転生バドは勝利を夢見る   作:ぶーく・ぶくぶく

6 / 6
レベルアップ!

/*/ 土浦研究所 解析室 /*/

 

 

 

 東京レイバーショウから回収された二枚の起動ディスク。

 

 特車二課一号機、二二一号機。

 

 特車二課二号機、二二二号機。

 

 その二枚が、土浦研究所の解析室に置かれた瞬間、空気が変わった。

 

「……本物だ」

 

 森川政治が、掠れた声で言った。

 

 端末に接続されたディスクから、膨大な動作ログが吸い上げられていく。

 

 歩行。

 

 制動。

 

 転倒復帰。

 

 対暴走レイバー制圧。

 

 格闘。

 

 銃器構え。

 

 市街地での障害物回避。

 

 パイロットごとの操縦補正。

 

 自動姿勢制御。

 

 その全部が、生きた運用データとして詰まっていた。

 

 磯口豊は、眼鏡の奥で目を輝かせている。

 

「すごい……これはすごいぞ。展示用のカタログデータじゃない。実戦運用ログだ。しかも特車二課の現用機二機分」

 

 森川は、画面を食い入るように見つめていた。

 

「一号機と二号機で癖が違う。操縦者に合わせて、学習補正がかなり変わっている。二号機は荒い。だが反応は速い。力任せに見えて、射撃姿勢への移行が妙に早い。こちらは……一号機か」

 

 森川の指が、キーの上で止まった。

 

「なんだこれは」

 

 磯口が覗き込む。

 

「どうした?」

 

「戻しが異常に柔らかい。転倒しかけた時の重心補正が、機械的じゃない。まるで、操縦者が機体の癖を先に読んでいるみたいだ」

 

「一号機のパイロットの癖か」

 

「いや、違う。癖というより……蓄積だ。操縦者と機体が、互いに合わせ続けた結果だ」

 

 森川の声が熱を帯びる。

 

「これだけの動作パターンがあれば、これだけで一財産だ」

 

 磯口が笑った。

 

「一財産どころじゃない。篠原重工が現場で育てた警察機の運用経験そのものだぞ」

 

 森川は、ほとんど叫ぶように言った。

 

「これを解析して、ASURAに移植すれば――」

 

 解析室の全員が、画面を見た。

 

「グリフォンの動作は、さらにレベルアップするぞ」

 

 その言葉で、研究員たちは一斉に動き始めた。

 

 誰かがログの複製を取る。

 

 誰かが動作パターンを分類する。

 

 誰かがASURAとの互換テーブルを開く。

 

 警察機の制圧動作。

 

 市街地運用。

 

 転倒復帰。

 

 相手を壊さず止める挙動。

 

 そのすべてが、グリフォンにとっては未知の餌だった。

 

 バドは、少し離れたところでそれを見ていた。

 

 土浦研究所の大人たちは、完全に浮かれている。

 

 グリフォンが勝った時より、起動ディスクを見ている今の方が興奮しているようにすら見えた。

 

「……なあ、内海さん」

 

「何かな、バド」

 

 内海は、いつもの薄ら笑いを浮かべている。

 

 だが、その目は端末に映る解析データをしっかり見ていた。

 

「内海さんは、これで目的達成しちゃったん?」

 

 バドは少し不安そうに聞いた。

 

「二号機倒した。量産機も倒した。起動ディスクも取った。映像も撮れた。ASURAのデータも増えた。これでもう、グリフォンとイングラムで遊ばんでええってことにならへん?」

 

 内海は、バドの方を見た。

 

 そして、愉快そうに笑った。

 

「商売の話をするなら、今日の映像と解析データとASURAだけでも十分だね」

 

「……やっぱり?」

 

「シャフトの技術力は示せた。篠原重工の現用機データも手に入れた。警察機の動作パターンを解析できれば、次世代レイバー制御系への売り込み材料にもなる。グリフォン本体を売らなくても、ASURAだけで十分商売になる」

 

 バドの顔が、分かりやすく曇った。

 

「ほな、終わりなん?」

 

「いいや」

 

 内海は、あっさりと言った。

 

「それはそれで進める」

 

「それはそれで?」

 

「うん。大人の商売は大人がやる」

 

 内海はバドの前にしゃがみ、目線を合わせた。

 

「でも、君はまだまだ遊び足りないだろ?」

 

 バドの目が、一瞬で輝いた。

 

「遊ばせてくれるんか!?」

 

 内海は、にこにこと笑う。

 

「もちろん」

 

 黒崎が横から静かに言った。

 

「内海さん」

 

「何かな、黒崎君」

 

「商業的な目的は既に十分達成しています。これ以上グリフォンを出せば、露見と回収失敗のリスクが増えます」

 

「その通りだ」

 

「では」

 

「でも、それではつまらない」

 

 黒崎は黙った。

 

 内海は悪びれもしない。

 

「グリフォンは、商売のためだけに作ったわけじゃない。少なくとも僕はね」

 

 森川が、端末から顔を上げた。

 

「ASURAの完成度を示すなら、次は一号機との直接戦闘データが欲しいところです」

 

 磯口もうなずく。

 

「二二一号機の動作ログを見る限り、一号機は二号機とも量産機とも違う。あの機体と正面からぶつけたデータは、研究としても価値がある」

 

 黒崎の表情は変わらない。

 

「研究としての価値と、実行リスクは別です」

 

「分かっているよ、黒崎君」

 

 内海は立ち上がった。

 

「だから、舞台を整えるんだ」

 

 バドは、内海を見上げる。

 

「舞台?」

 

「そう。今度は一号機がちゃんと出てこられる舞台。泉野明がアルフォンスに乗って、君とグリフォンを見て、逃げずに向かってくる舞台」

 

 バドの喉が鳴った。

 

 嬉しそうに。

 

 怖そうに。

 

 待ちきれなさそうに。

 

「ほんまに?」

 

「ほんまに」

 

「内海さん、めっちゃええ人やな!」

 

「よく言われる」

 

「たぶん言われへんやろ」

 

「ひどいなあ」

 

 内海は笑いながら、解析室の画面を指した。

 

「まずは一号機と二号機のデータを全部食べよう。警察機の動き、捕縛、復帰、足回り、操縦者の癖。使えるものは全部ASURAに入れる」

 

 森川が即座に答える。

 

「任せてください。特に一号機の復帰動作と二号機の射撃姿勢移行は、グリフォン用に再構成する価値があります」

 

 磯口も続ける。

 

「腰椎ユニットを狙われた場合の防御パターンも組んでおいた方がいいな。今日やったことは、相手にもやられる可能性がある」

 

 バドが頷く。

 

「せや。僕がやったってことは、野明のお姉ちゃんも思いつくかもしれへん」

 

 黒崎が言う。

 

「通常、警察機はそのような破壊を優先しません」

 

「通常ならな」

 

 バドは即答した。

 

「でも、あのお姉ちゃんはアルフォンス守るためなら、たぶん普通と違うこともするで」

 

 内海は、満足そうに目を細めた。

 

「いいねえ、バド。君は本当に一号機を高く買っている」

 

「買っとるよ」

 

 バドは真顔で言った。

 

「あれはただの警察レイバーやない。毎日仕事して、毎日怒られて、毎日直されて、ずっと野明のお姉ちゃんと一緒におった機体や」

 

 バドは、解析画面に映る二二一号機の動作ログを見た。

 

 数値の向こうに、白いレイバーが見える気がした。

 

「そういうのは、強い」

 

 解析室が、少し静かになった。

 

 内海だけが、相変わらず笑っていた。

 

「では、決まりだ」

 

 彼は軽く手を叩く。

 

「商売は商売で進める。研究は研究で進める。そして遊びは遊びで続ける」

 

 バドは両手を上げた。

 

「やった!」

 

 黒崎が低く言う。

 

「内海さん」

 

「分かっているよ。危険は承知だ」

 

「承知しているなら」

 

「でもね、黒崎君」

 

 内海は、倒錯したほど朗らかに言った。

 

「ここでやめたら、グリフォンが可哀想じゃないか」

 

 黒崎は答えなかった。

 

 バドは笑っていた。

 

 土浦研究所の端末では、二二一号機と二二二号機の動作パターンが、次々とASURA用の形式に変換されていく。

 

 警察機の経験。

 

 特車二課の現場。

 

 泉野明と太田功が積み重ねた癖。

 

 それらが、黒い怪物の中へ移植されようとしていた。

 

 バドは拳を握る。

 

「待っときや、アルフォンス」

 

 その声は、ただの子供の声だった。

 

 けれど、そこには本気があった。

 

「こっちは、ちゃんとレベル上げしてから行くからな」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

アルカンフェル転生(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:強殖装甲ガイバー)

気が付くとアルカンフェルに転生していた▼お仕置きビリビリは嫌だが、巨大小惑星の衝突は回避しないと地球丸ごと死ぬとか草。▼原作開始まで何万年?忘れない様に石板に覚えてる原作内容を書き込んでおこう。気が付いたら眠りの神殿に石板が飾られてて笑う。日本語は不味くないか?


総合評価:1821/評価:8.73/連載:13話/更新日時:2026年06月20日(土) 17:00 小説情報

ちゃんと軍人教育受けてるジィッドくん(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:ファイブスター物語)

ニナリスのA-B1-B1-B2-B2:VVS1・L型って見てさ。クリアランスVVS1が嫁いでくるのにジィッドくん残念過ぎないと思って妄想を形にしてみます。これミースを誘拐したり、エンジン爆破しそうにないから、死なないで済むかしら?▼ラストまで投稿したぜ。2026年6月18日完結。


総合評価:705/評価:8.68/完結:161話/更新日時:2026年06月18日(木) 00:00 小説情報

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織やコンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本文をお読み…


総合評価:2837/評価:9.07/連載:14話/更新日時:2026年06月19日(金) 21:00 小説情報

僕は強くない。でも、僕は強い。(作者:Mr.♟️)(原作:呪術廻戦)

禪院の血筋です。▼オリ主物、地雷だと思ったら▼そっとブラウザバックお願いします。▼オリ主:禪院 雅


総合評価:4810/評価:7.95/連載:13話/更新日時:2026年05月28日(木) 00:00 小説情報

ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話(作者:陸奥九十九)(原作:ガンダム)

閃光のハサウェイの結末悲惨やな…せや!ハサウェイがアムロやシャアに影響される前にのめり込むものがあればいいんや!▼ミライさんの実家って地球圏の大企業だし、その実家で過ごしているうちにハサウェイが機械いじり(特にバイクや車)にハマって、なんやかんや幸せになるお話です。▼あんまりMSとか出てこないし、戦闘シーンなどもあんまりない予定です。▼追記:▼公式だとミライ…


総合評価:18813/評価:9.2/連載:46話/更新日時:2026年06月18日(木) 01:44 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>