タイムスリップしたら幼馴染の距離感がバグった件   作:大麦

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なんかすごい伸びてると思ったら日間ランキングに載ってたっぽいです!
感想と評価とお気に入り、誤字報告もいつもありがとうございます!

一応、前もって言っておくと主人公は変身しません。


第5話

 

 

 土日は、探偵事務所の皆が平日よりも多めに眠っているから、朝食を作るために少し早めに起きる俺も余裕ができる。

 平日よりも遅めに朝食の準備を始めるからこそ、とっくに日も昇っているわけなのだが……案の定というか未だに誰も起きてこない。

 

 

「おはよう……」

 

 

 ノソノソとした足取りでリビングに入ってきた黄色い影は、四つある椅子のうち彼の定位置となっている場所に腰を落ち着かせた。どうやら、今日の一番乗りはジェット先輩らしい。

 ただ……クマを作って寝ぼけ眼をこすりながら研究室から出てきた様子からすると、早起きをしたわけではなく徹夜明けなのだろう。

 

 

「おはよう、ジェット先輩。また徹夜?」

 

「ああ、寝ようと思ったらいい感じのアイディアが……ん?」

 

 

 ジェット先輩の視線が一点で固定される。

 視線の先を辿ってみれば、そこには俺…というよりも俺の左耳に着けられた紫色の石を飾っているピアス。

 

 

「………あっ、これ?…どう?おかしくはないと思うんだけど…」

 

「…いいんじゃないか?イメチェン?」

 

「そんなところかな」

 

 

 ジェット先輩の方からでも見やすいように体の向きを調整する。

 確かに、昨日の夜まではなんも着けていなかった人が朝起きたらピアスを着けていたら驚くだろう。それも、自分が頼まれて作ったものを、頼んだ本人とは別の人が着けているのだから猶更。

 

 

「てっきりボクはあんなが着けるんだとばかり思ってたけど……確かに用途は聞いてなかったな」

 

「…2027年ならこの時代よりかは多いと思うけど…それでもさすがにピアス開けてる中学生はかなり珍しいかな」

 

 

 まぁ、2027年にしたって高校生でピアスを開けている人は少数派なのだが。この時代よりも幾分か風当たりは柔らかくなっているけど、着けている人が少ないのもそれはそれで事実。

 

 

「開けるの初めてだろ?だったら、しばらくはそのまんまなのか?」

 

「ん。とりあえず二ヶ月くらいは様子見かな」

 

 

 ファーストピアスの期間は少なくともホールが安定するまで。極論、ホールさえできてしまえばいつでも別のピアスに変えてしまって構わないわけだ。もちろんホールが自然治癒によってできるものである以上、安定するまでの期間も完成するまでの期間も個人差はあるから一概には言えないけど……一般論として二ヶ月くらいは着けておいた方がいい。

 少なくとも、ホールが安定するまではこの紫のピアスを着けっぱなしで過ごすことになる

 

 

「せっかくだしジェット先輩もなんか着けてみたら?イヤリングなら着けてる人も結構いるじゃん」

 

 

 例えば、あんなたちがまことみらい学園の中等部で起きた事件を通して仲良くなった女優の家入しるく………それに、あんなとみくるだって変身したらイヤリングっぽいなにかを着けてる。美術館の屋上で見たアルカナ・シャドウのおとも妖精──────確か、マシュタンっていう妖精も着けてた。……それに、記憶が確かなら2027年のあんなのお母さんだって着けてたはずだ。

 

 

「いや…遠慮しておくよ。研究の邪魔になりそうだし」

 

 

 正直に言って、ジェット先輩の発明品は訳の分からないものが多い。

 この事務所の二階で開いているPretty Holicの商品を作っているのもジェット先輩お手製の機械だし、あんなたちが当然のように持ち運んでいるプリキットだってジェット先輩が作った物。どちらも、その機能からしてなんか凄い不思議な技術で作られていることが分かる。

 

 そんな訳なので、もしかしたら身嗜みの多少の違いでも集中力の問題で失敗……なんてこともあるのかもしれない。

 

 

「おはようござい…ま……す…」

 

 

 再度、リビングに声が響いた。ここしばらくの間で随分と聞き馴染んだ、既にリビングにいるジェット先輩とは別の声。

 

 

「おはよう」

 

「おはよう、みくる」

 

 

 声の主─────みくるに挨拶を返しながら振り返ってみれば、こちらもまたジェット先輩と同様にピアスに気付いたのか左耳に視線が固定されていた。

 

 

「それ、イヤリング…じゃないですよね?」

 

「うん。ピアス」

 

「………痛くないんですか?」

 

「…触れば痛いけど、そもそも自分から触ることなんて滅多にないから」

 

 

 ちょっと遠慮がちに聞いてきたみくるの様子がなんだかおかしくて、少しだけ苦笑いが漏れる。

 開けたばかりのピアスホールなんて血が出ないだけで傷口と大して変わらない。触れば痛いし…開けてから数日は触らなくてもちょっとだけ痛いことは黙っておこう。

 

 ……今は、それよりも先に朝食だ。

 みくるとあんなが起きてくる時間はいつも似たかよったか。みくるが起きたということはそろそろあんなも来るはずだが…まあ、呼んできた方が確実だ。

 

 

「みくる、そろそろご飯できるしあんなのこと起こしてきてくれない?」

 

「はい!」

 

 

 きっと、今日もあんなたちは依頼を解決しに行くのだろう。

 隙間時間に宿題は終わらせておいたので、あんなたちの手伝いをするくらいはできる。普段と変わらないいつも通りの休日が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………いつも通りの休日になる、なんて数時間前の自分の考えが大きな勘違いだったことを自覚したときには、既に手遅れだった。

 

 

「…何故だ?何故、未來自由(ミラージュ)の書に載らない?」

 

 

 まず、朝食。これはいつも通りだった。

 

 その後に四人で出かけて…お昼に入ったファミレスでファントムによる事件に巻き込まれるのも…あんなたちが変身してハンニンダーを倒したところまで含めて、いつも通りと言っても差し支えない。珍しく俺とジェット先輩もフィールドに巻き込まれはしたけど大した問題ではない。

 

 

 問題はその後。

 キュアアルカナ・シャドウが現れたと思ったら空間が歪んで、間髪入れずに白い仮面を身に着けた大男─────ファントムの首魁であるウソノワールが現れた。

 

 

 そして、現れたウソノワールとあんなたちが対峙して……現在に至るというわけだ。

 

 

 

「待てども待てども…何故載らぬのだ」

 

 

 話し方は質問の体を取っているが、その雰囲気はこちらに問う、というよりも純粋に疑問を口に出しているだけのように感じられる。

 

 ウソノワールは、並び立つキュアアンサーとキュアミスティックの方を向いたまま、仮面の前に手を構える。

 そして、伸ばした親指と人差し指の間に灯された紫色の炎を弾くように撃ち出した。

 

 

「「っ!」」

 

 

 放たれた熱量は、一直線にアンサーとミスティックの方へ。

 

 

「ほう…」

 

「……あっつ…!」

 

 

 轟音と衝撃…それから、一瞬遅れて服の上からでも明確に感じ取れるほどの熱。

 それらが、炎が着弾したことによるものだと気付けた頃には、既にアンサーとミスティックは大きく前方に跳ぶことで炎をかわし、ウソノワールの方へと接近していた。

 

 

「「はあああああっ!!」」

 

 

 炎の威力を目の当たりにしても尚、怯むことなく真っ直ぐにウソノワールの懐へと飛び込んだ二人は、全く同じタイミングで別の方向から蹴りを放った。

 示し合わせずとも揃った攻撃のリズムは、これまでの二人が築いてきた関係故か。

 

 相手がいつも通りのハンニンダーであれば、この直後に浄化するための技を放って決着が着く……そう確信させる程度には上手く決まっていた連携だった。

 

 しかし、それは相手がハンニンダーであればの話。

 ウソノワールは左腕でアンサーの蹴りを、右腕でミスティックの蹴りをそれぞれ受け止めていた。その場から一歩も動かず、いとも容易く蹴りを防いだ様は、まるで赤子を受け止める大人のよう。

 

 二人の蹴りを受け止めたままのウソノワールが片足を持ち上げ、大地へと叩き付けた。

 

 

「「きゃあっ!」」

 

 

 その衝撃で、アンサーとミスティックが悲鳴と共に空中に吹き飛ばされる。

 また、その衝撃波は、あんなたちを空中に投げ出すだけに留まらず周囲の空気を圧し出すことで、風そのものを凶器へと変貌させた。

 

 

「あんな!!みくっ…!!!」

 

 

 空中に身を投げ出されたあんなたちに視線を向けようとするが、ウソノワールを起点にして吹き荒んでいる風がそれを許そうとしない。

 

 風は、建物のガラスや舗装された地面の一部…果てには看板や建物の壁材まで…あらゆるものを吹き飛ばす。……そして、吹き飛ばされた物は、風の勢いに自らの重さを上乗せして周囲に無差別に牙を剥く。

 

 …………もはや、ここまで来てしまえば風なんて言い方は生温い。

 

 テレビで見るような大型台風の暴風域を彷彿とさせる光景を一個人が引き起こしているというあまりにも現実離れした事態に、どこか他人事になってしまっている自分もいる。

 

 

「っ!ジェット先輩!!」

 

 

 飛び交う瓦礫に当たらないように姿勢を低く保とうとしたところで、ジェット先輩の方へ看板が飛んで行くのが見えた。

 

 咄嗟に手を伸ばすが、間に合わない。

 

 先輩も気付いたようだけど、まともに身体を動かすことができない暴風の中では、飛んでくる看板を避けることなんて言わずもがな。

 

 

「ポ…チィッ!!」

 

 

 迫る衝撃に備えて目を瞑ったジェット先輩と看板の間に、ピンク色の小さな影─────ポチタンが割り込んだ。

 

 次の瞬間、大きく膨らんだポチタンが、看板をクッションのようになった腹部で受け止めて明後日の方向へと弾く。

 

 

「ポチ!」

 

「うわあああっ!?」

 

 

 看板そのものの直撃は防げたものの、受け止めた勢いまでは殺し切れずに反作用で後ろに吹き飛んだポチタンは、体積が増えたせいで受ける風の影響が増したこともあってか、後ろにいたジェット先輩を巻き込んでそのまま空中に飛んでいってしまった。

 

 

 

 風が止んで、ようやく立ち上がれるようになったというタイミングで、折良くポチタンも降りてきた。飛ばされている時に空中で合流したのか、アンサーとミスティックも一緒に。

 

 

「ポチタン、ありがとう」

 

「ポ、ポチ……」

 

 

 ポチタンから手を離し、再度地に足を付けたアンサーたちはウソノワールの方に向き直る。

 

 

「はぁ…」

 

 

 しかし、自らの相手から目線を逸らそうとしない彼女たちとは対象的に、ウソノワールはその手に持った本へと視線を落とし、大きな溜息を零していた。

 

 

「これでも未來自由の書にお前たちのことは載らんか」

 

「……さっきから言ってる未來自由の書ってなんなんだよ…」

 

「ポチ……」

 

 

 ……それは、俺も気になっていた。

 

 

 そもそも、『未來自由の書』とはなんなのか。

 先刻から頻繁にウソノワールが言っている『未來自由の書に載らない』ということがどういう意味を持つのか。

 仮に載ったところでなにがあるのか。

 

 

 結局のところ、どこからどう考えてもこの三点を堂々巡りするだけ。現状では『情報が足りない』という部分に帰着してしまう。

 

 

「未來自由の書は、アタシのご先祖様たちが記した伝説の書。これから起こることが全て書いてあるの。誰も読み解くことができなかったものを、ウソノワール様だけが読むことができたのよ」

 

 

 故に、マシュタンの言葉はとてもよく聞こえた。

 

 なぜ、敢えてこちらに情報を落としたのか。

 この程度ではファントム側のアドバンテージは崩れないと判断したからなのか、それとも、なにも知らないこちらを哀れに思ったからなのかは分からない。

 

 

「書に記されぬお前たちは異物。消えなければならない」

 

「お待ちください、ウソノワール様」

 

 

 再び、手を前に構えたウソノワールを、ニジーが静止した。

 

 

「彼女たちは今、マコトジュエルを持っています。直ちに手に入れますので、ここはボクにお任せください!」

 

「ほう、マコトジュエルの欠片を…」

 

「欠片?」

 

「ふん…そんなことも知らないのか。マコトジュエルは、一つの巨大なジュエルだった。かつて、人間たちの心から現れた真実の想いが寄り添い、形を成したものだ」

 

 

 少しだけ呆れたような声音で説明してくるニジーだが、それを静止しようとする様子はファントム側の誰にも見られない。

 

 つまり、これは先程のマシュタンが話した内容と同じく、基本中の基本でありながら知ったところで彼らが不利益を被る情報ではないということ。……しばらく、このまま聞かせてもらう方が、こちらとしてはメリットがありそう。

 

 

「キュアット探偵事務所は、我らファントムからマコトジュエルを奪わせまいと世界各地を転々と移動させていた」

 

「だが、マコトジュエルがこの街に現れることを我々は突き止めた。手に入れようとしたところ……キュアット探偵事務所の邪魔が入り、マコトジュエルは粉々になりこの街に散っていった」

 

 

 ニジーの説明に継ぎ足すように、ウソノワールが続けた。

 

 

『キュアット探偵事務所がマコトジュエルを守るために活動している』

 

 

 これは、ジェット先輩が以前話していたから既知の情報だ。

 

 …問題は、マコトジュエルが本来は一つの塊で、俺たちがマコトジュエルだと思っていた物は、正確にはマコトジュエルの欠片であり、欠片になった原因は探偵事務所によるなんらかの妨害によるものだということ。

 

 ─────では、その妨害をした張本人が誰なのか。

 

 考えられる可能性の中で最もそれっぽいものは、アンサーたちの先代に当たる名探偵プリキュアが妨害した、というものであろう。

 恐らくその先代に当たるのがアルカナ・シャドウなのだろうけど……そうなると、今度は『何故、マコトジュエルを守ったアルカナ・シャドウがマコトジュエルを奪うファントムの側に着いたのか』という疑問が生まれてくる。

 

 

 探偵事務所の中で、四人で擦り合わせてみたキュアアルカナ・シャドウという人間の人物像を思い起こす。

 ……やはり、あの美術館での一件で人を救おうとする選択を取る人間が、完全な私利私欲の為にマコトジュエルを集めているとは思い難い。

 

 

 マコトジュエルを砕いてしまった罪悪感?

 それだけだと、ファントムに与していることの説明ができない。

 

 自分以外の誰かのため?

 前者よりは可能性はありそう。…だが、だとしたら誰のためになる?

 大衆、家族、恋人…或いは、親しい友人?

 

 なにかが、繋がりそうな気がする。

 

 

「ぐぅっ!」

 

「アンサー!!……うあっ…!」

 

「─────っ!」

 

 

 没頭していた思考は、炸裂音と同時に聞こえてきたアンサーとミスティックの悲鳴で中断された。

 頭の中に浮かんでいる全ての疑問を一旦隅に追いやって、アンサーとミスティックの方に目を向けた頃には、既に二人の身体が地面に打ち付けられていた。

 

 

「ミスティック!何なんだよ、あいつ!?」

 

「誰もが嘘だと疑いたくなる程、圧倒的な力を持つ。……あれが、ウソノワール様」

 

 

 もはや、戦闘ではなく一方的な蹂躙。

 そこまで長い時間目を離していたわけではない……だというのに、二人がこれだけ圧倒されている。それだけ、ウソノワールと二人の間には隔絶した実力差があるということ。

 

 倒れている二人を見下ろしながら、ウソノワールはアンサーが吹き飛ばされる際に落としたマコトジュエルの欠片の元へと向かう。

 

 しかし、それを見過ごすことはできなかったのか。ジェット先輩の横にいたポチタンが、マコトジュエルの欠片とウソノワールの間に降り立つ。

 

 

「ポチ!」

 

「…っ、ウソノワール!あなたはどうしてマコトジュエルを盗ろうとするの!?」

 

「世界を私の嘘で覆う。私の思うがままの世界にするために。……消え去るお前たちに、特別に私の力を見せてやろう」

 

 

 何を思ったのか、ウソノワールが指を鳴らすと、虚空から一組の男女が現れる。

 探偵事務所付近に住んでいるのか、登下校中や出かけた際にたまに見かける…良くも悪くも特徴的なカップルだ。

 

 

「嘘よ覆え。お前たちは嫌い合い、罵り合う」

 

 

 ウソノワールが、自らの掌を彼らに向けながら告げる。実際に能力を行使することで、その力の一端を見せつけるつもりらしい。

 

 

「ちょっと、離れてよ!暑苦しい!」

 

「それボクのセリフだよ!」

 

「はぁ?マジありえないんだけど!!」

 

 

 ほんの一瞬前まで抱き合っていた二人は、今は繋いでいた手を離して罵り合っていた。

 嫌悪、憎悪、敵愾心……ウソノワールによるものだということは分かっていても、ありとあらゆる負の感情を隠すことなくぶつけ合う様に、いつもの仲の良さが嘘だったのではないかと疑ってしまう。

 

 

「ポチポーチ!!」

 

「そこを退け、マコトジュエルを移動させる忌々しき時空の妖精よ。マコトジュエルの欠片をお前が移動させ、何処の地で元の巨大なマコトジュエルに戻しているのだろう?」

 

「ポチタンがマコトジュエルを!?」

 

「本当…何も知らされてないのな。相変わらずロンドンのお仲間は秘密が好きだぜ」

 

 

 確かに、ポチタンがなぜマコトジュエルを吸収するのか、ということについて考えたことがなかったわけではない。

 

 ……ただ、ポチタン本人が喋れるようにならない限りは知ることができないと思って、わざわざ口に出すことはなかった。

 だからこそ、未来に帰るだけでなく喋れるようになってもらうためにもマコトジュエルを集めて吸収してもらって…その流れを繰り返していた。

 

 

 全容ではなく、断片的な情報。しかし、僅かではあっても知ることができた。

 

 

 マコトジュエルの欠片は、ポチタンが吸収することでどこかへと送られる。そして、『どこか』で、本来あるべき巨大な宝石としてのマコトジュエルに戻っている。それが事実だ。

 

 問題は、ロンドンのキュアット探偵事務所が何故この情報を知らせなかったのかということ。単に知らせる必要がないと判断したのか…それとも、何かしらの意図があったのか。

 

 

 ……ダメだ。恐らく、これに関しては今の状態でどれだけ深く考えたところで答えは出ない。

 

 

「邪魔をするなら消す」

 

 

 威圧感を増したウソノワールの声が、静かに響く。

 しかし、ポチタンはウソノワールと向き合った状態のまま動かない。

 

 その姿を確認したウソノワールの手のひらに、熱が収束していく。見た目と構えからして、最初にアンサーとミスティックに放ったものと同じ。

 

 

「ミスティックリフレクション!」

 

 

 炎が放たれるのとほぼ同時、ミスティックの正面にエメラルドカットの形をした防壁が展開される。

 

 防壁と紫炎がぶつかった瞬間、轟音と衝撃が周囲に広がった。

 その衝撃は、周囲の塵や埃を巻き上げてミスティックの周囲に煙幕を広げた。

 

 

「アンサーアタック!」

 

 

 今度は、煙幕の中から飛び出したアンサーがウソノワールに向けて拳を振り上げる。

 

 

「……ぁ」

 

 

 ボロボロになったアンサーとミスティック。

 二人の後ろ姿が視界に入ってきたときに、声が漏れた。

 

 

 あの二人は、必死に戦っているというのに、俺は一体なにをしているんだろう。

 隅に隠れて見てるだけで傍観者でも気取ってるつもりか?烏滸がましいにも程がある。

 

 

 ああ、まただ。

 なにも出来ない自分が…本当に嫌になる。

 

 

「嘘よ覆え」

 

 

 ウソノワールの声が、アンサーへと向けられる。

 

 

「─────お前は私に跪く」

 

「……うっ……くぅぅっ…………」

 

 

 膝が震え、今にも地に崩れ落ちてしまいそうになるのを、なんとか堪えているアンサーの姿を見て─────

 

 

 

 

 

「…行かなくちゃ

 

 

 今のあんながそうであるように、今の俺だって足を進めることを躊躇うような事態に遭遇しても、あんなのことを考えればその先が崖だろうと進むことができる。

 

 実際にそんなことをしてしまえば、あんなが多分大変なことになるから、するかしないかは別として…でも、多分あんな本人にそうするように望まれたら、躊躇なく飛べる。

 

 

 要するに、あんなのためならなんだってできる。

 

 

 ウソノワールは、あの口ぶりからして余程のことがない限り俺たちのことを見逃しはしないだろう。

 そして、客観的に見て………………認めたくはないけど、アンサーとミスティックではウソノワールに勝てない。

 

 ……つまり、このままではほぼ確実に全員揃って死ぬ。

 ならば、多少勝手に動いたところで許されるだろう。

 

 俺は、俺がやらなきゃいけないことをする。

 少なくとも、この場であんなが倒れそうになる場面を黙って見ていることはできなかった。

 

 

「おい!ほたる、なにしてんだ!」

 

「ほたるさん…?」

 

「ポチ!」

 

 

 皆の声が聞こえる。

 

 分かっている。

 俺は、あんなやみくると違ってプリキュアになれる訳じゃない。あの場に立つには力不足もいいとこだ。……それこそ、ウソノワールの前に立った瞬間、ゴミのように吹き飛ばされてもおかしくはない。

 

 怖い。

 

 当然だ。自ら死に飛び込むようなものなのだから。でも、アンサーの姿を見れば、恐怖による震えなんて消えていた。

 

 

「……なんのつもりだ?」

 

 

 ウソノワールの声と共に、押し潰されそうな威圧感と敵意を向けられる。

 ただの傍観者であったからこそなにも向けられていなかっただけで、身の程を弁えずに舞台上に出てしまえば、こうなることは必然。

 

 だが、足は止めない。

 対峙するウソノワールとアンサーの間に立ち、アンサーと向き合うように身体の向きを変える。普段とは違って、妖しげな赤い光に包まれたアンサーの瞳がこちらを呆然と見つめてきた。

 

 

『…なんで?』

 

 

 言葉にされずとも分かる。こちらに向けられた視線の中には、疑問符が浮かんでいた。

 

 なんでと聞かれても、それはそれで答えに困る。

 俺とあんなの関係は、具体的に言葉にするには複雑なものだし、そもそも言葉にできたところであまり人に言いたくはないものだから。

 

 

「……」

 

 

 ファントムの面々からも探偵事務所の面々からも…その場にいる全員の視線がこちらに向けられる。

 それが、針の筵みたいでなんとなく居心地が悪く感じてしまった。

 その視線から逃げるように、依然としてこちらを見つめるアンサーの方に手を伸ばして、口を開く。

 

 

「あんな、立てる?」

 

 

 ……思い返せば、昔もこんなことがあった気がする。

 

 確か、まだあんなが小学校に入学してすぐの頃。

 初めて、二人だけで近くの公園に遊びに行って、鬼ごっこでもしていたのだったか……途中で転んで泣いてしまったあんなに、同じように声をかけた。

 

 

「…っ、うん!!」

 

 

 アンサー…否、あんなの伸ばした手が、俺の手を力強く掴む。

 

 直後、あんなの行動を制限していた赤い光が弾けた。

 即ち、それの意味するところは─────

 

 

「ウソノワール様の嘘が…破られた!?」

 

「ありがとう、ほたるくん」

 

 

 柔らかく微笑んだあんなが、こちらを向いてそう述べた。

 

 普段の天真爛漫なあんなでいるときの表情とも、最近二人きりでいるときにだけ見せるようになった心を惑わせるような表情とも違う。

 

 

「…いいよ、気にしなくて」

 

 

 ……なんとなく、気恥しさを隠したくて、ピアスを覆うように左耳に片手を重ねる。

 

 キャッチの部分が僅かに手に触れたようで、ジリジリと小さな痛みを訴えた。

 まだピアスを開けて間もない状態であるが故の触れたときの痛みが、ピアスを開けた瞬間の痛みと重なる。

 同時に、まだ鮮明に記憶している昨夜の出来事が脳裏に過った。

 

 

『これを着けてれば、この前みたいなことをしようと思ってもわたしのこと思い出すでしょ?』

 

「……ああ、そっか」

 

 

 今までは色々と理屈を捏ねてたけど…その大元になる部分は、昔から変わっていなかったんだ。

 

 あんなは、俺にとっても大切な─────

 

 

「ポチ!ポチィ!!!」

 

 

 そこまで考えて……ポチタンの叫ぶような声が聞こえてきた。

 

 ポチタンの示す先、空中に不自然に輝くものが浮かんでいる。

 

 その光は、ゆっくりと俺の方へ。

 

 

「あれって…!」

 

「マコトジュエル!?」

 

 

 これが、マコトジュエルの欠片。

 持っているだけで、心が癒されるような……とても優しくて温かい光。

 

 

「…未來自由の書を」

 

「………はっ!こちらに…」

 

「ふむ……こちらも、また載っていない…イレギュラーか」

 

 

 ウソノワールが、ニジーから手渡された未來自由の書を開いて何かを呟いている。

 

 今は、それよりもマコトジュエル(これ)をどうにかしなければ。

 

 あんなもみくるもアルカナ・シャドウも、ジェット先輩曰く、名探偵プリキュアは自らの心の中のマコトジュエルを用いて変身するという。

 ……このマコトジュエルの形状は、それにかなり近い。

 意匠の細部には普段ファントムから守っている物に宿るマコトジュエルっぽさも見受けられるが…やはり、全体的な形は心のマコトジュエルに寄っている。

 

 

 手に取ったからこそ分かる。これは、俺に扱える一品では無い。

 では、どうするのか。

 

 

 ────考えるまでもない。

 

 

「あんな、使って」

 

「えっ、わっ…と…」

 

 

 そんなもの、使える人に渡してしまえばいいだけのこと。

 あれが、俺の心に宿ったものだとするのなら…その心の大元にいるはずのあんなに使えないはずがない。

 

 

「大丈夫、きっと使えるから」

 

「…うん、信じるね」

 

 

 そう言ったあんなは、腰に着けたポーチからジュエルキュアウォッチを取り出し、下部に俺の手から受け取ったマコトジュエルをはめ込んだ。

 

 

「オープン!ジュエルキュアウォッチ!プリキュア…ドレスアップタイム!」

 

 

 こうしている間も、あんなの服装は段々と姿を変えていく。

 

 紫を基調とした服装は、全体的に黒を模したドレスへと。

 最後に付け足すように右耳に現れた紫色のシンプルなピアスは、俺が左耳に着けているものと同じデザイン。

 

 具体的にどんなドレスなのかは……もう言うまでもない。

 …まあ、今の俺とあんなの関係だとそうなってしまうだろうなという感想は胸の内に秘めておく。

 

 

「はあああっ!!!」

 

 

 気炎と共にあんなが振り抜いた拳を、ウソノワールは先程と同様に片手で受け止めようとする。

 あんなが、それまでと同じなら確実に受け止められていただろう。

 そう、『それまでと同じ』なら。

 

 

「…ぬぅっ!」

 

 

 想定外の重さだったのか、ウソノワールは空いていた片腕も重ねて両腕でアンサーの拳を受け止めた。しかし、それでもあんなの攻撃の勢いは殺し切れず、ウソノワールの身体は大きく後退させられた。

 

 自ら動いたのではなく、動かされた。

 

 その事実が、この場にいるファントムの面々にとってはどれだけ大きいものなのか想像がつかない。

 

 

「…よくも!」

 

「…………くっ!」

 

 

 今度は、ウソノワールからあんなの方へと接近する。

 

 あんなとウソノワールによる再度の衝突。

 …そのときノイズでも走ったかのように、空間が揺らいだ。

 

 

「ダメだ、これ以上は本当にフィールドが…!」

 

「マジチョベリバなんですけど〜!!」

 

「……だとしても、どう止める?」

 

「?…未來自由の書になにか…」

 

 

 ファントムの面々が話していることの内容は、よく分からない。ただ、その様子からしてあのまま二人に戦わせるのはまずいということだけは分かる。

 俺の方からあんなを止める…ことは多分できる。しかし、それはあんなに『一方的に甚振られろ』と言っていることと変わらない。

 

 新しい力を得て一人でもウソノワールに渡り合えるようになったとて、相手が弱くなったわけではない。今のあんなに、フィールドの状況が何かおかしいことに気付けるほどの余裕はない。

 

 ─────どうすればいい。

 時の流れは止まらない。ウソノワールの攻撃を弾いたあんなが、再度攻撃の構えに移る。

 しかし、三度目の衝突は起きなかった。

 

 

「……っ!」

 

 

 あんなとウソノワールの間に割り込んだアルカナ・シャドウが、双方の拳をそれぞれ長杖─────ティアアルカナロッドの先端と柄尻で受け止めていた。

 それでも、あまり余裕はないのか、歯を食いしばる表情を見せている。

 

 

「………未來自由の書が…!」

 

 

 苦しそうに言いながら、アルカナ・シャドウは歯車のように杖を回転させることで、あんなとウソノワールの攻撃がかち合わないように軌道を逸らした。

 

 力の流れを瞬時に見定めるほどに優れた観察眼に裏打ちされ、幾多の実戦経験の元で成立している戦闘技術。

 

 あれこそが、アルカナ・シャドウの真髄。

 これまであんなたちがやられていなかったのは、やはり彼女に手加減されていたのだろう。

 

 

「……『今はこのまま去れ』と、記されている」

 

 

 受け取った未來自由の書に目を通し、静かに畳んだウソノワールがそう呟く。

 

 

「プリキュア、近い内にまた会うことになるだろう。未来自由の書に……予言にある」

 

「予言?」

 

「『1999年七の月。真の地で、真実の石を抱くもの大王となる。そして、世界が嘘の影で覆われる。』……私は大王となり、世界を嘘で覆う。次に会う時が世界とお前たちの終わりとなるだろう」

 

 

 ウソノワールは、マントを翻しながら現れた時と似ている緑色の光の中へと足を進めた。ニジー、ゴウエモン、アゲセーヌ…ファントムの面々も、ウソノワールと同様に光の中へと歩みを進める……当然、アルカナ・シャドウも同様。 であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーテンが閉められた部屋の中で、一人、思考を走らせる。

 既に日は落ち切り、部屋を照らすのは天井から吊るされた電灯のみ。

 

 

 昼間は中断されたが、アルカナ・シャドウについて考えていた途中であった。

 

 アルカナ・シャドウは、自己犠牲もしくは自分以外の誰かのために戦っている。これは、ほぼ確実。

 

 そして、名探偵プリキュアとマコトジュエル、それからファントムの関係からして…………このまことみらい市にあるキュアット探偵事務所をキュアアルカナ・シャドウが拠点に使ったことがあるのも間違いない。

 

 

 これらを踏まえた上で、もう少しだけ考えてみる。

 

 役に立ちそうなのは、この探偵事務所全体で見た際の不可思議な点。

 

 探偵事務所の離れには部屋が幾つかある。

 

 俺の部屋は、しばらく人が使っていなかったせいか大掃除を要する程に埃が溜まっていた。一方で、あんなとみくるの部屋は、俺の部屋とは違って軽めの掃除だけで人が住めるレベルになった。

 

 つまり、最低でも二人……誰かが住んでいたということ。

 

 あんなとみくるの部屋は同じ間取り。

 わざわざ同じ事務所の同じ間取りの部屋に住むということは…仲が悪いということはないだろう。探偵事務所に自分の部屋を持ち、名探偵プリキュアであるアルカナ・シャドウとも親密である…。

 

 心当たりは、ない訳では無い。

 むしろ、可能性として考えるならその『心当たり』が最も可能性が高いまである。

 

 

 ここで、昼間に考えて導き出した一つの推論を思い浮かべる。

 

 

『そもそも、マコトジュエルを砕いたのはアルカナ・シャドウとは別のプリキュアなのではないか?』

 

 

 これを、今導き出したものと組み合わせてみる。

 

 

 マコトジュエルを砕いたのは、アルカナ・シャドウとは別のプリキュア。

 ─────では、その砕いた張本人はどんな人物だったのか。

 

 アルカナ・シャドウと同じ探偵事務所で暮らしていて、彼女とも親しかった人物。

 考えられる可能性は………………

 

 

「……アルカナ・シャドウの相棒?

 

 

 …分からない。

 一つの推測として語るなら価値はあると思うが、結論とするには証拠が足りなさすぎる。

 

 そもそも、これが事実だったとして……アルカナ・シャドウにとっての相棒であるならば、逆も然り。つまり、どうして自らにとっての相棒であるはずのアルカナ・シャドウがファントムの側に立っていても姿を見せようとしないのか。

 そして、大元の疑問……なぜアルカナ・シャドウがファントムの側に立っているのかということには繋がらない。

 

 

 そこまで考えたところで、かなり控えめに扉をノックする音が聞こえた。

 

 眠っていたら起こさないように…起きていたら周りに聞こえないように………そんな、やけに遠慮しているようなノックに違和感を感じてみれば、時刻は既に深夜の1時を回っていた。

 

 時間からして、あんなではない。

 新しい力のせいか疲労が溜まっていたらしく、ソファで眠っていたのを見兼ねて部屋に届けたから、今頃はポチタンと仲良く眠っているはず。

 

 みくるも…この時間まで起きているとは考えにくい。

 

 となれば、ジェット先輩しかいないのだが…ジェット先輩はジェット先輩でわざわざこんな時間に俺に何かを聞きに来るというのは考えにくい。

 

 

「開いてるよ」

 

 

 取り敢えず、向こうの意図を汲み取ってこちらも小さめの声で返せば、扉が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたし─────小林みくるは…キュアット探偵事務所の名探偵プリキュアだ。

 

 キュアット探偵事務所には、同じ名探偵プリキュアのあんなと、おとも妖精のポチタン、様々な発明品を作る妖精のジェット先輩……それから、あんなと一緒に2027年からやってきたほたるさんがいる。

 

 あんなは…とても大切な、わたしの相棒。そして、『2027年に返す』と依頼を受けた最初の依頼人。

 

 ポチタンは、なにか秘密はあるようだけど…大切なおとも妖精であることには変わらない。

 

 ジェット先輩は、プリキットを作ったり色々な発明品でわたしたちを助けてくれる頼れる先輩。

 

 ほたるさんは……あんなと同じ依頼を受けた、わたしにとって二人目の依頼人で…それから、なんというか…不思議な人だ。助言を求めれば核心に近付けることを言ってくれるし、推理の腕前が確かなことも見ていれば分かる。

 

 

『ほたるさんは…なんで探偵をやらないんですか?』

 

『うーん………強いて言うなら、向いてないからかな』

 

『でも、今回の事件だってほたるさんの言葉がなかったら…』

 

『褒めてくれるのは嬉しいけど……俺は…あんなとみくるが命を懸けて戦ってる間も頭を回してるから、ちょっとだけ先に結論を出せるだけだよ。別に、俺が推理に長けてるとかじゃない』

 

『そんなこと────』

 

『あるよ。そのくらいしか俺にはできないから…やれることを必死にやってるだけ。推理に関しては…あんなとみくるが同じくらい時間をかければ、俺なんかよりももっと深いところまで分かるはずだよ』

 

 

 一度だけ、なぜ探偵をやらないのか聞いた…その時のやり取りが、こんな内容だった。

 ほたるさんは、自分は特段優れているわけではなく、わたしやあんなでも同じ推理はできると言っていたが…それでも、現在のキュアット探偵事務所の推理面において、ほたるさんの力が大きいことは事実。

 ほたるさんの言葉があったからこそ、わたしは、わたしにやれること…名探偵プリキュアとして頑張ろうと思っていた。

 

 

 ─────でも

 

 

 ……今日の昼間の出来事を思い出す。

 キュアアンサー(あんな)が、ウソノワールと一人で渡り合っていた。今までとは一線を画す出力の押し合い。そこにキュアミスティック(わたし)が並び立つ隙はなかった。

 

 なによりも、そのきっかけとなった場所にほたるさんはいた。

 アンサーの元へ近付き、なにか考える素振りを見せたと思ったら、マコトジュエルが現れた。そして、そのマコトジュエルを使って新たな姿に変身したアンサーが力を得た。

 新たな黒いドレス姿に変身したアンサーの右耳には、ほたるさんと同じ紫の………………紫?

 

 

「…アンサー(あんな)と同じ色だ」

 

 

 アンサーのテーマカラーとも言える紫色の石を飾った一対のピアスを、変身後のあんなとほたるさんで分けたみたいに着けている。

 

 そして、今日のあんなとほたるさんの様子を見ていれば分かる。……さすがに、わたしだってそこまで鈍くはない。

 

 簡単なことのはずなのに、どうして気付けなかったんだろう。

 仮に、二人がそういう関係だったというのなら祝福すればいい。それは、紛れもない本心だ。

 

 

 ─────ああ、でも…そうなったら

 

 

「わたしは…どこにいればいいんだろう」

 

 

 それこそ、探偵としてあんなの隣に立つのは、わたしなんかよりもほたるさんの方が適しているのではないのだろうか。

 ……それに、あんなは強くなった。例え、わたしが相棒でなくても変身するときだけ近くにいれば、それだけでやっていけるだろう。

 

 学校に行けば、友達はいる。……でも、そのとき、この探偵事務所の中に今のわたしの居場所は本当にあるのだろうか。

 

 分からないけど…確かなことが一つだけ。

 

 

「……独りは…嫌だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みくる…?」

 

「……ごめん、なさい……ごめんなさいごめんなさい」

 

 

 ドアをノックした相手────みくるは、部屋に入るなり俺の腕を引っ張ってベッドの上に押し倒した。

 

 自分自身への軽蔑、罪悪感、後悔、そして自己嫌悪。

 それら全てをぐちゃぐちゃにして、大粒の涙と共に瞳に浮かべながら、譫言のように謝罪の言葉を吐き出し続けている。それらの謝罪の言葉は、間違いなく俺に向けられている物だけど、ときどき、俺を通してその先にいる誰かに謝っているようにも見える。

 

 みくるの顔に浮かんでいるたくさんの感情を綯い交ぜにした表情には、覚えがあった。

 きっと、あんなも今のみくるには見覚えがあるはずだ。

 

 独りになるのが嫌で、でもどうしていいか分からなくて……たどり着いた結論がこれだったのだろう。

 

 …でも、そのきっかけは…たぶん、俺とあんなだ。

 そのことに気付いたときに…みくるに罪悪感を覚えてしまった。

 

 今まで、当然のようにあった物が次の日からは無くなっている恐怖……それは、本当によく分かる。

 

 

 みくるの瞳を見て、真っ先に覚えたのが共感。その次に、同情。

 ああ、分かるとも。孤独は辛い。例え、未来の人間であっても過去の人間であってもそれは変わらない。

 

 

 兎にも角にも、この危機的な状況を脱しなくてはどうしようもない。

 まずは、多少無理やりにでもみくるとの上下を入れ替える…存外、体格差というのはバカにならないもので、これは簡単にこなせた。あとは、そのままベッドに仰向けになる形になったみくるの上から退いて、布団を被せる。最後に、ベッドから降りてサイドにもたれかかるように座れば完了。

 

 

「……みくるが起きるまで、絶対近くにいるから。取り敢えず一旦寝よう。ね?」

 

 

 嗚咽を漏らしているみくるに、子供をあやすときの要領でしばらく声をかけ続けていたら数分も経つ頃には穏やかに寝息を立てていた。

 ……みくるもみくるで、あんなと同じく今日の戦闘で疲労が溜まっていたのだろう。

 

 

「……寝よう」

 

 

 …………眠い…当然だ、もう1時半を過ぎてるのだから。

 あんなに見つかったら…まあ、そのときはそのとき。ちゃんと説明すれば分かってくれるはず。




なんか気付いたらすごく長くなってた……


文代ほたる
 そのうち(一話後)
 マコトジュエルは心と物に宿ったもの両方のハイブリッド。


明智あんな
 強化フォームの見た目はほぼほぼウエディングドレス。黒いウエディングドレスの意味は言わずもがな。
 やってることは初めての共同作業(強化形態)。


小林みくる
 なんか雲行きが怪しくなり始めた。
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