ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~   作:ロキシード

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届いた手紙

「先生!この請求書、日付違いますよ!?」

「……はぁ。これは本当に俺がやるべきことか?」

 

 シャーレ就任から二週間が過ぎた頃。執務室では、大量の書類を裁くバージルと、それを横で精査するユウカの姿があった。

 

「当たり前です!先生が破壊した公共物、市民の所有物などの請求なんですから!そもそも、不良生徒の制圧はヴァルキューレに任せるべきでしょう?」

「奴らに任せれば一日中銃声がうるさくてかなわん。ならば、自ら鎮圧するまでのことだ」

 

 指摘された箇所を睨みペンを走らせながらバージルが口を開く。

 

「…大体、何故お前はここに入り浸っているんだ。生徒会なのだろう、そっちの仕事はどうした?」

「もう終わらせてます!先生と違って、私は要領が良いので!」

「それに…先生がこちらの常識に慣れるまでは放っておけないので……」

 

 彼は今までこういったデスクワークなど碌に経験していなかったらしく、最初のうちは数枚の必要書類すらまともに仕上げられなかった。しかし自頭は悪くないようで、日に日にキヴォトスの知識を身に着け、書類仕事にも順応してきていた。とはいえ、毎日のように発生する不良生徒による事件への対応で、同じような請求書がいくつも来るのだ。バージルにはもはや見分けがつかなかった。

 

「それにしても、こちらを見る限り生徒も呼ばずに解決されてるみたいですが……」

 

 報告内容に目を通しながらユウカが問いかける。

 

「先生はあまりシャーレに加入する生徒を募集してないんですか?私以外に全然「当番」を見かけない気がします」

 

 ――シャーレ当番。数日前のシャーレ奪還は、瞬く間にキヴォトス中の話題をかっさらった。SNSで様々な情報が錯綜する中、連邦生徒会は行政権の復活、その最大の功労者としてバージルの存在――連邦捜査部シャーレの発足と彼が先生として就任したことを発表した。同時に、シャーレの組織活動の一環として、学園交流の名のもと各学園の生徒の加入を募集することもアナウンスした。所属生徒は日ごとにシャーレを訪れその活動に参加する。それが所謂「シャーレ当番」制である。

 ユウカは募集が開始されて真っ先に名乗りを上げ、こうして彼のもとへ通い詰めているわけだが、彼女は自分以外がシャーレに出入りしているのを一度も見ていない。

 

「ユウカがいるからな」

「えっ!?いきなり何をおっしゃるんです!?」

 

 バージルの言葉に思わず肩を跳ね上げる。その言葉の意味するところは、自分さえいれば他には誰も――

 

「お前がいれば、こういった書類仕事については問題ないだろう」

「会ったこともない生徒に自分の不手際の始末をつけさせるなど、考えられん」

「……。ふーん、そうですか」

 

 浮ついていた心が一瞬で冷えていくのを感じた。

 

「では先生、この私がしっかり資料の書き方を指導いたしますので……」

「ちゃーんと今日の分、片づけてくださいね?」

 

 顔を上げ、にこりと貼り付けた笑みでバージルに向かって言い放った。

 

 

 

 

「ふう…ひとまずは終わったな。しかし奴はなぜ急に不機嫌になったんだ?」

 

 一人執務室で息をつきながら、積み上げられた書類を横目に先程のユウカの様子に疑問を覚えるバージルに、机の上のタブレットが反応する。

 

【先生は女心がまるでわからないんですね!なぜユウカさんが自分から態々加入希望を出したのか、考えてみたらわかるはずです!】

 

 空中に浮かび上がった水色の制服の少女――アロナがバージルの疑問に非難の目で返す。

 

「……理由か。せいぜい、調査といったところだろう。ミレニアムの生徒会として、シャーレの視察に来たんじゃないのか?やたらと活動内容や報告書に口を出してくるのも、そう考えれば頷ける」

【………。バージル先生のにぶちん。知りませんよーだ!】

 

 アロナまで不機嫌そうな声を出したことに、バージルはますますわけがわからず眉間にしわを寄せる。シャーレ当番は、各学園に募集をかけるか、自分から応募してきた生徒を承認することで加入させることができる。しかしバージルは就任以降まったく募集をかけておらず、応募も無視していた。それは書類仕事が忙しかったのもあるが、何より――

 

【……先生って、人見知りなんですね。】

「うるさいぞ……。さっきも言ったろう。子供に仕事を押し付けるなど……」

【ユウカさんは良くて、他の人はダメな理由になってないです!】

「……」

 

 アロナの主張にぐうの音も出ないのか、バージルが押し黙る。

 

【そんな風にしてたら、いつまでたっても例の噂が払拭できませんよ!もっと色んな生徒さんと交流をするべきです!】

「むぅ……」

 

 バージルについての噂。シャーレ奪還以降ニュースで大体的に顔と名前が知られたバージルだが、一向に生徒を加入させずに単独で戦闘に参加してはあっという間に不良生徒を鎮圧する彼に、ある異名がついていた。

 「鬼人」――一切の攻撃が通用せず、銃もなしに敵を屠る姿から、いつしかそんな通り名とともに生徒たちから恐れられるようになった。最初は気にも留めていなかったバージルだが、噂に尾ひれがついて、シャーレには矯正局が楽園に思えるほど過酷な罰が与えられる地下牢があるだの、シャーレを襲撃した七囚人が襲撃以降目撃されていないのは鬼――先生に喰われたからだの、どんどんエスカレートしていた。

 その結果、噂が流れて以降彼の元にはどの学園からも当番に応募するものは現れず、同様に学園からの支援要請などもまるで来ていない状況だった。キヴォトスについて調べる時間が確保できるうえ、書類仕事に追われていた彼はこれを都合よく考えていたのだが――

 

【このままではどこかで困っている生徒のために動くこともできません!】

「それは……」

 

 アロナの言うことは正論だ。このままでは、ただ書類に追われ不良を倒すだけの日々を過ごすことになる。実際、今はそうなっている。バージルは言葉に詰まり、彼女から目を逸らした。

 

「……。――これは」

 

 視線を落とした先に、目を引くものがある。

 

「手紙?」

 

 ゆっくりと手に取り、差出人を見てみれば、奥空アヤネ――アビドス高等学校所属の生徒からだった。三角形に太陽のような紋様が印された封筒を開き、中身を広げる。その内容に、バージルはしばらく考えるように沈黙し、やがてアロナへ向き直って告げた。

 

「――アロナ、早速支援要請だ」

【え?本当ですか?どれどれ……】

 

 

 

 

「ふぅ。大体終わったわね。そろそろ戻らないと」

 

 シャーレに設けられた休憩スペース――いずれカフェとよばれるようになる場所で、椅子に掛けたユウカがコーヒーを一口含む。机には、ミレニアムの会計報告に必要な経費精算書類がまとめられている。

 

「先生にはああ言っちゃったけど、こうしてちゃんと終わらせたんだから問題ないわよね?」

 

 誰に向けるでもないその問いは、マグカップから伸びる湯気と一緒に掻き消える。

 

「当番を募集しない理由、勝手に舞い上がっちゃってバカみたい」

 

 カップを机に置き、伸びをしながらぼやく。彼女の脳裏に、先刻のバージルの発言がよぎる。

 

『ユウカがいるからな』

「……。ふふ」

 

 理由はどうあれ、彼が自分を頼ってくれているというのは悪くなかった。漏れ出た笑みに、思わず自嘲する。

 

「はぁ……私って単純」

 

 初めて出会ったときは見知らぬ大人に対し少なくない警戒心を抱いていたが、ともにシャーレを奪還したことでそれは尊敬の念へと変わった。キヴォトスの外からきて銃弾一つで致命に至ると聞いたときは大層驚いたものだ。……その後の彼の行動の方がよっぽど強く印象付けられているが。

 彼の戦闘指揮は卓越していたし、おかげであの七囚人とすら渡り合うこともできた。なにより、彼自身の驚異的な身体能力もあって、たった5人でシャーレを奪還するに至ったのだ。

 

「本当、どうやったら戦車を細切れにできるのよ……」

 

 最後に見せた一撃。一撃なのかもわからないが、彼は刀一本で刹那の間に戦車を破壊してみせた。あとからその時のことを尋ねても、「ただ斬っただけだ」の一点張りで何も情報は得られなかった。あの日以降、自分の信じてきた科学や数字が揺らいでいる気がする。

 連邦生徒会長が指名した大人――その肩書にふさわしい、超人的な能力だった。しかし、

 

「でも、仕事の方はさっぱり。……初めて見たときは呆れたもの」

 

 思い出すのは、当番として初めてシャーレを訪れた日のこと。あの日以降もD.U地区で各地の不良鎮圧をしていたバージルは、戦闘に伴う街への被害報告と請求書の山に囲まれていた。手伝いを申し出て中身を確認してみれば、金額は滅茶苦茶、報告内容は適当、文句の付け所しかなかった。その日以降、ユウカはことあるごとにチェックをすると称してバージルの元へ足を運んでいた。

 

「私が来なかったらどうなってたのかしら」

 

 今日までの怒涛の修正指示を振り返り、そんな言葉が出る。とはいえ最近では、彼女の指摘は大分減っている。慣れてきたのもあるだろうが、元々ある程度の教養があったようで、知識を得ようとする姿勢といい彼女の手伝いが必要なくなる日も遠くないかもしれない。――そこまで考えて、彼女は自分がそれに拒否感を示していることに気づいた。

 

「もし先生が私抜きで仕事をできるようになったら――」

 

 今度こそ彼はシャーレ当番を誰も呼ばなくなるかもしれない。それは嫌だった。彼は強い。ユウカの知る限り誰よりも。しかし、時折見せる不器用な部分や、彼なりに自分たち生徒を想っている姿を知っているからこそ、彼のそばにいたいと思った。

 

「……もっと、先生のことを知りたい」

 

 そうだ。まだ彼と出会ってほんの二週間。たったそれだけの時間でお別れなんて、ごめんだった。もしそんなことになるくらいならいっそ――

 

「シャーレ当番を廃止させないために、ミレニアムの生徒でも応募させなきゃ」

「……よし。そうと決まれば、早速先生の所に戻らないと。そろそろ休憩時間も終わりだし」

 

 胸の奥に小さな覚悟を決め、ユウカは執務室へと向かった。

 

 

 

 

【これは……ちょっと不穏ですね……今日届いたばかりのようです】

 

 手紙の内容に目を通したアロナが告げる。手紙が置かれていたのは、学園からの要請がまとめられるキャビネット――ここ最近で唯一届いたものだった。

 内容はこうだ。現在アビドス高校は地域の暴力組織に校舎を狙われており、抵抗しているものの物資も底を尽きかけている。このままでは占領されてしまうため、シャーレの先生――バージルの手を借りたいという支援要請だった。

 

「占領……武力制圧で学校ごと乗っ取ることが可能なのか?」

 

 キヴォトスの法体系について少しずつ理解してきたバージルは、手紙の内容に疑問を呈する。最近の経験から、銃撃事件や強盗といった犯罪の扱いはある程度理解したが、土地所有に関するルールはまだ把握していない。仮に校舎を奪われたところで、自治区の管理者としてのポジションが危うくなるだろうか――

 

「……いずれにしても、助けを必要としているなら、俺の出番だ。いくぞ、アロナ」

【えぇ!?もう出るんですか!?それに、まだユウカさんが休憩から戻っていないのに…】

「だからこそだ。あいつに小言を言われる前に、アビドスへ向かう」

 

 席を立ち外套を羽織るバージルに、アロナが慌てて言葉を返す。

 

【ま、待ってください!アビドスの自治区は広大です!街のど真ん中で遭難するほど大きいそうですよ!?】

「そんな話を信じるのか?……お前ならナビぐらいできるだろう」

 

 聞く耳を持たない彼に頬を膨らませるアロナ。一方バージルはいつでも出られるように、シャーレの紋章が入った腕章までつけている。もはや説得は意味をなさないだろう。今日までの期間で、彼がかなりの頑固者であることを学んでいたアロナは、観念したように息を吐くと、目的地までの経路を検索し始めた。そこへ――

 

「先生、休憩からもどりました。今よろしいですか?」

 

 執務室の入り口の向こう、廊下からユウカの声が近づいてくる。

 

【ユウカさんが戻ってきます!】

「――!アロナ、急ぐぞ!」

 

 俊敏な動きでシッテムの箱を懐にしまうと、バージルは顕現させた閻魔刀を引き抜き、その場で空を十字に斬る。刀を走らせた箇所に光が走り、ぱっくりと割れる。そしてその向こうに揺らめく空間に向かって、バージルは足を踏み入れた。

 

「先生、いないんですかー?」

 

 彼女が部屋に入った時には、そこに彼の姿はなかった。

 

「あれ?外出の予定なんてあったかしら……ついさっきまでいたみたいだけど」

 

 当たり前のように把握している予定表を確かめながら、ユウカが呟く。

 

「まあ、今日の分は終わったし、また明日くればいっか」

 

 そう呟き、彼女は執務室を後にした。

 この日以降ひと月近くバージルがシャーレを離れることになることなど、彼女は知る由もなかった。




プロローグは今回で終わり、次回からアビドス編です!いやー長かった。まだ10話ですが、もう10話なんですねぇ。

日常会とかもそのうちやりたいんですが、アビドス編の間に挟むか、エデンパヴァーヌぐらいからの方が生徒多くていいかなとも思ってます

あんまりユウカメインで書くつもりなかったんですが、書いてるうちにどんどん通い妻感が……

なんかバージルって意外と抜けてるところあって、彼女みたいなタイプは放っておけないだろうなーって感じするんですよね。パワー一辺倒のバカとも言う。5完結後はマシなはず…

ギャップか、沼男バージル。そうやってネロの母さんも篭絡したんか?え?

早く他の生徒をお出ししたいぜ!

あ、水着ホシノ30連、水着キサキ40連で出ました。自慢です。愛してるよ、アロナ、プラナ。二人で一緒に封筒渡してくれるのかんわいい~。俺が産みました。
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