リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
死に戻りの使えない、やり直すことのできないこの世界で、スバルは痛感していた。
人の心を動かすのはこんなにも難しいのだと。
「・・・・・・ゴホッ!!ゴホッ!!」
立てない。
血を吐き出しながら、砕かれた顎は元に戻らない。
視界はぐるぐると回り、床に手を突いたままうつ伏せになっている。
どうしても、もう立てなかった。
「スバル君・・・・生きてますか?」
スバルを打ち負かした勝者は、おぼつかない足取りでまだ立っていた。
お互いの譲れないものを賭け、力づくで奪い合った。
そして、スバルは2度負けた。
「ま・・・・・・ま・・・」
声が途切れてしまう。最後まで言い切れない。
「ま?・・・・・バルス、どうするの?」
時間をかけて立ち上がり、口元の血を拭う。
これからどう行動するべきなのか、何を受け入れなければいけないのか。
「まいった・・・・」
たったのそれだけ告げると、クルっと二人に背を向けてスバルは歩き出す。
ドクン・・・ドクンドクン
心臓の痛みが告げている。恐怖は誤魔化せない。
でも、レムは強さを示し自ら真実を勝ち取った。
彼女は、真実に向き合う強さがある。
なら、自分も強く成ろう。そう思った。
今までにない痛みを受け入れて生きていく。
そして覚悟しなければならない。もう誰も、自分すらも死なせてはいけないと。
これから真実を知ったレムやベアトリスがどうなってしまうのか、自分はどうすればいいのか、分からない。
今は、ただ不安に押しつぶされそうになっている。
でも、辛い時こそもがこう。痛みから逃げてはいけない。
「待って!私も行く」
立ち去ろうとしたスバルにそう声をかけたのは、廃人になっていたはずのエミリアだった。
わたしも・・・いく?
「私は負けたのに、このまま真実を知るのは、なんだかずるいって思うの。それに、今はスバルと一緒にいたい」
「あ・・・・・・・」
思わず声が漏れる。目に見えた視界に驚愕を隠せない。頬に伝う涙に気づかないほどに。
エミリアに、色が戻っていた。
真実を手にしない彼女の選択に、心を動かされたのだ。
「真実を聞かなくてもよろしいのですか?エミリア様・・・バルスにもうあなたを止める力はないようですが・・・」
ラムは、恐らくエミリアの心の変化を分かっていて聞いている。
「いいわ。私が知れなくても、レムが代わりに真実を知ってくれるでしょう?」
エミリアはスバルに追いつくと、肩を支えてくれた。
「はい・・・。どんな真実でも、受け止めて見せます」
知らない方がきっと楽だった。
でも、その痛みを乗り越えられたら、それはきっと今までにない力になる。
「レムが真実を知る強さがあって、スバルがそれを受け入れる強さがあるのなら・・・・私は、真実を知れなくても前に進む強さを選ぶわ・・・・・・」
エミリアは、自分に言い聞かせるようにそう言った。
だが、肩を支えられているスバルは、彼女の悔しさと葛藤による震えを感じ取れてしまう。
「これでいいのよね?ラム・・・・・・」
最後にそう尋ねた。憤怒の世界線で起こった出来事も含めて、前に進まなければならない。
「はい。その解釈、ラムは嫌いではありません・・・・・」
☆☆☆☆☆
扉が閉まる。廊下を二人はゆっくりと歩いた。
この屋敷で、いくつもの死線を乗り越えて今がある。
もしも、予知夢が存在しなければこれほどの地獄を味わうことはなかっただろう。
これは、それぞれが運命を変えようともがき、引き起こされた天災だったのかもしれない。
天災とは、人間が支配できない運命の暴力だ。
自らの望む運命を叶えるということは、他者の運命を奪うことにもなる。
それが積もり、積み重なってこの天災に繋がったとしたら。
これからスバルたちは、さらに多くの天災に巻き込まれることになるだろう。
その魔の手は、世界最強の剣聖の命すら召し上がって・・・・・・・
「ら・・・ッ!!」
目の前の光景に、スバルとエミリアは立ち止まった。
命を奪ってしまったはずの、ラインハルトが廊下の先に立っていたのだ。
「外、開いたよ」
彼は、静かに清清しい顔をしながらそう言った。
ラムはベアトリスに真実を伝え、彼女は新たな選択を選んだのだろう。
だが、それについて考えるより先に、スバルは一歩でも速く前に進もうと必死になった。
「えぇ・・・・!スバル、分かっているわ」
エミリアも協力してくれる。
どんな仕組みか分からないが、天はラインハルトを召し上がらなかった。
無我夢中に廊下を駆け、走るとはとても言えないほどの遅さで進んだ。
ぶつかるような体勢になってしまったが、駆け寄ってきたスバルをラインハルトは両手で支えた。
「・・・・・ご・・ッ・・・め」
「その様子だと、こっぴどくやられたようだね」
砕かれた顎のせいで、言葉を伝えてやることはできなかった。
だが、止まらない涙の先で、空色に輝く瞳と目が合う。
その傲慢の極みの輝きに、熱を冷やされてしまう自分がいた。
「スバルは悪くない・・・・・あの戦いは、僕が選んだことで起こったんだ」
「・・・・・・・」
スバルは首を振る。あの時、痛みから逃げていた。
憤怒の極みでラインハルトを殺しても、白黒だから関係ないと割り切ろうとする自分がいた。
その自らの汚い考えを見逃すわけにはいかない。
本当は、痛くないなんて嘘だった。
「あの後・・・・・。僕が不死鳥の加護で生き残った時、みんながベアトリス様の金書庫にいるのが分かったよ」
「じゃあ・・・・どうして来なかったの?」
スバルの代わりに、エミリアが問いかけた。
恐らく、スバルがラムをベアトリスのところに連れて行き、憤怒の極みが解除された直後だろう。
失われた加護は復活し、世界はラインハルトを蘇生した。
「僕のやり方は失敗し、ラムさんは解決への道を開いた。だから、大人しく結末を見ておくことにしたんだ」
「・・・・・・・・!」
スバルは、彼の輝く空色の瞳を見て、全く心が折れていないことに気づく。
これが、彼が手に入れた精神力の強化だ。
「これも天命だよ。僕は生き返り、さらに対弱体化の加護も授かった・・・・・。次は負けないよ、スバル」
「・・・・・・・おえ・・・・」
ラインハルトのその言葉に、渋い反応で返す。
「はっは!」
「ちょっと待って・・・・。次があるなんて間違っても口にしないで」
彼は笑い飛ばしたが、エミリアはそれを許さない。
何かのスイッチが入ってしまった。
「悪かったよ。僕はスバルのことを傷つけたくない・・・・・・でも」
「・・・・・え・・・?」
スバルは、ラインハルトが不穏に言葉を続けようとしていることに気づいてしまった。
「でも、天命を授かれば・・・・僕はまた同じことをやる」
この天災が過ぎ去っても、傲慢の極みからは抜け出せないのだと突きつけられてしまった。
☆☆☆☆☆
あれからどうなったのか、あまり覚えていない。
ベアトリスは新しい選択をし、屋敷からは解放された。
でも、扉を開けて外の景色を見た記憶がない。
スバルは、清清しく髪を撫でてくれる風に目を覚ました。
「あ・・・・・・庭?」
目を開けると、眩しい日光に目を焼かれかける。
だが、そのおかげで自分が外にいることに気づけた。
飛び上がって自分の今の状態を確かめる。
まず、砕かれた顎は治癒魔法で治療されていた。
スバルは庭に寝かされており、タオルのようなものを1枚布団替わりにかけられている。
周囲に人はいない。
まとめると、治療されて庭に寝かされていたと言う事だ。
「あ・・・ありがたいんだけど、怪我人はベッドで寝かしておいてくれませんかね・・・?」
そう言ってみたものの、閉鎖空間で殺し合った記憶が蘇って吐きそうになる。
もう、目の前の屋敷に入りたくない。
「やっぱり、庭で・・・ありがとうございます・・・・・。俺が目覚めた時の感情も察するとは、気遣いの神か・・」
誰かは分からないが、後でお礼を言わなければ。
今はもう少し、外の風を感じていたい。
スバルは、タオルを畳んで立ち上がった。
小石が積み重なってできた小道を歩く。
真面目にこの上を歩くのは初めてな気がする。そんな関係ないことを思い浮かべながら歩いた。
屋敷の中に入るには、正面の大扉まで歩くしかない。
それまでの道に、縦ロールのかかったドリル状のツインテールの幼女が見えた。
思わず立ち止まる。
「お・・・・お前・・・・」
言葉を失うとは正にこの事だ。気持ちのいい夢から現実に戻されたかのように、スバルの心臓は悲鳴を上げている。
ドクンドクンドクンと、血を送って生きることを、目の前の事実を飲み込むことを強制してくる。
目の前のベアトリスの姿は白黒だ。だが、その瞳は傲慢の極みに達して青く輝いていた。
呪いは伝染するように広がっていく。
蒔いた種は、時空を超え、世界線を越え、因果の大樹となりて、やがて芽吹く。
どうして、いつだ?なんで傲慢の極みに、そんな簡単に達せられるものじゃないはずだ。
「はっ・・・!?」
頭が混乱し、冷汗が止まらないまま、目の前のベアトリスは血相を変えてこちらに走ってきた。
それを受け止める心の準備が、スバルには全くできていない。
し・・・・・白黒だ・・・。だから、色のついている輝く瞳だけが良く見える。
「あ・・・・・・・」
こちらに辿り着いたベアトリスは、力の限りにスバルを抱きしめた。
身長差があり、お腹に顔をうずめられる。どう反応したらいいのか分からない。
でも、嫌でも思い出してしまう。
バレてるぞ。ベアトリスは死に戻りを知ったんだ。
「落ち着こう・・・俺もお前も。大丈夫・・・・」
「大丈夫なわけないかしら!・・・・・お前も、父と母から大切に育てられた人の子よ。ベティーは、他所の子を痛めつけるために・・・400年も生きてきたわけじゃないのよ・・・・」
ベアトリスのその言葉に、もう自分を一切恨んでいないことがすぐに分かった。
でも、それと引き換えに彼女が受けた痛みは・・・・
「・・・・よかった・・・ベアトリスとこれから生きていけるなら・・・ぜんぜん痛くなんか」
そこまで言ったところで、ベアトリスに強く手を掴まれて黙らされた。
「ベティーがお前に与えた痛みは・・・・・想像もできないものかしら・・・・・お前の寿命があとどれくらいでも、償いきれない・・・・本当に痛恨の極みなのよ」
スバルの目が見開いた。
これからの、発言の一つ一つが危険だと分かっている。もどかしくて仕方ない。
間違いない。ベアトリスはスバルの死に戻りを知ったせいで、傲慢の極みに達したのだ。
「おい・・・・ちょっと離してくれ・・・・」
叫び出したいのを堪える。震える手で、ベアトリスの抱擁を外した。
そして、横を向いて天を仰ぐ。唇を強く嚙みしめた。
「だから・・・・・・知られたくなかったんだ・・・」
でも、これ以外に道はなかった。ベアトリスを殺すのはありえないから、こっちの道を選らんだはずだ。
痛みを訴える胸を、ぐしゃっと手で握りしめる。
「ベアトリス・・・これは、危険な話なんだ。だから、もう何も言わないでくれ」
「分かっているのよ・・・・・。言葉で伝えられないなら、行動で・・・かしら」
あれほど望んだはずなのに。もう一度ベアトリスと生きていけるなら何もいらないと本気で思っていた。
でも、こんなはずじゃなかった。
ベアトリスの傲慢の極みの一番には、間違いなくスバルがいる。
契約も、誰をその人に選ぶかどうかも、もはやそれどころではなくなった。
贖罪のために、ベアトリスは呪いから抜け出せなくなったのだ。
息を吐いて、スバルはベアトリスに向き直る。
「ベアトリス・・・・俺はお前を恨んでない」
この言葉は、彼女に1ミリも響かない。
「ラムが言ったのよ・・・。仲間を傷つけた鬼畜が、救われたように死んでいくなんて許せない。狂ったように生きろと・・・・・。ベティーは真実を知れて良かったかしら」
死に戻りという禁忌の真実に、初めて辿り着いてしまった者。
ベアトリスだけではない。ラムは、いずれその呪いをロズワールにも背負わせるだろう。
あのラムに狙われた道化に、逃げ場など世界のどこにもない。
そう考えると、スバルの胸は少し軽くなった。
「俺を選べ・・・ベアトリス」
目の前のベアトリスに、手を差し出す。
そして、返って来る感触に大粒の涙がこぼれた。
その手から伝わるやさしさに、胸が締め付けられるような思いがした。
「ベティーは自分のために、お前を痛みから遠ざけ続けるかしら・・・・。誰に止められても、お前に拒絶されても、絶対にやめないのよ・・・・覚えておくかしら。ナツキスバル」
このやり直せない世界で。その重みを受け入れることの痛みは計り知れない。
この先の戦いで、スバルをかばい、ベアトリスは身代わりとなって死のうとするかもしれない。
そんな最悪が、真っ先に頭に浮かんでしまった。
でも、ここで彼女に言葉を返すとしたら・・・・
「上等だ・・・・」
かばわれて死なれるなんて、そんな恐ろしいお節介をされてやるつもりはない。
取り戻してやる。
俺と生きていた時が一番幸せだったって、永遠の記憶に刻みつけてやる。
心に強くそう誓った。