とある孤児院の院長による極悪非道な商売について 作:拝金主義者
※ウィルが女の子になってます。
オレの自我が芽生え始めたのは、オレがこの世に生まれ落ち、産声を上げてすぐだった。
生まれて初めて見た景色だったから、その光景は今でもよく覚えている。
全てが光に包まれていて、何も知らないガキながら、世界がオレの誕生を祝福してくれているもンだと思っていたぜ。
───そんなのは全てこっちの勝手な思い込みだったワケだが。
母はいわゆる貧困層に属する人間だった。父はいない。というか、知らない。母は売女だったと言えば納得してくれるだろうか。
毎日腹を空かせていた。必死に泥水を啜って、栄養のない草で腹を満たしたのも数え切れない。普通のガキだったら、まず癇癪を起こすか、それか勝手に野垂れ死んでいたことは容易に想像がつく。
苦でなかったといえば嘘になる。かといって不満は何ひとつなかった。
オレには母がいたから。母が愛情を注いでくれたから、オレは孤独じゃないと思えた。母がいてくれるなら、他に何もいらないとさえ思った。
───
売女の息子ということもあって見目だけは良かったオレに、特殊な嗜好を持つ貴族が目をつけたらしい。
クソみてェに太ったオークみたいな野郎だった。無駄に絢爛とした黄金の装飾を身に纏い、生理的に受け付けない下卑た笑みを浮かべ、オレを品定めする邪な目。
不公平だと思った。不条理だと思った。理不尽だと思った。
オレたちは毎日生きるのに必死なのに、何故コイツはなに不自由なく生を謳歌できているのだろうか、と。
そして同時に、
あれだけ愛情を注いでくれた母が、金のためならいとも容易く子を売る。
あの女はオレが連れられる間もオレではなく金の方を見ていた。あの光景は今でも忘れられない。
その日、オレはこの世界の理不尽さと不条理さを思い知った。
そして、世の中は全て
そうだ、世の中は全て金で回っている。食うのも、寝るのも、着るのも、住むのも、地位も、名誉も、権力も、生きるのも、死ぬのも、愛情さえも、全て金でどうとでもなる。
どれだけ魔法絶対至上主義を謳っていようが、金がなければ何もできやしない。やがて飢えて死んでいくだけだ。
だから、あの光景は自然の摂理だったといえよう。母も、貴族も、誰も間違ってなどいなかった。
だから、オレも他者を踏み台にして金を得る。他者の幸福をオレの金へと換金してやるのさ。
これがオレの
史上類を見ない最低最悪の金の亡者の
◇◆
偽りの空が、今日も偉そうに輝いている。
いつ見ても気持ち悪ィ目覚めの光を顔中に浴びながら、ゆっくりと上体を起こす。
おはよう、素晴らしくクソみてェな世界。今日も滑稽に晴れててお勤めご苦労様って感じだぜ。
天に唾を吐きかけるように睨めついた後、古びた木造の扉を開け、木漏れ日の薫る廊下をゆっくり歩く。
腐りかけた木材の匂いが漂い、陽光に焼けた柱や梁には無数の傷が刻まれ、ただ床の軋む音だけが無垢な空間に響き渡る。
この一場面を見ると、『老後に過ごしてみたい生活No.3』ぐらいの平穏でありきたりな日常を送っていると思うかもしれないが、決してそんなことはない。
むしろ、この静寂は嵐の前の静けさと言い換えてもいいだろう。
その意味はすぐに分かるさ。まぁ、尤も、この光景を誰かが見ていて、その全貌を知ったとき、あまりの悲惨さに目を逸らし、溢れんばかりのしょうもない義憤に駆られることだろうがな。
ククッ、少しヒントをやろう。今のオレは奴隷商のようなものをやっている。
ようなものであるから歴とした奴隷商ではないが、名乗ってないだけでほぼ一緒だと考えてくれて構わない。
奴隷商なんてものはどれも碌でもないものばかりだ。
人間を所有物とし、より高額で売り払う───そんな職のどこに清純さがあるというのか。
中には良心が痛んで止める奴も多いと聞くが、オレはオレの金のために嬉々としてやる。
フハハ!!なんて天職なんだ!前のクソみたいな職場とは大違いだぜ!
心を愉悦に満たし嗤いが止まらぬオレの前に、これまた小汚い扉が立ちはだかる。
おっと、いつの間にかついていたようだ。
英雄よ、聖者よ、天の
テメェらも恐れ慄くオレの所業をッ!!!
「起きろガキども!!!朝メシの時間だァアアアアアア!!!」
申し遅れた。オレの名はサド・セルフォルト。田舎で孤児院を運営するしがない院長だ。
◇◆
薄々勘づいているかもしれないが、オレは身寄りのないガキどもを売る商売をしている。
この孤児院は貴族の屋敷から逃亡した後、一時期世話になった場所で、なんの因果か前院長の跡を継いでしまったのである。結果は万々歳だったワケだが。
オレのやってることは至って単純だ。路地裏やスラム街で身寄りのないガキどもを見つけては勧誘し、孤児院で教育した後に高値で売り払う。ただそれだけよ。
基本的に市場はフルオープンだ。買い手が貴族であろうと兵士であろうと一般家庭であろうと何でもござれ、より高い金額を払うヤツに買い取ってもらうのさ。
この孤児院にある全てのモノはオレのモノ。つまりガキどもはオレの所有物であり、いずれ立派な金の成る木になる商売道具ってワケだ。
故に、
「まずは全員で顔を洗えェ!!」
『はーい!』
まずはメシではなく冷水をぶっかける。さっきまで温かい布団にいたから、なおのこと冷水が体に沁みるだろう。
「次は身なりを整えろォ!!」
『はーい!』
コイツらはいずれ商売道具として売り飛ばされていくワケだ。しかし、客もガキならなんでもいいってワケじゃねェ。そして、孤児院の運営もこれまた単純じゃねェんだ。
向こうで粗相を起こしたら当然鼻つまみ者だ。そして、こんなガキに育て上げてしまったオレの監督責任になり、オレの評価が下がる=孤児院の評判も落とすことにも繋がりかねない。評判が下がれば当然買い手がいなくなる。つまり金を得ることができなくなってしまう。
ガキどもには商売道具としてオレの──ひいては孤児院の評判を上げてもらわねばなるまい。だからこそ、今のうちから躾をちゃんとしておくのがポイントだ。
ククッ、テメェらは死ぬまでオレの金の成る木になり続けるんだよォ!!
「よーし、朝食の予定時刻ピッタリだ。流石はオレのガキどもだ!」
『えへへ〜』
教育で最も重要なのは飴と鞭だ。
ガキどもは単純で純粋無垢でバカばっかりなので、少し褒めればすぐ気分が良くなる。こうも御し易い存在はいないと思うぜ。
オレの育成プログラムは完璧だ。当然だ。なんせ天才であるオレが考案したプログラムなのだから。誰にも揺るがすことなどできやしない。
「それでは手を合わせて〜……はい、いただきま────あ?おい、ちょっと待て。あいつは……
「んー?あれ、ほんとだ」
「そういえば朝から見てないよね〜」
「多分また朝抜け出して魔法の練習してると思う〜」
「あ、あっ、あのクソガキ共がァアアアアアアア!!!!」
だが、そんなオレの計画に歪みを入れる者が現れた。
脳裡に甦る──毎度の如く邪魔をして、どれだけぶちのめそうともニコニコと屈託ない笑顔を向けてくる、あのじゃじゃ馬娘の顔が。
「ぐぅ……!あのバカどもを連れてくる!テメェらは先に食ってろ!」
『はーい!』
「『
『はーい!』
くそっ、『朝食はみんな揃ってから』というルーティンが早速崩れてしまった。
オレの完璧な計画が……ただのガキに破綻させられた、だと………?
鬱蒼とした森だった。
別に草木を愛でる趣味なんざ持ち合わせちゃいねェが、息抜きには訪れるのにピッタリだと思えるぐらいには空気の澄んだ原生林。
しかし、今日は暇つぶしに来たわけでも、憂さ晴らしに森を薙ぎ倒しに来たわけでもでもねェ。
「………ここにいンのは分かってるぜ。さっさと出てこいよ」
その声が合図となるが如く、拳一個分の鋭利で機敏な
おいおい、勘弁してくれよ。朝っぱらから動きたかねェよ。………まぁ、こんなことになるだろうとは予想はしていたが。
「お〜〜らよっと」
「ッ、隙あり!!」
万方から迫り来る氷を難なく避けると、甲高いガキ特有の声と共に、草の陰からナニカが飛び出してくる。
タイミングとしてはよくできている。完璧と言ってもいい。調子づいてバク転しながら避けるという世界一無駄な回避行動をした後に、バランスが崩れるであろう着地をした瞬間に飛び出してきた。
なるほど、
フッ、これは一杯食わされたか。仕方ねェ、今回ばかりは負けを
「───
「えっ!?」
だ〜〜れが負けを認めるだ。認めるワケねェだろうが。ガキに負けるぐらいなら死んだほうがマシだ!
「何も着地が弱点とは誰も言ってねェよ!オレほどの男になれば着地と同時にまたバク転回避することなんて呼吸よりも簡単にできるわ!」
「ズールーいー!ズルいズルいズルいズルい!!」
「喧しいわ!」
見ろよ、この無様に駄々捏ねる負け犬の姿を。滑稽だと思わんか?
しかし全くもって腹立たしい。何が憤懣かって、こんなナリしといて、この世界でもっともオレの手を煩わせている張本人がコイツなのだ。
エルファリア・アルヴィス・セルフォルト。
オレの道具にして、オレの思い通りにならない数少ない謀叛者。4歳で何個か魔法を扱える、いわゆる“天才”と呼ばれる類のガキだ。
そして───
「で?ウィルはそこか」
「な、なんで分かったの!?」
「舐めんな」
驚いた様子で、転がるようにエルファリアが飛び出してきた草陰からメガネのガキが姿を現した。
ウィル・セルフォルト。
エルファリア同様、いつもオレの計画の邪魔ばかりしてくる謀叛者。唯一違う点を挙げるとすれば、コイツには魔法の才能は一切ないといったところか。
「テメェら、朝食の時間に何してんだコラ。何度命令に背くつもりだコラ。マジに一回ぶちのめすぞコラ」
「だってぇ〜……サドの『なんでも言うことを聞く券』がほしかったんだもん……」
「えへへ、実は僕も……」
「オレに一撃でも当てられたらな。ま、この感じじゃ一生……いや、何回生まれ変わっても当てられそうにないがな。ガハハ!」
「ムゥ……!」
ククッ、悔しそうに頬を膨らませておるわ。
オレは大人だが、大人気ないと言う言葉はオレの辞書にない!
「ほれほれ、さっさと立って帰るぞ。テメェらのせいで朝食が摂れてねェんだよ」
「そうだよね……ごめんなさい、サド。ほら、いこ?エルファリア」
「……いーや!!」
「え?」
「は?」
「おんぶしてくれなきゃいーや!!」
チッ、これだからガキは。すーぐ駄々捏ねればいいと思ってやがる。駄々捏ねたって現実は変わらねェよ。あるのは敗北、それだけだ。
「……さっさと乗れ」
「……いいの?」
「テメェはオレの大事な
「えへへ、
ケッ、今のうちに感謝でも告げておくんだな。売買の実態を知ったとき、お前は感謝を告げたことを心の底から後悔するだろう。
「あっ、その、えっと……」
「ウィルもしてほしいの〜?でもだーめ、サドの背中はもう私のモノだから!」
クソガキここに極まれり。譲渡前に矯正しなければ……
「チッ……ガキの1人や2人、運ぶのに苦労するワケねェだろうが。抱いてやるからこっち来い」
「う、うん」
「ムゥ……!後で私にもやって!」
「なんでだよ」
その反面、ウィルは従順で素晴らしいな。最近本も読み始めたらしいし、きっと
「たかーい!」
「うん!すごい!」
まったく、これだから
「いいな?お前らは将来オレの───」
「サドのせなか、あったかい……ふぁあ……」
「むにゃむにゃ……」
「なっ、おい───寝やがった……」
なんてやつらだ……流石オレ唯一の叛逆者、神経の図太さが違う。
とまぁ、これがオレの日常の一部だ。
なんて惨たらしい日々なのだろうか。人の心とかないのか?と言われても否定できやしねェ。
だが、たとえそれでもオレは止まらねェ。何故なら金が欲しいから。オレの金のために、コイツらの人生丸ごと売り払うのさ!
内心愉悦に浸りながら森の来た道へと戻る。
オレの背中と胸で眠る2人の寝顔は、まるで状況が理解できていない無知なガキのように、ひどく穏やかなモノだった。
サド・セルフォルト(現時点)
・種族:リザンス
・年齢:20
・身長:165C
・誕生日:カーナの月 一の日(1月1日)
・好きなもの:お金、自由
・嫌いなもの:お金、不自由
・忘れない存在:母、孤児院の院長、???
・初恋の人:特になし
・ダンジョン到達階層:???
・装備:ただの杖(自作)、聖職者風衣装
・スキル:???
ウィル・セルフォルト(現時点)
・種族:リザンス
・年齢:4
・身長:103C
・誕生日:エルザの月 二十四の日(12月24日)
・好きなもの:サドとエルファリアと遊ぶ時間、サドのご飯、サドの手
・嫌いなもの:苦いもの
・初恋の人:特になし
・装備:ただの杖(自作)、清潔な庶民服
・スキル:特になし
エルファリア・アルヴィス・セルフォルト(現時点)
・種族:リザンス
・年齢:4
・身長:104C
・誕生日:エルザの月 二十四の日(12月24日)
・好きなもの:サドとウィルと遊ぶ時間、サドのご飯、サドの背中
・嫌いなもの:辛いもの
・初恋の人:特になし
・装備:ただの杖(自作)、清潔な庶民服
・スキル:水、および氷魔法(上位)