タイムスリップしたら幼馴染の距離感がバグった件   作:大麦

2 / 2
評価、感想、お気に入りありがとうございます!大変励みになります!


第2話

 

 テーブルの上に開いた教科書からノートに数式を書き写し、省略しても問題ないと判断した場所以外は途中式も書いて解いていく。

 

 なんてことのない反復作業。

 課題として提示された部分がその単元の基礎の部分だったこともあり、この調子なら三十分とかからずに終わる。

 

 

「……」

 

 

 

 俺の通ってる私立まことみらい学園は、設備点検やら諸々の理由で高等部だけ今日は早帰り。おかげで、中等部に通うみくるとあんなはまだ帰ってきておらず、基本的にあんなと一緒にいるポチタンもまだいない。課題を片付けるには打って付けの静かな環境なのだが……

 

 ─────残り数問、というところでペンを走らせる手を止める。

 

 

「…………どうしたもんかな」

 

 

 漏れ出た言葉は、もちろんあんなに関してのもの。

 問題を解いている間も、ずっとあんなにどう向き合うべきかという考えが止まらなかった。

 

 あんなのことで悩んでは、その度にすぐ煮詰まる。

 

 ここ最近は、ずっとそんな調子なので他のことに手を付けてもロクに集中できない。

 幸いなのは、あれ以降あんなからの過剰な接触はないことだけど、それも嵐の前の静けさを感じさせるもので心穏やかに過ごせているとは言い難い。

 

 

「……やーめた。休憩しよ」

 

 

 気分転換もかねて棚に収納されたティーポットと紅茶を取り出す。みくるによると、『名探偵である以上、コーヒーと紅茶は必ず欠かせない』とのことで、この事務所には緑茶もコーヒーも揃えられている。

 今日はなんとなく紅茶の気分。

 

 本当なら事務所の裏手にある自室でのんびりとしたいところだけど、今は事務所の留守を預かる身でもあるので勝手に奥に引っ込む訳にはいかない。

 

 俺のこの事務所での立ち位置は、なんとも微妙なもの。

 メンバーにカウントされてはいるが、やることは基本的に事務作業を手伝うか依頼人が来たときのお茶出しのみ。依頼に関することは、迷子のペット探しのような人手が少しでも多く必要になるようなもの以外は基本的にノータッチ。それも、プリキュアでもないのにこの事務所に住まわせてもらっているので何かやろうと思ってもやれることがそれくらいしかなかったというだけだ。

 

 

「ただいまー…あれ、ほたるさんだけ?」

 

「おかえり、みくる。ジェット先輩は発明に使う材料の買い出し。そっちこそ、あんなは?」

 

 

 お湯が沸くのを待っていると、あんなの相棒でもある小林みくるが帰ってきて台所に顔を出しにきた。

 あんなとみくるは、二人とも同じクラスで帰る場所も同じであることから、二人揃って帰ってくることが多いらしいけど珍しいことに今日はみくる一人だった。…まあ、高等部の俺の方が基本的に帰るのは遅いので本人たちとジェット先輩から聞いた話でしかないのだが。

 

 ここだけの話、この事務所にインスタントではない紅茶とコーヒーが常備されるようになったのもみくるがきっかけ。『名探偵なら紅茶かコーヒーのどちらかは絶対欠かせません!』とはみくるの談。

 

 

「どうしても個人的な買い物がしたいらしくて……先に帰ってていいよって」

 

「そっか…………みくるも飲む?帰りに買ってきたミルフィーユもあるけど」

 

「あっ!いただきます!」

 

 

 相棒(あんな)と帰れなかったのが悲しかったのか、心なしか落ち込んでるみくるをお茶に誘ってみたら、パッと明るい笑みを浮かべた。

 人懐っこいところもそうだが、変なところで鋭かったり……みくるのそういうところは、あんなにとてもよく似ている。

 

 ─────だからこそ、みくるがどんなことを考えてるのかもある程度はわかってしまう。

 もちろん、あんなに対してのものと比べたらそこまで細かく読み取れるわけではないが。

 

 

「なにかあった?」

 

「…分かります?」

 

「なんか悩んでるな〜、くらいには」

 

 

 みくるがおもむろに顔を伏せてティーカップを置いた。

 顔を上げて、こちらをじっと見つめるみくるの顔を見て、ようやく彼女が何に悩んでいるのかが分かった。

 

 

「実は…わたし、ちゃんとあんなの相棒としてやれてるのかなって……この前の依頼でもそんなことばっかり考えてたらあんなに迷惑かけちゃって」

 

 

 後ろ向きなことばっか考えて、それが行動にも影響を及ぼしてしまって…そんな自分が嫌になったときの顔。俺も先日からあんなのことを考えては味わっている…。

 

 ─────つまるところ、自己嫌悪だ。

 

 

「あんなとほたるさんのことを未来に返すなんて言っておきながら…ほたるさんに頼ってばっかで……あんなだって、わたしよりもほたるさんの方が─────」

 

「ストップ」

 

 

 言葉というのは存外バカにできない。下手に口に出してしまうと、本人の意思やモチベーションにも影響を与えて実際にそうなってしまいかねないから。

 

 とりあえず、みくるの言いたいことは大体分かった。その上で個人的な意見を言わせてもらうと…

 

 

「あんなはみくるのことかなり信頼してると思うけど」

 

「………そう、ですか?」

 

 

 最近はちょっと不安定だが、それでも十年近く一緒に過ごしてきた相手だ。あんなの根っこの部分が変わっていないことと、みくるに対しての普段の様子を見ていれば心を許していることも分かる。あんなは、戦闘においても探偵としても、相棒としてみくるのことを頼っている?

 

 

「名探偵プリキュアの二人のうち一人…キュアミスティックはみくるで、あんなの探偵としての相棒もみくる。これに関してはあんなも同じ風に考えてるはずだよ」

 

「でも……あんなは……」

 

「『あんなはみくるよりも俺を頼ってる』って?………それは、ちょっと違うかな。俺が頼られてるのはあくまでも未来に関してだけだし。事件に関係することならみくるの方が頼られてるよ」

 

 

 生活に関しては…みくるもあんなも割とどっこいどっこいなので、同居人で家事も一通りできる俺にお鉢が回ってくるのは仕方ない。

 これ以外で、あんなからみくるに対しての隠し事は(主に恋愛的な面で)あるにはあるけど、アレに関してはあんなと俺との個人的なやり取りであって、みくるに話してないからといってみくるのことを頼っていないというわけではない。

 

 

「それと…名探偵プリキュアはみくるの夢でもあったんでしょ?それなら、夢を叶えた自分のことを否定するのはやめた方がいい」

 

「……はい!」

 

 

 みくるの顔は、この話を切り出したときから見せていたものから、普段からよく見せている自信に溢れたものへと戻っていた。

 俺は俺から見たことを言っただけなので、みくるが吹っ切れたのはみくる自身の芯の強さによるものだ。とりあえず、もうしばらくはこうしてお茶でも飲んでのんびりしていよう。……やっぱり、こういう所もみくるはあんなとよく似ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事が起きたのは、その日の夜のことだった。

 

 自室の机で、残った課題を片付ける。強いて言うならば、ベッドの上に風呂上がりのあんなが寝転がっているという事実が集中を乱してくるが、このくらいなら勉強の邪魔にはならないし問題ない。

 

 

「……ねぇ、みくるとどんな話ししてたの?」

 

 

 課題が終わるタイミングを見計らっていたのか、ノートと教科書を閉じたタイミングでベッドのある方向から声が聞こえた。

 

 

「どんなって言われても…大したことない話だよ」

 

「嘘」

 

 

  パタパタと振っていた脚を落ち着かせ、ジェット先輩お手製の充電器を繋いだスマホでアルバムを眺めていたあんなが、顔だけをこちらに向けている。

 

 翡翠色の瞳がこちらをじっと見つめてくる。

 

 嘘は通じないし、できれば誤魔化すこともしたくないが…それはそれこれはこれ。

 いくらあんな関連のことだとはいえ、みくるがああしてあんなに隠していた以上、勝手に言うわけにはいかない。

 

 

「ごめん……言いたくない。みくるのプライバシーにも関わるから」

 

「……ふふっ、いいよ。ほたるくんならそう言うと思った」

 

 

 その答えがちょっと意外で毒気を抜かれた感覚に陥った。てっきり『隠し事は無し』みたいなことを言ってくるのものだと思っていたのだけど…。

 

 あんなの返答に意識を割きすぎていたのが命取り。あんなにとって、俺のそんな状態など隙でしかなかったのだろう。

 

 

「でも、覚えておいてね」

 

 

 まるで登下校をしているときかのように、ごく自然な動作で近付いてきたあんなは、自分の前で無防備な姿を晒したことを咎めるように俺の首筋に唇を押し付けた。数瞬遅れて、針で刺されたような痛みが僅かにだが走った。

 

 突然のことに、思考が止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほたるくんはわたしのものだから」

 

「……」

 

 

 首筋から口を離したあんなは、それだけ言い残して自分の部屋へと戻って行った。

 

 

「…っ!」

 

 

 ようやく正気を取り戻し、とりあえず近くにあったスマホで首筋を確認してみれば、そこにあったのはあんなの持ち物であることを証明するかのような赤い印(キスマーク)だった。




文代ほたる
 キュアット探偵事務所の家事全般担当兼事務員兼メンケア担当。一人でいる時以外は、基本的になにかしらの作業をしてるため探偵事務所内をあっちに行ったりこっちに来たりしてる。
 プリキュアの世界じゃ滅多に起きないけど殺人事件とかガチで現場を見せられないタイプの事件が起きたらあんなとみくるは意地でも待機させて自分一人でなんとかしようとする。



明智あんな
 みくるのことは相棒としてきちんと信頼してる。それはそれとして幼馴染に対しての独占欲はあるので場合によっては嫉妬する。相棒だけが娶られるのは許せないけど自分ごとまとめてならまだセーフだとは思ってる。
 自分から手を出すよりも向こうから手を出させた方が効果的なので今はまだ待ちの場面。



小林みくる
 脳破壊されてる途中。
 悪しからずは思ってる。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

名探偵プリキュア! 〜A Memoir White〜(作者:秋葉ばっこ)(原作:名探偵プリキュア!)

 まことみらい市で暮らす少年、工藤(クドウ)新二(シンジ)はバイト生活に明け暮れていた。▼ なんてことはない日常を過ごす傍ら、名探偵プリキュアと怪盗団ファントムの戦いに巻き込まれ、ひょんなことから彼女たちの『おとも妖精』になり行動を共にする羽目に。▼「こんな俺にも、決して譲れないモノってのがあるんだよ」▼ 2027年の未来からタイムスリップしてきたという、明…


総合評価:441/評価:8.5/連載:27話/更新日時:2026年06月16日(火) 20:00 小説情報

Edge of Heart(作者:星空エクレア)(原作:名探偵プリキュア!)

 空から落ちてきた流れ星の少年は、プリキュアでありながら怪盗をしている不思議な少女と出会い、やがて世界の真実と失われた記憶の謎を巡る旅へと出る───▼ 【注意】▼ ・本作には擬カビ要素が含まれますが、カービィ本人ではございません。▼ ・度々出てくる考察要素。▼ ・オリジナル回も入ります。


総合評価:254/評価:8.8/連載:7話/更新日時:2026年06月07日(日) 00:01 小説情報

名探偵プリキュア! 〜そよ風が幸福を運ぶ〜(作者:ゆぐゆぐ)(原作:名探偵プリキュア!)

久遠祥太は、まことみらい学園中等部に所属する中学教師。ただそれは表向きの姿。▼裏ではキュアット探偵事務所に所属する、自警団兼探偵代理。陰で悪党を退治し、警察等の手助けをする活動のほか、大切なものを失って困っている人達を助ける活動など幅広く行なっている。「怪盗団ファントム」が再び姿を現すまでは、そんな毎日を送っていた。▼怪盗団が現れたと同時期、祥太は名探偵を目…


総合評価:14/評価:-.--/連載:10話/更新日時:2026年05月09日(土) 19:00 小説情報

名探偵と怪盗、そして番長(作者:のぞむ)(原作:名探偵プリキュア!)

1年間過ごした八十稲羽から地元に帰ろうとしていた鳴上悠。そんな彼がどういう訳か、1999年のまことみらい市に飛ばされてしまったらしい。


総合評価:497/評価:8.6/連載:9話/更新日時:2026年06月19日(金) 20:00 小説情報

個性『天の聖杯』!!??(作者:マガラナイ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼個性発現したら、なんかエッチなお姉さん出てきた。▼……いや、俺の個性、刺激強すぎないか!?▼※▼本作品は、『ヒロアカ』と『ゼノブレイド2』のクロスオーバー小説です。▼とはいえ、ゼノブレ2未履修でも、スマブラとかでホムヒカのビジュさえ知っていれば多分読めます。


総合評価:1951/評価:8.45/連載:8話/更新日時:2026年06月11日(木) 15:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>