?
床にまき散らされているスバルの血だまり。そこにむかって、少しずつレムは這って移動していたのだ。
こんな激戦が繰り広げられた金書庫で、エミリアの氷の兵隊達も障害になっていたはずだ。
目をつぶったまま、スバルの血痕をどうやって見つけたのか?
犬のように這ったまま、レムはついに血だまりに辿り着いた。
舐めるように舌をのばす。
そうか・・・。匂いだ・・・。レムは、スバルの匂いに敏感だった。
暴食の権能により、餌食となったスバルの血の位置を、目をつぶったまま見つけていたのだ。
憤怒の極みは、全力でレムに向かって走る。そのうつ伏せに横たわった体を蹴り飛ばしてでも、血だまりから遠ざけなければならない。
レムが何をやろうとしているのかは分かっている。
彼女は、決して諦めてなどいなかったのだ。
「姉様・・・・レムは、真実を諦めません・・・・」
間に合わなかった。だとしても、関係ない。
レムは確かに血だまりを舐めてしまった。
だが、憤怒の極みは彼女を戦闘不能にするために、思いっきり踏みつぶしにかかる。
ガタァアアアアアン!!!!
無敵化した床でなければ、粉々に陥没するほどの威力だ。
憤怒の極みは、時間が経つほど強く最適化し続ける。
だが、踏みつぶした感覚がまったくないことに、すぐに憤怒の極みは周囲を警戒した。
少し離れた先に、白黒の姿で、輝く薄青の瞳を有した鬼が立っていた。
床を這いつくばることしかできないはずの少女が、立っていた。
「・・・・レムは、この力で姉様に並びます・・・・!」
その額には、白い角が光っている。
ただの鬼化ではないことがわかる。
暴食の権能により、スバルの血は餌と毒の性質を併せ持つ。
餌の性質としてのドーピング。レムはそれを利用したのだ。
「・・・・・・・・・」
無駄だ。そんなドーピングで、憤怒の極みはおろか、ラムにも勝てるわけがない。
目を開ければ、視界が共有されているんだ。攻撃が当たるわけがない。
モーニングスターも使えなくされている。
でも何故だ?憤怒の極みの全神経が、目の前の鬼を警戒していた。
これは、ただのドーピングのような頭騙しではない。
「・・・・・ふふ」
少し離れたところで、ラムが笑ったのが分かった。
何か思いついてくれたか・・・。また、正解の道を示してくれ。
「5割よ・・・レム」
は?・・・・・どうしてレムに話しかける・・・・
ラムの様子は、もう乱れてはいなかった。まるで、何かに吹っ切れたように。
「姉様・・・・・愛しています。ずっとこれを望んでいました」
「・・・・・・・・・!!!」
ふざけんな。話が違う。ふざけやがって。
憤怒の極みは声を出せない。それでも、その内側でスバルは怒り狂っていた。
ラムは、角を失った5割の負担をレムに背負わせ始めた。
それなのに、レムは苦痛に悶えるどころか、逆に強化されていく。
どこまでも力強く。その危うさは空気で伝わってきた。
ドーピングによって、脳内に生成される快楽物質。
いいや。スバルの血がなくても、1/100の負担を背負っている時も、レムは自力でそれを掴みかけていた。
エンドルフィンとドーパミンが脳に過剰分泌されると、まず痛覚を感じなくなる。
その痛みは快感に変換され、新たにアドレナリン、ノルアドレナリンの効果で力は限界を超える。
ラムの折れた角の負担を背負う事、それはレムにとっての望みだった。
だから、この痛みは彼女を苦しめるものではない。もはや報酬そのものだ。
5割の負担から解放されたラムはさらに回復したようで、彼女の額からも白く光る角が再現されていた。
「ラムは手を出さないわ・・・」
何を言う。お前は何がしたい?俺は、お前の頁の導きを実行するために・・・・
まさか、考えが変わったのか?
「相手はレムですよ・・・スバル君」
その声と圧力に、憤怒の極みは意識を戻される。
潰す。死に戻りの真実だけは、守り通してみせる。
俺は、お前の英雄だから。
「レム・・・・・・・バルスを取り戻せたらあなたの勝ちよ」
やはり、ラムの奴・・・裏切ったのか!
色がついておきながら、確実に俺を裏切った。
ラムは何も分かってない。どうして、レムが死に戻りを知ってはいけないのか。
それを知ると、レムはスバルを殺したことに気づいてしまう。
いつか暴食に奪われた空白の予知夢を思い出した時、それを思い出すまでのこれからも、その気づきは彼女を酷く苦しめるだろう。
大丈夫・・・・。真実は守り通す。お前は俺を殺してない。
「自信を持って!あなたは私の妹で、強い子よ!」
ラムは言葉を続けて叫んだ。レムの瞳も見開かれる。
「ラムはあなたを信じるわ!きっと、どんな真実も痛みも乗り越えてくれるって!」
この状況でも、ラムが5割の負担をレムに背負わせなければ憤怒の極みは簡単に勝てていた。
彼女の頁の導きは変わらない。気持ちが変わろうが、憤怒の極みの実行を変えることはできない。
でも、ラムの弱点はレムだった。勝機を握っているにもかかわらず、どうしても彼女は妹に期待してしまう。自ら負けを受け入れてまで。
「ちゃんとこの目で見てるから!本気のあなたを見せてみて!」
姉の叫びに、妹は輝く瞳から一筋の涙を流した。
「はい・・・・!」
話は終わりだ。綺麗ごとも終わりだ。全て終わらせてやる。
憤怒の極みが勝てば、ラムは一つ前の道に戻るだろう。
そして、もう二度と彼女を信用することはない。
この憤怒の極みが解ければ、白黒に戻るだろう。
レムに死に戻りの真実は背負わせない。
これは、スバルのプライドを賭けた戦いだ。
唯一色のついた、ラムへの信頼を捨てた。
失う物など何もない。だから、痛くない。