転生バドは勝利を夢見る   作:ぶーく・ぶくぶく

47 / 47
黒い怪鳥の期限

 

 

 

 土浦研究所の会議室には、まだヒポグリフ級という言葉の余韻が残っていた。

 

 正式ASURA搭載サターン外装機。

 

 米軍はそれを可能性と見た。

 

 森川と磯口は限界だと説明した。

 

 黒崎は胃を押さえた。

 

 徳永専務は、米側へ出す回答文の表現を削り続けている。

 

 バドは、ノートに「ヒポグリフ。乗り心地最悪。でも経験値濃い」と書き、黒崎に渋い顔をされたところだった。

 

 その時、内海課長がふいに言った。

 

「でも、米軍が本気になってきたら、グリフォンが出せなくなるかもしれない」

 

 誰も、すぐには返事をしなかった。

 

 軽い声だった。

 

 だが、言葉の中身は軽くない。

 

 グリフォンが出せなくなる。

 

 その意味を、一番早く理解したのはバドだった。

 

「……え?」

 

 内海は、いつもの薄い笑みを浮かべたまま、資料を指で叩いた。

 

「米軍はグリフォン級特殊機を欲しがっている。ASURAも欲しい。ヒポグリフ級にも食いついた。ファントムなんて見せたら、もっと面倒だ。ここまで来ると、グリフォン本体はもう単なる企画7課の玩具じゃない」

 

 黒崎が低く言う。

 

「最初から玩具ではありません」

 

「僕にとっては玩具だったよ」

 

「それが問題です」

 

 内海は気にしない。

 

「これからは、政府も見る。米国も見る。SE-USAも見る。徳永専務も、今まで以上に鍵をかける。グリフォンを一度出すだけで、外交と安全保障の問題になるかもしれない」

 

 徳永は否定しなかった。

 

 黒崎も否定しなかった。

 

 森川と磯口は、黙っていた。

 

 バドは、操縦桿を握っていない手を、膝の上で握りしめた。

 

「グリフォン、出せへんの?」

 

 内海は優しくも、残酷にも聞こえる声で言った。

 

「今すぐじゃない。でも、遠くないかもしれない」

 

「なんでや。まだアルフォンスとやってへん」

 

「だからだよ」

 

 内海は笑った。

 

「一号機との決着は、早めにつけるとしよう。計画を立てるよ」

 

 黒崎が即座に顔を上げる。

 

「課長」

 

「何かな」

 

「その計画という言葉に、嫌な予感しかしません」

 

「正しい予感だね」

 

「やめて下さい」

 

「やめないよ」

 

 バドは、内海を見た。

 

 米軍。

 

 ASURA。

 

 グリフォン級特殊機。

 

 ヒポグリフ。

 

 ファントム。

 

 ブラックボックス整備。

 

 全部が、バドのゲーム盤の外側から押し寄せてくる。

 

 そしてその波が、グリフォンをさらっていこうとしている。

 

 アルフォンスと戦う前に。

 

 野明のお姉ちゃんと決着をつける前に。

 

 バドは、低く言った。

 

「早めにつける」

 

「そう」

 

 内海が頷く。

 

「グリフォンが封印される前に。米軍が正式に手を伸ばしてくる前に。徳永専務が本気で倉庫の鍵をかける前に」

 

 徳永が冷たく言う。

 

「もうかけるつもりだ」

 

「なら、なおさら急がないと」

 

「内海」

 

「専務。商売の話は大人がする。でも、あの黒い怪鳥は、まだ一つだけ役目を残している」

 

 内海はバドを見た。

 

「そうだろう?」

 

 バドは頷いた。

 

「アルフォンスに勝つ」

 

 黒崎が静かに言う。

 

「そのために警察を危険に晒すことは認められません」

 

 内海が言う。

 

「危険に晒すんじゃない。招待するんだよ」

 

「言い方を変えても同じです」

 

「違うよ。ちゃんと舞台を作る。逃げ道も、観客も、余計な火器もなし。米軍も、日本政府も、暴力団も、ファントムもヒポグリフもなし」

 

 バドが目を細める。

 

「グリフォンとアルフォンスだけ?」

 

「理想はね」

 

 黒崎が即座に言う。

 

「理想ではなく妄想です」

 

 内海は笑った。

 

「黒崎君、準備を始めよう」

 

「承知しません」

 

「でも、始めるよ」

 

「課長」

 

「今回は、時間がない」

 

 その言葉に、黒崎も黙った。

 

 時間がない。

 

 それは事実だった。

 

 グリフォンは、もう自由に飛ばせる機体ではなくなりつつある。

 

 米国が見た。

 

 SE-USAが匂いを嗅いだ。

 

 日本政府が震えた。

 

 徳永が鍵をかけようとしている。

 

 そして、バドのゲームはまだ終わっていない。

 

 森川が、ぽつりと言った。

 

「一号機は、もう盗んだ起動ディスクの中の一号機ではないでしょうね」

 

 磯口も頷く。

 

「現場で変わっている。野明君も、アルフォンスも」

 

 バドは笑った。

 

「だから燃えるんや」

 

 黒崎が見る。

 

 バドの顔には、恐怖もあった。

 

 焦りもあった。

 

 だが、それ以上に、目が輝いていた。

 

「米軍にグリフォン取られる前に、政府に封印される前に、徳永専務に倉庫へ閉じ込められる前に、僕がやる」

 

 徳永が言った。

 

「私は閉じ込めるつもりだ」

 

「その前にやる」

 

「堂々と言うな」

 

 内海が楽しそうに手を叩いた。

 

「いいねえ。期限付きのラスボス戦だ」

 

 黒崎が冷たく言う。

 

「課長は黙っていて下さい」

 

「計画を立てると言ったばかりだよ」

 

「その計画を立てないで下さい」

 

「無理だね」

 

 内海は、会議室のホワイトボードへ歩いた。

 

 黒いペンを取る。

 

 そこに、大きく書いた。

 

 AV-98 一号機。

 

 その下に、もう一つ。

 

 GRIFFON。

 

 バドは、その二つの名前を見た。

 

 白い機体。

 

 黒い怪鳥。

 

 米軍も、政府も、SE-USAも、ASURAも、ヒポグリフも、ファントムも。

 

 全部が周りで騒いでいる。

 

 でも、中心はまだそこにあった。

 

 内海は振り返り、笑った。

 

「さあ、バド。ゲームの終盤だ」

 

 バドは、椅子から飛び降りた。

 

「待っときや、アルフォンス」

 

 その声は、今までより少しだけ急いでいた。

 

 黒崎はそれを聞き、静かに目を閉じた。

 

 止めなければならない。

 

 守らなければならない。

 

 だが、もう流れは動いている。

 

 米軍が黒い怪鳥を欲しがったことで、黒い怪鳥は逆に急がなければならなくなった。

 

 世界が欲しがる前に。

 

 会社が封じる前に。

 

 政府が名前をつける前に。

 

 バドリナート・ハルチャンドは、自分のゲームに決着をつけようとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

トローラ・ロージン転生(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:ファイブスター物語)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼星団暦2988年、アドラー。▼ユーバー・バラダに雇われた傭兵騎士トローラ・ロージンは、目覚めた瞬間に自分が「もう詰んでいる」ことを悟る。▼視界いっぱいに迫る黄金の電気騎士、K.O.G.。▼本来ならここでトローラは、MHバルン…


総合評価:2393/評価:8.79/連載:43話/更新日時:2026年07月31日(金) 18:00 小説情報

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織や軍事関係、コンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本…


総合評価:3480/評価:9.03/連載:20話/更新日時:2026年07月31日(金) 18:00 小説情報

ちゃんと軍人教育受けてるジィッドくん(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:ファイブスター物語)

ニナリスのA-B1-B1-B2-B2:VVS1・L型って見てさ。クリアランスVVS1が嫁いでくるのにジィッドくん残念過ぎないと思って妄想を形にしてみます。これミースを誘拐したり、エンジン爆破しそうにないから、死なないで済むかしら?▼ラストまで投稿したぜ。2026年6月18日完結。▼トローラ・ロージン転生「https://syosetu.org/novel/4…


総合評価:841/評価:8.39/完結:161話/更新日時:2026年06月18日(木) 00:00 小説情報

アルカンフェル転生(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:強殖装甲ガイバー)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼気が付くとアルカンフェルに転生していた▼お仕置きビリビリは嫌だが、巨大小惑星の衝突は回避しないと地球丸ごと死ぬとか草。▼原作開始まで何万年?忘れない様に石板に覚えてる原作内容を書き込んでおこう。気が付いたら眠りの神殿に石板が…


総合評価:3373/評価:8.43/連載:86話/更新日時:2026年07月31日(金) 17:00 小説情報

起きたら仁義なき転生、それから。(作者:函南)(原作:仁義なき戦い)

起きたら仁義なき戦いの世界にいた。そんな話。


総合評価:4364/評価:8.74/連載:52話/更新日時:2026年07月19日(日) 10:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>