転生バドは勝利を夢見る   作:ぶーく・ぶくぶく

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金で殴ってくる国

/*/ グリフォン米軍採用騒動 /*/

 

 

 

 その提案書は、分厚かった。

 

 表紙には、いかにも官僚的な題名がついている。

 

 高機動特殊強襲レイバー共同評価に関する米側提案。

 

 だが、中身は題名よりずっと露骨だった。

 

 特殊作戦用少数配備。

 

 対レイバー強襲。

 

 港湾・空港・基地制圧。

 

 都市部高脅威環境突入。

 

 高価少数機としての調達許容。

 

 一機当たり建造コスト、戦闘機十機分相当まで許容。

 

 その一文を読んだ瞬間、徳永専務はしばらく黙った。

 

 黒崎は無言で眉間を押さえた。

 

 森川政治は、資料を二度見した。

 

 磯口豊は、椅子の背にもたれて天井を見た。

 

 内海課長だけが、実に楽しそうに笑っていた。

 

「いやあ」

 

 内海は言った。

 

「本気だねえ」

 

 黒崎が低く返す。

 

「課長は黙っていて下さい」

 

「まだ感想を言っただけだよ」

 

「その感想が不要です」

 

 会議室の机の端で、バドリナート・ハルチャンドは資料を覗き込んでいた。

 

 最初は退屈そうだった顔が、途中から少しずつ変わっていく。

 

 戦闘機十機分。

 

 特殊作戦用。

 

 数機だけ。

 

 高価少数。

 

 バドは、ぽつりと言った。

 

「グリフォン、値段までラスボスやん」

 

 黒崎が即座に言った。

 

「喜ばないで下さい」

 

「喜ぶやろ。僕のグリフォン、米軍が戦闘機十機分でも欲しいって言うとるんやで?」

 

「会社の機体です」

 

「でも、僕が乗ったやつや」

 

「だから問題なのです」

 

 徳永は資料をめくった。

 

 提案書の第二部は、さらに厄介だった。

 

 本式ASURA搭載ユニットの小型化に関する技術協力。

 

 SR-70サターン背面張り出し部が簡易ASURA搭載モジュールである可能性。

 

 本式ASURAユニットはさらに大型であるとの推定。

 

 高機動機における背面自由度確保のため、演算ユニット小型化を米側が支援。

 

 台湾半導体企業による製造協力。

 

 米国企業最先端ファブの利用。

 

 必要数限定生産。

 

 高性能低量産専用チップ。

 

 軍用耐環境パッケージング。

 

 徳永は、資料を閉じなかった。

 

 閉じたくなる気持ちを抑え、最後まで読んだ。

 

 そして低く言った。

 

「金で解決できるところを、本当に金で殴ってきたな」

 

 バドが目を輝かせる。

 

「専務、それ僕が言おうと思った」

 

「言うな」

 

 黒崎が被せる。

 

「あなたは特に言わないで下さい」

 

「でも合ってるやん」

 

「合っているから困るのです」

 

 内海課長は肩を揺らして笑っている。

 

「米国はいいねえ。玩具に本気で予算をつける」

 

「課長」

 

「はい」

 

「はいは一回です」

 

「はい」

 

 森川は、資料の半導体協力のページを凝視していた。

 

 その目が、ほんの一瞬だけ技術者の光を帯びる。

 

「最先端ファブ……」

 

 黒崎が即座に振り向く。

 

「森川さん」

 

「いや、技術的にはですね」

 

「食いつかないで下さい」

 

「専用演算ユニットを起こせるなら、本式ASURAの処理能力と小型化は、かなり両立できる可能性があります」

 

「食いついています」

 

 磯口も、腕を組んだまま言った。

 

「サターン背面の張り出しを簡易ASURA搭載ユニットと推定したのは、なかなか鋭いね。もちろん全部ではないが、あそこに演算系と冷却系を詰めていると見られてもおかしくない。本式ASURAなら、さらに大型と考えるのは自然だ」

 

「磯口さん」

 

 黒崎の声が一段低くなった。

 

「分かっているよ。だが、技術的には魅力的なんだ。専用チップ化できれば、背面の張り出しを減らせる。グリフォンの背面自由度を殺さずに処理能力を確保できるかもしれない」

 

「魅力的だから危険なのです」

 

 黒崎はそう言った。

 

 森川と磯口は、同時に口を閉じた。

 

 徳永は二人を見た。

 

「君たちが興味を持つのは分かる。だが、これは親切ではない」

 

 森川は、少し表情を戻した。

 

「分かっています」

 

「半導体製造ラインを提供するということは、必要な演算仕様、熱設計、回路構成、処理特性を出せという意味だ。ASURAの中身を見せろと言っている」

 

 磯口が頷く。

 

「共同開発という名の解析ですね」

 

「そうだ」

 

 徳永は資料のページを叩いた。

 

「台湾企業を使わせる。米国ファブを使わせる。必要な数だけ作ればよい。言い方は協力だが、実際にはASURA中核設計への入口を開けろという要求だ」

 

 黒崎が静かに言った。

 

「開けた扉は、閉じられません」

 

 その言葉に、会議室が一瞬静かになった。

 

 バドは資料を見ていた。

 

 半導体。

 

 台湾。

 

 米国ファブ。

 

 専用チップ。

 

 小型ASURA。

 

 何となく、ゲーム機の新型基板みたいで面白そうにも見える。

 

 だが、黒崎と徳永の顔を見ると、面白がっていい話ではないことは分かった。

 

 それでも、バドは口を開いた。

 

「でもさ」

 

 黒崎がすぐに視線を向ける。

 

「慎重に」

 

「米軍、ほんまに欲しいんやな」

 

「はい」

 

「主力機やなくて、特殊強襲用に数機。戦闘機十機分でもええ。半導体も出す。ファブも出す。台湾も使う。そこまでしてグリフォン級が欲しい」

 

「そうです」

 

「僕のグリフォン、めっちゃ見つかってもうたな」

 

 黒崎は答えなかった。

 

 徳永も答えなかった。

 

 内海だけが、小さく笑った。

 

「見つかったねえ」

 

 バドは、少し嫌そうにした。

 

 米軍が欲しがるのは嬉しい。

 

 評価されるのは嬉しい。

 

 でも、ここまで来ると、嬉しさの奥に別の感情が混じる。

 

 特殊強襲作戦用。

 

 基地突入。

 

 港湾制圧。

 

 都市部高脅威環境。

 

 自分がエイブラハムを蹴った動きが、そういう言葉の中へ入っていく。

 

 グリフォンが、アルフォンスと戦うための黒い怪鳥ではなく、米軍の任務道具にされる。

 

 バドは、それが少し嫌だった。

 

 

 

     /*/

 

 

 

 森川は、改めて米側提案書を机へ置いた。

 

 それから、妙に拗ねた顔で言った。

 

「でも、ASURAの製品化、アメリカにも蹴られた事を忘れてないからな!」

 

 黒崎は一瞬だけ目を瞬かせた。

 

 徳永も、わずかに眉を動かした。

 

 バドは顔を上げる。

 

「蹴られたん?」

 

 森川は、珍しく感情的な声だった。

 

「正式に門前払いされたわけではない。だが、反応は冷たかった。危険すぎる、用途が不明確だ、既存OSで十分だ、商品として成立しない。そんな扱いだった」

 

 磯口も、隣で頷く。

 

「そうだそうだ。実証機をつくれたのは、企画7課あっての事だ!」

 

 黒崎がすぐに言った。

 

「国際問題に企画7課を放り込まないで下さい」

 

 磯口は少し不満そうにした。

 

「事実だよ。普通の開発部なら、ASURAは途中で止められていた。危険だ、採算が合わない、商品企画に乗らない、安全審査が通らない。そう言われて終わりだ」

 

 森川が続ける。

 

「グリフォンという過剰性能機を作れた。ASURAを載せられた。バド君という異常な操縦者がいた。内海課長が、止めるべきところを止めなかった。黒崎さんが胃を痛めながら回収した。徳永専務が怒りながらも完全には潰さなかった。そういう滅茶苦茶があって、ようやく実証まで行ったんです」

 

 内海が嬉しそうに頷く。

 

「いい話だねえ」

 

 黒崎は冷たく言った。

 

「悪い話です」

 

「夢を形にした話だよ」

 

「悪夢です」

 

 バドが小さく笑った。

 

「企画7課あってのグリフォン」

 

 黒崎が即座に言う。

 

「あなたもその言い方をしないで下さい」

 

「でも、そうなんやろ」

 

「そうだから困るのです」

 

 森川は、米側提案書を指で叩いた。

 

「今さら、戦闘機十機分出す、半導体も出す、特殊機でいい、と言われてもですね。ASURAが何なのか、最初から分かっていたわけではないでしょう。グリフォンの映像を見てから急に欲しがっている」

 

 磯口が言った。

 

「しかも、欲しいのは結果だ。どうやってそこまで育てたか、どれだけ無駄を出したか、どれだけ失敗したか、どれだけ危険を飲み込んだか。そこをすっ飛ばして、金とファブで再現できると思われるのは面白くない」

 

 黒崎は、二人を見た。

 

 技術者の誇り。

 

 拗ね。

 

 怒り。

 

 そして、それでも半導体のページに目が行ってしまう業。

 

 黒崎は深く息を吐いた。

 

「お気持ちは分かりますが、国際交渉の場でそれを言わないで下さい」

 

 森川は不満そうに言った。

 

「言いませんよ」

 

 磯口も言う。

 

「黒崎君、我々を何だと思っているんだい」

 

「ASURAの話になると危険な技術者です」

 

 二人は黙った。

 

 否定はできなかった。

 

 

 

     /*/

 

 

 

 徳永は、椅子に深く座った。

 

 米側提案書の一枚を抜き出す。

 

 特殊強襲作戦用少数配備。

 

 高価少数機。

 

 ブラックボックス化された中核制御部。

 

 日米共同保守案。

 

 そこまで読んで、徳永は視線を止めた。

 

「日本で建造して、ブラックボックスの整備だけはSEJで行う」

 

 黒崎が顔を上げた。

 

「専務」

 

 徳永は続ける。

 

「米軍戦闘機の整備方式に近い形なら、いけるか……?」

 

 会議室の空気が変わった。

 

 内海課長の笑みが深くなる。

 

 森川と磯口が、同時に徳永を見る。

 

 黒崎は、明らかに嫌そうな顔をした。

 

「本気ですか」

 

「本気で検討しなければならない段階まで来た、ということだ」

 

 徳永は資料を机に置いた。

 

「米側がここまで本気なら、単に拒否するだけでは済まない。拒否すれば、SE-USA経由で独自に何かを作ろうとする。米国ファブ、台湾企業、軍事予算、試験場、パイロット。完全なグリフォンにはならなくても、危険な近似機は作れるかもしれない」

 

 森川は低く言った。

 

「できないとは言い切れません」

 

 黒崎が即座に返す。

 

「言い切って下さい」

 

「技術者としては、言い切れません」

 

 磯口も重い声で続けた。

 

「金と時間と専用部隊と専用整備班、危険を許す軍事運用があるなら、グリフォン級に近いものは作れる可能性があります。ただし、中身は別物になるでしょう」

 

 徳永は頷いた。

 

「だから、こちらが管理する形を考える。機体は日本で建造。ASURA中核、Bシステム、関節負荷管理、飛行制御、危険域制限ユニットはブラックボックス化。米軍には運用権を渡しても、中身は開けさせない。整備はSEJ指定施設、またはSEJ整備班が行う」

 

 黒崎の声は硬かった。

 

「米軍基地にSEJ整備班を常駐させるということですか」

 

「可能性としては」

 

「戦地に近い場所でブラックボックス整備をすることになります」

 

「分かっている」

 

「整備班が技術情報ごと狙われます」

 

「分かっている」

 

「米側は必ず中身を見たがります」

 

「分かっている」

 

「では」

 

「だから検討している」

 

 徳永の声も硬かった。

 

 会議室が静まる。

 

 徳永はさらに続けた。

 

「完全拒否で相手が勝手に作るより、こちらが中核を握ったまま、数機だけ管理下に置く方がましな可能性がある。米軍戦闘機にも、輸出先が中核部品を自由に開けない例はある。完全な前例ではないが、ブラックボックス整備という形なら、技術流出を抑えながら運用を許す余地はある」

 

 内海が楽しそうに言った。

 

「なるほど。米軍の黒い怪鳥だけど、心臓はSEJの箱の中。いいねえ」

 

 黒崎が低く言う。

 

「課長は黙っていて下さい」

 

「これは商売の話だよ」

 

「国際問題です」

 

「同じことだよ」

 

「違います」

 

 バドは、黙って徳永を見ていた。

 

 日本で建造。

 

 米軍が運用。

 

 ブラックボックスはSEJ整備。

 

 米軍戦闘機みたいな扱い。

 

 それは、自分のグリフォンを完全に渡す話ではない。

 

 でも、グリフォン級の機体を米軍へ渡す話ではある。

 

 バドは、ゆっくり口を開いた。

 

「それ、僕のグリフォンとは別?」

 

 徳永は答えた。

 

「別だ」

 

「でもグリフォン級?」

 

「そうなる可能性はある」

 

「黒い?」

 

 徳永は一瞬だけ黙った。

 

 内海が笑う。

 

「黒いだろうねえ。米軍はきっと黒くしたがる」

 

「課長」

 

 黒崎が睨む。

 

 バドは少し嫌そうにした。

 

「米軍の黒い怪鳥か」

 

 森川が言う。

 

「完全なグリフォンにはならない。ならせない。こちらが中核を握るなら、危険域も制限する。操縦者保護も入れる。ASURAも別系統にする」

 

 磯口も続ける。

 

「高機動特殊機にはなるかもしれないが、君が乗ったグリフォンとは別物だ」

 

「偽物?」

 

 黒崎が即座に言った。

 

「その言い方は避けなさい」

 

 バドは首を振る。

 

「でも偽物やん」

 

 徳永が静かに言った。

 

「派生機だ」

 

「偽物や」

 

 内海は笑っている。

 

「バドにとってはそうなんだろうね」

 

 バドは、少しだけ机を見つめた。

 

 アメリカが金を出す。

 

 半導体を出す。

 

 整備方式まで考える。

 

 SEJがブラックボックスを握る。

 

 そうすれば、グリフォン級の機体が本当にできるかもしれない。

 

 米軍基地の格納庫に、黒い怪鳥の偽物が数機並ぶ。

 

 特殊強襲作戦用。

 

 アルフォンスに勝つためではなく、どこかの基地を襲うため。

 

 バドは、胸の奥が少しざらつくのを感じた。

 

「なあ、黒崎さん」

 

「何です」

 

「僕、嫌や」

 

 黒崎は、少しだけ目を細めた。

 

「何がですか」

 

「グリフォンみたいなのが、米軍の特殊作戦用になるの」

 

 会議室が静かになった。

 

 バドは続けた。

 

「戦争に使われるから怖い、もある。でも、それだけちゃう。僕のゲームの怪物が、他の人の任務道具になるのが嫌や」

 

 黒崎は静かに言った。

 

「倫理ではなく、所有欲ですね」

 

 バドは頷いた。

 

「たぶん」

 

 森川と磯口は黙っていた。

 

 徳永も黙る。

 

 内海課長だけが、目を細めてバドを見ていた。

 

 バドは自分の手を見る。

 

 操縦桿を握った手。

 

 ノートを書いた手。

 

 グリフォンを動かした手。

 

「でも、嫌なもんは嫌や」

 

 黒崎はすぐには返さなかった。

 

 その感情は歪んでいる。

 

 だが、嘘ではない。

 

 戦争利用への倫理的嫌悪よりも、自分の勝負のための機体を他人に使われることへの独占欲が先にある。

 

 それは危険だ。

 

 危険だが、今のバドを米国から引き離す力にもなる。

 

 徳永が言った。

 

「君の感情で会社の判断は決められない」

 

 バドは頷いた。

 

「分かってる」

 

「だが、覚えておく」

 

 バドが顔を上げる。

 

 徳永は続けた。

 

「グリフォンは、君だけのものではない。会社の機体だ。だが、この機体が何によって生まれ、何のために動いてきたかを無視して、米軍特殊機にするつもりもない」

 

 バドは、少しだけ目を丸くした。

 

「専務、たまにええこと言うな」

 

 黒崎が即座に言う。

 

「失礼です」

 

 徳永は疲れた顔で答える。

 

「褒め言葉として受け取っておく」

 

 

 

     /*/

 

 

 

 会議はさらに続いた。

 

 ブラックボックス整備方式。

 

 日本国内建造。

 

 SEJ指定整備施設。

 

 米軍による独自分解禁止。

 

 ASURA中核部の封印。

 

 操縦ログの共有範囲。

 

 パイロット訓練の制限。

 

 Bシステム解除権限。

 

 緊急時の自爆的データ消去。

 

 言葉が物騒になっていくたび、黒崎の表情は冷たくなった。

 

 森川と磯口は、技術的には可能な項目と、絶対に渡してはいけない項目を分けていく。

 

 内海は、面白そうに全体を眺めている。

 

 バドは途中から黙ってノートを書き始めた。

 

 米軍、本気。

 戦闘機十機分でもいい。

 半導体でASURA小型化。

 台湾、米国ファブ。

 森川さん、怒った。

 磯口さんも怒った。

 企画7課あってのグリフォン。

 黒崎さん、胃痛。

 徳永専務、ブラックボックス整備案。

 米軍の黒い怪鳥。

 偽物。

 嫌や。

 僕のグリフォンはアルフォンス用。

 

 黒崎が覗き込む。

 

「最後の一行は、また問題があります」

 

「でも本音や」

 

「本音を全部書かないで下さい」

 

「ノートやもん」

 

「押収される可能性があります」

 

「またそれ言う」

 

「本気です」

 

 バドはノートを抱えた。

 

 黒崎はため息をつく。

 

「後で確認します」

 

「検閲やん」

 

「保護です」

 

「似てるなぁ」

 

「違います」

 

 徳永が会議を締めるように言った。

 

「米側への回答は、即答しない。ブラックボックス整備方式を含め、政府と協議する。森川君、磯口君、技術的に可能な範囲と、絶対に開示してはならない中核部分を整理してくれ」

 

「承知しました」

 

 森川が答えた。

 

 磯口も頷く。

 

「ただし、専務」

 

「何だ」

 

 森川は、少しだけ真面目な顔になった。

 

「米側が半導体を出すなら、ASURA小型化の技術的可能性は本当にあります」

 

 黒崎が睨む。

 

 森川は続けた。

 

「食いついているわけではありません。危険性も理解しています。ただ、可能性は否定できない。だからこそ、線引きは先に決めるべきです」

 

 徳永は頷いた。

 

「そのための会議だ」

 

 磯口が言う。

 

「本式ASURAの小型化ができれば、グリフォンだけでなく、サターンや互換OSにも影響します。技術としては大きい」

 

 黒崎が言う。

 

「だから危険です」

 

「分かっています」

 

 磯口は静かに答えた。

 

「だが、技術が大きいことと、危険であることは両立する」

 

 森川も頷く。

 

「ASURAはずっとそうでした」

 

 会議室に、短い沈黙が落ちた。

 

 ASURA。

 

 かつて評価されず、危険視され、商品にならず、企画7課とグリフォンとバドによって無理やり実証されたOS。

 

 それが今、米政府を動かしている。

 

 半導体企業の名まで出させている。

 

 戦闘機十機分の値段でも欲しいと言わせている。

 

 森川と磯口が拗ねるのも当然だった。

 

 そして、徳永と黒崎が青ざめるのも当然だった。

 

 バドはノートを閉じた。

 

「なあ」

 

 全員がバドを見る。

 

「米軍がどんだけ金出しても、アルフォンスは買えへんやろ」

 

 徳永は、少しだけ眉を上げた。

 

「何の話だ」

 

「いや、グリフォン級が欲しいって言うても、僕が欲しい勝負は買えへんのやなって」

 

 バドは笑った。

 

「米軍の黒い怪鳥ができても、僕のラスボス戦は別や」

 

 黒崎は、何も言わなかった。

 

 徳永も、すぐには言わなかった。

 

 内海が楽しそうに目を細める。

 

「いいねえ。戦闘機十機分でも買えない勝負か」

 

「課長」

 

 黒崎の声が低くなる。

 

 内海は手を上げた。

 

「黙るよ」

 

 バドは、窓の外を見た。

 

 夜のSEJ本社。

 

 遠くにレイバー用クレーンの影。

 

 世界がグリフォンを欲しがる。

 

 米国が金を出す。

 

 半導体を出す。

 

 特殊機を作ろうとする。

 

 徳永がブラックボックスで守ろうとする。

 

 森川と磯口が怒りながらも技術に惹かれる。

 

 黒崎が胃を痛める。

 

 内海が笑う。

 

 それでも、バドの中心には白い機体がいた。

 

 アルフォンス。

 

 米軍がどれほど金を出しても買えない相手。

 

 バドは、小さく呟いた。

 

「待っときや、アルフォンス」

 

 黒崎は、その声を聞いた。

 

 今度は止めなかった。

 

 米政府がどれほど本気になっても。

 

 戦闘機十機分の値札がついても。

 

 最先端ファブが用意されても。

 

 バドリナート・ハルチャンドの中で、グリフォンはまだ米軍のものではなかった。

 

 黒い怪鳥は、まだ白い警察機へ向いている。

 

 それだけが、危険で、厄介で、そして今だけは少しだけ救いだった。

 

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