異世界召喚されたのに、最初の試練が"笑ってはいけない"だった件   作:老眼はじまりました

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第一の試練終了

《これにて、サイレントバトルを終了します。

 もうしゃべっても笑っても大丈夫です。お疲れ様でした》

 

 白い空間に機械声が響き、全員の歓声が響いた。

 

「終わったぁぁーー!!」

 エステルは床に大の字に倒れる。

 

「……何とかなったってことでしょうか?」

 ヨシュアはまだ少し不安そう。

 

「た、助かりましたぁ……。もうお尻が限界でした……」

 ロロナはもう泣きそうだった。

 

 全員が気を抜く中、機械声が続ける。

 

《これにて、第一の試練を終了します。お疲れさまでした》

 

 その言葉に、

 

「えっ!? 試練自体が終わったの!? ってことは……」

「もう帰れるっ!?」

 

 一同が期待に胸を膨らませた。

 ……だが、モーグリは無情にも

 

『続いて、次の試練に続くクポ』

 

 と言い放った。

 

「「「まだあるのぉーー!?」」」

 

 ルルアが頭を抱え、マギルゥが大げさに倒れこむ。

 ベルベットはうんざりした表情で「いい加減にしなさいよ……」とつぶやき、

 ライトニングは「……だろうな」と疲れた声を出す。

 

《第一の試練クリアにより、絆は深まりました。

 続いて、第二の試練に進むことを許可します》

 

 淡々と声が響く。

 

「いや、許可しなくていいです……」

「薄々予想はしていたけど、第一ってことは、やっぱり続きはあるんですね」

 

 ルルアとヨシュアが突っ込む中、モーグリが、

 

『次の試練まで、疲れをとるクポ!』

 

 と明るい声で言う。

 すると、まるで何かを召喚するように魔法のエフェクトのような光が輝く。

 そして、大きなテーブルの上に、次々と食事が現れた。

 

 豪華な肉料理。

 湯気の立つスープ。

 焼きたてのパン。

 新鮮なサラダ。

 果物やデザートまで並んでいる。

 

「えぇっ……!?」

 エステルがぽかんとする。

 

「急に料理が出てきた!?」

 セラが驚愕する。

 

「わぁ!!ごはんだごはんだー!!」

 アリーナはすぐに食べようとする。

 

「ちょ、待ちなさいアリーナ!」

 マーニャが慌てて止める。

 

 そんな中、ロロナとルルアは料理を見た瞬間、職業病が出た。

 

「ルルアちゃん、このスープ……どういう素材で作ってるんだろうね?」

「やっぱり、錬金術なのかな……急にパッと現れたけど」

「だとしたら、食材は勿論だけど、錬金酵母とか……意外とぷにぷに玉も使ってるかも!?」

「きっと賢者の石とかも、入ってるんじゃない?」

「いや、それは入ってないから! 多分……」

 

 二人が考える横で、

 

「……」

 ベルベットは腕を組んだまま料理を見ていた。

 

「……やっぱり、警戒しますよね」

 ヨシュアが言う。

 

「……毒とか入ってるようには見えないけど」

「一応……調べてみます」

 

 ヨシュアが料理に近づく。

 慎重に毒見をして、色々と観察する。

 

「……少なくとも、今のところ危険な反応はありませんね」

 

少しだけ重い空気が漂う。

その一方で……

 

「はー、生き返るわい……」

 マギルゥは既に椅子にだらけていた。

 

「……」

 ライトニングは少し離れた場所で周囲を警戒している。

 

「お姉ちゃん、少しくらい休んだら?」

 セラが苦笑していた。

 

 突然、モーグリがクルリと回って叫ぶ。

 

『なお、第一の試練は終了したので、もう尻キックはありませんクポ!』

 

 その言葉に全員、一斉に安堵した。

 

「よかったぁぁ……!!」

 エステルが机に突っ伏す。

 

「これでやっと安心して座れるわね……」

 マーニャは本気で涙目だった。

 

 ヨシュアが毒見や観察を終え、毒や仕掛けはないと判断する。

 そして全員がテーブルを囲み、ようやく落ち着いた空気が流れはじめた。

 さっきまで悲鳴と尻キックが飛び交っていたとは思えないほど、穏やかなランチタイムだった。

 

「でも、少しだけ安心しました」

 

 湯気の立つスープを両手で持ちながら、ロロナがほっと息をつく。

 皆の視線が集まる。

 

「知らない世界に召喚されて、何事かと思いましたけど……今のところは平和なイベントです」

 

 その言葉に、みんな静かに頷く。

「うん。最初は怖かったけど、命を奪い合うような感じじゃなくてよかった」

 セラが安心したように言う。

 

 するとエステルが、パンをかじりながら大きく頷いた。

「だよねー。いきなり“最後の一人になるまで戦え”とか言われたら、どうしようかと思ってた……」

 

 ……。

 一瞬、空気が静かになる。

 

「……そういう可能性もあると思ってた」

 ベルベットが目を伏せた。

 

「……私もだ」

 ライトニングも静かに頷く。

 

「うんうん、私てっきり、闘技場でみんな戦うんだと思ってた!」

「アリーナさん、戦うことばっかり……」

 

「まあでも、白い空間に集められて、“試練”なんて言われたら普通は警戒しますよ」

 ヨシュアが苦笑する。

 

「わたしなんか、また錬金術失敗して、異世界戦争に巻き込まれた!?って思いました……」

 ルルアが思い出して震える。

「結果的には、みんなお尻が大変なだけで済んで良かったかな……?」

「いや、良くないでしょ!!」

 

 セラの言葉に、マーニャが即突っ込む。

 

「でも面白かった!」

「君は本当に順応力がおかしいね……」

 

アリーナは肉を頬張りながら笑い、ヨシュアが突っ込む。

 

「ワシはもう、常に尻キックを警戒する体になってしもうた……」

「アンタが一番余裕だったじゃないの」

 

 マギルゥは机に突っ伏したまま呟き、ベルベットが突っ込む。

 

 

「でも、みんなで笑ってるの……ちょっと楽しかったです」

 セラが思い出して笑う。

 

「……まあ、確かにね。お尻にキックが無ければ、もっといいんだけどね」

 エステルも笑う。

 

 そのやり取りに、他のメンバーにも小さな笑いが広がった。

 今度は誰も蹴られない。

 それだけで、全員ちょっと嬉しかった。

 

 和やかな空気の中、食後のお茶を口にしていたヨシュアが、静かに口を開いた。

 

「……恐らく、このメンバーで争わせるようなことはないと思います」

 

 場の空気が少し引き締まる。

 

「根拠は?」

 ライトニングが視線を向ける。

 

「さっき、“これで絆は深まった”って言ってましたから」

 ヨシュアは冷静だった。

 

 エステルが「あー……」と声を漏らす。

 ヨシュアは続けた。

 

「つまり、あの試練の目的は“勝敗”じゃない」

「ってことは、関係性を作ること……?」

「恐らく、何らかの目的で、僕たちの絆を深めようとしてるのかと」

 

 セラが考え、ヨシュアが頷く。

 

「じゃあ……本当に戦わせるつもりじゃないんですね」

 ロロナが安堵する。

 

「……だとしても、何のために?」

「尻キックで絆を深めるって、発想がだいぶ狂ってるけどね……」

「否定はできません」

 

 ベルベットは腕を組んだまま考え込み、マーニャが苦笑いに、ヨシュアが真顔で返す。

 

 ロロナがおずおずと手を上げた。

 

「で、でも……実際ちょっと仲良くなりましたよね?」

 

「それはまあ、うん」

「共に尻キックを受けた仲間だもん!」

「嫌すぎる友情だよ!」

 

 エステルとルルアが吹き出す。

 

「……だが、最初より警戒心は薄れた」

「少なくとも、背中を向けられる程度にはね」

 

 ライトニングは小さく息を吐いた。

 ベルベットも認める。

 

 その言葉に、少し空気が静かになる。

 マギルゥがニヤリと笑う。

 

「おやおやベルベットちゃん、“信頼”ですかな〜?」

「違う」

「即答ぅ」

 

 だが、完全否定しきれていないのは皆感じていた。

 

「もしかしたら、“協力しないと越えられない試練”があるのかもしれませんね」

 ロロナが優しく言う。

 

「うん! だから、最初に私たちを仲良くさせたのかも」

 ルルアも頷く。

 

 アリーナは肉を頬張りながら笑った。

 

「じゃあ簡単だね! みんなで頑張ればいいんでしょ!」

 

 その単純な言葉に、少しだけ皆の表情が和らぐ。

 そんな中、穏やかだった空気が……

 

 ブイン――という嫌な機械音でぶち壊された。

 

 全員が顔を上げる。

 案の定、機械音声が響く。

 

《休憩時間を終了します。では、次の試練を開始します》

 

「うわっ、来た!」

「うぅ……まだ休んでたいです」

 

 エステルが即反応。ロロナが青ざめる。

 

 そして、次の試練が始まる。

 

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