Fate/Uncertainty   作:海老星人

4 / 4
根源接続者の定義って難しいですね


4 始業式

智久が学校の正門をくぐったのは、時計の針が八時十分を回ったころだった。

 

流石にこの時間帯になると、ザクレス学校の生徒たちも汗をだらだらと流しながら登校しており、正門付近はごった返している。

 

「にしても、改めて見てもデカいよな……。敷地面積六万平方メートル、通常教室三十二室、特別教室二十一室。挙句の果てにサイエンスラボやカフェテリアまで完備か。本当に恵まれた環境だよ」

 

まだ始鈴まで余裕があるのか、正門から少し離れた「聖女の像」の前に立ち、智久はこの壮大な校舎を見上げる。

智久自身、設備が充実しているわりに学費が安く、生活費の補助金制度もあるこの学校は非常にありがたかった。

 もっとも――その分だけ入試倍率は跳ね上がり、「学費が安いから」という不純な動機だけで受験を決めた智久は、合格するまでに少々血の小便を流す思いをすることになったのだが。

 

「……ふう、まあ、緑が多くて綺麗だしな」

 

静かな風が聖女の像の周囲にある草木を揺らしている。

極度のネット中毒者であり現代文明の利器に取り憑かれている智久にとって、こうした人工的ではない自然の青々しさは、荒んだ心を少しだけ癒やしてくれるものだった。

 

「よっし。目の保養もしたし、教室に向かいますか」

 

智久はひらひらと揺れる葉に背を向け、昇降口へと向かった。

智久の所属は1年3組。

このクラスは他と比べて生徒一人ひとりのキャラがやたらと濃く、人付き合いが苦手な人間でも不思議と馴染みやすいのが特徴だ

 

「おーい智久、今日もいい天気だな! ……って、おいおい。まさかその髪型、昨日も夜更かししたのか?」

 

3組の教室に入るやいなや声をかけてきたのは、大親友の川上隼人だった。

一般的にはどこか知性を感じさせる名前かもしれないが、その容姿は親の願いを全力で裏切っている。高校一年の平均を軽く超える百八十センチの長身。私立特有の校風の緩さに乗っかり、髪は金ピカのオールバック。もちろん、制服のシャツは前を豪快にはだけさせていた。

 

「昨日二十三時には寝ようとしたんだよ。でも、ゲームのアプデが来てさ……やり込んでたら難しくて、そのまま寝落ちした」

「おいおい、なーにやってんだよ! まぁゲームするのは自由だけどさ、今年は俺たちにとって一番大事な年だって分かってんだろうな?」

隼人は腕を組み、不自然なくらい真剣な顔で智久の目を覗き込んでくる。

「今年、俺たちは大学推薦の『総合型選抜』の枠を狙うんだ。今までどういう活動をしてきたか、どういう態度で授業を受けてきたか、その全てが評価されるんだぞ? 前に約束したろ、同じ大学に行こうって!」

「えー、そんな約束したっけ? 大体、隼人も僕の成績知ってるだろ。壊滅的だぞ。評定はなぜかオール1、テストはいつも赤点。全く、どうしてなんだかなぁ」

「お前が一切勉強してないからだよ!」

 

呆れ果てたように肩をすくめる隼人。

 

「まぁいいや、とりあえず席着こうぜ。あっ、そうだ。今日デジコン(デジタルコンテンツ部)の活動があるから、放課後一緒に行かね?」

「デジコン? その見た目で? てっきり野球部かと……」

智久はからかう意図もなく、心からの本音を漏らす。

「お前なぁ! 後で俺のPCスキル見せて度肝抜かせてやるからな!」

 

軽口を叩き合いながら、智久は黒の通学バッグを自分の席のフックに掛けた。

先述の通り、彼らが通うザクレス学校は、世界的に有名な宗教母体が背景にある私立校だ。朝礼の前にお祈り、昼食前にも食前のお祈り、果ては終礼にもお祈りと、とにかく祈る機会が多い。

めんどくさがる生徒も多いが、「郷に入っては郷に従え」という日本人らしい事無主義のおかげで、文句を言いながらもなんだかんだ全員律儀にこなしているのだった。

 

「さてさてー、今日の1時間目は数学ですよ。皆さん教科書持ってますか? 持ってる人は全員手を挙げてください」

教壇に立った担任の林律子は、生徒たちの手を確認しながら頷いた。

「うん、うん。はい、下げてくださーい。皆さんが教科書を持ってきてくれて嬉しいです。なぜなら私にとって『教科書を忘れる』ということは『授業を受けたくない』という意志表示だと解釈してしまうからです……あ、もちろん忘れた人は容赦なく単位落としますからね?」

 

息を吸うように、進路に関わる致命的な脅しを笑顔で言い放つ。

 

「なぁなぁ智久……あの先生、見た目に反して言ってること鬼畜すぎんだろ」

「ちょっと、川上君。聞こえてますよー。本当に推薦が欲しいなら先生をからかってないで授業に集中してください」

「あっヤベ。すませーん!」

 

 隼人の謝罪を聞いて、律子はほっと胸を撫で下ろした。不真面目な生徒の単位を落とすのは、教師以前に大人としてあまり気が進まないからだ。

律子の容姿は、贔屓目に見てもこの学校の生徒と同年代にしか見えないほど小柄で童顔だった。だがその可愛らしさのおかげで、普段は授業を聞かない不良生徒すら、律子の授業だけは素直に聞くという「マスコット効果」を発揮している。

その時、教室の扉がガラガラと激しい音を立てて開いた。

静まり返った室内に、荒い息遣いと全速力で走ってきた心臓の鼓動が響き渡る。

 

「すみません……っ! 遅刻しました!」

 

そこに立っていたのは、クラスのマドンナ・五月日和だった。

坂道を猛ダッシュしてきたのか、制服は汗でうっすらと肌に張り付き、暑さに耐えかねたのか胸元のボタンがいくつか外れている。もともと整った容姿が、汗の艶めかしさと相まって強烈な色気を放っていた。

 

「と、とにかく五月さん、席に着いてください。出席確認は後でやるので準備をしてくださいね」

 

男子生徒たちが生唾を飲み込み下半身を手で抑える中、律子は男子たちの状態を察し日和に指示を出した。

―――

 

怒涛の授業が終わり、昼休み。

智久と隼人は机を突き合わせて弁当を広げていた。

 

「にしても……今日の日和、エロかったな」

「ぶほっ……っ、ゴホッ! お前、いきなり何言い出すんだ!」

 

自作の弁当を喉に詰まらせ、智久はゲホゲホと咳き込みながら目の前の諸悪の根源を睨みつける。

 

「だってさぁ! 今日の日和、めちゃくちゃ汗だくだったじゃん! 汗で透けた制服とかさぁ……もう俺の性癖が壊れそうだ!」

「本当にお前は何を言ってるんだ……」

「智久、そんな冷たい目を向けるな! 今俺は必死に昂りを抑えてんだよ! 日和のあの姿を思い出すだけで……おー、ゾクゾクしてきた!」

 

体をくねらせて怪しい世界に入り込んでいる隼人を見て、智久は完全に毒気を抜かれ、箸を置いた。周囲の生徒たちは慣れっこなのか、関わらないようにスルーしている。

(……まぁ、流石に本人には聞こえてるよな)

後ろから忍び寄る殺気に気づき、智久は隼人に教えてやろうとしたが――一歩遅かった。

 

「さーて隼人君? さっきの話、もうちょっと詳しく聞かせてもらおうかしら」

 

 凍りつくような声に、隼人は首をギギギと後ろへ向ける。

そこには満面のそして目が一切笑っていない笑顔を浮かべた日和と、その後ろで諦めたように溜息をつくお世話係の紅玲奈が立っていた。

隼人は助けを求めて智久へ手を伸ばそうとしたが、その前に日和に腕を掴まれ、ズルズルと教室の外へ引きずられていった。

(……隼人、骨は拾ってやるからな)

智久は静かに合掌した。

 

―――

 

放課後。全校生徒が体育館に集められての「始業式」が終わり、智久と隼人はぐったりしながら退場していた。

 

「しっかし、なんで午後に始業式があるんだよ。わけわかんねぇ」

「まあ、一応ここは世界的に有名な宗教系の学校だからな。儀式的な日取りとかいろいろあるんじゃない?」

「そういうもんかねぇ……」

体育館を出たところで、智久はふと足を止めた。

「なぁ、隼人。今日、学級委員長って登校してたか?」

「委員長? いや、そういえば見なかったな。まったく、選抜期間に入るってのに、成績優秀者は余裕だねぇ」

呑気な親友をよそに、智久は深い思考の海へと潜っていく。

(……確かに、この時期に学校を休むのはおかしい。いくら成績優秀者とはいえ、無断欠席が続けば単位だって怪しくなるのに)

 

違和感を覚える智久の肩を、隼人がぽんと叩いた。

 

「なぁ、始業式も終わったし、パソコン室行こうぜ! 午前中に言っただろ、俺のPCスキル見せてやるって」

「……ああ、そうだな。じゃあ、また後でパソコン室で」

「おう、また後でな!」

 

笑顔で走り去る隼人の背中を見送りながら、智久の胸の中に、ざらりとした胸騒ぎが広がっていた。

 

 




ストーリーの計算をしたところ聖杯戦争が本格的に始まるのは、3話後くらいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話(作者:飴玉鉛)(原作:Fate/)

タイトルが全て。転生プーサーがモルガンと協力してブリテンを救ったよ!▼本編完結▼気ままに番外zero編を進めてみてます。▼zero編完結しました。▼ステイナイトzero編進行中。


総合評価:41749/評価:8.88/完結:53話/更新日時:2022年08月12日(金) 19:31 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>