リゼロキャラ達がIFルートや本編の記憶を持って初期地点に逆行してきた件(主人公:スバル) 作:駄々我菓子
ドォオオオオオオオ・・・・・
スバルは、屋敷の大扉を開くと濃厚なゴブリンの血の匂いを感じる。
そして、その屋敷の奥から禍々しい十字架の匂いを感じた。
「まずは・・・・・戦いの跡を片付けないとな」
スバルは廊下を歩きだそうとした。
だが、ベアトリスに袖を捕まれる。
「その前に、3人に会って来るのよ・・・・・。大丈夫、全員スバルへの善意しかないかしら」
3人・・・・・。エミリア、ラム、レムのことだ。
善意しかない?なんでそんな言い方をする?
「あぁ・・・・・・。みんな、元気か?寝込んでる人とかいない?」
「直接会って確かめてくるのよ・・・・ここからは、ベティーはついていけないかしら」
そう言ったベアトリスの青く輝く瞳の奥が揺れていた。
やがて一緒にいられないやるせなさが暗い影を落としている。
「行ってくる・・・・・」
スバルは、ベアトリスを残して彼女たちの方へ向かった。
☆☆☆☆☆
廊下の先にエミリアが立っていた。
彼女だけに色が戻り、周囲の白黒から浮いているような存在に見える。
ひっそりと佇んでいるが、じっとスバルを待っていたようだ。
「待たせて悪かった・・・・エミリア」
その声かけに、彼女は口元をわずかにほころばせた。
「体は大丈夫?どこも痛くない?」
「うん・・・・それは、大丈夫だよ」
「そう・・・・・・・・。なら良いんだけど・・・・言わなきゃいけないことがあるの」
急にそう切り出したエミリアは、こちらの視線とぶつかった瞬間に弾かれたように目を泳がせた。
「どうした・・・・?」
彼女は自身の胸に手を当てて落ち着かせようとしているが、その手は小さく震えている。
そして、息を深く吸い込み、意を決したように薄い唇が開いた。
「あなた、どうやって王都で憤怒の精神汚染にかけられた私から生き延びたの?」
エミリアのその問いに、スバルは自分の全身が硬直するのを感じた。
絶対に彼女は何かに気づいている。
「色々・・・・・・その場しのぎで色々と・・・・」
うまく返事ができなかった。
次の瞬間、伸びてきた二つの白い手が、スバルの頭を包み込むようにそっと覆った。
抵抗を許さない確かさで顔を引き寄せられ、息がかかるほどの至近距離で瞳と瞳が噛み合う。
逃げ場を塞ぐその静かな眼光に、こちらの心臓が大きく跳ねた。
「スバル・・・・本当はあの時、私はスバルを何度も殺してたんじゃないの・・・?」
「・・・・はっ・・・!?」
エミリアの低い囁きが、何度も頭の中で反芻される。
何か、何か言い返さないと・・・認めることになってしまう。
でも、こんな時に嘘をつくのか・・・それを悟られたら・・・
「・・・・・・・ッ!・・・・あ・・・・・・」
何の声も出てきてはくれなかった。
肯定すれば、サテラに心臓を握りつぶされる・・・・・で済めばいい。
嫉妬の世界線のように、潰される心臓はエミリアの物になるかもしれない。
否定すれば、嘘をつくことになる。それは、彼女が最も嫌うものだ。
そうか・・・・・。
スバルはようやく気付いた。エミリアはずっとこれを抱えていたのだ。
誰がどう見ても、簡単に分かる。あの状況から一発で生き残れる奴などいない。
エミリア視点から見れば、あの時暴走してしまった自分に対してスバルは真っ先に最善手を取った。
エミリアの体は動かせなくなり、それでも意識は残されている。体は自動で動き出して止めることができない。
五感はそのまま残っているのに、殺戮を止められない怪物にされたのだ。
あの時、目の前にいたシリウスを倒した後で全身を火傷していたスバルを殺しに体が動き出した時、エミリアはどれだけ恐怖しただろうか?
何度言葉を発することができない口で絶望の叫びを上げていたのだろうか。
だが、スバルは即座にシャマクで時間を稼いで橋の裏に隠れた。
そして、あの時は自分のものとして扱えていた、傲慢の権能でエミリアにかけられた憤怒の精神汚染を相殺することを試みたのだ。
その時、エミリアはどれだけ心のなかでスバルを応援しただろうか?
スバルの試みは正しかった、時間さえあれば確実にエミリアを呪いから解き放ち、取り戻せるはずだった。
それでも、相殺の途中でエミリアに見つかり、腕を折られ、顔を潰され、口の中に泥を詰め込まれて殺される寸前まで行ったのだ。
その時、エミリアはどれだけ苦しかっただろうか?痛かっただろうか?
あの死闘で、スバルが何をしたのか、何を見たのか、ずっとエミリアは知りたかったのだ。
ラムが抱えている真実にその答えがあると信じて、必死に求めていたのだ。
だが、その真実を知る機会はどこにもなくなった。
ここで直接スバルに確認して、彼女の中で答えに辿り着いてしまったのだ。
返事を返すこともなく、スバルは目をつぶって膝から崩れ落ちた。
全身から力が失われていくようだった。
これは、スバルが最も恐れた展開だ。
何があっても、自分だけの記憶にできるものだと思っていた。
でも、それは大きな間違いだった。
エミリアは血の通った人間で、その内側で重い感情を育てながら、考え続けていたのだ。
薄く目を開きながら、彼女を見上げた。
相手に裏切られ、相手に罵られ、相手に傷つけられ、相手に殺されても、それを覚えているのはスバルだけだ。
だから、自分は懐が広いし、誰とでも心を通わせられる、そう思っていた。
それでも、これからの相手の行動に、自分への見返りを求めてしまう。
自分だけが傷ついた過去を背負っているから、俺に優しくしてくれと、その在り方はあまりにも傲慢だ。
そうやって相手の心を奪ったとしても、感情が重くなれば彼女も血眼になって考える。
エミリアは強い人間だった。
真実を隠し、心を守られるような弱い人間ではなかったのだ。
スバルが見上げる先には、自らが掴んでいた真実の可能性を確信に変え、憤怒に醜く顔を顰めるエミリアの姿があった。
「・・・・・・・・・・・」
自分はスバルを何度も殺したのだと、その確定した痛みを彼女は思い知っている。
数秒間の沈黙の後に、エミリアの全身の震えは収まった。
「ありがとう・・・・やっと見えたわ。これを知ることは、私の望みだった」
ようやく色のついた彼女の姿。その紫紺の瞳から一筋の涙が流れた。
そして、その感謝の言葉には痛みを受け入れて前に進むという強い意志が籠っていた。
スバルは、再び言葉を失う。
「お前は知ろうとする強さがあったのに、それを隠そうとして悪かった・・・・・エミリアは、俺の考えているエミリアよりも、ずっと強い・・・・」
また彼女の目を見て続ける。
「エミリア・・・・・今、俺のどこまで見えている?」
彼女はすぐに凛とした真っすぐな視線に変わった。
「全てよ。今、スバルの全てが見えた・・・・・」
そのエミリアの力強い返答に、スバルはようやく立ち上がって目線を合わせる。
自分の胸に手を当てて、もう驚かなかった。
なんとなくそんな気がしたのだ。
「あの時、真実を隠そうとしてくれてありがとう・・・・あの時ラムに教えてもらっていたら、今ほど全ては見えなかったと思う」
ラムに真実を縋るより、自らの力でそれを手にすることで、さらに深くまで見通したのか。
そして、ラムは傲慢の権能を排除した、エミリア本来の強さを信じていたのかもしれない。
「俺の隠していたこの力は、もう使えなくなった・・・・・・・その理由も分かるか?」
「えぇ。レムとラムの存在が、スバルをその呪いから救ったのよ。それは、私にとってもすごーく嬉しい事・・・・」
スバルには、今のエミリアが万物を悟り、すべてを優しく包み込む聖母のように見えている。
強さ、賢さ、精神力。
スバルの傲慢の権能がなくても、それ以上の潜在能力をエミリアは持っているのだ。
その姿を見てしまったから、胸に添えていた手を強く握りしめた。
「俺も変わるよ。この力を使えなくなった自分に、価値がないとは思わないようにする。これからは、俺の力で俺のやりたいことをやる」
スバルの宣言に、彼女は深く頷く。
「大丈夫・・・・・。きっと大丈夫。あなたは、もう・・・・・一度しか死なないわ」
彼女が差し出した手と、その言葉を、スバルは強く受け取った。
☆☆☆☆☆
死に戻りができなくても、ナツキスバルは無価値な人間ではない。
そして、スバルが死に戻りをしたとしても、完璧な存在になることはできない。
この世界は誰もが主人公だ。ゲームのNPCのように、決まったコマンドで心を変えられるようなことはありえない。
さんざん遠回りして、ようやくそれを理解できた。
スバルは、エミリアに送り出されて、また廊下を進んでいる。
言葉を交わさなければいけない人物が、もう二人いる。
彼女たちは、二人で一人のような存在ではない。
それぞれに、身体と精神を宿した魂達だ。
スタッ・・・。
「上から失礼します・・・・影は踏みたくありませんので・・・・」
どこから現れたのか、それは予想外の登場だった。
まるで、空中の透明な地面を踏むように、彼女は瞬きの間に歩いていた。
すでに清潔なメイド服に着替え、身だしなみの乱れは一切ない。
レムは、スバルの背後から現れたが、影を踏むことなく目の前に降り立った。
「レム・・・・・・・」
スバルのその名前の呟きに、完璧なメイドは軽く一礼する。
真っ先に脳裏に受かんだのは、どうして角を生やしているのかという疑問だ。
完璧だ。彼女は、完璧に取りつかれているように見える。
「・・・・・おや?疑問と恐れが感じられます・・・・すみません、スバル君はこの角に疑問を感じているんですか?」
目の前にいるのは少女ではない。
スバルの目の前には、完璧であろうと落ち着きを保とうとしている鬼がいる。
レムが、自分自身で辿り着いた力。それは、角から他者の感情を感じ取る力だ。
その正確さは、陰魔法シャマクですら騙すことができない。
「・・・・・顔色が悪いぞ?体調は大丈夫なのか・・・・?鬼化が負担になっているのなら、元に戻れるか・・・?」
彼女の表情は青白く、唇は水分が干からびたかのようにパサパサになっていた。
だが、その瞳だけは傲慢の極みに達し、薄青く輝いている。
その姿に驚いていたが、スバルは自分自身の口から彼女を心配する声がとめどなく出てくるのを自覚した。
「角はもう戻すことはありません・・・・・。レムの目と鼻よりは役に立ちますから・・・・」
明らかに、これまでの少ない会話でスバルはレムの地雷を踏んだ。
そして、レムの発する言葉には瑞々しさが感じられなかった。
口の中の水分まで干からびているかのように見えてしまう。
「・・・・・あ・・・あのさ・・・」
「ぎっ・・・・・・失礼!」
「待てっ・・・!」
スバルが話し出そうとしたその時、レムの膝に力が入り床を踏み込もうとしたのが分かった。
彼女が飛び出す方向、目の前にはスバルしかいない。
その様子に、目を見開きかけたが、レムの動きは自制されていた。
そして短く言葉を告げると、彼女は廊下の横にある花瓶の花を乱暴に抜き取った。
「・・・・・・・おい」
花瓶の花を抜き取り、中に入っている水をゴクゴクと勢いよく飲み干している。
すぐに分かった。レムは重度の飢餓状態にある。
そして、その生物としての危機本能が今の行動に現れたのだ。
そして確信がある。こうなった原因は、レムがスバルの暴食の権能を利用したことだ。
「危なかったです・・・・。すみません、とっさにスバル君に噛みつくところでした。すみません。」
「いや・・・・。お前は自分で踏みとどまっただろ?だから、謝るな」
そうは言っても、ギラついているレムの瞳に警戒心を解くなど不可能だ。
鬼化状態を維持すると言うことは、暴走を必死に堪えているのだろう。
それに、飢餓状態が重なっているとするならば、彼女は今一切気を抜けない状況なのだ。
それに対して、スバルが恐れを抱いている感情は角を通して筒抜けに・・・・・・クソっ!
「角を戻してくれ・・・・それから話がある」
「お断りいたします・・・・それから話があります」
「は・・・・?」
スバルの願いは真っ向から拒否され、レムは自分勝手に話を進めてしまった。
彼女は空になった花瓶に花を戻すと、それを片手に抱えた。
もう片方の手で、自らのメイド服のポケットから何かを差し出す・・・・。
「注射器・・・・?」
スバルのその呟きに、レムは頷く。
差し出された注射器には、容器の部分に黒い線が引かれていた。
それが赤ペンや青ペンで引かれた線かもしれないが、スバルの視界からは黒線にしか見えない。
「この線まで・・・・・一日一回、血を採って頂けませんか?」
「・・・・・・・・ッ」
この屋敷の廊下に、嫌な空気が流れた。
レムを飢餓状態から解放する方法は、スバルの血しかないのかもしれない。
それがなければ、彼女は干からびてしまうのかもしれない。
せめて、鬼化状態だけでも解けたほうがいいのではないかと思うが、それはすでに拒否された。
これは紛れもない、今後のレムにとっての最初の苦難である。
一旦落ち着いた方が良い。スバルは、自分自身を落ち着かせた。
この問題については、非常に深く考えて解決していかなければならない。
ラムの協力は必須だろう。
今感情的になって、レムを拒否するのは得策ではないはずだ。
「分かった・・・・・それを貸せ」
手を伸ばすと、注射器をその上に置かれた。レムの手は小さく震えている。
「ありがとうございます・・・・・」
「ちょっと待ってろよ・・・・」
手っ取り早く目の前で血を採取する。
一旦はこの場を落ち着かせて・・・・・。
「これ、このまま渡せばいい・・・・?」
「待ってください・・・・。少し少なくないですか?」
「え?」
血の入った注射器をそのままレムに返そうとしたが、そう言われてしまった。
よく見ると、確かに黒い線までには少しだけ隙間がある。
でも、言われるまで気づかないほどの小さな隙間だった。
「いえ・・・・・こんなこと偉そうに指摘するなんて・・・図々しいのも限度がありますね・・・・すみません」
彼女の言葉には、あまりにも生気が感じられなかった。
鬼化しているのにも関わらず、エネルギーが微塵も感じられない。
それでも、今は爆発寸前で落ち着きを保っているように見える。
もしも、爆発させたら。強化されたスバルでも手に負えなくなると直感が告げていた。
「ほらよ・・・・」
少し血を注ぎ足して、注射器をレムに返した。
彼女は注射器を受け取ると、大事そうに懐にしまった。
「・・・・じゃあ、そろそろ俺から話をしてもいいか・・・?」
かなり、心を乱されてしまったが。元に戻そう。
ここから、前向きな話をして一旦距離を取る。そして、ラムに相談すれば・・・・。
「お断りいたします・・・・。すみません」
「・・・・・・お前なぁ!」
なぜかあまりにも噛み合わない。それに憤りを感じてしまい、思わずスバルは強めに言ってしまった。
「おっ・・・・・・・ッ!!」
だが、続きの言葉はすぐに引っ込んだ。
レムが注射器を咥えて、少し血を流し込んだのが見えたからだ。
それを見たスバルは、充血するほど目を見開いて言葉を失った。
ほんの、2滴くらい飲んだだけだ。それでも、なぜか胸騒ぎが収まらない。
これも、生物的な食われるという危機本能が警報を鳴らしているのかもしれない。
暴食の権能も、傲慢の権能、憤怒の権能と同じように、都合の良い武器にはなってくれない。
その手札は、扱いを間違えば自爆する爆弾になりえるのだ。
「ふぅ・・・・・・」
レムは少しだけため息を吐きだすと、見る見るうちに顔色が良くなった。
今までの生気のなさが嘘のように、全身から風格が満ち満ちていく。
「問題はありません・・・・。少しずつ血の量を減らしていけばいいんです・・・・・今は我慢の時です」
「あのなぁ・・・そろそろ、俺の話を聞いてくれないか?」
「お断りいたします・・・・話すことなどなにもありません」
様子がおかしいのは一目瞭然だ。本当に今、レムが何を考えているのかがさっぱり分からない。
「俺が今どんな気持ちか、その角で分かるんだろ?だったら、落ち着いて話し合おう」
そうだ。レムは今、スバルの感情を読み取りながら、それを拒絶して無視している。
何が彼女にそこまでさせるのか。目を背けるわけにはいかない。
「お断りいたします・・・・。レムは加害者・・・・、そして、スバル君は被害者・・・・お話は終わりです」
薄青く輝く瞳が、また一層ギラついたように見えた。
その瞳の奥には、一切の揺れが見られない。
いいや、正確にはスバルの血のせいで、薬物反応にようにごまかされているのかもしれない。
何かの想いに振り切り、完璧にレムは研ぎ澄まされている。自らを磨いて、磨いて、研ぎ澄まそうとしている。
「この話をすること自体が、危険です・・・・・。危険は回避しなければいけませんね」
それはそうだ。間違ってもサテラのセンサーに引っかかるわけにはいかない。
だからと言って、レムがスバルの死に戻りを知ってしまった事について、何の言葉を交わさないまま進めば、その道は醜く歪んでしまうような気がするのだ。
彼女のこの変わり様。それは、スバルの暴食の権能を利用してしまったせいだろう。
でも、そんなものよりも、最も大きな楔となって彼女の魂に打ち込まれた原因を、スバルは知っている。
レムは、ラムから真実を聞いて気付いてしまったのだ。
スバルがこの屋敷に来てから、ずっとレムに警戒されていた。
それは、魔女の匂いを身に纏い、さらにそれをエミリア、ラインハルトにも広げていたからだ。
レムの脳裏で、何度スバルを怪しいから排除するという選択肢が浮かんだだろうか?
それどころではない、レムの空白の予知夢。その魂が悲鳴を訴えているのかもしれない。
あの、英雄スバルを知っている嫉妬の世界線のレム。
その世界線でも、レムの脳裏に何度、怪しいスバルを排除するという選択肢が浮かんだだろうか?
忘れていても、魂の揺らぎは決して彼女を逃がしはしない。
そして、空白の予知夢を思い出した時、さらにその痛みはレムを苦しめるだろう。
「俺の地元にな、腹を割って話すっていうことわざがあってだな・・・あと、ホウレンソウは大事っていう常識もあるんだ・・・・・・・・・あと・・・・」
「・・・・・どうしました?スバル君」
言葉を続けるのをやめてしまったスバルに、角から全てを見通すレムが静かに問いかけた。
その時のスバルの表情は、生気を喰いつくされたかのように蒼白になっていた。
何も、見えない。
スバルがレムの懐に土足で踏み込もうとした時、一瞬でレムは鉄のように冷たく、固くなった。
それは、本当に鉄のようだった。
こちら側からは、何も見通せず、レムの方からは全てを見通されている。
「レムの決意は、ただ私が今後絶対に死なないと言うことです。私が、死ななければ・・・・・スバル君も安全です。姉様の負担の痛みと、スバル君の血さえあれば・・・・・・どんな苦難も、レムを殺せません」
その強さは事実だ。憤怒の極みすら、打ち倒すほどの潜在能力があるのは認める。
それでも、こんな協力の仕方は納得できない。
スバルは肩から力を抜いた。今レムにしてやれるのは、忠告だけだ。
「でも、そのやり方は・・・・苦しくて、辛くて、寂しくて、痛いものになる・・・・。お前をそんな目に遭わせるなんて、俺の魂が許さねえよ」
今、鉄に向かって魂をぶつけた。
冷たい音を立てて跳ね返されるかもしれない。
それでも、諦めなければ、この熱はいつか、その鉄を溶かすだろう。
「あまり、無理をしないでください・・・・・。いいえ、無理はさせません・・・。レムは全然痛くありませんし、スバル君は、英雄ではないんですから・・・」
レムは低い声でそう囁くと、影のように静かに消えていった。
影とは、どこまでも暗く、どこまでも逃がさず自分について来るもの。
子供の頃、そんな影が怖くて、必死に走って逃げたことがある。
影は自分の形そのもので、自分を守るように存在するものでもある。
そして、レムはスバルの影を踏まないようにしていた。
それが、彼女の本心なのだろう。
何故かスバルは今、そんなことを思い出した。