外れ転生だと思った。
インド。
貧しい街。
気づけば子供の身体。
親も分からない。
言葉もろくに通じない。
そのうえ、どう見てもまともではない連中に拾われた。
――いや、拾われた、という言い方は甘い。
売られた。
買われた。
運ばれた。
そして、奇妙な施設で妙な教育を受けさせられた。
ゲーム。
反射神経テスト。
シミュレーター。
レイバー操縦らしき訓練。
最初は意味が分からなかった。
転生して、これはないだろうと思った。
異世界チートもない。
魔法もない。
ステータス画面もない。
女神もいない。
あるのは、怪しい大人たちと、よく分からない訓練だけ。
完全に外れだ。
外れ転生。
そう思っていた。
けれど、ある日。
施設の人間が、自分を呼んだ。
「バドリナート・ハルチャンド」
その名前を聞いた瞬間、頭の奥で何かが鳴った。
バドリナート。
ハルチャンド。
通称、バド。
TVゲームとレイバー操縦の天才少年。
シャフト・エンタープライズ・ジャパン企画七課、内海課長の秘蔵っ子。
そして。
黒いレイバー、グリフォンのパイロット。
「……え?」
鏡を見た。
小柄な身体。
褐色の肌。
子供の顔。
そして、施設の端末に映るレイバー関連の訓練データ。
胸の奥から、ぞわぞわと熱が上がってきた。
外れじゃない。
外れどころじゃない。
これは。
「ボク、バドリナート・ハルチャンドやん」
声が震えた。
怖いからではない。
興奮していた。
だって、バドだ。
あのバドだ。
グリフォンに乗る少年だ。
内海さんに拾われる。
黒崎さんがいる。
企画七課がある。
土浦研究所がある。
そして、いつか。
AV-98イングラム。
泉野明。
アルフォンスと戦える。
原作では、バドは負ける。
グリフォンという反則みたいな機体に乗りながら、最後はイングラムに負ける。
ゲーム感覚で遊んで。
性能差に甘えて。
野明とアルフォンスの積み重ねに届かずに負ける。
それを、知っている。
知っているなら、話は簡単だった。
「原作通りなんて、つまらんやろ」
性能は勝っている。
グリフォンは強い。
速い。
飛べる。
潜れる。
イングラムよりずっと高性能だ。
なら、負けた理由は機体ではない。
パイロットだ。
遊び方だ。
準備だ。
経験値だ。
つまり。
「あとはボク次第やん」
心臓が跳ねた。
怖い。
この世界は、現実っぽい。
撃たれたら死ぬ。
捕まれば終わる。
内海さんは優しい顔をしているけど、善人ではない。
黒崎さんはたぶん、必要なら平気で人を殺す。
特車二課は漫画やアニメの向こう側の存在ではなく、本当にこっちを捕まえに来る警察だ。
でも。
だからこそ、燃える。
ゲームは、軽い遊びじゃない。
自分の全部を賭けた遊びだ。
相手が仕事で本気なら、こっちも遊びで本気になる。
泉野明は強い。
アルフォンスは強い。
毎日仕事をして、壊れて、直されて、また立ち上がる警察機だ。
そんな相手に、ただ性能で勝ってもつまらない。
正面から勝ちたい。
準備して。
練習して。
負け筋を潰して。
グリフォンを鍛えて。
自分も鍛えて。
そのうえで、アルフォンスに勝ちたい。
バドは、訓練用端末の前に座った。
画面には、レイバー操縦シミュレーターの起動画面が映っている。
昔なら、ただのゲームとして遊んだかもしれない。
けれど今は違う。
これはレベル上げだ。
原作敗北回避のための、最初の一手だ。
「待っときや、アルフォンス」
バドは笑った。
子供みたいに。
オタクみたいに。
そして、パイロットみたいに。
「ボク、今度はちゃんと勝ちに行くからな」