▼ゆきまる@yukimaru55655
2023-04-28「ゆきまるの限界ツイキャス 夜散歩していくぞ!」より
画面の半分以上に中年男性の顔が映し出されている。
派手な眼鏡をかけた小太りの男性はどうやら河川敷を歩いており、背後には川が映っている。
「今日さぁ、派遣バイトに行ってきたのよ」
「俺社不だから普通に遅刻してさぁ」
視聴者数582人、映像の下に映し出されるコメント欄にはゆきまるの話題に関するコメントが寄せられている。
『匿名コメント#52314@c:tw2 遅刻すんなよ迷惑だろ』
『ゆ@c:yuuuuu53524685 流石の社不おじさん、働けw』
「昨日、遅くまで配信してたのが悪い!」
「お前らが続けろ続けろって!」
『金太郎マン@256kinkintaroo256 仕事とは聞いてないwwww』
「明日も派遣だけどね」
『匿名コメント#2324@c:tw1 仕事なら、配信やめろよww』
内カメラから外カメラに切り替わる。
手ブレによって画面は揺れているが、川岸を歩いているのは確かである。高架下に入ると壁に書かれた落書きをうつした。
「治安悪すぎだろ」
『匿名コメント#3224@c:tw2 危なくない?そこ』
『はつむら@c:hatttsu22 ヤンキー凸こい』
「怖いこと言うなよ!」
配信画面の上部からお茶の絵文字が降り注ぐ。画面上に「踊れ」という文字が表示された。
「お茶爆センキュー!」
「踊れ? 俺、踊り下手だよ」
『ゆりかもめ@vfd5s3hj5kvf 金もらってんだぞ』
「うぅ……踊ればいいんだろ!」
内カメラに切り替わり、どこかにカメラを固定した。
川辺を背景にゆきまるの全身が映る。ゆきまるは体を揺らしたり腕を大きく動かして踊り続けるが、コメント欄は焚きつけるように「もっと踊れ!」「下手くそ」と言うコメントが流れ続けていた。
踊る途中、ゆきまるは何かを踏みつけ転倒した。
「いてて」という声とともにゆっくり立ち上がると、自分が踏んづけたものを拾い上げた。
「パンティ?」
『ユリ・ゲラー@25spoonmagemage ラッキースケベ』
『本多@c:Hondatadashi52 持ち帰らないように』
「持って帰らねぇわ!」
「あぁ、これ、パンティじゃねぇや」
配信画面にピンクの布が映し出される。
細長いピンクの布は真ん中で蝶のように結ばれていた。
「リボンだ」
▽編集者コメント
ゆきまるはツイキャスおよびTwitterで活動する配信者である。
自宅での雑談配信や散歩配信をメインに行っており、時折、リア凸企画として都心部や旅行先で長距離散歩配信をすることもある。
オカルトの話をすることもあるが、熱心な様子はなく占いや風水を信じている程度、仮面ライダーやゲンエインに関する言及も少ない。
事の発端はゆきまるがリボンを見つけたところから始まる。
この河川敷はゆきまるが過去に何度も散歩配信に使っている場所であり、落書きが増えているかどうかも定期的に話題として上がっていた。
時折、視聴者がリア凸しに来ることもあるため、この場所はゆきまると会える場所になっている。
この配信以降、この河川敷では度々リボンを見つけるようになり、そのリボンの色を当てるコーナーも定番化するようになった。
ゆきまるもリボンを拾うようになり、自宅での雑談配信でもリボンコレクションを見せるようになっていた。
ゆきまるとリボンの関係性は、リボンと出会ってから2ヶ月が経過した2023年6月30日の配信で大きく変化する。
▼ゆきまる@yukimaru55655
2023-06-30「ゆきまるの限界ツイキャス 今日もリボンを探すぞ!」より
ゆきまるは河川敷を外カメラで映しながら歩いている。コメント欄はリボンの色を予測するようなコメントが溢れており、中には大喜利のようなありえない色のコメントも散見されている。
いつも通りの配信の中、ゆきまるはまたリボンを発見する。
「今日のリボンは水色でした!」
『匿名コメント#42351@c:tw1 マジか〜緑じゃないのかよ!』
『きしお@kiss111sshi 水色6回目!』
「結び方がポンポンみたいだ。これ初」
ポンポンのように丸く結ばれた淡い水色のリボンを手に取った。コメント欄は初の結び方について言及するコメントが増えた。
「あの、リボン、お好きなんですか?」
落ち着いた女性の声が画面外から聞こえる。
カメラを咄嗟に声の方に向けるが誰も居ない。
ゆきまるは「聞こえたよね」と言いながらカメラを色んな方向に向けているが、画面上に人の気配はない。
「こちらです。見えますか?」
カメラを向けると高架下に黒い影が立っているのを見つけた。ゆきまるは咄嗟に視聴者と判断したのか「リア凸ですか?」と声をかけて、影の方向に近寄っていく。
『匿名コメント#7692@c:tw2 女視聴者はじめてやん?』
『ゆっくりM陣@Mjin2929c ヤバい素人の可能性』
『本多@c:Hondatadashi52 ヤンキーかもよ』
カメラがどんどんと黒い影に近づいていく。
途中でゆきむらは立ち止まる。
どれだけカメラを近づけようととも影は黒いままであり、輪郭が見えない。人が影に覆われて黒くなっているなら、近付けば顔立ちが見えるはずなのにそれがない。
「やばい」
『匿名コメント#1596@c:tw3 妖怪から逆ナン来た!』
『匿名コメント#5569@c:tw2 ゲンエインやん!』
「やばいやばい」
ゆきまるのカメラが内カメに変わり、顔と背景を映し出す。
ゆきまるが影を映しながら、影から遠ざかるように逃げ出した。
黒い影は立ち尽くしており、ゆきまるは激しく息を切らしながら走り続けている。黒い影とゆきまるの距離はどんどんと離れていき、見えなくなるとゆきまるはカメラを固定して地面に座り込んだ。
「……何あれ」
▽編集者コメント
ゆきまるの配信に突如として出現したゲンエイン。
ゆきまるはコメント欄を通してゲンエインについて知り、それ以降の配信ではゲンエインについて言及する配信や、ゲンエイン体験談凸待ちなど、ゲンエインを企画にしていくようになった。
河川敷にはリボン探し兼ゲンエイン探しと称して頻繁に散歩配信をしていた。しかし、リボンは見つかるがゲンエインが現れることはない。
1ヶ月もすると視聴者もゆきまるもリボンとゲンエイン探しに飽きており、企画名だけ残り形骸化していた。
ゆきまるとリボン、そしてゲンエインの関わりは、件の配信から1ヶ月が経過した2023年8月2日の配信で終わりを迎える。
▼ゆきまる@yukimaru55655
2023-08-02「ゆきまるの限界ツイキャス ゲンエイン来い!」より
ゆきまるは外カメラで河川敷の景色を映しながら、いつも通りリボンを探していた。コメント欄は形式的にリボンの色を予測しているが、大多数の視聴者とゆきまるは日常生活の雑談をしている。
「今日も派遣、めっちゃ疲れてるわ」
『匿名コメント#4258@c:tw3 何のバイト?』
「工場、積荷おろすやつ」
「この前、遠征行った時、予想外の出費多すぎてさ」
画面の上部から大量のお茶が落下し、画面上には「ジュース代」と白い文字で表示された。
「お茶爆センキュー、いっぱい飲みます」
「でさ、明日も派遣なんだけどさあ」
『半蔵門線ユーザー@hanzo_hanzo25 あれリボンじゃね』
画面の奥にリボンが映る。コメント欄にリボンを言及するコメントが増え、ゆきまるはリボンの存在に気がついた。
リボンに近付き、カメラをリボンに寄せると薄汚れた白い大きいリボンが落ちていた。
「うわ……汚くね」
「これは違うだろ」
『匿名コメント#4325@c:tw2 拾え』
『きしお@kiss111sshi 拾え〜』
『イカ刺し@squid12345 拾え』
コメント欄が『拾え』で埋まる。ゆきまるは人差し指と親指でリボンをつまみ上げると、中から黒い液体が地面に流れ落ちてきた。
咄嗟に指を離すとリボンはびちゃっと音を立てて地面に落ちた。
「きったな!!」
「リスナーの仕込みだろ!!」
『きしお@kiss111sshi うっわ』
『匿名コメント#2137@c:tw3 お前の仕込みだろ』
「俺じゃねぇよ!」
『ヘビーなピアス@heavy_pierce58 持って帰れ』
「持ち帰らねぇよ! バカか」
『ハチマタ@yamatano080808 処理しろよ。仕込みだろ』
「ふざけんな!」
コメント欄は「持って帰れ」「処理しろ」と言うコメントで埋め尽くされ、画面上に表示される課金アイテムもその流れに乗り、「持ち帰れ」と言う文字が画面を埋め尽くした。
「処理する……処理すればいいんだろ!」
内カメラに切り替え、全身が見える画角に固定する。
リボンを指でつまみ上げると、また、中から黒い液体が流れ落ちた。ゆきまるはそのリボンを川の中に放り込んだ。
「これでいいだろ」
ゆきまるを批難するコメントが殺到する。
『ハチマタ@yamatano080808 超えましたね』
ゆきまるがカメラを拾い上げて自分を映す、背後にうつる川の水面は黒い液体が浮かんでいる。
「環境汚染すな」「お前が持ち帰れw」「川探せww」というコメントが流れ続けるが、ゆきまるは「無理だろ!」と怒声をあげながら、反論を続けていた。
『匿名コメント#4356@c:tw1 なんか居ない?』
ゆきまるの背後、黒く濁った水面から生き物のようなものが顔を出している。そのことを指摘するコメントが増えていたが、ゆきまるは「お前ら騙そうとしてんだろ」と反発し、川の方を見ようとしない。
川の中にいる生き物のようなものが陸へと進み。それと共に水面で隠れていた体が露出し始める。
「なんだよ! 見ればいいんだろ……」
外カメラに切り替えて振り返ると、人間のような白い存在が立っていた。
映像にはヒラヒラとした花嫁衣裳のような服に、全身には沢山のリボンが着いている。人のようにも見えるが、頭部には巨大な瞼がついており、低画質の映像でもわかるほど大きな眼球が生物的にギョロギョロと動いていた。
「な、な」
どすんという音と共に画角が落ちる。
ゆきまるが地面に崩れ落ちたのだろう。恐らくはずり這うように逃げたのか、地面を引きずる音と共にカメラはその怪物から遠ざかっていった。
「リボンお嫌いなんですね」
完全に陸に上がった人型の怪物は落ち着いた女性の声を出した。
「お好きだと思っていたんです」
「ご迷惑でしたね」
近付いてきた人型の怪物はゆきまるに向けて手を差し伸べた。
ゆきまるは息を荒らげるだけで、言葉を出せず画面はぶるぶると震えていた。
「ごめんなさいね」
画面が白く発光する。
画面の色味が落ち着くと、画面外から何かが現れ、人型の怪物に激突した。地面に大きく転がる音、何かを殴りつける鈍い音。
外カメラを音の方に向けると、青と白の存在、仮面ライダーが人型の怪物に馬乗りになって殴りつけていた。
大きく振りかぶって人型の怪物を殴りつけると、ぐちゃっと言う音ともに、抵抗していた怪物の力は抜け黒い影となってそのまま霧散した。
「危ねぇぞ」
仮面ライダーが立ち上がるとゆきまるの方を向いた。
体の中から黒い影が溢れるように染み出ていくと、仮面ライダーの装甲はどろりと溶け落ち、青いジャージと黒いTシャツを着た青年が現れた。
手をパチパチと叩く音が聞こえる。カメラがその音の方向に向くと、黒い影を引き連れたスーツを着た男が大袈裟に手を叩いていた。
「またお会いしましたね。名無しくん」
「……蛇腹、またお前か」
「この前はいつでしたか、病院、駐車場、飼育場、廃墟だったかな」
「記録の順番では駐車場が最後でしたね」
中音域の男性の声が仮面ライダーに語りかける。
ゆきまるのカメラは二人を交互に映していた。
「どうでもいい。お前ら影が」
「あぁ、影。名無しくんはご存知ないんですね」
「私たちはゲンエインと呼ばれているそうです」
「あなたもそうでしょう。そんな逃避行動をやめて、私と共に」
「どうでもいい」
ジャージの青年の内側から黒いモヤが染み出す。黒いモヤが体を覆うと、内側から眩い光が放たれ、カメラは一瞬白飛びするが、画面が戻ると青年は居なくなり、青と白の仮面ライダーが立っていた。
スーツを着た男性は片手を上げると後ろに立っていた二つの人影は輪郭を持ち、猫のような怪物に姿を変えた。二匹の猫型怪物は仮面ライダーに組み付いた。
スーツを着た男性の手が黒いモヤに変わる。黒いモヤは次第に輪郭を持ち、蛇が絡みついたような怪物の腕に変わった。怪物の腕をカメラの方に向けると、絡みついた蛇がカメラの方、もっと奥、ゆきまるの方へと迫っていく。
「あぁ!」
ゆきまるの声と共にカメラが地面に落下し、画面上には亀裂共にカラフルなノイズが入った。スーツの男性がゆきまるの首を掴んでる様子が映し出されている。
「一人なのが君の弱点だね」
男の体からモヤが漏れ出る。
全身を黒いモヤが覆うと、モヤの中から無数の蛇が飛び出し、男の体に噛みついた。黒いモヤが晴れると全身に蛇が巻きついたような人型の怪物が現れた。
蛇が絡みついた怪物はゆきまるの顔を掴み、意図も容易く握り潰した。
「やめろ!」
画面外から男の声が聞こえる。猫型の怪物二匹が画面外から投げ捨てられ、画角の中に仮面ライダーが現れる。立ち上がった猫型怪物を手刀で貫くと二匹は黒い影となって霧散した。
蛇が絡みついた怪物に向けて仮面ライダーは殴りかかるが、体中の蛇が解け、拳に絡みついた。
「君の負けだ!」
「ようやく、ようやく、君が負けた!」
「あぁ、いい日になりました!」
蛇が絡みついた怪物はそう言い残して影になった。影は地面に吸い込まれるように落ちていくとそのまま消えた。
この後も枠が閉じるまで配信は続いていた。
ゆきまるの死体と、ゆきまるの死体に手を合わせる青いジャージの青年、そして最後に警察が駆けつけて配信は終わった。
▽編集者コメント
ゲンエインは人の感情が影に落ちることで生まれる意志を持った生き物である。
ゲンエインは基本的に二つの形態を持つ。
便宜上、名前をつけるなら幻影態とゲンエイン態。
幻影態は黒い影のような姿であり、物理に干渉することは出来ない。それは双方向であり、人間からも干渉することは不可能である。物理に縛られないため、地面の中に潜る、壁を通り抜けると言った動きも出来る。
ゲンエイン態は怪物のような形態であり、物理に干渉できるがエネルギー効率が悪く長い時間、この姿で居ることは出来ない。
しかし、これまでの記録に記されたように、この二つでは説明できない姿がある。それは『感情態』と言う一部のゲンエインが持つ特殊形態である。
ゲンエインは『特別な感情』を手に入れることで、大まかに二つの変化が訪れる。
一つ目は『感情態』の獲得。
例えば『犬を愛する感情』を手に入れた場合は、犬と瓜二つの感情態を手に入れる。『ダルマを大切にする感情』を手に入れた場合は、ダルマの体を持つ。『リボンを贈る喜び』を手に入れた場合は、リボンの体を持つ。
この特別な感情と言うのは、そのゲンエインが生まれた場所に居た人間、生物などによりこぼれ落ちた感情に起因する。もちろん例外は存在するが。
感情態はエネルギー効率がよく、長時間の活動が可能。
特に生物の感情態を手に入れた場合は、食事によりエネルギーを摂取できるため、生物態のみで生活することも可能。
しかし、ゲンエイン態のような強力な力を発揮することは不可能である。
二つ目はゲンエイン態の変化。
ぼんやりした感情のゲンエインは非常に歪な体を持つ。特別な感情を手に入れることにより、ゲンエインはその特別な感情に呼応した姿に変化する。
ゲンエインはこれらの生態を持ち、生活をしている。
この生態に関しては、私が自分の体や同族の体を使って検証したものであり、非常に精度が高い情報である。
ここからは私の記録の大きな目的を話そう。
仮面ライダーとはゲンエインなのか、人間なのか。
結論から言おう、『仮面ライダーはゲンエインである』と。
私は初めて彼を見た時にゲンエインであると理解した。
それと同時に何故、同種を殺害するのか理解出来なかった。
そこでふたつの仮説を立てた。『彼は人間を守る感情を得たゲンエイン』と『強さを求めるゲンエインが人に力を貸している』である。
何度か彼と接触し、その結果として彼は血を出さないことがわかった。これは彼がゲンエインであることを示す紛れもない事実である。となると、彼はゲンエインであるにも関わらず、『人を守る』過程で我々を殺しかねない。
私としても同種を殺されるのは心が痛む。
必要な犠牲として人間を使い、仮面ライダーを倒すことに決めたのだ。私たちは人間を殺したいわけではない。
あくまでも同種を守るために、仮面ライダーを呼び出すために人間に危害を加えているのだ。
そして、この度、我々は仮面ライダーを敗北させることに成功した。仮面ライダーは本質的には孤独であり、無力である。
我々が束になってかかれば造作もない相手とわかったのだ。
さぁ、これを読んでいる人間たちよ。
私はこれから沢山の人間を犠牲にするだろう。
それは彼と関わった人間かもしれない。
苦情ネギ、ゆるぴよ、三種、コンビニ店員、匿名看護師、飯島篤人、そのほか大勢の彼に助けられた人間。
関わりが深い人間から殺していく。
仮面ライダーの近くにいる人間は早く彼に知らせてくれ。
私としても沢山の人を殺すことは心が痛む。私は外道ではない。
さて、最後に署名をして終わりにする。
このサイトがこれから更新されることはない。
読者の皆さま、ご拝読いただきありがとうございました。
記録者:円呑蛇腹
次回、10話「TV番組『仮面ライダーイルシオン』第1話『希望の影』初回1時間拡大SP」