異世界召喚されたのに、最初の試練が"笑ってはいけない"だった件 作:老眼はじまりました
「うぅ……そろそろ、お尻が限界……」
「本当に容赦ないわよね……」
ルルアやマーニャが泣きそうな顔で言う。
他のメンバーも同意する中……
『それじゃあ、次の試練に進むクポ!』
「「「まだあるのぉー!?」」」
みんなの絶叫を無視して、モーグリがピッとリモコンを操作する。
すると今度は、フッ…とスクリーンが消えた。
「えっ? 無くなった?」
「なぬ? どういうことじゃ?」
全員が不思議がる中、いつもの機械声が響いた。
《それでは、次の試練を始めます》
その声と同時に、メンバーがいる空間のちょうど中央に、大きなテーブルが現れた。
「うわっ!? な、何!?」
「テーブル?」
そして更に、大きなテーブルを囲むように、椅子が次々と現れた。
「あっ、椅子だ!」
「これ……座っていいのかな?」
《どうぞ》
「答えたっ!?」
セラが驚く。
「なんか、罠とか……そんなオチはないわよね?」
「……見た限りは、大丈夫ですね。一応調べてみます」
マーニャの言葉に反応して、ヨシュアが全ての椅子とテーブルを調べ始めた。
「……特に何の仕掛けもないと思います。魔法とかなら分かりませんが」
「うーん……ヨシュアがそう言うなら、とりあえず大丈夫じゃない?」
エステルの言葉に反応して、全員、恐る恐る座る。
「……」
特に何も起こらない。
「普通の椅子ですね。良かった~」
「今は休んでてって事かも」
みんなそれぞれ座る。
すると今度は、ゴオオォーと大きな音が鳴る。
「えっ!?」
「何事ぉ!?」
周りには、部屋のように壁が現れた。
空間が大広間になるように囲む。
「うわーー! すごいすごい! 部屋になったー!」
「……なんなの、ここ」
アリーナが喜び、ベルベットが呆れる。
「あれ? ヨシュア、あっち!」
エステルが、向こうを指差す。
よく見ると、通路が出来ていた。
「一体何なのよ……」
「……行ってみます」
ヨシュアが調べに行く。
数分が経過する。
「ヨシュアさん、大丈夫でしょうか?」
「うーん、私達も行ってみる?」
だが、そんな心配をよそに、ヨシュアが戻ってきた。
「あっ、ヨシュア! どうだった!?」
「……なんか、リラックスルームみたくなってたよ」
「リラックスルーム?」
「自販機があったり、筆記用具があったり……」
「えぇっ!?なにそれっ!?」
みんなが一斉に移動する。
そこは、広間とはまた違う雰囲気の部屋になっていた。
「すごい! 部屋がいっぱいあるぅー!」
「あっ! 飲み物だ! 冷蔵庫もある!」
「こっちの部屋には、お手洗いもあるよ」
どうやら、簡易的な住居スペースが出来たらしい。
「なんか、普通に暮らせそう」
すると、機械声が響いた。
《施設は自由に使っていただいて構いません》
「やったーー!!」
アリーナが飛び上がる。
「な、なんか、色々凄いね……」
セラが呆れたように感心する。
色々、各自いろんな場所を調べてみる。
特に仕掛けや罠は見当たらなかった。
「とりあえず、戻ろっか?」
何の進展もないため、全員先ほどの広間へ戻る。
各自、椅子に座る。
少しして……
《それでは、試練を再開します》
「やっぱりやるのね……」
モーグリが、いつもの感じで話し出した。
『次は、サイレントバトルだクポ!』
「サイレント……?」
「笑ってはいけない、じゃないの?」
「……でも、笑ったら声が出るから、結局一緒よね」
「あっ……」
皆、嫌な予感しかしない顔になる。
スクリーンにルールが表示される。
【それぞれ、声を出さずに笑わせ合ってください】
【声を出した場合は、尻キックです】
「やっぱりぃー!」
【なお、今回は『サイレント』のため、アウトコールはありません】
「ええっ!?」
【声を出したら容赦なく尻キックが飛びます】
「嫌だぁーー!!」
全員が絶叫する中、ルール説明は続く。
【なお、くすぐるなどの接触行為、叩く殴るなどの暴力行為は禁止です】
「よかったぁ~」
ルルアが安心そうに言う。
【また、服を脱ぐなどの、あからさまな行為も失格です】
「脱ぐかっ!!」
「そこまで行ったら地獄絵図だったわね……」
【なお……一定時間、誰も笑わなかった場合は……】
【全員に、終了時間までエンドレスで尻キックです】
「「「鬼かっ!!」」」
総ツッコミ。
「うぅ……酷すぎます~」
「誰も何もしないで待機って手は無くなったわね」
「つまり、嫌でも笑わせ合いをしなければならない……」
「声を出せないとなると、地獄じゃな」
そんな会話が続く中――
『準備はいいクポ? では、開始だクポ!』
「ええっ! もう始まるの!? あわわっ!」
みんな慌てて口を閉じる。
そして、サイレントバトルが開始した。
「……」
「……」
「……」
当然、全員無言。
妙な緊張感が走る。
誰も喋れない。笑ったら終わり。
数分が経過する。
このままだと、エンドレス尻キックになってしまう。
そんな不安が浮かぶ中、ついに彼女が動いた。
「……」
マーニャが無言のまま、何かの紙切れを、そっとテーブルの中央へ置いた。
よく見ると、写真だ。
皆の視線が向く。
そこに写っていたのは--
アリーナ。
真顔で普通に立っている。
そう、ただ普通に立っているだけ。
「…っ」
なのに、何故か数名、笑いそうになる。
「っ……!」
肩が震える。
アリーナが無言で、なんで笑うのっ!?と非難している。
マーニャが無言でニヤニヤ。
そして、先ほど持ってきたのか、持参していたペンで、写真の下に小さく何かを書き込む。
【かぼっちゃん】
「ぶはっ!!」
ついにエステルが吹き出した。
「あっ、やば……」
気付くも、もう遅い。
ドゴォン!!
「いったあぁぁー!!」
涙目で尻を押さえる。
「っは……!」
それを見て、ルルアも耐えきれなかった。
ドゴォン!!
「はうぅー!!」
尻を押さえながら床へ突っ伏す。
「だめっ……! ふふっ!」
セラもつられて笑ってしまう。
ドゴォン!!
「きゃあぁー!!」
開始数分で、すでに広間は地獄と化していた。
笑いを堪え、更に声すら出せず、皆必死に我慢している。
その空気が、場を余計に面白くしてしまう。
静まり返った大広間。
全員笑わないよう必死で、空気は完全に極限状態。
その時……
セラが、そろーっと立ち上がった。
何かやろうとしたらしい。
だが……。
足が椅子に引っかかる。
「あっ」
次の瞬間、ズルッ!!っと盛大に……。
本当に盛大にズッコケた。
「「「ぶはぁっ!!」」」
全員、一斉に吹き出す。
「セラさん、何やってるのぉ!!」
「あはははっ! 綺麗に転んだー!」
「やはり、ポンコツじゃったぁー!」
「……ふっ」
我慢できず、みんな声を出してしまう。
「ち、違っ……!」
セラ本人だけが、真っ赤になっていた。
ドゴォ!
「いたいいぃーーー!!」
ドゴォ!
「ぎゃああぁぁー!!」
ドゴォ!
「ぶへらああぁぁーー!!」
ドゴォ!
「ぐっ…!」
エステル、アリーナ、マギルゥ、ライトニングと次々に蹴られていく。
無音空間の中で、悲鳴だけが響いていた。
ルルアが笑いを堪えながら、
「が、ガチの天然は反則……」
(((あっ…)))
……普通に喋った。
ドゴォ!!
「ひやああぁぁー!!」
広間大爆発。
「ち、違っ、今のはぁぁ!!」
更に、ドゴォ!!
「痛い痛いぃぃーー!!」
「ルルアちゃん! 喋っちゃダメだって! ……あっ!」
ドゴォ!!
「あ~れえぇ~!!」
ロロナまでやられる。
「「「…っ!!」」」
エステルがテーブルを叩きながら、必死に耐える。
マーニャが涙目になって、マギルゥは呼吸困難に陥る。
ライトニングとベルベットですら、吹き出す寸前だった。
笑い疲れで、空気はもうボロボロ。
そのまま、また時間が経過する。
やっと少しだけ空気が落ち着いてきたとき、ライトニングが、静かに立ち上がった。
そのまま無言で、通路の向こうへ。
(トイレかな?)
ルルアがジェスチャーで伝える。
エステルたちが多分、と頷く。
静かな時間。
だが、その中……。
「♪」
またしても、マーニャが動いた。
にやっと笑いながら、例の写真……アリーナの真顔の写真を取り出す。
『かぼっちゃん』
そして、それを……
ライトニングの席へそっと置いた。
「~~~~っ!!」
セラが、吹き出すのを必死に堪える。
「……っ!」
ヨシュアも肩がぷるぷると震える。
ベルベットは顔を覆い、マギルゥは床を叩き始める。
一同、堪えるのに必死。
そして……ライトニングが戻ってきた。
無言で席へ座る。
「?」
ふと、写真が目に入る。
「……」
一瞬、固まる。
そして、ライトニングの肩が震えだした。
ピク。
ピク。
「~~~~っ!!」
全員限界。
そんな中、ライトニングはとうとう耐え切れず――
「……っ、ふ……!」
顔を逸らしながら吹き出した。
ドゴォ!!
「くあぁっ!!」
「「「……っ!!」」」
ライトニングの絶叫と共に、広間は再び我慢地獄になった。
全員、必死に耐える。
ライトニングは、肩を震わせながらゆっくりと写真を持ち上げ、静かに周囲へ視線を送る。
完全に、「誰だ、やったの……?」という非難の目。
セラは、違う違う!のポーズ。
「「「……」」」
全員、一斉に目を逸らす。
エステルは天井を見る。
ロロナはわざとらしく机を拭き始める。
ベルベットは、真顔で紅茶を飲む。
マギルゥは露骨に口元隠していた。
そんな中、マーニャだけが肩をぷるぷる震わせていた。
ライトニングが、じっ…とマーニャを見る。
なんとなく気付いている。
……だが、マーニャはとぼける。
そして、わざとらしく口笛を吹き始めた。
「……っ」
その態度が、逆にダメだった。
「っ……ふ……!」
ドゴォ!!
「ぐあぁ……!」
ライトニングが再び蹴られ、広間はまたしても地獄絵図へと化していった。