異世界召喚されたのに、最初の試練が"笑ってはいけない"だった件   作:老眼はじまりました

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サイレント②

 しばらく無言が続く。

 広間の空気は、もう限界だった。

 笑いを堪えすぎて、全員疲弊している。

 だが、何かをやらないと、エンドレス尻キックという地獄が待っている。

 

「……」

 

 おもむろに、マギルゥがベルベットに合図をする。

 

「何?」とベルベット。

 

「(こうこう)」

 

 マギルゥはジェスチャーで『あっち向いてホイ!』を勝負しようと誘っているらしい。

 

 「……」

 ベルベットが無視する。

 

(ニヤニヤ)

 負けるのが怖いんじゃろう~?といった感じで煽る。

 

「……っ」

 

 ベルベットがピクっとする。

 そして、「いい度胸ね」という感じで応戦した。

 

(((ノッた!?)))

 

 全員が笑いそうになるが、何とか堪える。

 そして、そんな空気の中、真剣勝負(?)が始まった。

 

 最初はグーから、じゃんけん……ぽん!

 マギルゥ、チョキ。

 ベルベット、グー。

 

 ベルベットの勝ち。

 

 あっち向いて……と声を出さずにやる。

 ホイッ!

 

 ベルベット、指【上】

 マギルゥ、顔【下】

 

 セーフ。

「ちっ……」といった感じで勝負を再開する。

 

 じゃんけん……ポン!

 

 マギルゥ、パー。

 ベルベット、チョキ。

 

 またベルベットの勝ち。

 

 あっち向いて……ホイッ!

 

 ベルベット、右。

 マギルゥ、下。

 

 またセーフ。

「っ……」とベルベットが悔しがる。

 マギルゥが、フフンとドヤ顔。

 

 続けて、じゃんけん……ポン!

 

 マギルゥ、パー。

 ベルベット、グー。

 

 マギルゥの勝ち。

 

 あっち向いて……ホイッ!

 

 ベルベット、上。

 マギルゥ、上。

 

 アウト。

 

「ぶはっ……!」

 エステルが笑う。

 

 ドゴォン!!

 

「うわぁぁー!!」

 

「……っ!」

「っ……!!」

 

 ヨシュアとライトニングがギリギリで耐える。

 ただのあっち向いてホイ勝負。

 だが、声を出してはいけないという極限の空気が、何でもないようなことで笑いを生み出してしまう。

 マギルゥの指の方向と、ベルベットの顔の向きが同じになるだけで、何故か笑える状況になっていた。

 

 ニヤニヤとマギルゥが煽る。

「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」と言わんばかりの表情。

 ヒクっヒクッとベルベットがキレかける。

 

(……ぶっ!)

(マギルゥさん、煽ってる……!!)

 

 セラとマーニャが必死に耐える。

 

 それを見たルルアが、笑いを堪えながらもロロナに、「お母さん、私達もやろうっ!」というジェスチャー。

「私はいいよ!」とロロナは遠慮するが、みんなの視線が一斉に突き刺さる。

 

「うっ……」

 

 断れない空気。

 ロロナは諦め、仕方なく勝負することに。

 

 ルルアが「いっくよー!」と構える。

 

 じゃんけん……ポン!

 

 ルルア、チョキ。

 ロロナ、パー。

 

 ルルアの勝ち。

 あっち向いて……ホイッ!

 

 ルルア、上。

 ロロナ、上。

 

 アウト。

 

「ふっ……!!」

「あはははっ!! いきなり負けたぁーー!!」

 

ドゴォン!! ドゴォン!!

 

「くっ……!!」

「ぎゃあぁーー!!」

 ライトニングとアリーナが、即蹴られる。

 

「ふっ……はっ!!」

「くくっ……ははっ!」

 

ドゴォン!! ドゴォン!!

 

「いったぁーー!!」

「うっ……!!」

 続いて、エステルとヨシュアもつられて笑い、蹴られる。

 

「あははははっ!! お母さん、弱い!!」

 

ドゴォン!!

 

「ぎゃあーーー!!」

 そして、何故かルルアまで吹き出して、思いっきり蹴られていた。

 

 だが、ロロナがぷんすかと怒る。

「い、今のは、たまたまだもん!! もう一回やろう……あっ」

 

ドゴォン!!

 

「あぁぁーーん!!」

 普通に喋ったため、ロロナにも尻キック。

 

「「「……っ!!」」」

 

 マーニャが腹を抱えて笑うが、何とか声は堪える。

 ベルベットとマギルゥも危ない。

 セラは涙を流し、ライトニングも肩が震えている。

 

 そんな中、先ほどのロロナの言葉に反応して、「ふふん、いいよ!」とルルア。

 続けて、何やらジェスチャーで何かを伝える。

 指を三回指し、「今度はホイホイホイ!の三連続ね」と合図していた。

 ロロナが「うん、いいよ!」とリベンジに燃える。

 そして、あっち向いてホイホイホイ!が始まった。

 

 じゃんけん……ポン!!

 ルルア、チョキ。

 ロロナ、チョキ。

 

 あいこでしょ!

 ルルア、チョキ。

 ロロナ、グー。

 ロロナの勝ち。

 

 あっち向いて……

 

ホイ!

 ロロナ、下。

 ルルア、右。

 

ホイ!

 ロロナ、上。

 ルルア、左。

 

ホイ!

 ロロナ、左。

 ルルア、下。

 

 オールセーフ。

 ロロナが「うぅ……」と悔しがる。

 再開。

 じゃんけん……ポン!!

 ルルア、グー。

 ロロナ、チョキ。

 

 ルルアの勝ち。

 

 あっち向いて……

 

ホイ!

 ルルア、左。

 ロロナ、左。

 

ホイ!

 ルルア、右。

 ロロナ、右。

 

ホイ!

 ルルア、上。

 ロロナ、上。

 

「「「ぶっはあぁぁーー!!」」」

 

 全員、一斉に吹き出していた。

 

「全部負けたぁ---!!」

「いきなり勝負ついちゃったぁー!!」

「いくら何でも、弱すぎるじゃろう!」

 

 ドゴォン!! ドゴォン!! ドゴォン!!

 

「いやぁーー!」と次々に悲鳴が上がる。

 

「あはははっ!! お母さん、弱いぃ!!」

 

ドゴォン!!

 

「ぎゃあぁぁーー!!」

 またしても、ルルアまで蹴られていた。

 

「うぅっ……!!」

 ロロナは真っ赤になって恥ずかしそうな表情。

 

 広間は、もう全員ボロボロ。

 笑い疲れに、ペナルティ疲れ。

 そんな中、セラがふと横を向く。

 

 ほんの一瞬……。

 

 その隙に――

 

 マーニャが、すっ……と例の『アリーナの写真』を、セラの席へ置いた。

 普通の表情。

 下には、手書きで『かぼっちゃん』。

 

「~~~~っ!!」

 エステルはもう危険状態。

 

「…っ!」

 ベルベットは顔を覆っている。

 

「…っ!! …っ!!」

 マギルゥは涙目で必死に堪えていた。

 

「……っ」

 ライトニングは横を向くが、完全に吹き出す寸前。

 

 そんな中、何も知らないセラが、席へ視線を戻す。

 

「……」

 

 直後、写真が目に入る。

 

「……っ!!」

 

 セラの肩が、ぴくっぴくっと震える。

 

「~~~!!」

 周りも限界。

 

 そして、ついに……

 

「ふふっ……!! あはははっ!!」

 セラが吹き出した。

 

ドゴォォ!!

 

「きゃああぁーー!!」

 そして、見事に蹴られた。

 

「……っ!!」

 

 その声で、更に完全壊滅状態だった。

 アリーナだけは、「なんで笑うのっ!?」と不満そう。

 それがまた、極限の状態を増長する。

 

 セラは、お尻を押さえながら、ゆっくり写真を持ち上げる。

 そこに写る、アリーナの写真。

 セラ、また肩がぷるぷると震える。

 だが、次の瞬間……。

 じっ……

 ものすごく非難する目で、マーニャを見る。

 完全に、「あなたでしょ!?」という顔。

 マーニャは知らん顔で、すぅー……っと、露骨に目を逸らす。

 しかも、またわざとらしく口笛を吹く。

 

「~~っ!!」

 その態度が逆にダメだった。

 セラが、またしても、

 

「ふっ……ははっ!!」

 

 と吹き出してしまった。

 

 ドゴォ!!

 

「いたぁいぃー!!」

 

「……っ!」

 エステルが机に突っ伏す。

 

「「……っっ」」

 ベルベットとヨシュアが肩を震わせている。

 

「~~~っ!!」

 ルルアとロロナが、寄り添って必死に耐えていた。

 

 またしても、空間が地獄になる。

 もう誰もまともに戦えていない。

 笑いを堪えるだけで限界。

 箸が転がっただけで笑ってしまう状態。

 

 ……そんな中、ずっと静かだったライトニングが、ふいに立ち上がる。

 

(お姉ちゃん?)

 

 不思議そうなセラ。

 だが、ライトニングは何かを決心したように……。

 

 おもむろに……

 

「……前だけ見てろ。私は帰る」

 

 ……普通にしゃべった。

 

 

「ぶはあぁぁー!!」

「だめぇぇーー!!」

「ふっはははっ……!!」

 

 まさかの行動に、全員吹き出す。

 

「い、今のはズルいですぅーー!!」

 ドゴォン!!

「痛いぃぃーー!!」

 

「普通に声出したぁーー!!」

 ドゴォン!

「あぁぁーーん!!」

 

「自爆特攻とか、タチ悪すぎでしょ……!」

 ドゴォン!

「……っっ!」

 

「お姉ちゃん……! ひ、卑怯だよっ!! しかも、そ、そのセリフっ!!あははっ!」

 ドゴォン!!

「きゃあぁー!!」

 

 もちろん、声を出したライトニングにも、特大の尻キック。

 

 ドゴォン!!

 

「くっ……!」

 

 空間が完全に壊れ、静寂が一気に崩れた。

 そのたびに、ドゴドゴとみんな蹴られていく。

 

「あっはははははっ! みんな笑いすぎぃー!!」

 

 ドゴォ!!

 

「いったあぁぁーい!!」

 

 それを見たアリーナがさらに爆笑して蹴られる。

 ……もう収拾がつかなかった。

 

 一方、ライトニング本人は、まだ真顔。

 だが、ほんの少しだけ口元が上がっていた。

 

 そして、みんなの我慢が限界に達した頃――

 

《これにて、サイレントバトルを終了します。

 もうしゃべっても笑っても大丈夫です。お疲れ様でした》

 

 やっと念願の声が、白い世界に響いた。

 

 

 

 

 

 

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