異世界召喚されたのに、最初の試練が"笑ってはいけない"だった件 作:老眼はじまりました
しばらく無言が続く。
広間の空気は、もう限界だった。
笑いを堪えすぎて、全員疲弊している。
だが、何かをやらないと、エンドレス尻キックという地獄が待っている。
「……」
おもむろに、マギルゥがベルベットに合図をする。
「何?」とベルベット。
「(こうこう)」
マギルゥはジェスチャーで『あっち向いてホイ!』を勝負しようと誘っているらしい。
「……」
ベルベットが無視する。
(ニヤニヤ)
負けるのが怖いんじゃろう~?といった感じで煽る。
「……っ」
ベルベットがピクっとする。
そして、「いい度胸ね」という感じで応戦した。
(((ノッた!?)))
全員が笑いそうになるが、何とか堪える。
そして、そんな空気の中、真剣勝負(?)が始まった。
最初はグーから、じゃんけん……ぽん!
マギルゥ、チョキ。
ベルベット、グー。
ベルベットの勝ち。
あっち向いて……と声を出さずにやる。
ホイッ!
ベルベット、指【上】
マギルゥ、顔【下】
セーフ。
「ちっ……」といった感じで勝負を再開する。
じゃんけん……ポン!
マギルゥ、パー。
ベルベット、チョキ。
またベルベットの勝ち。
あっち向いて……ホイッ!
ベルベット、右。
マギルゥ、下。
またセーフ。
「っ……」とベルベットが悔しがる。
マギルゥが、フフンとドヤ顔。
続けて、じゃんけん……ポン!
マギルゥ、パー。
ベルベット、グー。
マギルゥの勝ち。
あっち向いて……ホイッ!
ベルベット、上。
マギルゥ、上。
アウト。
「ぶはっ……!」
エステルが笑う。
ドゴォン!!
「うわぁぁー!!」
「……っ!」
「っ……!!」
ヨシュアとライトニングがギリギリで耐える。
ただのあっち向いてホイ勝負。
だが、声を出してはいけないという極限の空気が、何でもないようなことで笑いを生み出してしまう。
マギルゥの指の方向と、ベルベットの顔の向きが同じになるだけで、何故か笑える状況になっていた。
ニヤニヤとマギルゥが煽る。
「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」と言わんばかりの表情。
ヒクっヒクッとベルベットがキレかける。
(……ぶっ!)
(マギルゥさん、煽ってる……!!)
セラとマーニャが必死に耐える。
それを見たルルアが、笑いを堪えながらもロロナに、「お母さん、私達もやろうっ!」というジェスチャー。
「私はいいよ!」とロロナは遠慮するが、みんなの視線が一斉に突き刺さる。
「うっ……」
断れない空気。
ロロナは諦め、仕方なく勝負することに。
ルルアが「いっくよー!」と構える。
じゃんけん……ポン!
ルルア、チョキ。
ロロナ、パー。
ルルアの勝ち。
あっち向いて……ホイッ!
ルルア、上。
ロロナ、上。
アウト。
「ふっ……!!」
「あはははっ!! いきなり負けたぁーー!!」
ドゴォン!! ドゴォン!!
「くっ……!!」
「ぎゃあぁーー!!」
ライトニングとアリーナが、即蹴られる。
「ふっ……はっ!!」
「くくっ……ははっ!」
ドゴォン!! ドゴォン!!
「いったぁーー!!」
「うっ……!!」
続いて、エステルとヨシュアもつられて笑い、蹴られる。
「あははははっ!! お母さん、弱い!!」
ドゴォン!!
「ぎゃあーーー!!」
そして、何故かルルアまで吹き出して、思いっきり蹴られていた。
だが、ロロナがぷんすかと怒る。
「い、今のは、たまたまだもん!! もう一回やろう……あっ」
ドゴォン!!
「あぁぁーーん!!」
普通に喋ったため、ロロナにも尻キック。
「「「……っ!!」」」
マーニャが腹を抱えて笑うが、何とか声は堪える。
ベルベットとマギルゥも危ない。
セラは涙を流し、ライトニングも肩が震えている。
そんな中、先ほどのロロナの言葉に反応して、「ふふん、いいよ!」とルルア。
続けて、何やらジェスチャーで何かを伝える。
指を三回指し、「今度はホイホイホイ!の三連続ね」と合図していた。
ロロナが「うん、いいよ!」とリベンジに燃える。
そして、あっち向いてホイホイホイ!が始まった。
じゃんけん……ポン!!
ルルア、チョキ。
ロロナ、チョキ。
あいこでしょ!
ルルア、チョキ。
ロロナ、グー。
ロロナの勝ち。
あっち向いて……
ホイ!
ロロナ、下。
ルルア、右。
ホイ!
ロロナ、上。
ルルア、左。
ホイ!
ロロナ、左。
ルルア、下。
オールセーフ。
ロロナが「うぅ……」と悔しがる。
再開。
じゃんけん……ポン!!
ルルア、グー。
ロロナ、チョキ。
ルルアの勝ち。
あっち向いて……
ホイ!
ルルア、左。
ロロナ、左。
ホイ!
ルルア、右。
ロロナ、右。
ホイ!
ルルア、上。
ロロナ、上。
「「「ぶっはあぁぁーー!!」」」
全員、一斉に吹き出していた。
「全部負けたぁ---!!」
「いきなり勝負ついちゃったぁー!!」
「いくら何でも、弱すぎるじゃろう!」
ドゴォン!! ドゴォン!! ドゴォン!!
「いやぁーー!」と次々に悲鳴が上がる。
「あはははっ!! お母さん、弱いぃ!!」
ドゴォン!!
「ぎゃあぁぁーー!!」
またしても、ルルアまで蹴られていた。
「うぅっ……!!」
ロロナは真っ赤になって恥ずかしそうな表情。
広間は、もう全員ボロボロ。
笑い疲れに、ペナルティ疲れ。
そんな中、セラがふと横を向く。
ほんの一瞬……。
その隙に――
マーニャが、すっ……と例の『アリーナの写真』を、セラの席へ置いた。
普通の表情。
下には、手書きで『かぼっちゃん』。
「~~~~っ!!」
エステルはもう危険状態。
「…っ!」
ベルベットは顔を覆っている。
「…っ!! …っ!!」
マギルゥは涙目で必死に堪えていた。
「……っ」
ライトニングは横を向くが、完全に吹き出す寸前。
そんな中、何も知らないセラが、席へ視線を戻す。
「……」
直後、写真が目に入る。
「……っ!!」
セラの肩が、ぴくっぴくっと震える。
「~~~!!」
周りも限界。
そして、ついに……
「ふふっ……!! あはははっ!!」
セラが吹き出した。
ドゴォォ!!
「きゃああぁーー!!」
そして、見事に蹴られた。
「……っ!!」
その声で、更に完全壊滅状態だった。
アリーナだけは、「なんで笑うのっ!?」と不満そう。
それがまた、極限の状態を増長する。
セラは、お尻を押さえながら、ゆっくり写真を持ち上げる。
そこに写る、アリーナの写真。
セラ、また肩がぷるぷると震える。
だが、次の瞬間……。
じっ……
ものすごく非難する目で、マーニャを見る。
完全に、「あなたでしょ!?」という顔。
マーニャは知らん顔で、すぅー……っと、露骨に目を逸らす。
しかも、またわざとらしく口笛を吹く。
「~~っ!!」
その態度が逆にダメだった。
セラが、またしても、
「ふっ……ははっ!!」
と吹き出してしまった。
ドゴォ!!
「いたぁいぃー!!」
「……っ!」
エステルが机に突っ伏す。
「「……っっ」」
ベルベットとヨシュアが肩を震わせている。
「~~~っ!!」
ルルアとロロナが、寄り添って必死に耐えていた。
またしても、空間が地獄になる。
もう誰もまともに戦えていない。
笑いを堪えるだけで限界。
箸が転がっただけで笑ってしまう状態。
……そんな中、ずっと静かだったライトニングが、ふいに立ち上がる。
(お姉ちゃん?)
不思議そうなセラ。
だが、ライトニングは何かを決心したように……。
おもむろに……
「……前だけ見てろ。私は帰る」
……普通にしゃべった。
「ぶはあぁぁー!!」
「だめぇぇーー!!」
「ふっはははっ……!!」
まさかの行動に、全員吹き出す。
「い、今のはズルいですぅーー!!」
ドゴォン!!
「痛いぃぃーー!!」
「普通に声出したぁーー!!」
ドゴォン!
「あぁぁーーん!!」
「自爆特攻とか、タチ悪すぎでしょ……!」
ドゴォン!
「……っっ!」
「お姉ちゃん……! ひ、卑怯だよっ!! しかも、そ、そのセリフっ!!あははっ!」
ドゴォン!!
「きゃあぁー!!」
もちろん、声を出したライトニングにも、特大の尻キック。
ドゴォン!!
「くっ……!」
空間が完全に壊れ、静寂が一気に崩れた。
そのたびに、ドゴドゴとみんな蹴られていく。
「あっはははははっ! みんな笑いすぎぃー!!」
ドゴォ!!
「いったあぁぁーい!!」
それを見たアリーナがさらに爆笑して蹴られる。
……もう収拾がつかなかった。
一方、ライトニング本人は、まだ真顔。
だが、ほんの少しだけ口元が上がっていた。
そして、みんなの我慢が限界に達した頃――
《これにて、サイレントバトルを終了します。
もうしゃべっても笑っても大丈夫です。お疲れ様でした》
やっと念願の声が、白い世界に響いた。