リンさんとのビデオ通話の中で、自分は仕事をしていた。
SRTの必要性のなさを説明できて幹部達は納得、シャーレへの支援を強化しようと言うことで話がついたがそれだけで金がもらえるほど嘴をつっついた政府という木の樹液は甘くない。
《連邦生徒会は経済関係での調整を行いたいと最近話題が出ています》
「調整?」
シャーレが出てきてからというもの、学園間交流の活発化は経済の巨大流通を可能にし、それが始まってから年数と呼べる時間は経っていた。
しかしそうなると、今度は別の問題として学園間の力量差が分かり、その上でパワーバランスが内政に食い込んで運営が狂う弱小校が続出している。
《学園によっては資金力と生産能力などかなりの差が出てしまっていて、現在シャーレが関わっている学校を中心に経済の活発化が進んでいますが、どれもアビドスとアリウスを除いて巨大な学園ではないですか。そこからさらに別の学園に手を伸ばしていますが、弱小校などの活動費用を圧迫しているのですよね》
「なるほどなあ。必要資材の購入も含めて学園そのものが専門学校かつ」
独占禁止法のようなものを制定したい、という話らしい。
例えば精密機器をミレニアムに頼るしかなく、ミレニアムは唯一の価値を理解しているからこそ金額を釣り上げて財政の圧迫をかけて他校が自身の持つ技術を安易に習得して広めないようにしようという動きが見られることが大きい。産業の独占は価格の不当な高騰を招く上、強かった学園を中心とした陣営の自然的な設立や、その不要な枠組みの中で敵を作ってしまう危険性を孕んでいた。
強者に媚びて少しばかり痛い出費を抑える、というやり方は一組織の範囲では正しいやり方なのには違いない。存続のためのリスクを比較的下げるのには何の間違いではないから。しかしそこから経済から波及した対立で学園間の感情の急速悪化を招くような真似を、シャーレを起爆剤としたシャーレ・グローバリズムを大きく阻害する要素になりかねない。
連邦生徒会という一番大きな枠組みの崩壊も含めて、懸念は当然とも言える。
《特定の学園に対する経済制裁と取られた場合は一気に悪化しますが、しかし弱小校を守らないと最悪の場合その土地の管理などがカイザーグループに回ってしまう。企業の私有地を広げ、飛び地に軍拡となっては止めようもない》
「不知火カヤの一件を含めて強弱関わらず学園の自治区は大人の枷になるから保全したい。しかし保全のためには金も必要な上、できれば保全意欲を高めるためのナショナリズムのために産業の活発化が急務……だったら関税とはまた違う、キヴォトスだからできる税の導入はどうかな」
《ほう?》
「差し詰め仮称貿易税とでも言おう」
私の考えていることを話すとしよう。
「連邦生徒会が各学園に課す税金みたいなもので、学園間での物流に数%の課税を掛ける。その課税分、自治区での商品は高くなると思うけど……その分を産業補助金として様々な学園に配布すればフェアトレードと補助金の両立が可能になると思うんだ。条件制定は少し難しいけど、出来たら強者の抑圧と弱者の補助が可能だよ」
《しかしそれでは巨大な株や産業を有している学園からの反発が強まりませんか?例えばミレニアムは多数製造業に関わっているわけですが、根幹はやはり精密機器でしょう。彼女達の真の強さは物品ではなく技術なのは誰もが理解していますが》
「強制力という点においては反発されるのは承知だよ」
強きが弱きを喰い、それが連鎖しなくなる時社会は崩壊する。全てを食い尽くした猛獣の胃を満たし続けるには、その身を喰うしかなくなるのだから。
そうならないように、人間が生まれる前から生物は
私にとっての税金とは
だから税金というダムが必要。その上で、集まった税金を流す政策という水路を整備してもっと遠くを豊かにし、それを内側にバックすることで大きな文明が生まれて存続していくんだろう。
そういう言葉を、口にする。
「反発されるのも当然だし信用に関わって上手くいくかどうかを悩むのは、健全な政治家の証だと思うから」
《褒めてもらって嬉しいところですが……しかし、その新たなチャンスをしっかり提示できるのでしょうか。しかも様々な学園に》
「こればっかりは経済までしっかり見てる連邦生徒会の面々が考えることだからなあ。でも、一部学園の場合の提示方法ならサポートできるかも」
言い出しっぺで悩ませるのは口八丁ではないという自負と共に、リンさんと悩むのが私の仕事だ。私は二つほど、例を出す。
「例えばミレニアムの場合は精密機器もそうだけどハードウェアや建設機械関連の研究も進んでいるんだよね。あまりスポットは当たらないけど、建設業界のイノベーションを起こすことに関しては結構躍起になってるんだ。シャーレの爆破テロも含めた凶悪な思想犯に対抗するべくセキュリティ面や耐久性など、工学分野の熱意が凄まじいんだね」
《もしかして弱小のサポートとして勉強ついでに現地人の意見を取り入れた特色的かつ実用的な建設技術の譲渡などができるということですか?》
「そうそう。さらにそこに温泉開発部などのゲヘナの第二次産業に詳しいメンツを主導としたインフラ開発で学園間交流の先にある建設企画などの実践を並行して起こしてもらえれば経験の蓄積という面でも有用なんだ」
三大校で唯一話していないトリニティは上流階級御用達品の本拠として価値を確立しているから、少し特殊ではあるが『その人間や組織がどれだけの資金力や影響力を持っているか』という気品の指標としての意味を持つ。しかもいい品ばかりなので、購入意欲なども含めて市民の熱意を焚きつける存在としては唯一無二だ。
歴史があればその中で生まれた品が特産品になるが、それ以外がガタガタなのを公費で直した上で全体的に豊かにし金の流通と世界の深さの拡大化が全ての行動と文明を最大化し続ける。
宇宙の熱的死のようにただ広がるものを享受して何もしない文明は、ただ広がって一定の資材でやりくりするだけだから変革がないし面白くない。自然や行動に手を加えてこそ人間だと思う。
「だから、今回の貿易税として連邦生徒会が金の用途と既得権益の大きい学園に付加価値を見出させることができれば少なくとも悪い結果に転がらないはずだ」
《なるほど……ん?》
画面の向こうのリンさんが、少しばかり思いついた顔をする。
「何か?」
《少しばかり長めに時間を取りますけど、貴女の言ったものには一つ大きな利点があります》
「おお」
彼女の言った利点を聞こう。
《この計画が成功した場合、税率を下げるタイミングは来ますが必ず初期と比べて収入が増えて貯蓄が出来るでしょう?シャーレの厚遇や登板生徒に対する手当てなども含めれば先生を起点とした交流の援助になるでしょうし、何より治安維持組織のヴァルキューレ改革の足がかりの金になります。前者が優先になりますけどね》
驚いた。いや、驚くのは失礼か。
リンさんはヴァルキューレの再建も含めて報酬という面の強化による正常化を図っていたようだ。それをどうするかの一手を一つ、自分は出せたようだった。
「そこまで行き着くとは……なるほど、頑張らないといけませんねえ」
《少しの間、貴女にはこの貿易税の制定による学園間流通の説得を考えて貰いたい。貴女の力があれば、それだけ早く到達すると思いますから》
「気軽に言ってくれるなあ。でもリンさんですからね提案して説得するの」
《貴女を雇った気概と実力を舐めないでいただきたい》
お互いに笑って、こっちはついでに眉を顰める。
この税の存在による希望的な展開がうまくいけば一気に色々進むと考えているようだ。道のりは長いが頑張ってほしいな、楽観視はいいことだ。何もしないということをしなければ。
《……そろそろ時間ですね。定例会の方をなんとかしなければなりませんから。今日、他に用事が無ければ上がってもいいですよ》
「おお。じゃあせっかくなら見たかったスーツでも見に行こうかな。ずっと使っててボロボロだったから」
《初任給でいい買い物をしてください。では》
「ええ」
ビデオ通話は切れて、自分一人になった。
部下は下の階の大規模オフィスで頑張って働いているだろうし、様々な企業との軽い計画で真剣に討論している頃だろう。それでも午後の五時くらいからは空いてくるはず。
電子タバコをつけて、吸い始める。
「政治屋というのは大変だ。プロパガンダというエンターテイメントから急に理系と文系の混じった決断を迫られるのだからね」
素直な愚痴。
真面目モードが抜けるとどうしてもやわやわ少女になる癖が抜けなくて、困ったものだ。ただ買い物に行きたいのは本当で、電子タバコのフレーバーもそろそろ補充しないといけない。ライムにレモンの柑橘系は、甘いやつが甘ったるくて爽快感もない上に眠くなるから酸味がある方が好きだからその新作は絶対に欲しい。
「いつか葉巻を買って吸いながら仕事したいものだよなあ」
ぼやいて見る窓の外は、あんまり変わり映えのしない街。
ミレニアムでせっせと研究していた頃には考えられなかった口八丁の文系仕事には楽しさもあるが、慣れていない故の気だるさだってある。
そろそろ、買い物に出かけるために仕事場から出よう。
オートロックの扉を開け、カードで勤怠のチェックを済ませて自分の執務室を後にした。