とある孤児院の院長による極悪非道な商売について   作:拝金主義者

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勉強と拝金主義者

 

 

 

 

 

 「とうとうこの時間が来てしまったなァ……!」

 

 ケタケタと嗤い声だけが木霊する。

 その主はもちろんオレ。それを受けるのは哀れで惨めなオレの商売道具(ガキ)たち。

 常時あれだけうるせェガキどもはこれ見よがしに顔を俯かせ、心底嫌そうな表情をして堪え忍んでいる。

 

 そのことを理解してなお──否、理解しているからこそ、ガキども全員が見えるように、おもむろにソレを天へ掲げる。

 

 さぁ終末の到来を告げる宣告はもうすぐだ。

 今からお前らには身の毛のよだつような地獄を見てもらうぜェ……!

 

 

 「ガキども────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────お勉強の時間だぜェェェェェ!!!

 

 『えぇ〜……』

 

 

 というわけでやってまいりました、毎日恒例お勉強のお時間でェす!!

 教師はこのオレ、人としての道徳をクソ女の中に置いてきた拝金主義者ことサド・セルフォルトが担当するぜェ!

 

 勉強──ソレは『ガキどもが嫌いなモノといえば?』と聞かれたらすかさず出てくる絶対的恐怖の象徴*1。オレですらコイツらの時期で勉強なんてしたことがねェ。

 だがヤらせる。コイツらには優秀になってもらって、オレへの評価を上げてもらわねばならないからな。

 

 「今日はこの前の計算の続きを───」

 「はいはいはーい!サドはーい!」

 「サドじゃねェ、先生と呼べッ!」

 「先生!私、勉強じゃなくてお外で遊びたいです!」

 

 などと初っ端から授業放棄宣言をかますバカが現れた。

 まぁ、そのバカはわざわざ名を言わんでも分かるだろうが、例のお転婆じゃじゃ馬娘(エルファリア)だ。

 ククッ、なかなか肝が据わってんじゃねェの。ここまでバカだといっそのこと清々しいぜ。

 

 「答えは分かりきってるだろうが、むろんダメだ」

 「なんで!ですか?」

 「お前らのためだ」

 

 嘘は言ってねェぜ、嘘はなァ。

 その“お前らのため”以上に“オレのため”ってことに目を瞑ればよォ!

 

 「なんか怪しい……」

 

 ケッ、これだから勘のいいガキは嫌いだぜ。まぁ、疑ってるのはウィルだけだから問題ないけどよ。

 

 「ムゥ……やだやだやーだ!!勉強やだ!!」

 『そうだそうだ!』

 

 コイツら……!数で押せばオレが妥協するとでも思っているのか……!?

 だが所詮ガキはガキ。ガキとは弱者の象徴であり、弱者は群れることでしか生き延びれない。

 貴様らは意図せずして敵であるこのオレに腹を見せちまったのさ……!

 

 「ならこんなのはどうだ?───今度の小テスト、お前らの中で最も点数の高いヤツに、オレから特別なプレゼントをしてやろう」

 『ッ!?』

 

 裂ける限界ギリギリまで口角を上げ、今もエルファリアを中心に騒ぎ立てるガキどもに対して、オレの口からは決して出るはずのない提案が持ち出された。

 

 「だが、小テストまで毎日しっかり勉強するのが条件だ。どうする?」

 「───や、やる!プレゼントほしい!」

 

 ハハっ!これだからガキは!口先だけの言葉に騙されて良いように踊らされる、間抜けで哀れでいっそのこと愛おしい操り人形どもだぜ!

 

 「そうかそうか、そんなに欲しいのか。なら精々励め!ハーッハッハッハ!!」

 

 さぁ、一体どこのどいつが1位になるのやら。

 結果は1週間後、その時に全てが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結果発表〜〜!!!!」

 

 無事採点を終え、教壇の上で高らかに宣言する。

 ガキどもの反応は三者三様だ。自信満々そうに鼻を鳴らすヤツもいれば、渋く唸るヤツもいれば、意気消沈と顔を落とすヤツもいる。

 オレとしちゃどっちだっていい。メインディッシュはまだだからなァ……!

 

 「採点してて驚いたぞ。今回のテストは平均点がいつもより大幅に向上している」

 

 やはり物で釣るのは効果覿面だったようだ。おかげでバカみたいにガキどものやる気を引き出せた。

 

 「だが結果は結果。結果には必ず優劣がつく。そして、もっとも結果を出した者に祝福(プレゼント)が授けられるだろう」

 

 「ちなみに満点を取ったヤツがいる」───そう前提を置き、1人ずつ名前を呼んでテストを返却していく。

 阿鼻叫喚に包まれる部屋の中で、ひときわ大きな声で「やったー!」と歓声の雄叫びを上げるガキが現れた。

 

 「やっぱり満点はウィルか〜」

 「なんとなくそんな気はしてたけどね」

 

 満点者、ウィル・セルフォルト。魔法の適正は絶望的だが、その代わり妙に冴えている貧弱メガネは、今回も安定した高得点を叩き出してきやがった。

 まぁ、ぶっちゃけ予想通りだ。いつも点数高かったし、生真面目な性分だから手を抜くことはまずないのは確かだったし。

 だから、()()()だったのは───

 

 「やったー!!私も満点〜♪」

 

 まさかのエルファリアが満点だったということだ。

 いつもじゃじゃ馬だのバカガキだの言っているが、コイツ自身は決してバカではないのだ。

 いつもの小テストも満点まではいかずとも8割ぐらい取れてたし、知学に関しては客観的に見ても『まぁまぁ』という評価だった。

 だから満点を取る可能性も十分にあったワケなんだが………どうやらウィルばかり気を取られていたようだ。

 

 「エルファリアも満点なの?」

 「うん!ウィルといっしょ!」

 「やった!」

 

 ククッ、まるで理解できんな。

 普通はたった1つのNo. 1を欲しがるモンじゃないのか?何故キャッキャワイワイできる?何故健闘を讃えあうことができる?

 やはりガキの考えることは分からんな。

 

 「つーことで、満点はウィルとエルファリアの2()()だ」

 「……アレ?」

 「2人って……ご褒美どうなっちゃうの?」

 

 流石は満点者、聡いな。

 おそらく、ガキどもはこの中で()()()1()()のみにプレゼントが与えられると考えているのだろう。

 もっとも高い点数である満点が2つも出てきたら話が破綻する。もしかしたらプレゼントの話はナシ?……暗雲が立ち込め始めた2人の顔を見りゃ、考えていることが手に取るように分かる。

 

 だからこそ言いたい───オレを舐めるな、と。

 

 「むろん想定済みだ。ちゃんとプレゼントは用意してあるぜェ!!」

 

 オレの教育に抜かりはない。まさか本当に出てくるとは思わなかったが、念のため()()()のプレゼントを用意しておいてよかったぜ……

 

 「じゃあ渡すぜェ!今回お前らに渡す景品は……コレだァ!!」

 「これって……」

 「………杖?」

 

 期待を膨らませながら差し出された手に置いたのは───なんの変哲もない、ただの杖だ。

 そこら辺で売ってるような、いや市販の物の方がまだマシじゃないかと思える程度の出来の杖だがなァ!

 

 「テメェら、何やら自作の杖で魔法を使っているらしいなァ。あまりに不細工で、弱々しい杖だと常々思ってたんだよオレぁ。だから、()()()()()()()、お前ら専用の杖をなァ!」

 

 ───ククッ、クククッ……!!

 

 ヴァァァカめ!この拝金主義者がテメェら(商売道具)のために、わざわざ大金はたいて豪華な景品を用意すると本気で思っていたのか!?

 オレは拝金主義者であると同時に守銭奴である。オレのために金を使うことはあれど、ガキどもに使う金なんざ最低限しか持ち合わせていないんだよォ!!

 わざわざガキどもが寝静まった深夜に森に出て作ってたんだからな。おかげでここ数日寝不足だぜ。

 こだわりはそれぞれの杖の柄に名前が刻まれている点だ。ガキによって少し模様が違うのも見所だぜ。

 

 「ただの杖じゃねェぞ。丹精込めて作ったただの杖だ!大切に扱えよ!」

 『───うんっ!』

 

 花が花開いたように笑う2人。だが嬉しいはずがないので愛想笑いだろう。

 ククッ、どうやらガキどもに“気遣い”というモノを学ばせてしまったらしい。

 プレゼントと同時に教育を施してしまうとは……やはりオレは天才だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……エルファリア様、一体何を見ていらっしゃるのですか?」

 

 白亜の塔の頂。選ばれし豪傑のみしか入ることを許されない場所で、1人何かを眺める少女───エルファリアがいた。

 おもむろに胸から取り出してソレを見遣るエルファリアに対し、彼女の側近である女性は、まるで理解ができないと言わんばかりに首を傾げながら尋ねる。

 

 「何って……ただの杖だけど?えっ、サリサ大丈夫?最近窶れているように見えるし、たまには休んだらどう?」

 「誰のせいだと……!」

 

 サリサは一瞬で炊き上がる沸点に我を忘れかけるも、一旦自身の得意な氷魔法で頭を冷やした後、改めてエルファリアが大事そうに持つ杖に目を遣った。

 

 「杖なのは分かります。解せないのは、何故そのような稚拙な杖を、ということです。何故その杖が」

 

 サリサの疑問は至極当然であった。

 エルファリアには氷姫の杖(アルヴィス・ヴィーナ)なる魔杖がある。彼女の異名と共に知られる杖は、他の千の杖と比べても遥かに美麗で、壮麗で、神秘の輝きを宿す。

 対して今彼女が手に持つ杖は、少し形が整われただけの単なる木の棒だ。無骨で、貧弱で、あまりに粗野な枝と言い換えてもいい。

 見る者が見る者なら『至高の五杖(マギア・ヴェンデ)』として相応しくないだとかで騒ぎ立てるほどに、エルファリアに見合わない杖だった。

 

 「…………はじめて、だったから」

 

 エルファリアは、ただぼーっと杖を眺めて、一瞬含みを入れながら吐き出された言葉は、愛情と懐古と寂幕が滲み出ていて。

 

 「サドがはじめてくれた……贈り物だから」

 

 嬉しそうでありながら、どこか淋しげに微笑む、その端麗な横顔があまりに美しくて。

 サリサは不意にもその横顔にほんの少しばかり見惚れていた。

 

 「じゃあ少し寝るから後はよろしく〜……」

 「はい分かりました……ってエルファリア様!?」

 

 エルファリア・アルヴィス・セルフォルトは今日も夢を見る。

 遥か遠く、ただ幸福だけが満ちていたあの時の記憶(思い出)を───

 

*1
諸説あり




ウィル・セルフォルト(現時点)
・種族:リザンス
・年齢:4
・身長:103C
・誕生日:エルザの月 二十四の日(12月24日)
・好きなもの:サドとエルファリアと遊ぶ時間、サドのご飯、サドの手
・嫌いなもの:苦いもの
・初恋の人:特になし
・装備:サドの杖、清潔な庶民服
・スキル:特になし

エルファリア・アルヴィス・セルフォルト(現時点)
・種族:リザンス
・年齢:4
・身長:104C
・誕生日:エルザの月 二十四の日(12月24日)
・好きなもの:サドとウィルと遊ぶ時間、サドのご飯、サドの背中
・嫌いなもの:辛いもの
・初恋の人:特になし
・装備:サドの杖、清潔な庶民服
・スキル:水、および氷魔法(上位)
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