異世界召喚されたのに、最初の試練が"笑ってはいけない"だった件 作:老眼はじまりました
床に突っ伏していたアリーナが、ぷるぷる震えながらお尻を押さえる。
「お、お尻痛い……!」
半泣きだった。
「王女なのに、容赦ない……!」
「いやそこ!?」
エステルが思わず吹きそうになる。
ヨシュアが即座に口を押さえた。
「エステル、耐えて」
「む、無理っ……!」
ルルアが何とか立ち上がるが、再び涙目で肩を震わせている。
ロロナが必死に背中をさする。
「だ、大丈夫ルルアちゃん?」
「だってぇ……急にお尻たたきって……!」
一方、マギルゥはまだ床に転がっていた。
「ワシの尻が……大魔女の尻が……」
「静かにしなさい。笑う」
「お主も今限界じゃろ?」
ベルベットのこめかみがぴくっと動く。
その横で、マーニャが真顔でアリーナのお尻を見ながら言った。
「でも、あなたの固いお尻なら、蹴った方も痛いんじゃない?」
「えー、ひっどぉい!」
「ぶはっ!!」
会話を聞いてたエステル、陥落。
《エステル、アウト》
ドゴォン!!!
「ぎゃああぁぁーー!!?」
謎の黒い人型が突如現れ、完璧な尻キックを炸裂させる。
エステルが尻を押さえながら、前方へ吹き飛ぶ。
人型は、何事も無かったように、ふっと消えた。
「エステル、少しは我慢しないと……」
ヨシュアが天を仰ぐ。
だが、そのヨシュアの口元も、完全に緩んでいた。
ライトニングが静かに言う。
「……お前も危ないぞ」
「わ、分かってます。ふふっ……」
ピタリ。
全員の視線が集まる。
ヨシュア本人も固まった。
「……あ」
《ヨシュア、アウト》
ドゴォン!!!
「っっっっ!!!?」
尻キックが炸裂し、ヨシュアが声にならない声を上げながら吹き飛んだ。
「ヨシュアまでぇぇぇ!!」
エステルが涙目で叫ぶ。
その瞬間、セラがとうとう耐えきれず、肩を震わせた。
ライトニングが嫌な予感を覚える。
「セラ」
「ご、ごめ……っ、ふふっ……!」
《セラ、アウト》
ドゴォン!!!
「きゃあぁっ!?」
「セラ!!」
突如、空間に深いため息のようなノイズが流れる。
そして機械音声が、明らかに呆れた調子で告げた。
《……あの、そろそろ試練始めたいんですけど》
「だ、だってぇ……!」
エステルが床に転がったまま震える。
「声が呆れ始めたぞ! ぶふっ!」
マギルゥが腹を抱える。
《マギルゥ、アウト》
ドゴォン!!!
「ぬおおおおっ!?」
「学習しなさいよ……」
ベルベットが額を押さえる。
だがそのベルベット自身も、口元が危険だった。
ヨシュアが痛むお尻を押さえながら呟く。
「というか、まだ試練は始まってなかったんですね……」
《……説明する前に笑い始めたので》
「だって無理ですから!」
ロロナが叫ぶ。
アリーナが涙目で立ち上がる。
「じゃあ、まだ見逃してよぉ!」
《まさか笑うと思わなかったので、先にセットしてました》
「ひどい!!」
ロロナとルルアは、完全に寄り添って耐えていた。
「ルルアちゃん、も、もう笑っちゃダメ……!」
「う、うん……でもなんだかシュールで……」
セラはまだお尻を押さえながら、ライトニングの後ろに隠れている。
ライトニングは静かに深呼吸した。
「……分かった。つまり、今から始まるんだな」
《はい》
「なら全員、落ち着け」
リーダーっぽく仕切られ、皆も少し真面目になる。
ヨシュアが頷きながら、
「とにかく、笑わなければいい」
「単純な話ね」
ベルベットも腕を組む。
「ええ。精神力の勝負ってわけね」
マーニャが髪をかき上げる。
「だ、大丈夫……! わたし意外と真面目ですから……!」
ロロナも真顔を作る。
「うん、何とかなるなる〜!」
「その口癖、今すごく危ないからね!?」
そんなやり取りをよそに、機械音声が淡々と言った。
《ではこれより、第一の試練を開始します》