タイムスリップしたら幼馴染の距離感がバグった件   作:大麦

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毎回のことながら感想、評価、お気に入り本当にありがとうございます!


第4話

 

 

 

「ほたるくんは…キュアアルカナ・シャドウを見てどう思った?」

 

 

 いつぞやのように俺の部屋のベッドの上で寝転がっているあんなが声をかけてくる。

 美術館の一件からはや数日。その日のうちにみくるとあんなからお説教を受けて…ジェット先輩からもお小言を言われた。

 

 正直なところ、ジェット先輩からのお小言…というより諭すような言葉が一番精神的にキツかった。

 先輩は、人間態での見た目こそ子供だが実年齢は222歳。少なくとも俺たちからすれば大人で、故に自分のことも少しは頼って欲しいのだと。

 それでもあんな醜い本音は言えず、建前をそれっぽく並べた時のあの表情……どこか悲しそうにしながら笑ってたジェット先輩の顔が、今でも頭から離れない。

 ………とりあえず、ジェット先輩には未来に帰る目処がついたら一回ちゃんと謝っておこう。

 

 

 それにしても、と頭の中で思考を切り替える。

 

 キュアアルカナ・シャドウ─────どうやら、先日の美術館での事件で星明かりのプリンセスを盗もうとした犯人が、あんなたちと対峙した際にそう名乗ったらしい。

 俺は彼女が変身するところは見てないし、変身した姿も異空間フィールドとやらから出てきた直後から逃げるまでの僅かな時間しか見ていないのでよく分からないが…どうにも彼女もあんなとみくると同じ名探偵プリキュアらしい。

 

 現在は、ジェット先輩がロンドンにあるキュアット探偵事務所の本部に、彼女についての情報を求めている最中。もう数日もすれば情報をまとめた手紙が送られてくるらしいので、それまでは一先ず待ちの状態ということ。

 2027年なら、ネット上のセキュリティも厳重になっていて重要な情報もやり取りできるのだけど……どうにもできないことを嘆いていても仕方ない。

 

 

「どうって聞かれても……お説教終わってから四人で話したこと以上のことはないけど?」

 

 

 思い出すのは、つい先日美術館の屋上から飛び降りた瞬間のこと。

 

 

 覚悟を決めた段階から逸っていた心臓。

 ともすれば死にかねない状態で、なんとか危機を脱しようと加速する思考。

 身体が風を切る音。

 重力に引っ張られて地面に迫っていく感覚。

 それから……目の前の人間を助けようと自らも落下しながら手を伸ばす少女の顔。

 

 

 全部、はっきりと覚えている。

 あのとき、咄嗟に俺のことを助けようとした彼女はとても悪人には見えなかった。

 

 

「……悪い人ではないんだろうなって思ったよ。ファントムにいるのもなんか事情があるんじゃない?」

 

 

 嘘偽りのない率直な感想である。

 首飾りについても、結果論ではあるが彼女が盗んだことで展示品が全て偽物であることまで発覚し、美術館には本物が置かれることとなった。……このことに関しては、戦闘中の彼女の喋り方的に狙ってやったというのがあんなとみくるの見立てらしいが。

 

 

「情報が少なすぎる。そもそも、俺はまともに話してすらないしあんなたちが聞いた話も肝心な部分についてはぼかされてるし」

 

「なんにせよ…ロンドンの事務所からの情報待ちだね」

 

 

 結局のところ、今は自分たちの主観も交えた考察しかできることはない。

 あんなにも述べた通り、俺はアルカナ・シャドウとは二言三言しか話してない。それも、意訳すれば『プリキュアを呼んできなさい』という趣旨のものだけだったので、彼女の人柄について分析できるものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたし────明智あんなには幼馴染がいる。

 

 二つ歳上で、幼馴染とはいったけど、歳の差…というよりも普段の言動から大人なイメージのある男の子だった。

 

 仲良くなったきっかけは………昔のことすぎて覚えていないけど…お母さんによると、まだわたしが小学校に入学するよりも前に、近所の公園に遊びにいったときにたまたまいたほたるくんにわたしから声をかけたそう。

 そのときのわたしの言葉が、ほたるくんのなにかに刺さったらしい。『年上のお兄さん』としてわたしの遊びに付き合ってくれて…何度か公園に行っては、その度にほたるくんと遊び……気付いたら幼馴染のような関係になっていた。

 

 わたしがなにかしようとした時も嫌な顔ひとつ見せずに手伝ってくれて…

 

 

『俺もしたいことをしてるだけだから』

 

 

 ……なんて、当然のことのように言ってしまう人だった。

 

 思い返せば、1999年に来た日……忘れるはずのない2027年の1月24日だって、泣いていた女の子のリボンを探すときに一緒になって探してくれた。

 そんな彼が、つい先日したことをまだ頭はしっかりと記憶している。

 

 

『っ!!あんなっ!着地、任せた!』

 

 

 ほたるくんがあんなことをした理由は分かってる。

 

 ─────だって、わたしのせいだから。

 

 わたしがほたるくんのことばかり頼って…その状態に甘んじていたからこそこうなった。

 『ほたるくんがいなければ生きていけない』ということと『ほたるくんがわたしのせいで追い詰められている』ということが両立してしまっている現実。

 

 ならば、いっその事、わたしが─────。

 

 ………いや…それはダメだ。そんなことをしてしまえば、ほたるくんが耐えられない。

 自意識過剰とかではなく、客観的に観たとしても……わたしがほたるくんがいないとダメなのと同じく、ホタルくんもまた、わたしがいなければダメな状態になってる。

 でも、わたしがいる限りほたるくんは追い詰められていく。

 

 

「…っ!」

 

 

 矛盾と自己嫌悪が、螺旋階段のように積み重なっていく。……やめよう。これは今考えてもキリがない。

 …例え、ほたるくんが『役に立てないのなら死んだ方がマシ』なんて思ってても…わたしはそんなこと望んでない。なにがあっても…どんなことを考えていようと絶対に離れないって…首筋に痕まで付けたことで伝えたつもりだった。

 

 

 でも、あれじゃ足りなかった。だから…今度は…もっと、分かりやすく深くまで刻み込む。

 

 

 キュアアルカナ・シャドウの話題は、そのためにほたるくんと二人きりの空間を作るために振ったもの。

 

 やることは、二つ。

 

 まずは──────考えに耽っている無防備な状態のほたるくんに近付いて、緩い部屋着に包まれている彼の首全体を露出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後ろからの足音と共にほんのりと甘い香りが漂ってきたのとほぼ同時、服に隠されていた部分が外気に触れた。

 更にたたみかけるように、外気に晒された付近に鋭い痛みが走る。

 

 

「……いったぁ……っ…あんな?」

 

 

 あんなが吸血鬼のように首の付け根に歯を立てたのだと気付いたのは、痛みが走ってから一拍置いて、じわり、と生温かい液体が滲んでくる感覚がしてからだった。

 俺の方からは見えていないけど…多分、滲んだ液体は赤い色をしているのだろう。

 

 

「……ん……」

 

 

 首の皮膚を伝う液体を、あんなが勿体ながるように舐め取っていく。

 

 …あんなの舌が皮膚を這う度に、傷口が染みて鋭い痛みが走る。別に…………痛いのを我慢してるだけであって、痛くないわけじゃない。

 これだけの痛みを完全に無視しろというのも土台無理な話で、あんなではなく首の痛さに意識をやってしまうのも仕方がなかった。

 

 

 ─────意識があんなから首の痛さに向かった瞬間、不意打ちのような形で唇に柔らかくて湿ったものが触れた。

 

 

 まるで、『自分から意識を逸らすことは許さない』とでも言いたげに今度は唇だけではなく口内にまでなにかが侵入してくる感覚。混ざり合う唾液の中で、先ほど彼女が傷口を舐めたことで、俺自身の鉄の味が広がった。

 

 

「…ん…ぷは……キス…しちゃった、ね?」

 

 

 ちょっとだけ顔を赤らめて艶やかな笑みを浮かべたあんなが言う。

 

 ファーストキスはレモンの味なんて言うけど、俺の場合は相手(あんな)の口の中に残っていた自分の血の味。傍から見ればかなりマニアックな趣味を持たれていると思われる状況だけど……起きてしまったことはどうにもできない。

 

 

「……あんな」

 

 

 …でも、さすがにこれ以上はダメだ。仮にこれ以上踏み込んだことをすれば、精神的にも後に引けなくなる。

 俺はともかく、あんなはまだ中学生。これからどれだけ後悔するかも分からないというのに。………というか、いくら俺がまだ未成年とはいえ中学生とそういうことをするのは普通に事案だと思う。

 

 

「うん、分かってる。これ以上は……しない」

 

「……本当に?」

 

「わたし、嘘つかないから」

 

 

 …なんだか、久しぶりに聞いた気がする。

 2027年にいるときは頻繁に聞いていたはずなのに…もしかしたら、ある意味で今のあんなが一番素に近いのかもしれない。

 

 ………うん。だとしたら、それはそれであんなの将来がちょっと心配になる。さすがに人を噛んでまでマーキングするのはどうなのか。

 

 

「あとは─────こっちもしちゃおう?」

 

「えっ」

 

 

 まだあるの?と言いたくなる気持ちを必死に押さえる。

 あんなが、ベッドの上に置いてあったビニール袋からプラスチックに密閉された小さな機械を取り出した。

 

 パッと見は変わったところはないように見えるけど……目を引いたのは、なにかを挟むような形で空いている空間。

 …使い方は俺でも分かる。

 空いている場所に耳を挟むようにして……持ち手を握れば耳に穴が開き、(スタッド)留め具(キャッチ)を固定してくれる。

 

 

 ─────この際なのではっきりと言ってしまえばピアッサーである。それも、丁寧に消毒液まで用意してある。

 

 

「どう?この時代のはあんまりよく分からなかったからジェット先輩に作ってもらったんだ」

 

 

 この前、みくるが一人で帰ってきたときに、あんなが買い物に行ったというのはこれが目的だったのか。

 なにを買ったのか気にはなっていたけど、あんなにだってプライバシーはあるし聞くほどのものではないと思っていた。………それにしても、まさかピアッサーの材料だとは思ってもいなかった。

 

 

「確かほたるくん、1999年に来る前に開けてみたいって言ってたよね?」

 

 

 確かに言った。あんながいる所で軽くボヤいた記憶はあるけど……それが、こんな形で…それもあんなの方から切り出されるとは思ってなかった。

 

 

「トップは紫色(アメジスト)にしたからキュアアンサー(わたし)ともはなまるおそろい、だね」

 

 

 古来より、物に傷を付けるという行為は、ある側面では自分の所有物であることを示す行為ともいえる。

 経年劣化による傷、意図的につけた傷。

 傷そのものに種類はあっても、特定の人物の持ち物であることを示すという観点においてはこれ以上分かりやすい印はそうない。

 

 噛み跡もではあるけど……ピアスなんか、それを人に向けた場合の最たる例だろう。

 加えて、好きな人から開けてもらいたい或いは開けてあげたい。その考え方も、純粋な善意もあるが独占欲による部分が大きいことは知っている。

 

 なんか、やけにしっとりとした話し方のあんなを見ていれば、噛んだことの意味するところもピアスを開けようとする意味も分かる。

 

 

「………でも、なんで今?」

 

「これを着けてれば、この前みたいなことをしようと思ってもわたしのこと思い出すでしょ?」

 

 

 首筋に痕を付けたのは、純粋な独占欲。

 …今回は、それ以上に傷跡という形でもいいから繋ぎ止めるための証を刻み付けて…万が一にでも美術館での一件のようなことが起きないようにしたいわけだ。

 ここまで来てようやく自分がやったことの重大さを正しく認識できた。

 

 これが自分の行動による結果なら、甘んじて受け入れよう。

 

 

「…分かった。目印付けるためのペンは…これでいっか。場所とタイミングはあんなに任せるから」

 

 

 まことみらい学園の高等部は、中等部と違って華美すぎない限りは化粧やアクセサリーに関して禁止する校則は存在しない。よって、ピアスを一つ着けて行ったところで校則に触れることはない。……まあ、時代柄なにかしら言われるかもしれないけど仕方のないことだ。

 

 問題は、明らかに周りからも指摘されるくらい変なところに開けられることだけど…あんな本人の性格とセンス、それからピアッサーの種類的に、そんな事態には確実にならないと言い切れるので安心して任せられる。

 

 

「じゃあ、いくよ?」

 

 

 パチン

 

 大きめの音が耳元で鳴り、少しだけ遅れて耳たぶにヒリヒリとした感覚が集まってくる。

 

 

「はい、鏡見る?」

 

「ありがとう」

 

 

 あんなが差し出した手鏡に映っている自分自身の姿は、左耳だけが今までと違っていて控えめに存在を訴える紫色に煌めく石を携えていた。




正直依存しすぎてこういうちょっと危ない関係になるのが好きです。



文代ほたる&明智あんな
 一心同体。お互いが生きてる限りはなんとかなるけど片方がいなくなったらもう片方も瓦解する。


文代ほたる
 噛み跡も『これはこれでいっか』って思うくらいには末期。
 つけた経緯が経緯なのでたぶんファーストピアスの期間を長めにとる。たぶんそのうちしるくさんのイヤリングみたいにファーストピアスにマコトジュエルが宿る。


明智あんな
 印付けられてハッピー。
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