異世界召喚されたのに、最初の試練が"笑ってはいけない"だった件 作:老眼はじまりました
《続いて、次の召喚を開始します》
キィィィン……ヴゥゥン。
また魔法陣が起動。
巨大な影が形を成しかけた、その瞬間。
「てやあああぁぁっ!!」
白い空間に、やたら元気な声が響いた。
次の瞬間、空中から誰かが猛烈な勢いで落下してくる。
「うわっ!?」
エステルが反射的に避ける。
ドゴォン!!
床に見事なクレーターができた。
「なっ……!?」
土煙の中心から、ぴょこん、と飛び出したのは、元気いっぱいのおてんば娘。
《アリーナの召喚に成功しました》
機械声が白い世界に響く中、
「うーん! 知らない場所!」
アリーナと呼ばれた少女の第一声がそれだった。
エステルが目を丸くする。
「えぇ!? 今の高さから落ちて無傷!?」
アリーナはキラキラした目で周囲を見回した。
「わぁ! 強そうな人がいる! ここ闘技場!?」
「えっ? えっと、違うと思う……」
「そうなの?」
「……」
ライトニングは答えない。
しかしアリーナはまるで気にしない。
「でも二人とも強そう! 戦えるの!? 楽しみ!」
拳をぶんぶん振る。
その風圧だけでエステルの髪が揺れた。
「わっ!? すごい圧!」
そんなやり取りを置き去りにして、また機械的な声が響く。
《続いて、次の召喚を開始します》
キィィィン……ヴゥゥン。
魔法陣が起動。
今度は優しい光が魔法陣を包み込む。
今度は、ぽわん、と柔らかい光。
そして、光が弾けた。
「ひゃあああぁぁぁぁ!?」
完全に悲鳴だった。
ばたばた手足を振り回しながら、一人の女性が空中から現れ、そのまま落下する。
「あっ、危ない!」
エステルが思わず駆け出す。
だが、その前に……アリーナが軽々とジャンプして、
「はいっと!」
見事に空中キャッチした。
「へ?」
抱えられた女性が、ぱちぱち瞬きする。
栗色の髪。
愛らしい帽子。
どこか素朴な雰囲気。
《ロロライナ・フリクセルの召喚に成功しました》
ロロライナ・フリクセルと呼ばれた女性……ロロナは、アリーナに抱えられたまま、少しだけ涙目でぷるぷると震えていた。
「た、助かりましたぁ……」
「大丈夫大丈夫!」
アリーナはにかっと笑い、そのままロロナを下ろす。
ロロナは周囲を見回し、徐々に顔が青ざめていく。
「えっ、えっ、ここどこですか!? なんで真っ白なんですかっ!?」
「……っていうか、なんで皆さん、そんな戦えそうな感じなんですか!?」
ライトニングを見る。
「軍人っぽい……」
アリーナを見る。
「なんか壁とか壊しそう!」
エステルを見る。
「元気!」
「私だけ評価、雑っ!」
エステルが思わず突っ込む。
それぞれが軽く自己紹介をした後、ロロナは混乱したまま帽子を押さえる。
「うぅ……わたし、パイ作ってたはずなのに……」
ライトニングが眉をひそめる。
「……パイ?」
「はい。あと一歩で賢者パイが完成するところで……」
その時、再びあの声。
《続いて、次の召喚を開始します》
「またぁ!?」
グォンと空間がゆがむ。
今度は先ほどまでとは明らかに違う。
重い。
鋭い。
獣の咆哮のような圧力。
赤黒い裂け目が空間に走った。
そこから、ゆっくりと一人の女性が現れる。
「……」
長い黒髪。
片腕を覆う包帯。
そして、肌を刺すような殺気。
《ベルベット・クラウの召喚に成功しました》
着地と同時に、ベルベットと呼ばれた女性は、周囲を睨みつける。
「……ここは?」
低い声だった。
空気が一気に張り詰める。
「な、なんかすっごい怖そうな人来た……」
エステルが思わず小声でつぶやく。
「聞こえてる」
ベルベットが即座に返した。
「うわあっ! ご、ごめんなさい!」
エステルがあわあわしている横で、ライトニングは静かにベルベットを観察していた。
(戦士か……しかも相当場数を踏んでいる)
ベルベットもまた、ライトニングの視線に気付く。
「……」
「……」
視線だけが交わる。
だが、それだけで互いに“只者ではない”と理解していた。
ロロナはその空気についていけない。
「えぇ!? なんですかぁ、この達人同士みたいな空気!? 怖い怖い!」
エステルがこそこそ耳打ちする。
「でも、悪い人じゃなさそうだよ」
「ほ、本当ですか?」
「うわー! すっごい強そう! ねえねえ、私と戦おうよ!」
「わあぁ! アリーナさん、ダメですってぇ!」
そのやり取りを見て、ベルベットは深くため息をついた。
「騒がしい連中ね……」
その瞬間。
再び、あの声が響く。
《続いて、同一世界より召喚を試みます》
その声の直後、再び魔法陣が浮かび上がった。