現代ダンジョンの死神は魔物娘を射止めたい 作:ワイトもそう思います
──じいちゃんが言っていた。
なるべく一発で殺したほうが、獲物は苦しまないと。
だから俺は殺すと決めた時は、なるべく一発で獲物を殺すようにしている。
今日の獲物は、ダンジョンになった山に出た化けイノシシである。
とてつもなく大きく全長は2mを超えるだろうか。
象のように長い鼻を持ち、人間の顔がついているのだ。
「どう考えても魔物だね、あれは……」
隣に膝をついて座っているラビ子がそう言う。
手には望遠鏡を持ち、遠くにいる化けイノシシを覗いている。
その視界を俺と共有しているのだ。他でもないラビ子自身の能力によって。
「ああ、一発で仕留めるぞ」
俺はラビ子の視界と、スコープで覗いた自分の視界を掛け合わせて、しっかりと獲物との距離を測る。使っている猟銃は、祖父の遺品。ダンジョン調査局に入った時に譲ってもらったものだ。
調査局の人間は、色々装備していても許されるのが楽だな。
一発で仕留めるのならば心臓か、頭部を狙うしかない。
しかしイノシシのたぐいは頭蓋骨が硬い。猟銃は古き良き──と言っていい傑物であるが、さすがに火力は心もとないし、手持ちの弾丸では頭蓋骨を貫通するようなものはなかった。
「となれば心臓部か……ラビ子、サーチしてくれ」
「了解、ゴロー!!」
ブォン、と俺の視界が青く光る。代わりにドクンドクンと脈打つ心臓が見えた。
ラビ子の能力は電磁エネルギー。いわゆる電力や磁力で出来そうなことは大抵なんでも出来る。
電気ウサギの獣人だからできることだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
さて、狙いは絞れたか。あとはこっちを向いてくれれば……。
よし、ここだ!!
タァアン、と小気味良くもおぞましい音が響き渡る。
一応、消音の類はつけているのだが、これが限界なのである。
化けイノシシはその場に崩れ落ちている。
見事に心臓に命中したのだ。
そしてそのまま塵のように消えていった。
「魔物ってまっとうな生き物じゃないんだよね……」
塵になり、残ったものは核となる小さな魔石のみ。これを回収する必要がある。
俺はツインテールに見える黄色い耳を俯かせているラビ子の頭を撫でてやった。
被っている耳当ても兼ねた帽子がちょっとばかり邪魔だ。
「そういう生態ってだけだろ?」
「そりゃあそうだけどさぁ~~~……てか頭勝手に撫でないで!」
「ははは、すまんすまん」
がぁっ、と顔を赤くして俺の手を払いフーッと威嚇するラビ子。
こいつ自分が魔物娘だからって、妙なところでへこまないでほしい。
「しかし食べられなくて残念だったな」
「私は何でも食べると思ってる? さすがに人面の魔物は食べたくないよ!!」
「このまえはキノコ食って腹壊してたし……」
俺がそう言うと、ラビ子は恥ずかしそうにもじもじとしだした。
一日中、腹を下している姿を見られたのがずいぶん恥ずかしかったらしい。
「あれは……お腹が減ったから……!!」
「だからって歩くキノコ食べるかぁ?」
なんでもかんでも拾い食しようとするのが、ラビ子のよくない癖だ。
ましてや二足キノコなんて食べるもんじゃない。毒がなくて良かったけれど。
「さて、最近ここらを荒らしていたヌシはこれで退治できたか?」
「そうだね。一旦、自動車に戻って連絡しようよ」
俺達は山を下り、山道にある駐車場まで降りてきた。ここにはワゴン車とトイレ、自販機などが置かれている。元々は山頂にある展望台へと繋がる道路だったが、現在では中腹から山頂にかけてダンジョン化しているこの山へ挑むための拠点となっていた。
俺はスマホを取り出し、局長に連絡する。
電話もいいが急ぎの用事でなければ、基本的にショートメールで連絡することになっている。
電波の届かないところにいることも多いからだ。
>@局長:ごくろうさま。早速だけど別の仕事だ。
そう言って局長が可愛らしいスタンプを送ってきた。
局長がいつもかわいがっているペンギンみたいなスタンプだ。
>@局長:近隣の町中に魔物が降りてきている。処断してくれ。
>ゴロー:了解。町中で猟銃は……。
>@局長:使えるわけがないでしょ。
バツマークを示したペンギンスタンプが送られてくる。
相手によっては、相当な無茶振りである。
「はぁ……」
銃への当たりはダンジョンが出現するようになった今でも厳しい。
ダンジョン内ならともかく、町中では使えないし -。
なにより民間の探索者には渡されていないのが現状だ。
ある意味で、俺達調査局の人間の特権と言って良かった。
「ラビ子、町中に魔物が出たんだってさ。退治に行くぞ」
「あれ? 町中だと猟銃は……」
俺が運転席に乗ると、ラビ子が助手席に座ってきた。
しかし俺の言葉にううん、と首を傾げる。
「使えない。警察を呼ばないといけないし、テンポが遅れる」
「つまり近距離系の武装でなんとかしろってことだよね……」
「ま、頑張るしかないだろう」
別に猟銃が使えなくてもやりようはある。
狙撃とは、銃だけでやるものではないのだ。
車で近隣の街まで行くと、既に何やら騒がしい。
どうやらコンビニに魔物が入り込んでしまったようだ。
俺が駐車場にワゴン車を止めると、店員が飛びついてきた。
「は、はやくなんとかしてくださいよぉ~~!!」
「落ち着いてください。どのような魔物でしたか?」
「ええと、緑色の猿みたいな……」
「ゴブリンだな。下がっていてください」
腰のナイフを引き抜き、片手にはバックラーを装備する。
そのままコンビニに入っていく俺に、恐る恐るという感じでラビ子がついてきた。
「うっひゃぁ~~、暴れてるよぉ~~」
ふむ、三匹のゴブリンが暴れているな。
俺はまず、持っていたナイフをカウンターにいるゴブリンに投擲。
「ぎゃっ!?」
鈍い声を出して、ゴブリンが倒れる。
それに勘付いたゴブリンがこちらに向かって、飛びかかってきた。
俺は片手のバックラーを構え、それを防御する。
そのままバックラーを振るって、外に打ち出した。
「えいっ!!」
その打ち出されたゴブリンに、持っていた杖の先端を突き刺すラビ子。
バチバチバチッ、と雷光が迸る。次の瞬間にはゴブリンの丸焼きが出来ていた。
「ぎゃぎゃっ……」
「逃がすかよ」
最後の一匹が驚いて、カウンター奥のスタッフルームへと入ろうとする。
しかしその前に俺はナイフを改めて投擲し、ゴブリンの頭部を串刺しにした。
連中が塵になって消える。ついで食べていたおにぎりがぼとぼとっ、と床に溢れた。
まだ消化されていなかったのだ。
「もったいない……」
ラビ子がそれを見て、呟く。
まったくどうなってるんだ、こいつはと思わんばかりである。
食い意地が張っている。結構な量普段から食わせているのに。
「一応、他に魔物がいないか調べておこう」
とりあえず調べたが、もう魔物はいなさそうだった。
ひとまずコンビニを出ると、従業員に状況を説明することになった。
と言っても俺は実動員。細かい説明などは局の事務員が対応するのが常だ。
俺は説明もそこそこに、調査局へと戻った。
当然、ゴブリンたちの魔石は回収しておいた。
「お疲れちゃん、今日はもう上がってくれていいよ~~」
調査局に戻ると、局長が椅子に座りながらそう労ってきた。
パソコンのキーボードを叩きながら、膝に座ったペンギンのようなものを顎で撫でている。
もじゃもじゃの髪、ヨレヨレのシャツ、目の下の隈……ろくに帰れていないんだろうな、うん。
「なんか手伝いましょうか?」
「ああ、これ僕の仕事だから大丈夫、大丈夫。そういえばまたSNSで死神とか言われてたね」
「ええ、まぁ、これぐらいなら……」
俺は調査局に入る前、魔物を殺したことがある。
当時は免許がなく、そこそこのニュースになったせいで”死神”などと揶揄されたりもした。
実際、今日の事件を見ていた野次馬がさっそくSNSに動画を上げているようだし。
変わらないなぁ。
「”コンビニでゴブリン虐殺”!!
魔物保護派がずいぶん口汚く罵っているけれど、
それ以外からは称賛よりってところかな」
そう言って、局長がSNSを見せてくれた。この人、仕事中にこんなもの見てんのか。
忙しそうだと思った俺の同情を返してほしい。しかしなるほど、SNSでは……。
>いや妥当だろ
>人襲ったらどうするんだ
>ゴブリンに人権を!! 死神は消えろ!!
>ゴブリンに人権とかないからwwww
>魔物娘にもないんだよなぁ……
>魔物娘には……あげろよ人権……
……なんて話になっている。
「メンタルやられてないよね。大丈夫?」
「望むところですよ。俺は世間のバッシングを見返すために、ここで働くことにしたんですから」
「ああ、期待しているよ」
局長は当時、ずいぶんお世話になった人である。
この調査局に入れたのも、彼のコネあってのものだ。
無礼な真似はしたくなかったし、期待に答えたいとも思った。
ともあれ、局の駐車場にある自動車へと戻ると、なにかあったのだとラビ子が悟ったような顔をした。コンビニに集まっていた野次馬も「あの死神……」とか「怖いわねぇ」とか言ってたしな。
「ゴローは立派にやってると思うよ」
「ああ、そうかい」
助手席に座っているラビ子がそう言って、俺の頭を撫でる。
ギリギリ背丈が足りなさそうに手を伸ばしていた。
「ゴローの頭、じょりじょりしてるよね」
「ほぼ丸坊主だからな」
信号機が変わるのを待ちながら、俺は今日倒した魔物のことを考える。
全員、一撃。しかし本当に苦しまずに逝ったのか。
俺の自己満足じゃあないのか。
答えはわからないままである。
ふと、少し前のスーパーの看板に気づく。
そういえば夕食は何にしようかな。同じことをラビ子も考えたようで……。
「そういえばゴロー、夕飯はどうする?」
「う~~ん、オムライスとかどうだ?」
「私、ゴローのオムライス大好きなんだよなぁ」
もちろんラビ子の好物ぐらいは把握している。
だからオムライスと言ったのだ。
「じゃあ帰ったら作るか」
「やったぁ!!」
そんなふうに話している間に、信号機の色は変わっていく。
再び、自動車が走り出した。
■ゴロー ■ムチムチの二十代。かなりムチムチとマッチョで背も高い。
■ラビ子 ■電気ウサギの獣人である。金髪ツインテで可愛い
■局長 ■お調子者。ペンギンを連れている。
■化けイノシシ ■顔が怖い
■二足キノコ ■見た目には可愛いが増え方がエグい
■ゴブリン ■緑色の猿みたいな生き物