異世界召喚されたのに、最初の試練が"笑ってはいけない"だった件 作:老眼はじまりました
《ではこれより、第一の試練を開始します》
白い空間へ響く機械声に続いて、その場にいたモーグリがクルッと回った後、説明をはじめた。
『ルールは簡単クポ。
流れる映像を見て、笑ったらアウト、お尻にキッククポ!
わかったクポ?』
「もうみんな食らったから、十分です……」
「いや、まだ食らってない人いっぱいいるよ」
「意外にもマーニャさんも」
「意外って何よ。失礼ねぇ」
ルルア、ヨシュア、エステル、マーニャのそんなやり取りを無視して、モーグリがリモコンを操作する。
ブィンとスクリーンが起動し、真っ黒だった画面に注意文が表示された。
【なお、流れる映像はあくまで作り物です】
【実際の出来事とは関係ありません】
ヨシュアが眉をひそめた。
「えっ? 作り物?」
「なんか不安しかないんだけど!?」
「あぁ……絶対ダメなやつねこれ……」
ルルアとマーニャが不安がる。
そして、画面が切り替わる。
スクリーンに映し出されたのは……凛々しい顔をしたライトニングだった。
「…!」
ライトニングが目を丸くする。
「えぇっ!? お姉ちゃん!?」
セラが不安そうな顔でライトニングを見上げていた。
「……」
重苦しい沈黙。
張り詰めた空気。
誰もが息を呑む。
カメラがライトニングに近づいていき……。
ハッキリと、ライトニングが言った。
『前だけ見てろ。私は帰る』
……。
…。
少しの静寂が続いた後、
「…っ! ふふっ……あはははっ!」
静寂を破ったのは、セラだった。
「えっ? なんで?」
突然の大笑いに、エステルが首を傾げる。
「そんなに面白いの?」
アリーナも不思議そうな顔をする。
セラは笑いを堪えながら首を振った。
「だ、だって……! お姉ちゃんがそんなこと言うわけないもん……!」
ライトニングは呆れたようにため息をつく。
「……くだらない」
だが、その肩は微かに震えていた。
ベルベットがぼそりと呟く。
「あんたも結構危ないわね」
「違う」
即否定するが、ぱっと見は危うい。
一方、セラはまだ笑いが止まらない。
「だ、だめ……! お姉ちゃん、酷い……!」
《セラ、アウト》
「えっ!? あっ……」
笑ってしまったことを理解するが、時すでに遅し。
いつものように黒い人型が現れ……
ドゴォン!!
「ひゃああぁぁーっ!!」
完璧なフォームで尻にキックを叩き込んで、すぐにフッと消えた。
セラは数メートル吹き飛び、そのまま床を転がる。
「いったぁい……」
涙目で立ち上がるセラ。
「セラ、大丈夫か!?」
思わず駆け寄るライトニング。
「だ、大丈夫……」
セラはお尻を押さえながら答えた。
「でも、お姉ちゃんの格好いいセリフが……!」
まだ笑いそうだった。
「相当ハマッてるわね……」
あまりの吹き出しぶりに、マーニャまでつられて笑いかける。
「知ってる人なら、耐えられないんでしょうか……」
ロロナが不安がる。
「むしろ本人も少し面白がってません?」
「気のせいだ」
ヨシュアの問いかけに、ライトニングは即答した。
しかし肩はまだ微妙に震えている。
マギルゥがにやりと笑った。
「ほほう? これはなかなか見込みがあるのう」
「何の見込みよ」
ベルベットが呆れたように返す。
ピッ。
スクリーンが切り替わる。
《次の映像を再生します》
「あっ!?」
エステルが悲鳴を上げる。
画面には、エステルが映された。
「わ、私!?」
冒険者が立ち寄るような、『ギルド』と思われる場所。
掲示板には、たくさんの依頼書が張ってある。
エステルが、依頼を一枚一枚確認する。
だが、どれも受けず、全て掲示板に戻す。
そして、疲れたようにため息をつき……言った。
『遊撃士、やめたい……』
「えええぇぇーー!?」
エステルの大悲鳴。
「ぶふっ…!!」
《ヨシュア、アウト》
ドゴォ!!
「…っっ!?」
「笑うなぁーー!!」
エステルが大声で突っ込む。
「私、こんなこと言わないからぁ!!」
真っ赤になって叫ぶ。
「いや、知ってるよ! 知ってるから、逆にありえなくて……! ぶっ……」
「我慢しなさい。また蹴られるわよ」
「すごく身内を狙ってくるわね」
「選ばれた人の、相方が危ないってわけね」
「うぅ……遊撃士やめないもん……」
「知ってるから、今はもう何も言わないで。また、笑っちゃうから……!」
『続いて、次の映像クポ』
「まだあるのー!」
ピッ。
無情にも、スクリーンが切り替わる。
そこには、ベルベットが映っていた。
「……」
露骨に嫌そうな顔をするベルベット。
「おぉ! これは楽しみじゃのう!」
「黙りなさい」
映像では、ベルベットだけが、画面にクローズアップされている。
ものすごく真剣な表情。
カメラがだんだんと近づく。
そしておもむろに、ベルベットが言った。
『復讐なんて、よくないわ』
「ぶっはああぁぁぁーー!!!」
マギルゥが盛大に噴き出していた。
「えぇ!? そんなに!?」
「涙流すほど!?」
ルルアとセラが驚く。
「は、は、反則じゃあぁーー!!」
《マギルゥ、アウト》
ドゴォ!!
「ぶへらあぁぁー!!!」
「…っ」
ベルベットが顔をそらす。
「えっ!? まさか、自分で笑うの!?」
「違うわよ! こいつが変な吹っ飛び方するからっ…!!」
「だ、だ、大魔女のキュートなヒップがぁー!! ぶっはあぁー!」
「やめて。笑う」
《マギルゥ、アウト》
「なぜっ!?」
「いや、普通に笑ってたから……」
エステルの突っ込みに、ハッとして、
「二度も、食らってたまるかぁー!!」
マギルウがお尻を両手でかばう。
ピクッ。
人型の動きが止まる。
……。
そして、構えを解いた。
「おお! 防ぐには、この手があったか!」
乗り切ったと思い、手をどかす。
ドゴォ!!!
「ぶへらああぁぁーー!!」
「ふっ…!」
それを見て、ついにベルベットが噴き出した。
「あっ…」
みんな気付く。
「ち、違う! 今のは……!」
《ベルベット、アウト》
ドゴォ!!
「…っっっ!!!」
「ついにベルベットさんまでぇ!!」
「ぶはははは!! ついに笑ったのぉ!!」
「……覚えてなさいよ」