リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル)   作:駄々我菓子

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痛くない

 憤怒の極みという呪い、その怒りに共感するものは一人になった。

 スバルは、捨てられたラムの憤怒を背負い戦う。

 

 レムの決意にラムは心を動かされてしまった。

 それでもこの戦いには介入してこない。

 

 スバルかレムか、どちらが勝ったとしてもその結末を受け入れるだろう。

 

「・・・・・・!」

 

 空気の引き裂かれる音が、金書庫の他の音を押し流した。

 二つの人影が激突する。

 常人であれば視認することすら叶わない超絶の速度。

 

 それぞれに、強さの根幹となる過去がある。

 その呪いと傷を力に変える境地に達したレム。

 

 ガッ!!

 

 その小さな体が憤怒の極みの蹴りに捉えられた。

 

「・・・・・・カハッ・・・!!!」

 

 空中に彼女が吐き出した鮮血が舞う。

 ラムはまだ動かない。手を出さなかった。

 

 自らが蹴り上げた標的のと距離を、憤怒の極みは見定める。

 

 ダンッ!

 

 レムが天井に激突するよりも速く、憤怒の極みは跳んでいた。

 

「・・・させませ・・・・」

 

 咄嗟に空中で振り返ったレムの胸倉を掴み、そのまま床ではなく天井に投げつける。

 無敵化した天井は、すべての衝撃を逃がさない。

 

 後頭部を強く打ち付けられ、輝く薄青の瞳が一瞬裏返った。

 

 ラムはまだ動かない。なら、終わらせるまでだ。

 これはレムの強さを姉に証明する戦いでもある。

 姉が介入した時点で負けなのだ。

 

「こんなの・・・・・・・ぜんぜん・・・・」

 

 意識を刹那の内に取り戻したレムが、体を捻って攻撃を放つ。

 だが、こちらは躊躇がない。常に最適化し続ける。

 

 内側のスバルも、一切の情けがなかった。

 失う物など何もない。だから、痛くない。

 

 ドォォオオオオッ・・・・・・!!!

 

 その意志が、意識がなくなるまで、折り続ける。

 

 天井から床へと叩き落されたレムは、フラフラと立ち上がる。

 憤怒の極みは、彼女に回復の時間を与えることなど許さない。

 

「・・・・・・・・・」

 

 一瞬だけ、警戒をラムに送った。

 介入しないと思わせておいて、手のひらを返される展開は容易に想像できる。

 憤怒の極みすら、もうラムを信用していない。

 

「余所見とは、生意気ね」

 

 腕を組んだまま、特に妹を心配する素振りも見せない。

 なら、話は早い。勝つのは俺だ。

 

「・・・・・・・・たくない・・・」

 

 レムは、満身創痍のままぶつぶつとつぶやいている。

 

「・・・・・・・・?」

 

「ふふ・・・・ずっとこの瞬間を望んでいました」

 

 躊躇わない。勢いを止めずにレムに突っ込み、終わらせる。

 こんな状況で、まだ笑う余裕があるとは。

 

 両者はお互いの手が届く間合いに入った。

 自らの攻撃が外れれば、致命的な隙をさらす。命を取り合う間合いだ。

 

「・・・・・・・・!!」

 

 レムの打撃を受け止めた憤怒の極みは、すぐに攻撃を中断する。

 力の衝撃とは別に、熱を感じた。ドーピングだけでは言い表せないほどの高熱だ。

 

 1歩引き下がり、受け止めた腕が折れているのを確認する。すぐに治さなければ。

 ここまでボロボロになっているにもかかわらず、今のレムの力は憤怒の極みを凌駕していた。

 

「・・・・時間稼ぎが必要なら、存分にどうぞ・・・・」

 

 憤怒の極みは時間経過で適応していく。いずれは、レムよりも強くなるだろう。

 彼女からすれば、時間を稼がれるのは焦ってでも止めなければいけない問題だ。

 それでも、一切の焦りが見えない。自らの負傷も無視して、静かに歩いてくる。

 まるで、この戦いに喜びを感じ、長く続けていたいとそんな雰囲気すら感じる。

 

 現状、単純な暴力では分が悪い。憤怒の極みはそう判断する。

 この事象に適応する。

 

「遊びじゃねーんだよ・・・・。お前は、敗北確定・・・・・」

 

 ここにきて、憤怒の極みはスバルに発言の権利を与えた。

 

「今のあなたは、どっちですか?」

 

 レムは歩みを止めずに近づいてくる。

 こちらも、間合いに入ってきた瞬間に全力で叩き潰す。

 

 依然として、憤怒の極みの瞳は血の色に輝いたままだ。

 

「体は動かせねえけど・・・・・・今の俺と、この体の目的は一致してる」

 

「そうですか・・・・ちょうど、あなたと話がしたかったところですッ!!」

 

 レムは、そう言って返事を許さない蹴りを繰り出した。

 間一髪、回避に成功すると、逆にその足を捕まえる。

 

 ガダァアン!!!

 

 床に思いきり拳を振り下ろした。レムの顔面を叩き割りかねない力強さ。

 だが、その拳は彼女の右手に受け止められていた。

 

「話すことなんてねぇよ・・・・断言する、お前は負ける」

 

「・・・・こんな風にですか?」

 

 レムは受け止めていた右手に左手も添えて、両腕で憤怒の極みの拳を引き寄せた。

 さらに、掴まれている片足を軸にして回転し、もう片方の足で憤怒の極みを蹴り上げる。

 

 力の行き先は、1回転した後に床に戻る。

 

「・・・・クソッ!」

 

 逆に床に倒された憤怒の極みに、レムは強く足を踏み下ろす。

 

 ダンッ!!

 

 憤怒の極みはなんとか頭の位置を動かしたが、右耳が消し飛んだ。

 大量の血が頭部から噴出していく。

 

 床に零れた血に、レムは手を伸ばそうとした。

 

「・・・あっ!?」

 

「それはダメだろ!」

 

 憤怒の極みは、レムの背中の衣服を掴む。そして、天井に向かって大きく投げ上げた。

 

「・・・うっ・・・!」

 

 レムは、痛みでスバルの動きが止まると思っていたのかもしれない。

 痛覚は確かにスバルに伝わっている。それでも、憤怒の極みは止まらない。

 

「分かったぜ!薬物が切れそうなんだなっ!!でも、もうお前は負けてんだよ!」

 

 空中に投げ飛ばされるレムに向かって叫ぶ。

 

「俺の血は、餌と毒の性質を併せ持つ!俺がお前を魂で拒絶すれば、ライバテンカイトスのように毒に苦しむことになるぞ!」

 

 レムは、天井を蹴って勢いをつける。見上げる憤怒の極みに対して真っすぐ向かってくる。

 イメージする。魂でレムを拒絶する。嫌いになってもいい。

 

 俺は、お前の英雄だ。真実を守るためなら、何にでもなれる。

 

「は・・・?」

 

 魂の拒絶ってどうやってやるんだっけ?ライの時は、イメージする必要なんてなかったのに。

 

 メキッ!

 

 落下してきたレムの蹴りを右腕で受け止める。憤怒の極みの右腕は複雑骨折して、逆方向に曲がった。

 一度、バックステップで距離を取る。

 

「まだですか・・・?いつレムを嫌いになるんですか?」

 

「うるさい・・・・今、集中してんだよ!」

 

 ラムの憤怒が邪魔だ。これと一体化しているからレムを拒絶できなかったのだとスバルは結論付ける。

 この方法が無理なら、次の方法をやるだけだ。

 

 どうして、憤怒の極みがスバルに発言する権利を与えたのか。その答えはすでに思いついていた。

 

「シャマク」

 

 初級魔法だが使い慣れた信用できる技だ。

 金書庫の一部分だけだが、十分。スバルとレムを囲む空間に黒い靄が発現する。

 この黒い煙は、レムの五感を遮断しスバルの存在を隠す。

 

 度重なる適応による回復。それ以前に、レムの傲慢の極みの力でスバルを回復させた時。

 あの時、すでにゲートは治っていた。

 

 こちらの右腕はまだ治っていない。でも、左腕がある。

 この一撃で終わらせる。この初見殺しで終わらせる。

 

 黒い靄に包まれたレム向かって、憤怒の極みは躊躇なく接近する。

 左腕の拳を使って頭蓋を砕き、戦闘不能に・・・・・・

 

「はっ・・・?」

 

 避けられることを想定していない。全身全力で振りぬいた左拳が、レムに躱されていた。

 

 馬鹿な。何も見えていないはず。嗅覚も使い物にならないはずなのに。

 

「見えませんよ・・・・・・・スバル君の弱さと善意しか・・・」

 

「俺は・・・お前の・・・えいゆ」

 

 ドォオオオ!!!

 

 致命的な隙をさらした。なぜか、全て見透かされていた。

 これは、スバルのどの世界線でも知らない。レムが今辿り着いた何かの方法で。

 その、心の内までも見透かされていた。

 

 言葉を中断され、カウンターとなるレムの打撃を受けたスバルの頭部は粉砕された。

 一撃にして、全く躊躇がない。その冷酷さを、スバルは誰よりも知っていたはずだった。

 

 あの、地獄みたいな思いを、真実を、自分の記憶だけに留めるために・・・

 

 レムの傲慢の極みの力がなければ、この一撃でスバルは死んでいる。

 致命傷からの回復。その異能が発動されるまでの刹那に、スバルは意識を失った。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 スバルは、自らが夢の世界にいること、そして何が起こったのかをすぐに理解した。

 

「負けてない!まだ負けてない!」

 

 憤怒の極みは解除されている。でも、気絶してからもう一度、憤怒の極みとなって現実で目覚める方法があるのだ。

 それは、夢の世界で憤怒の書を読み、その導きを実行するために自らに精神汚染をかければいい。

 

 ここがどんな夢だろうと関係ない。

 スバルは、椅子に座らされている。その体を鎖が椅子に巻き付けている。

 どうでもいい。ただの夢だ。

 

 周囲には、草原の上に大量の墓があった。ここは、墓場の夢なのだ。

 どうでもいい。誰の夢だろうと、どうでもいい。

 

「・・・・・誰か・・・・俺に導きを・・・」

 

 憤怒の書を必死にめくった。

 

 ”大人しく金書庫から出て行く”

 

「は?」

 

 レム、ラム、エミリア、ベアトリス、ラインハルトまでも、どの頁を読んでもそう記されていた。

 スバルの顔は、激怒して醜く歪んだ。

 

「お前らなのか・・・・」

 

 いまだに姿を現さない、夢の主。その人物に向かってスバルは問いかける。

 

「お前らが俺にこうしろって導いてるんだろ?だから、頁がめちゃくちゃになってるんだ。全員同じってそりゃないでしょ・・・?」

 

 憤怒の書がこの夢の魂たちの導きに反映されているとしたら、今のスバルの抵抗は誰にも歓迎されていない。

 

「・・・なんでお前らも俺の記憶を知ってるのに分かってくれないんだ!」

 

 辺りを見回す。視界に入るのは、無機質な墓場だけだ。

 これが現実ではない夢だということもあってか、なんだか変な気持ちになる。

 

「誰でもいいから、さっさと出て来いよ・・・!」

 

 説得できるものならしてみろ。

 

『そうだよ・・・・君は間違っていない。これは、全てボクと君の望みなんだ』

 

「・・・お前・・」

 

 姿は見えない。声だけが聞こえた。これは、エキドナの・・・

 

『でも、もう嫌だ!俺の望みは、痛くされないことだ!もう、死にたくない!』

 

 スバルは自分自身の声が聞こえてようやく気付いた。これは、過去の記憶なのだと。

 浅い眠りの時、脳は過去の記憶を整理しているらしい。だから、夢の世界でこれを思い出しているのか?

 どうして今なんだ?

 

『何を言っているんだい?聞かなかったことにしてあげるから、発言を訂正するんだ。君は、ボクと契約したじゃないか?』

 

『もう、できません。死にたくないです。あの兎のことを思い出したらもう何も出来なくなるんだ。これから、何回あいつらに体中を喰われることなる?もう耐えられない!』

 

『黙ってやれ。君はまだ自分が可愛いのかい?どうしたい?エミリアにも同じ目にあわせたいのかい?そして、眠り姫をそのままにして全て投げ出すつもりかい?』

 

 スバルは、過去にこの会話をしたのを覚えている。これは、強欲の世界線で確かに存在した記憶だった。

 

『悪かった。ちょっとナイーブになっちまってただけだ。聞かなかったことにしてくれ。次はもっと有益な情報を持ち帰るからさ』

 

 突然態度を変える軽薄さは、まさに道化そのものだ。吐き気がする。

 

「うるせえ!黙れ!過去のことはどうでもいいんだよ!俺はやり直したいだけだ!」

 

 夢の主よ、さっさと出て来い。誰も出てこないと嫌な記憶を思い出してしまいそうだ。

 

『あぶ・・・危なかったのデス!!ははは!貴方が微精霊と契約した時から嫌な予感がしていたのデス!やはり私の勤勉さを運命は裏切らない!それに比べて、貴方・・・・・怠惰デスネェ!!!』

 

 クソ・・・。また、次の記憶が・・・

 

『おいおい・・・・痛えじゃねえか・・・。俺達友達だろ?最後くらい・・・楽に逝かせてくれや』

 

『黙るのデス!貴方のような怠惰な裏切り者を友達などと思ったことは一度もない!・・・・・・ですが、貴方どうしてまだ次の機会があるかのような態度をしているのデスか?』

 

『お?・・・流石はペテ公ちゃんは鋭いねぇ・・・・・俺は必ず勝つさ。・・・・・・次で記念となる400回目だ』

 

「くだらねえこと思い出すなっ!どうでもいいんだよ!」

 

 スバルは誰もいない世界で叫ぶと、激しく息を切らした。

 過去の全てに意味があった。スバルにとって、無駄な死などひとつもない。

 いつも、みんながいてくれたから頑張れたんだ。

 

「スバル君・・・・・ちゃんとやり直してください」

 

 その声に、スバルはすぐにこの夢の主が誰なのかを察した。

 ここにきて、まさかこの人物だとは。

 

 薄青の靡く髪がはっきりと見えた。完全に色がついている姿のレムが立っていた。

 

「お前か・・・・?くだらねえ記憶見せたのは・・・」

 

「くだらない記憶なんかじゃありません」

 

「どういうつもりなんだっ!!」

 

 レムでもこれは許せない。魂の繋がりでのイマジナリーレムだとしても許せない。

 

「スバル君に壊れてほしくありませんから。今までのやり方を否定して、変わってください」

 

「変わる・・・?変わりたいけど・・・・何の関係がある?」

 

「これからは、自分を軽んじるやり方はレムが許しません。だから、死に戻りは現実のレムも知るべきです」

 

 その発言に、スバルはレムに対して強く睨みつけた。

 

「説得されてやらねえよ。現実のお前が知る必要はない・・・そもそもラムに推理されたことだって、ベアトリスを殺さないで済むように知られることだって、すぐには受け入れがたい・・・ってのが本心だ」

 

「レムは、スバル君を死なせない力を手に入れました。でも、それでは足りないんです」

 

「いいや、十分だ。もし、お前に何かあったら、俺は躊躇しない。その在り方を変えるつもりはない」

 

 当然だ。でも、レム以外に何かあった時、どうするべきなんだろう?

 そうなった時、俺はどうなってしまうんだろう?

 

「誰も死なせないでください・・・。取り返しがつく命なんてありません」

 

「そんなことができたら苦労しねえよ・・・。失った命を取り戻すことは、俺のためにやってることだ。気にしないでくれ」

 

「スバル君は、レムの英雄ですから。姉様やレムと、エミリア様と皆と協力すればできるはずです」

 

 レムの言葉に、スバルは息を飲みこんだ。この言葉を否定したくない自分がいる。

 

「分かった・・・。俺は、誰も死なせない。犠牲を前提で生きていくなんて良くないよな」

 

「はい」

 

「でも、現実のお前に死に戻りは知らせない。ここだけは、曲げられない」

 

 スバルがそう言うと、レムは強く睨みつけてきた。

 

「死に戻りを推理した姉様だけに背負わせたくない・・・・なんていうのは建前で、本当はレムが真実を知りたいと強く願っているんです」

 

「ダメだ・・・。絶対にダメだ。」

 

「なら、止めてみてください。失う物がないから痛くないんですよね?」

 

 彼女がそう言うと、墓場に緊迫した空気が流れた。

 

「・・・・・・・・お前にどう思われてもいい。死に戻りは知らせない」

 

「レムは信じています。スバル君が・・・痛みから逃げない人だという事を」

 

 俺が・・・・痛みから逃げているだと?

 

 だが、スバルが次の言葉を返すより早く、夢の世界が白く消滅していった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 失う物など何もない、だから痛くない。

 

「は?」

 

 目を覚ますと、スバルはレムの傲慢の極みの能力により致命傷から回復していた。

 当然、憤怒の極みも解除されている。

 

 それよりも、驚いたのは・・・・

 

「あら?戻ってきたのね、バルス」

 

 真実を知ろうとする、レムを受け入れた裏切り者。

 信用できなくなったはずのラムは、まだ色がついていた。

 

「はっ・・・!レムは!」

 

 スバルは、すぐにレムの姿を探した。

 そして、床に片膝をついているレムを見つけた。

 右肩を押さえていて、大量の血を吐き出していた。

 

 苦しそうに、全身は小刻みに震えている。

 あの時、憤怒の極みも攻撃を返して相打ちになっていたのか。

 

「こんなの・・・・・・・・・ない」

 

 何かぶつぶつと呟いている。意識が朦朧としているようだ。

 

「どうだラム。俺の勝ちだ!」

 

 どうやら、スバルの血。餌食としての薬物が切れたようだ。

 今のレムには、戦いによる負傷と、ラムの負担を快楽物質に変換する力が残っていない。

 

 スバルの勝利宣言に、ラムは瞳を細める。

 

「もう一度、考えを戻さないか?レムが真実を知って辛い思いをする必要なんてないんだ。今から、エミリアとレムを俺が金書庫から連れ出す、それで終わりにしよう」

 

「バルス、そんな業務連絡みたいな言葉は聞きたくないわ。耳障りだから口を閉じていなさい」

 

 その言葉に、自らの眉間の血管がビキッと浮かんだのが分かった。

 

「これがお前の望みか?・・・・・・ラインハルトにワザと角を折らせたろ?レムの力を目覚めさせるために。エミリアから傲慢の権能を奪ったのだって、前から考えてたろ?」

 

「何の事?妄想が捗る年頃かしら?いやらしい」

 

 スバルは、ラムに指を突きつける。

 

「お前は、俺の姉にでもなったつもりか?思い通りにはさせねえよ・・・。俺はレムの英雄で、真実は守り通す」

 

 もう、お前の手のひらの上で転がされてなんかやらない。

 

「嬉しい誤算があったのよ。ラムの妹は、気を遣われるほど弱くなかったみたいね」

 

「ここまでお勤めご苦労です、姉様。今回のMVPはお前だ。でも、最後に勝つのは俺だ。そして、今後二度とお前に頼る事は無い」

 

 スバルがそう言い放つと、ラムは軽くため息を吐いた。

 

 その余裕そうな態度に、虫唾が走る。

 だが、直後にスバルは背後から気配を感じた。

 

「おっと・・・」

 

 フラフラと立ち上がって、背後から急襲してきたレムを軽々と躱す。

 

 分かったことがある。憤怒の極みの超人的な身体能力はスバルに残されていた。

 レムが、ダウンしたのならもう負けようがない。

 

「・・・・・・・・・くない・・・こんなの・・・・」

 

 彼女はまだぶつぶつと独り言を呟いている。白く光る角がまだ額に生えたままなのが気がかりだ。

 

「終わりだ。さっきはラムの憤怒に邪魔されてできなかったが、お前が摂取した俺の血はいますぐ毒に変わるだろう。起きた頃には全て解決してるさ」

 

「・・・・・・・・ぜんぜん・・・・・・ない」

 

 もう、レムはまともに返事を返すこともできないか。

 

「もう、殴り合いは御免だ。少し、耐えてくれ」

 

 脳内でもう一度イメージする。白黒のレムを拒絶し、嫌いになることで餌は毒に変わる。

 失う物など何もない。だから、痛くない。

 

「・・・・・ふふ・・・そんなに愛を見せながら強がるなんて、白々しいにも限度がありますよ・・・・」

 

 突然、レムははっきりとした言葉を発した。

 それを耳にしたスバルは、まるで鬼の金棒を突き付けられた罪人のような気分になり、鳥肌が立つ。

 

「俺は、お前の英雄だ・・・・・・!」

 

 ラムの憤怒から解放され、スバル自身の意思でも血は毒に変わらなかった。

 レムを止めなければならないのに、彼女は白黒のままなのに、決して毒にはならなかった。

 

 スバルは理解した。レムは角から自分の意思を読み取っていると。

 あのシャマクが通用しなかった理由もそれだ。鬼としての新たな力に目覚めたのだろう。

 

 どうでもいい。関係ない。叩き潰す。

 

 死に戻りがバレること、それを自分自身の中に抱え込んで、決して発言できないこと。

 それを背負ったまま、顔色を窺って生きていくこと。相手にその痛みを強いること。

 その痛みに、怖さに、耐えられない。

 

「こんなの・・・・・・・・・」

 

 また独り言を呟く顔面に拳を叩きこむ。それを、レムの左手に塞がれる。

 なら、もう一度。何度も何度も。動かなくなるまで。

 

「はっ・・・!はっ・・・!早く、倒れろよ!!!」

 

 痛い。もう、やりたくない。傷つけたくない。

 でも、負けた後真実を知られるのはもっと痛い。

 その痛みが恐ろしい。とにかく痛い。

 

 今まであらゆる痛覚を経験してきた。

 この痛みは、そのどれとも違う。だから、きっと耐えられない。

 

 どれだけ傷ついても、レムは諦めなかった。

 全身には力がなくなり、ついに倒れそうになる。もう立っていられるはずもない。

 今の彼女は、重度の飢餓状態にあるはずだ。

 

 だが、その体勢が崩れかけた時、痛みから解放されたスバルの安堵をレムは見逃さなかった。

 

「あっ・・・」

 

 一瞬だけ彼女の体温は高熱に戻り、全力で跳ね上がる。

 

「こんなの、全然、痛くない!!」

 

 この一瞬にすべてをかけたレムの一撃が、真実を掴みとっていた。

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