現代ダンジョンの死神は魔物娘を射止めたい 作:ワイトもそう思います
スーパーに着いた俺達。
照明に明るく照らされたそこには様々な人達が行き来している。
食品売り場に行くと、さっそく卵のパックとケチャップ、そしてウインナーをカゴにぶちこんだ。オムライスは基本的にこれだけあれば問題ないから助かる。あとは一応サラダでも買っておこうか……。などと躊躇していたら、ラビ子がポテトチップスにコーラを突っ込んできた。
チョコレートの袋まである。
「なんだこれは」
「お菓子! 今日頑張ったんだからいいでしょ?」
魔物娘は多少食ったところで太りはしないし、免疫も人間を参照している。
なので、これらのお菓子を食わせても別に構わないのだが。
…………まぁ、良いか。今日は結構頑張っていたしな。
「いいぜ。買ってやるよ」
「やりぃ~~! 今日は大盤振る舞いだね! 二階の家電屋でゲームも買って良い?」
「甘えるな……!」
さすがに給料が良いとはいえ、二人暮らしの上、ラビ子には給料が出ない。
魔物娘だから、俺が指揮する備品扱いなのだ。
将来を考えると、多少は節約して暮らさないとな……。
この職業、いつ怪我なりなんなりして引退するかもわからないし。
「ちぇっ、あ、じゃあこれも買って良い? ゲームキャラのガチャチョコ」
「買ったらそのままだろ……」
「コレクションするんだもん!!」
ふにふに言いながら、俺の裾を掴んでくるラビ子。
こういう態度に甘い俺は、結局ガチャチョコを買ってしまった。
しかも三つも。一個三百円もするのにな。
そのまま三階の駐車場に戻り、自動車に乗る。
あとは帰ってサブスクに上がってた新作映画でも見ることにしよう。
「むむむ……」
ラビ子は家につくまで我慢できなかったのか、フィギュアの箱を開けている。
どうやら三つとも同じだったようで、席の前に並べて訝しい顔をしていた。
しばらくすると、住んでいるマンションに着いた。
門から地下の駐車場に降りて、そのままエレベーターで中に入る形式だ。
それ相応にセキュリティがしっかりしているが、これは調査局指定の寮だからだ。
エレベーターに乗って、自分の部屋へと向かっていると、ピロン、と通知音が鳴った。
局長からのショートメッセージである。
>ゴロー ありがとうございます
なるほど、URLには俺の裾をラビ子が掴んでいる様が映っている。
仕事終わりに浮かれていて、周囲の警戒を怠っていたな。
>魔物は殺すのに魔物娘とは仲良くしてんの?
>醜いゴブリンはダメで可愛い魔物娘は良いんですかぁ~~?
>なんでもいい。リア充羨まし死刑
「…………荒れてるな、SNS」
名義を公開してやっていなくて良かった。
調査局の公式アカウントは職員を盗撮するのは違法だとアナウンスを出し、訴訟などを匂わせていた。ちなみにおそらく局長が動かしている。それぐらい人に任せればいいのに……。
「なんだよ~~そんなの気にしちゃダメダメ!」
バシッ、とラビ子が俺のスマホを取り上げて隠してしまった。
べー、とイタズラげに舌を出している。
「……いや、でも世の中の動向は見とかなきゃいけないだろ」
「見たってどうせ悪口しか書いてないでしょ!」
「まぁ、そりゃそうだ」
エレベーターが階に着いたので、廊下を歩いて部屋に戻る。
カードキーを使って開く、今どきの電子ロックだ。
「ただいま~~!!」
「はい、おかえり」
部屋は2LDK。キッチンとダイニング、それから部屋が二つだ。
とりあえず、二人暮らしをする分には困っていない。
調度品も、ソファにテレビ、冷蔵庫に電子レンジ……。
まぁ一通りに生活に必要なものは揃っている。
そんなリビングに置いてある人を駄目にするタイプのソファクッションに飛び込むラビ子。
そのままゴロゴロとし始めた。
「お腹すいた~~。ゴロー、はやくオムライス作ってよ~~」
「はいはい」
言われた通り、そのままキッチンに入る。
オムライスなんて簡単だ。具材を炒めて、チキンライスを作る。
それを卵で丸めて……よし!!! 今日も破れたオムライスの出来上がりである。
……まぁ、味の方は変わらないから問題ないはずだ。
それを二人分作って……。
「ほらよ、出来たぞ」
「わ~~い、いただきます!!」
手を合わせてから、ラビ子がオムライスにがっつく。
ラビ子は健啖家なので、結構な量作ってやった。
「うん、美味しいよゴロー!」
「そりゃ良かった」
俺もひとくち食べてみる。
いつもの味と大して変わんない。
別段、飛び上がるほど美味しくもない家庭の味ってやつだ。
でも、ラビ子は好きだと言ってくれている。
…………だったら、まぁいいのかな。
食べながらリモコンを操作して、サブスクを起動した。
今どきは普通のテレビでも、サブスクが見れる機材があるから助かっている。
見るテレビは、最近流行りのサスペンスドラマ。
主人公が犯人を追い詰めるのが痛快なやつだ。
ラビ子とそれを眺めながら、オムライスを食べ終わる。
腹膨れると大体満足したのか、ラビ子はそのまま眠ってしまった。
「おい、そんな寝方だと牛になるぞ」
「すぅ、ぐぅ、すぅ……」
明日も仕事があるんだがな……。
まぁ、シャワーは朝起きたら浴びさせればいいか。
担いでベッドに連れていき、布団をかけてやった。
俺はそのままシャワーを浴び、自分のベッドに向かうと一日を終える。
妙に静まり返った部屋が少しだけ、悲しい気持ちにさせたのだろう。
俺は昔の夢を見た。
「ふーっ!!」
「じいちゃん、これタヌキじゃないと思うよ」
「なんと。じゃあ獣医でも呼ぶか」
すぐに祖父は黒電話で獣医に連絡を取った。
しかし駆けつけた獣医は首を振り、困ったような表情をするだけだった。
「宇佐山さん、これは獣混じりですわ」
「獣混じりぃ?」
「どこぞの夫婦が山に捨てたのでしょうな」
実際、獣医がぽやぽやの体毛を剃ると人間の赤子のように見えた。
しかしウサギのように長い垂れ耳はついたままで、尻には丸い尻尾もある。
「んにゃあ、どうしょうねぇゴローちゃん」
「うちで育てようよ」
俺の一言に祖父は笑って「そうすんべ」と答えてくれた。
面倒な手続きも全部祖父がやってくれたのだ。
その子は祖父の家で育てられることになったのだった。
名前は
でも名前を呼ぶのはちょっと恥ずかしくて、ラビ子って呼んでいた。
ラビ子は魔物娘だから学校に行くことも出来ない。
この世界はまだ、魔物娘を人種として認定していなかった。
人間によく似た魔物も一定数いるのが、原因の一つでもあった。
当然、ラビ子に友達など出来るわけもなく……。
だからか、俺とラビ子は何をするにしても一緒で、よく遊んでいた。
「私、大きくなったらゴローと結婚するね」
……などと、それなりに成長して、人語を解する頃に言っていたっけ。
その頃は本当に幼稚園児みたいな背丈で可愛かった。いや、今も可愛いけれど。
俺はクソガキだったから
「は、はぁ!? バカじゃねーの!?」
……なんて返していたけど。
今ならばなんて言うだろうか。
ともあれ俺とラビ子は中学に入っても、高校に入っても……。
何をするにしても一緒だった。
薄々、ラビ子が民衆に馴染めないこともわかっていた。
皆、怯えるか、あるいは好奇の目を見せるかだったからだ。
だけれども、俺とラビ子の間には、そんなこと関係なかった。
祖父が突然死んでしまうまでは──。
「ゴロー、ラビ子、隠れとけ」
その日は、祖父とともに山の麓にあるホームセンターにやってきていた。
ホームセンターに突然ダンジョンが発生し、不運にもヌシが現れたのだ。
それは、三つの頭を持った怪物──ケルベロスだった。二mは越えようかという巨大さで、ただでさえ大きいホームセンターの天井に差し掛かるほどにはデカかった。
一方の祖父は猟銃など持ってきていない。
代わりにホームセンターにはいろいろな武器があった。
近くにあった刺股を構える祖父。
それにマジックテープで、鉈を固定したのである。
「か、勝てるわけないよ.! どうしよ~~!」
だがそれでも彼我の戦力差は絶対。
俺はカウンターに緊急時のショットガンがあったことを思い出した。
それを祖父に渡せば、もしかすると倒せるかもしれない。
「ラビ子、カウンターのショットガンを取りに行ってるから隠れてろ!!」
急いでカウンターまで向かう。
案の定、ガラスのボックスにそれは入っていた。緊急時だ。警報がなるのも無視して、それを叩き割る。中にあるショットガンと弾を手に取ると、そのまま先程の地点へと走った。
「い、いやぁあああああああああああああああああ!!」
戻ってみると、祖父が頭から貪り食われていた。
時間にして、数十秒もなかっただろう。その一瞬のうちに、祖父は敗北したのだ。
魔物が人間に勝てるわけがない。俺はそれを思い知りながらも、ショットガンに弾丸を込めた。
ラビ子が腰を抜かしている。次に襲われるのはラビ子だ。
「おい、化物!! こっちだ!!」
しかしショットガン一つでこいつを倒せそうにはない。
どうするか、とっさの頭で考えて──俺は隣にあったガスボンベを見つけた。
「ラビ子、耳塞いで物陰に隠れてろ!!」
それを包みごと、魔物に向かって投げつける。
ちょうどぶつかったところで、俺はそのガスボンベを撃ち抜いた。
ドォオオオン、という爆音。
それが至近距離で響いたのが理由なのか、それとも爆発のダメージか。
ケルベロスはその場に崩れ落ちたのである。
「はぁ……はぁ……大丈夫か、ラビ子」
「ううっ、じいちゃんが……じいちゃんがぁ……!」
「……とにかく今は逃げよう」
これが最初の俺の一撃必殺だった。
すぐさまラビ子を担いでホームセンターから脱出すると、すぐに専門の人間がやってきた。
彼らが調査局であることを、その時はまだ知る由もなかった。
その日の午後、俺は事情聴取がてら調査局に勾留された。
「お祖父様がなくなったことで、山にあるダンジョンは土地ごと接収されます」
「そ、そんな横暴な!!」
「では貴方が管理しますか?」
無理に決まっている。俺は静かにうなだれた。
しかし取り調べをしている女性はそのままとんでもないことを言い始めた。
「お祖父様が管理していたあの獣人に関しても、こちらで引き取ります」
「なっ、ラビ子も奪うってのかよ!!」
「規則ですので……」
俺が立ち上がり、わなわなと拳を握りしめていると──。
隣に座っているおっさんが何やら言い始めた。
「宇佐山吾郎くん、君は今年で中学を卒業するらしいね」
「ええ、一応……そろそろ進路決めなきゃと思ってて」
「どうだろう? 特例で我がダンジョン調査局に入らないかい?」
「ええ!?」
驚いたのは俺ではなく、隣の女性だった。
それほどまでに稀有な話だったらしい。
「うちは高校生でもバイトで何人か働いているし──君が今後、ダンジョンや獣人と関わっていくのであれば、悪い就職先じゃないと思うけれどね」
「そうすれば……ラビ子と離れなくても済むんですか?」
「ああ、約束しよう」
「わかりました、入ります」
俺は考える間もなく、即決した。
死んだ祖父だって、そうするべきだと言ってくれると思った。
あの家は、祖父とラビ子、そしてダンジョンは俺の全てだったのだ。
後に俺をスカウトしたおっさんが局長であること。
そして俺がケルベロスを倒したから勧誘したことを知った。
祖父とも浅からぬ付き合いだったそうだ。
なにはともあれ──。
そうして俺はラビ子とともにダンジョン調査局で働くことになったのだった。
■祖父 ■宇佐山士郎。優秀なマタギだったが、流石に人外ではない。
■ケルベロス ■三つ首の狼。超デカくて超強い。
■ガチャチョコ ■カプセルがチョコ型になっている。中には質の良いフィギュアが。