タイムスリップしたら幼馴染の距離感がバグった件   作:大麦

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気付いたらバーに色付いてました!評価も感想もお気に入りも本当にありがとうございます!


あんなちゃんからの矢印を加速させる回です。


第3話

 

 

 文代ほたるの朝は早い。

 

 理由は至極単純。

 自分を入れて計四人のキュアット探偵事務所の住人の朝食を作らなければいけないからだ。そのためにも、三人が目を覚ます前から起きて黙々と朝食の準備に勤しむ。稀に、朝食を作っていると匂いに釣られて出てきた徹夜明けのジェットと会話をすることもあるが今は関係のない話。

 

 今日の彼も、例に漏れず探偵事務所の誰よりも早く起きて活動を開始していた…が、今朝は朝食を作る前にどうしてもやっておかねばならないことがあった。

 

 

「救急箱…どこだったっけ。…事務所の方かな……」

 

 

 ほたるとみくるとあんな(とポチタン)の自室がある離れの共有スペースをできるだけ音を立てないように探して、目的の物がないことを確認してから事務所へと歩いていく。

 

 

「…………あったあった」

 

 

 探偵事務所の中に置いてあった救急箱から絆創膏を取り出して自室へと戻り、絆創膏を貼る角度、向き、着る服の種類によってどのくらい首元が見えなくなるか等……慎重に状況を図りながら鏡の中の自分とにらめっこを始める。

 

 

(絆創膏の貼り方を工夫すれば……うん、襟ついてるやつなら絆創膏ごと隠せるかな)

 

 

 現在の彼は、つい昨夜にあんなによって付けられた首に残った痕を隠すために思考を走らせている真っ最中。

 

 昨夜は、あの一件の後に半ば自棄になってそのまま眠りについてしまったが、みくるたちに見られてしまっては誤魔化しが効かなくなることに起きた瞬間気付き、今に至る。

 1999年に来てからというもの、自分の行いが裏目に出ることの多かったほたるだが、今日に限った話をするならば早起きを習慣付けていた過去の自分を褒めてやりたい気分であった。

 

 絆創膏を貼り、シャツの上からカーディガンを羽織る。

 襟のおかげで首に残った痕が完全に隠れたことを確認して─────

 

 

「……よし!」

 

 

 ようやく、彼の一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、昼下がりのことだった。

 

 

『昨夜、宝生美術館のオーナー宝生ちなみ氏のもとに、怪盗団ファントムを名乗る人物から予告状が届きました』

 

 

 既にジェット先輩は彼の居城たる研究室に引っ込んで発明に勤しんでいる。

 今日は休日ということもあり依頼人の出入りもほとんどない。みくるとあんなとポチタンに誘われて俺も含めて四人で団欒をしていたところで、テレビから聞こえてきた内容が否応なしにその場にいる全員の意識を集めた。

 

 

『予告状には、「明日、夜8時『星明かりのプリンセス』をいただく。」と書かれており、美術館は警備員の増員や見回りの強化などを実施するとコメントしています』

 

 

 アナウンサーが喋る内容と共に映し出されたのは、『星明かりのプリンセス』という名前の首飾りとそれに並んで立つ宝生美術館オーナー。オーナーの手には、確かに『怪盗団ファントム』と書かれた予告状が。

 

 怪盗団ファントム……今のところ、俺たちがファントムについて知っているのは、なにかの目的のためにマコトジュエルを集めているということだけ。

 ポチタンがマコトジュエルを集めて会話できるようになるくらい成長する…それが、今の俺たちに残された2027年に帰るための唯一の手がかりである以上、マコトジュエルを集める過程での対立は避けられない。

 

 あんなとみくるにとっては言わずもがな、俺にとってもどうにかしたい集団ではあるけど……現状ではどうにもできないのがもどかしい。

 

 

「よし!宝生美術館に行こう!怪盗団ファントムから首飾りを守るためにも!」

 

「オッケー。夕飯どうする?外で食べてくるなら前もって連絡してくれると助かるんだけど」

 

「「えっ」」

「…えっ?」

 

 

 信じられないものでも見たかのような目を向けられて、ようやく頭数に俺も入っていることに気付いた。

 確かに首飾りを警護するとなれば、信頼できる人物が多いに越したことはい。しかし、今回は探偵事務所に持ち込まれた依頼でなければ、場所も規模もこれまでとは一線を画す。

 

 

 ならば、俺はいつも通り留守番した方がいいのでは…と思ったのだが─────

 

 

 ……まあ、みくるだけでなくあんなからも着いてくるように頼まれたら断るのなど到底無理な話だった。

 

 

 アポなしでいきなり押しかける形になってしまったが、それについては元からあまり心配していなかった。

 そもそも、このまことみらい市において怪盗団ファントムとキュアット探偵事務所は、存在そのものが隠されているわけではない。秘密なのは、あんなとみくるの二人がプリキュアに変身することと妖精が存在すること、それからハンニンダーという存在についてのみ。

 結婚式場やパティスリーで起きた事件についても、『ファントムという怪盗団が起こした事件を、キュアット探偵事務所が解決した』という噂話のような形で街に出回っていることも確認済みだ。

 

 認知度は決して高いとは言えないが、一部の人間の間ではファントムキラーのような知られ方をしている二人を、受付で無下にして追い返すということは考えにくい。

 

 

「じゃあ、俺は先にあっちから回って色々と見てくるから」

 

 

 美術館のオーナーに話を通して首飾りの警護に加わらせてもらったあと、オーナーに連れられて首飾りの盗難対策とセキュリティについての説明を受けてからあんなとみくるとは分かれて別行動を始めた。

 

 ひとまず、パンフレットを流し見しながら周囲の状況を確認してみる。

 現在俺がいる場所は、首飾りのある特別展示室とはフロアも方向も別のはずなのに…やけに人が多い。この時代の地理を覚えるためにも、タイムスリップしてからすぐに一度来たこともあったがそのときはここまで人は多くなかった。

 

 

「首飾り見た?中央の宝石がキラキラ輝いてて…怪盗団の気持ちもちょっと分かっちゃうかも」

 

「お父さん、かいとう?に狙われてるお宝見に行こうよ!早くしないととられちゃうかも!!」

 

 

 ……なるほど、予告状を逆に集客に使ったのか。その結果、首飾りだけでなく他の展示を見に来る人も増えてると。

 パンフレットによると、ここのオーナーは、元はただのコレクターであったらしい。商魂たくましいというかなんというか…まあ、それだけの度量のある傑物でなければ一介のコレクターから美術館のオーナーとして大成することは難しいということなのだろう。

 

 本当なら、以前は見て回れなかったところも含めて美術館の中をのんびりと見て回りたいところだけど……今の俺は二人の名探偵の助手。やるべきことをやらなければ。

 

 まず、オーナーから説明を受けた星明かりのプリンセスの警備について。

 オーナーがお墨付きを与えている優秀な警備員…それも、俺とあんなとみくる程度なら余裕で包囲できる程に数が揃えられている。

 特別展示室内と入口だけでなく、館内全体に張り巡らされた防犯カメラによる二十四時間体勢の徹底した監視。

 加えて、首飾りを収めているのは象が踏んでも壊れないレベルの耐久性を持つ強化ガラスによるガラスケース…それも、オーナーが顔認証をしない限りは決して開かないという。

 

 ここまで手の込んだ警備は2027年で探してみても決して多くはないと思う。

 問題は、怪盗団が怪力で無理やりガラスケースを破壊した時のことだけど……そこまで来たらもう普通の人の手には負えないのであんなとみくるに頑張ってもらうしかない。

 

 

「……うん。こっちはもう手の付けようがないな」

 

 

 予告された時間まで残り数時間。警備そのものに手を加えるには少なすぎる。

 一見、盗み出すことはできないような厳重な警備でも、予告状を出したということは向こうには盗み出す手立てがあるということ。

 

 ならばやるべきは─────

 

 

「……予想される逃走経路の割り出し」

 

 

 窓は、廊下にいくつか付いているだけで、日光による展示品の劣化を防ぐためか展示室内には付いていない。窓を割って逃げることも出来なくはないだろうけど、目立ちすぎる。

 美術館の出入口付近には、予告状の発表による影響か大量に集まった報道陣。そもそも、犯行予告時刻は美術館の閉館後。こちらもまた、出るにしても入るにしても目立ちすぎる。……ただ、人混みに紛れて逃げるという点でいえば、ここ以上に適している場所はない。なんらかの手段で美術館から出て、それからこの人混みに紛れるつもりなのだろうか。

 換気扇や通気口といった、建物である以上必ず欠かせない構造は…特別展示室と直接繋がっている場所はない。

 ならば、残るは──────

 

 

 とにかく、思い当たる場所を探してはあんなたちと情報共有をしていると、気付けば犯行予告時刻の20時になる十分前になっていた。

 特別展示室に戻ってみれば、既にそこにはあんなもみくるもおり、オーナーや警備員も揃っている。

 

 

「あと一分…」

 

 

 みくるの声が、特別展示室内に響いた。

 決して大きな声を出した訳ではないが、それでもよく聞こえたのは、一人一人が衣擦れの音にすら気を使ってほとんど動きがないようにしているからだろう。

 

 あんなとみくると、それから宝生オーナー。あの三人が星明かりのプリンセスの近くにいるのを、少し離れた位置から見れる場所に陣取り、予定の時刻を待つ。

 

 ……色々と調べてみても、考えは変わらなかった。

 確かに未然に防ぐことができるのならばそれが一番だが、向こうに確実に盗める自信があって警備に口を挟める余地はない。ならば、How done it.(手口)は重視するべきでない。

 

 勝負は、逃走を如何に防ぐか。

 

 20時…ファントムが予告した時刻になった─────瞬間、

 

 

「停電!?」

 

 

 視界が暗転した。

 

 

「すぐに非常電源に切り替わります!」

 

 

 係員の呼びかけ通り、十秒も経たずに明るさを取り戻した特別展示室内で、俺も含めた全員の視線が星明かりのプリンセスの元へと向かう。

 

 ケースには、ファントムのロゴの描かれた一枚のカードが貼られており、それを剥がしたあんながカードに書かれているのであろう文章を読み上げる。

 

 

「『怪盗団ファントム参上!『星明かりのプリンセス』はすり替えられたニセモノ。あしからず。』……」

 

「なんですって〜っ!?たったたた、大変!!」

 

「…………っ!ダメ、罠です!偽物だと思わせ、確認のために鍵を開けさせる……でも、中身は本物!」

 

「─────その通り」

 

 

 みくるの言葉で、ようやく手口が分かった。

 ……既に手遅れ。もっと早くに気付けていればやりようはあったのに…今の今までこんな古典的な方法を見落として、逃走を防ぐという後のない方法に賭けていた自分に悲しくなってくる。

 

 ケースを解錠しようとするオーナーへ呼びかけるみくると、みくるたちと星明かりのプリンセスとの間に割り込む人影…恐らくは犯人。服装からして、警備員に扮していたのだろう。

 

 

「鍵を開けた瞬間にケースの中身を貰う…古典的なトリック」

 

 

 種明かしをした犯人は煙玉のようなものを地面に叩き付けて、次の瞬間には特別展示室から消えていた

 

 ……気を取り直そう。

 …俺にとっての勝負はここからだ。

 

 

「みくる!ほたるくん!」

 

「待って!…下は逃げるには不向き…たぶん、犯人は屋上に向かった!だから皆で─────」

 

「遮るようで申し訳ないけど…屋上は俺一人で行かせて欲しい」

 

 

 ギョッとした顔のみくると、明らかに動揺したあんな。

 当然の反応だ。相手はファントムで、この先は何が起きるか分からない。そんな場所に戦う能力を持たない人間を一人で行かせるというのは、あまりにも危険すぎる。

 

 

「……作戦も…一応あるにはあるんだ。とにかく俺のことを信頼して…二人には外…うん、入口のちょうど真反対辺りで待ってて欲しい」

 

「……本当に大丈夫なんだよね?」

 

「ああ。あんなたちがちゃんと俺の指定した場所にいてくれれば、絶対に。約束する」

 

「…………………分かった」

 

「あんな!?………っ、もう!分かりました!あんながそこまで言うならわたしもほたるさんのことを信じます!!」

 

「ありがとう」

 

 

 二人にお礼を言ってから、屋上へと続く階段に足を向ける。一人になると、それまでの騒がしさが無くなったせいか、リノリウムを踏みしめる音がやけにはっきりと聞こえる。

 

 

 無茶なように見えるけど、あんなたちに話した通り勝算があるのは本当だ。

 

 ファントムの目的は、単純な破壊ではない。

 

 それは、これまでの経験からも分かる。

 何故、彼らはプリキュアが来るまでハンニンダーを出さないのか。なにかしらの条件が付いていて出せないというのは今までの事件の状況からして考えにくい。ならば…怪盗としての美学故か。理由は、考えたところで分からない。

 

 確かなのは、ファントムは自分たちが盗んだものをプリキュアが取り返そうとするまでは、力技で攻めてくることはないという事実があることだけ。

 

 そこに、一抹の希望を見出した。

 即ち、『指摘したのが一般人且つ、その場にプリキュアがいなければファントムはハンニンダーを出さないのではないか』と。

 

 出せる出せないの問題ではなく、()()()()…それだけで、相手が一般人を見くびっていることは分かる。

 

 油断にしろなんにしろ、ハンニンダーがおらず相手がこちらを舐めているのなら、付け入る隙は必ずある。

 

 

「……見つけた」

 

「あなたが来たのね……あの二人は?」

 

 

 『二人』というのが具体的に誰を指しているのかは、目の前の人物がファントムに所属しており俺が探偵事務所の一員であるということを考えれば、そう難しくはない。

 

 それよりも衝撃だったのが、そこにいたのが俺の知っているファントムの構成員…ニジーでもアゲセーヌでもゴウエモンでもなかったこと。相手は、歳の頃は俺と大差ないように見える少女だけど……なんにせよ、やることは変わらない。

 

 

「下であんたが降りてくるのを待ってるよ」

 

「………呼んでくる気がないならはっきり言う。あなたではこの首飾りは取り返せない。悪いことは言わない。プリキュアの二人を呼んできて」

 

「……本当にそう思う?…相手が人型ならそれなりに取れる手段はあるけど」

 

 

 当然、ブラフだ。

 でも、向こうは俺のことを何も知らない。プリキュアでなければ、マコトジュエル関連の依頼にも全然顔を出さない。少なくとも戦える能力はないと思ってるはず。……それでも、ここまで自信満々な態度を崩さなければ…その言葉に少しは説得力を持たせることもできる。

 

 

「そう…少し痛い目に遭うかもしれないけど文句言わないでね………マシュタン、預かってて」

 

「ええ、任せて」

 

 

 横にいた妖精に首飾りを預けた少女は、紫色の瞳でこちらをじっと見つめてくる。

 俺の知っているファントムの三人なら、もっと他にやりようはあったのだけど、この少女がどんな言葉なら耳を傾ける性格なのか俺には分からない。

 

 一度大きく深呼吸………そして、足元の地面を思いっきり蹴り出す。

 

 

 

 ─────俺にやれることは何か。

 

 

 

 この時代に来てから、ずっと自分に問い続けてきた。

 あんなやみくるみたいに特別な力があるわけじゃない。ジェット先輩みたいに発明ができるわけでもない。

 

 そんな俺でも、ようやくできることを見つけた。

 幸いなことに、この屋上はそれを実行するにはこれ以上ない好条件が揃っている。

 

 生身の人間であるからこそできる、意外性に全てを振った一度きりの方法。

 

 

「……」

 

 

 視線は少女の方から外さず、身体の向きもそのまま。目的はあくまで少女の無力化なのだと、行動から()()()読み取れるように動く。

 

 

(違うっ!)

 

「マシュタン!」

 

 

 少女が叫んだ頃には、時すでに遅し。

 

 勢いは殺さない。一歩でも足を緩めたら彼我の距離の差で先に回収される。

 残り数歩という場所で全力で地面を踏み切り、ネックレスを指先だけで抓む。

 

 

「───なっ!アナタ、正気!?」

 

 

 身体は慣性に従って前へ。

 マシュタンと呼ばれた妖精の姿も、屋上の地面さえも後ろへと進んでいく。やがて、視界に見慣れた明るい茶髪が入ってきた。

 

 俺がなにをしたかすぐに把握して…なによりも俺を助けるためなら絶対に動いてくれる人物…あんなに全幅の信頼を置いた作戦。

 

 

 

 二階建ての博物館の屋上……凡そ15メートルからの自由落下。

 俺は生身。なにか不思議な力でもない限りタダではすまないが、生憎とこちらには不思議なパワーを持った味方が二人もいる。

 

 失敗したら死ぬけど…普段から、ともすれば命を失いかねない戦闘をしているあんなとみくるがいる。

 ならば、俺なんかでもやれることがあるのなら…命くらい懸けないでどうする。

 

 自分でも、あんなへの信頼も…そこからこんな行動に出るのも……半ば狂気に近いことは分かってる。

 

 

 ─────でも

 

 

 その程度のこともできないのなら、この時代では俺に存在価値はない。

 

 

 彼女らに報いることができないのならば、死んでしまえ。

 

 

 

 

「っ!!あんな!着地、任せたっ!!」

 

 

 身体が完全に空に投げられ重力に従い始める前に、外にいるであろうあんなに聞こえる声量で口を開く。

 場所はある程度計算済み。ここからの落下なら、真下付近にいるであろうあんなとみくるからも見えるはず。

 

 命の危機に瀕したと脳が判断したのか、視界がスローモーションになる。

 探偵事務所にある本で読んだけど、確かタキサイキア現象とか…そんな名前だったはず。

 

 

「ちょっと、るるか!?」

 

 

 とりあえず、どんな受け止め方をされるにせよ頭から落ちないように姿勢だけでも整えようとして─────

 

 

 凝縮された時間の中で、俺と同じように重力に従いながら必死な表情でこちらに手を伸ばす怪盗団ファントムの少女が見えた。

 

 なんで?

 頭の中に一斉に疑問が浮かぶ。

 

 ………予想外だが……好機。彼女の手を掴んで下にいるあんなたちに俺ごと拘束してもらえば…ただ、そんな彼女の善性に付け込むような方法でいいのか、と自分で自分を咎める考えも同時に浮かんできた。

 

 

「オープン!プリキットライト!!」

 

 

 伸ばした手を止めた直後、そんな声とともに身体が柔らかいなにかに当たって跳ね…紫色の影が視界に入ったと思ったら、誰かにお姫様抱っこ状態で地面に戻ってきていた。

 

 

「ほたるくん…怪我は?」

 

 

 プリキットライトで俺を受け止めるクッションかなにかを作り、そのクッションで跳ねた俺を、いつの間にやら変身したあんなが三角飛びの要領で回収しながら着地したのだと気付いたのは、キュアアンサー(あんな)に震える声で呼びかけられてからのこと。

 

 

「あんな、生きてる。生きてるから。降ろして」

 

「……やだ」

 

 

 泣きそうな声を出して、俺のことをお姫様抱っこした状態のまま頭をぐりぐりと押し付けてくるあんなをなんとか宥めようとしてみるが、様子は変わらず。

 助けを求めてキュアミスティック(みくる)の方を見れば、どうやら俺の受け止め担当と犯人の確保担当で役割分担していたらしく、どこからか取り出した杖を持った犯人と対峙している。

 

 

「…………………ほたるくんが死んじゃうかと思った」

 

「あー…ごめん。ちゃんと全部説明しとくべきだった。後で話すから」

 

 

 あんなの言葉を聞いて、ようやく今日の俺が自分本位に動きすぎてしまっていたことに気付けた。

 あんなが、俺のことをどう思っているのか冷静に考えれば、間違ってもこんな策は取れなかったはず。

 

 

「……だから、ほら」

 

「…うん」

 

 

 ─────今は、それよりもやるべきことをやって欲しい、と諭すように声をかける。

 

 

 …その後のことは、よく分からない。

 

 ファントムの構成員のアゲセーヌが来て部外者を除くためのフィールドを貼り、アンサーとミスティックだけがそこに取り込まれて…………フィールドが破れた時に、例の首飾りを盗んだ犯人の少女もあんなたちのような姿に変身していたけど…詳しいことは誰も知らないそう。

 とりあえず、マコトジュエルが宿っているという首飾りを守ることに成功したことと…帰り道の途中にあんなにずっと服の袖を掴まれていたことだけが確かな事実だった。




文代ほたる
 なんだかんだ言いつつ普段から戦ってるあんなたちや色んなものを発明して役に立ってるジェット先輩に対して、自分はほとんど何もしてないことに負い目は感じてる。戦ってる理由の中に『ほたるとあんなが未来に戻るため』って形で自分も入ってるから余計に。今回は事件の規模とか犯人が自分の知ってるファントム三人じゃなかったりでちょっとした暴走をして、いつもよりも自分本位になってた。
 一応、言い訳をしておくと、犯人がニジー、アゲセーヌ、ゴウエモンの三人のうち誰かだったら口八丁でいい感じに煽って、意識を自分に向けさせながら逃走させたところを下にいる二人が捕まえる予定だった。
 


明智あんな
 目の前で飛び降り(結果的には未遂で終わったけど)を見せられた。
 自分への信頼から来た行動であることはわかってるけどそれはそれとして二度とやらないで欲しいと思ってる。
 場合によっては『ずうっといっしょ!』みたいになってた。



小林みくる
 肝心なところで考えすぎてフリーズしてしまうので受け止めるのはあんなに任せて犯人の方に集中。
 一回お説教された方がいいとは思った。


森亜るるか
 敵組織にいてもプリキュアはプリキュア。目の前にこのままだと死ぬやつがいたら助けに来る。
 生身の人間が当然のように命かけててドン引き。プリキュア二人の反応的に、二人にも具体的に何やるかは全然教えてないのにあんなことをしたと悟って更にドン引き。
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