幻影人間の記録について   作:人子ルネ

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8話「テレビ番組」

▽記録者コメント

 

 これまで仮面ライダーの目撃証言は文章による証言や断片的な映像に留められていた。TikTokやYouTube、Twitter上で投稿されている動画もほとんどが下半身を映している。

 上半身、および頭部を映した動画も存在するが、仮面ライダーのパブリックイメージに寄っているものが多い上に、デザインに差異があり信憑性が薄い。

 それ故に見た目を完全に把握することが出来ないのが現状だ。

 

 しかし、今回、テレビ番組と言う媒体で仮面ライダーの全身が映し出された。地上波という公共的な電波で放送している以上、完全にデマという可能性は低い。

 その番組が深夜帯の低予算オカルト追求バラエティという形態である点でも、デマを作る可能性は低い。

 

 以下は、神奈川県のローカルテレビ局『ヨコハマテレビ』、通称ハマテレで2022年11月23日2時30分に放送された『激動!オカルト探検隊』のワンコーナー『巷で噂のオカルトを探検しよう』を文字起こししたものである。

 

 

▼2022年11月23日02:35:09〜『激動!オカルト探検隊』より

 

 黒い画面に白いテロップで「シャドウピープルはご存知だろうか」と映し出される。

 

ナレーション

「皆さんはシャドウピープルをご存知だろうか……

 影のような真っ黒な人型の存在が現れる謎の現象。SNS上でも大きな話題になり、たくさんの目撃情報が寄せられている……

 今宵、オカルト探検隊もこの波に乗って神奈川県内のシャドウピープルを探検していきまぁす!」

 

 場面切り替わり、神奈川県内の田舎町に訪れる。小田急足柄駅と書かれた看板の前で芸人二人が飛び跳ねて現れた。

 

稲村「さて、はじまりました! 『巷で噂のオカルトを探検しよう』のコーナー!」

稲村「今回は第三回ということでね。ネットで噂のシャドウピープルについて聞き込みを行っていきます!」

 

 芸人の下に芸名が書かれたテロップが表示される。『マッスルレイン 稲村』『マッスルレイン 菊岡』、稲村はタンクトップを着た大柄な男性で、菊岡はダボッとした服を着た小柄な男性だ。

 

菊岡「小田急の足柄駅来るの初めてだわ」

稲村「JRなら行ったことあるんですけどね」

菊岡「結構遠いらしいじゃん?」

 

 画面が切り替わり、二つの足柄駅を示す地図が表示された。

 

ナレーション

「足柄駅は小田急線とJRの二つありますが、この二つの駅は足柄峠を挟んでいるのでとっても遠いんです!」

 

 コミカルな効果音と共に、またマッスルレインが街中を歩く映像に切り替わった。

 

稲村「あ、お父さんがいらっしゃいました! 話しかけてみましょう!」

 

 カメラが農作業をしている高齢者男性を映した。カメラの画角内にマッスルレインが入っていく。

 

稲村「こんにちは! ヨコハマテレビの『オカルト探検隊』って番組なんですけど、お時間よろしいでしょうか?」

男性「おぉ、ハマテレの! 孫がよく見てるよ」

菊岡「ほんとっすかぁ?」

稲村「それで、今、探してるものがありまして、お父さん、シャドウピープルはご存知ですか?」

男性「しゃど、何?」

稲村「シャドウピープルです。こういうものなんですけど」

 

 稲村がスマホを男性に見せると、男性は「お〜」と言いながら稲村のスマホを凝視した。

 

男性「聞いたことあるね」

稲村「ほんとですか!」

男性「おぉ、そこの先にパチンコ屋があるんだけどよ。そこで聞いたなぁ」

男性「駐車場に人影が見える見てぇな話」

男性「よく喫煙所の常連たちが話してるよ」

稲村「お父さんありがとうございます!」

 

稲村「さて、開始早々から有益な情報をいただきました!」

稲村「噂の場所に移動しましょう!」

 

 現在地とパチンコ屋を示した簡易的なマップが映し出される。マッスルレインを二頭身にしたキャラクターがマップ上を歩いていく。

 画面は切り替わり、稲村と菊岡がパチンコ屋の前で並んだ映像に切り替わる。

 

稲村「さてさて、つきました! パーラーベガス足柄店さんです!」

菊岡「バカデカホールじゃないっすか、さっきサイト覗いたら珍しい機種が勢揃いで」

稲村「パチンコの話は置いといて、さぁ、取材交渉に行きましょう!」

 

 店を遠くから撮影した映像が映し出される。10分後という表示とともに、画面の端から菊岡の変顔が現れる。

 

稲村「何してんだよ!」

菊岡「いたっ」

菊岡「稲村が交渉してる間、暇だろ」

稲村「いやお前も来いよ!」

菊岡「それで、どうでした?」

稲村「取材ですが、交渉……」

菊岡「交渉ときたら決裂しかないだろ」

 

 稲村は頭の上に両手で大きく丸を作った。

 

稲村「OKです!」

菊岡「OKかい!」

菊岡「交渉OKってなんだよ。交渉の段階まで行ってねぇじゃん」

稲村「細かいことは置いといて、取材許可いただきました!」

稲村「それでは早速、店内の方に行きましょう!」

 

 コミカルなSEと共にガヤガヤと騒がしい店内へと入っていく。音が静かに抑えられ、クラシックの音楽と共に倍速で店内を歩き回る二人の姿が流れた。

 

稲村「取材しても大丈夫ですか?」

女性「あ、大丈夫ですよ」

稲村「顔とかって映しても……」

女性「全然平気」

 

 店外の喫煙所でタバコを吸っていた女性に稲村が話しかけた。稲村が顔出しの許可を取ると、足元を映していたカメラが動き、画角に中年の女性の顔が映し出された。

 

稲村「あの、僕たち、シャドウピープルって言うものを探しているんですけど……ご存知ですか?」

 

 菊岡がスマホを見せると女性は「あ〜」と言いながら頷いた。

稲村「知ってますか?」

 

女性「この店の常連、全員見てんじゃない?」

女性「私も写真見せられたことあるよ」

稲村「写真って持ってたりしないですか?」

女性「持ってない持ってない! 縁起悪い、出るもの出なくなるわ」

稲村「ですよねぇ。見せてもらった人とか紹介してもらえたり」

女性「あ〜、それなら、呼んでくるわ」

 

 店内に入っていく女性。また、早送りになり何やら一発ギャグをしあっているマッスルレインの二人が映し出される。

 早送りが解除されると、店内から中年の男性が現れた。

 

男性「お〜テレビやん! どこの局?」

稲村「ハマテレの『オカルト探検隊』って番組なんですけど」

男性「なんだよ! ハマテレかよ!」

稲村「すんません」

 

 中年男性が稲村に肩を何回か軽く叩いた。稲村は少し嫌そうに頭を下げる。

 

男性「で、俺の影の写真みてぇらしいじゃん」

稲村「あ、見せてもらえるんですか?」

男性「見せてぇんだけどさ……消しちゃったんだよなぁ」

男性「あの写真撮ってからパチがめっちゃ調子悪くてさぁ」

男性「縁起悪いのかもって消したのよぉ!」

菊岡「あ〜」

 

稲村「良かったら、写真撮った経緯とかって聞いても」

男性「いいよいいよ!」

男性「四日前だったかなぁ。パチ負けたショックでタバコワンカートン、駐車場に落としたのよ。家帰ってから気付いてさ」

男性「だってワンカートンだぜ?さすがにもったいねぇだろ?」

男性「落ちてねぇかなって夜に駐車場行ったのよ。そしたら、黒い影みたいなやつが駐車場の真ん中に立っててよ」

男性「だから、写真撮ったのよ!」

 

菊岡「で、その写真は消した」

男性「おう、もう三日間連続5万負け!」

菊岡「めっちゃ気合い入ってますね!」

菊岡「俺もここ1週間負け続きっす」

男性「まぁ、消す前から負けてるんだけどな!」

 

稲村「……駐車場ってカメラとかないですかね」

男性「さぁな、店員に聞いてみ。遠隔もあるか聞いといてくれや」

菊岡「聞いときます!」

稲村「いや、聞けるかぁ!」

 

 男性は店内に入っていった。マッスルレインの二人の方にカメラを向く。

 

稲村「監視カメラを見せて貰えるか、店員さんと交渉してきます!」

菊岡「うぉ、また交渉か?」

稲村「お前は待っとけ!」

 

 菊岡の一発ギャグを倍速で撮り続ける時間が発生する。不穏なBGMと共に、画面の端が暗くなると、菊岡は急に走り出し画面いっぱいに顔を映した。

 

菊岡「I'm This man.」

稲村「おいバカ」

 

 カメラから離される菊岡。菊岡の体を引きずって画角の中に収まると、横に立つ壮年の男性に体を向けた。

 

稲村「店長の吉川さんです!」

吉川「よろしくお願いします」

稲村「吉川さんに事の経緯をお伝えしたところ、カメラ映像を見せていただけることになりました!」

吉川「隠すところは隠していただければ……」

菊岡「遠隔はされてるんですか?」

稲村「おま、やめろ!」

 

吉川「うちのホールは完全にホワイトです!」

菊岡「うち以外のホールはブラックと」

吉川「いえ言葉の綾で……」

稲村「変なところ突っ込むなや」

 

 稲村が菊岡の体を強めにどつく。ドシッと言うSEと共に画面が揺れる。

 

吉川「その代わりですが、監視カメラを見せる代わりに、そこまでの道のりは撮影NGで」

吉川「……金庫の場所とか、知られたら困るので」

稲村「いえいえもちろんです!」

菊岡「それじゃあ、ここからはBLACKOUTォ……」

稲村「何だよそれ」

 

 画面が暗くなり、白文字で「探検隊はシャドウピープルを発見できるのか……!」とテロップが映し出される。

 

ナレーション

「マッスルレインの2人は果たしてシャドウピープルを発見できるのでしょうか……真相はCMの後で」

 

 地方の企業を宣伝したCMが複数流される。

 番組に戻ると、薄暗い部屋にパソコンが一台置かれた狭い部屋にマッスルレインの二人と吉川が座っている。

 

稲村「聞いた話だと四日前らしいんです。夜とのことでしたが」

吉川「五日前です」

稲村「ご存知ですか?」

吉川「……まぁ、私も見ましたし」

吉川「営業後だったので、確か23時以降かな……時間は分からないので五倍速で見ていきましょう」

 

 カメラがディスプレイに寄る。画面には斜め上から屋外駐車場が映し出された映像が表示されている。

 

吉川「お客さんが帰ってますね」

菊岡「足速いっすね」

稲村「倍速だって言ってんだろ」

 

 モザイクがかかった人が車に乗り込んで駐車場から出ていく様子が映る。少ししてスーツを着た男の人が駐車場から店内に向かって歩いていくのが見えた。

 

稲村「この人は?」

吉川「エリアマネージャーです。この日は久しぶりに偵察に来てまして」

稲村「こんな時間に来るんですね」

吉川「いつも営業終了後に来るんです」

 

 映像は倍速で進んでいく。店内から店員たちが出ていったあとに吉川も出てきた。駐車場の真ん中で吉川は立ち止まり駐車場の奥を凝視している。

 そこで、吉川は映像を止めた。

 

吉川「これです。見えますか?」

稲村「黒いやつですか?」

 

 カーソルで画面の奥を円で囲った。円の中には黒い影が立っている。動画を等速で再生すると、黒い影はゆらゆらと揺らめいており、片手を上げて手を振っていた。

 

吉川「他の従業員は見たことがあったんです」

吉川「私は見るの初めてで、基本内勤ですから」

 

 映像の中の吉川は走って車に乗りこみ駐車場を去った。

 黒い影は奥からゆらゆらと歩き、駐車場の真ん中に立った。カメラの方を向いてゆっくりと手を振っている。

 

吉川「ここからははじめて見ます」

 

 駐車場の中に喫煙所の中年男性が現れた。

 中年男性は黒い影を見ると尻もちをつき、スマホを構えてフラッシュを焚いたかと思えば早足でその場を去っていった。

 

稲村「……まじで居ますね」

 

 駐車場の外から男が現れた。ボサボサの髪に黒いスウェット、レジ袋を手に持ったコンビニ帰り風の青年。彼は黒い影の方を向いて、何か話している。

 

菊岡「誰?」

吉川「常連ではありません」

 

 青年は黒い影に話しかけているようだが、黒い影はカメラにずっと手を振っている。

 カメラの外から人間の手のようなものが見切れる。手は人差し指で青年を指すと、黒い影は青年の方を向いた。

 

稲村「手、ですね」

吉川「この時間はエリマネしか居ないと思うんですが……」

 

 黒い影の輪郭が少しずつハッキリとしたものに変わっていく。

 黒い影は、手に大きな鎌を持ち、首から上がない人型の存在に変化した。鎌を頭上に振り上げ、青年を切りつけた。

 青年の体に大きな傷がつく。しかし、体から血は出ない。中から黒い何かが漏れ出て、彼の体を覆い隠した。男は黒い人影のような姿になり、少しすると影の中からカメラを白飛びさせるほどの激しい光が放たれた。

 光が晴れると、青年の体は青と白の鎧を纏った特撮ヒーローのような姿に変化していた。

 

 左右非対称に鋭利に跳ね上がった青と白の五本の角。感情を持たない橙色の大きな眼。口や鼻を持たない銀色の顔面。胸、肩、前腕など体を覆う青と白の装甲。太陽を模したような胸部のエンブレム。カメラ越しに映る姿は細部はわからないが、明らかに人間とは異なるヒーローのような姿をしている。

 

菊岡「なんだこれ」

稲村「や、これマジですか?」

吉川「いや……本当に初めて見て」

 

 困惑して言葉を失う三人をカメラが映す。画面の中では鎌を持った人型存在と青と白の人型存在が戦っている。

 

菊岡「やらせすか?」

稲村「んなわけ……ないですよね」

菊岡「いやいや、普通にありえないでしょ」

吉川「私は何もしてなくて……本当に」

菊岡「やば」

 

 青と白の人型存在は鎌を持った人型存在の胸を手刀で貫いた。鎌を持った人型存在は黒い影のような姿に戻り、黒い影は周囲に霧散していく。

 

稲村「ははは」

吉川「……」

 

 硬直した三人の気まずい雰囲気をカメラに映して、画面はスタジオに切り替わる。スタジオ内の雰囲気も固まっており、司会のアナウンサーは大きく手を叩いて「さて!」と笑顔を作った。

 

アナウンサー「どうだったでしょうか!」

アナウンサー「思った映像と違いましたが、都市伝説専門家の岩村さんにお話を聞いてみましょう!」

 

 カメラがメガネをかけた学者然とした見た目の中年男性に向けられた。岩村は「そうですね」と言いながら、小さくため息をついた。

 

岩村「まず、この現象はシャドウピープルではありません。シャドウピープルに酷似していますが怪物に変化する存在。SNS上では『ゲンエイン』と呼ばれています」

岩村「ゲンエインは人を襲う事例が多数報告されています。免れたVTRの店長さんは運が良かったとも言えるでしょう」

岩村「ゲンエインの対となる概念として『仮面ライダー』というものがあります。これはゲンエインと戦う青と白の人型存在の総称です」

岩村「現状、ここまで仮面ライダーを捉えた映像はありません」

岩村「非常に貴重な資料です」

 

 カメラがアナウンサーの方を向いた。アナウンサーは笑みを浮かべて頷いている。

 

アナウンサー「岩村さんありがとうございました!」

アナウンサー「それでは次のコーナーです!」

 

▽記録者コメント

 番組は放送後、SNSで大きく拡散され一時的に大きな話題となった。

 公共の電波を通して放送された仮面ライダーの姿は、オカルト界隈では大きな反響を呼び、番組中の動画は徹底検証された。

 

 やはり、争点は「やらせだったのか」であり、当番組は公式Twitterにてやらせを完全否定、パーラーベガス足柄店も同様に完全否定している。

 

 SNS上では「自主制作ヒーローが勝手に撮影していたのでは?」と言った意見も出ていたが、ゲンエインの変化や仮面ライダーの変化は監視カメラにおいて演出できないものであり、その線は薄いと結論が出ている。

 

 また、番組の演出の可能性に関しては、当番組はオカルトと標榜しているものの、番組自体は街ブラ要素が強く、言ってしまえば「オカルトのやる気がない番組」である。

 また低予算ということを番組自体が話していることからも、CGやスーツ作成は現実的ではない。あらゆる説が検証されたが、そのどれもが決定打に欠けるため、結果として浮かび上がってくるのは「全て本物」という極めて単純な結論だが、オカルト界隈含めてほとんどのユーザが納得できるものではなかった。

 

 この話題そのものは鎮火しているものの、仮面ライダーの姿が完全に顕になり、変身者の見た目もある程度示されたことからファンアートやコスプレ、スーツの作成、CGの作成などのムーブメントは残っている。

 また、今回、仮面ライダーの姿がほぼ確定したことにより、今後の動画形式の情報は精査が極めて困難になってくるだろう。

 仮面ライダー及びゲンエインの記録は今後も続けていく。

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