ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~   作:ロキシード

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UA5000、お気に入り50突破感謝です!
PGRコラボ見ました。ダンテの口下手、ムッツリ野郎呼ばわりで笑った。


【番外編】鬼人と狂犬

 アビドスへ向かう数日前。

 シャーレの執務室で、バージルはひとり黙々と書類の山に向き合っていた。必要事項を書き込む手は驚くほど滑らかで、ついこの間まで事務仕事に四苦八苦していた男とは思えないほど手慣れている。

 最近毎日のように指導と称してシャーレに来ていたユウカは今日は不在で、室内には珍しく静けさが満ちている。その静寂を、彼はひそかに楽しんでいた。ペン先が紙を滑る音だけが、執務室に規則正しく響く。

 ふと手を止め、バージルは積み上がった書類の山を見渡す。

 

「……こんなものか。ふん、慣れるものだな」

 

 自嘲気味に呟く。就任してすぐは荒事の対応に奔走すると身構えていたものだが、蓋を開けてみれば入ってくるのは面倒ごとの処理ばかり、気づけば机に向かう時間が日課となっていた。

 たまに不良生徒の鎮圧に出向けば、D.Uを中心に治安維持を行う警察組織――ヴァルキューレ警察学校の生徒らが事態に対応しており、ほとんどバージルの出る幕はないといった具合で、ここ数日は碌に戦闘もしていなかった。

 

「これでは体が訛るな……」

 

 静かな声で零す彼の表情は、言葉とは裏腹にとても穏やかなものだった。ここに来るまで戦いしか知らない人生を送ってきたバージルには、平穏に過ごす日常は馴染みなく初めはもどかしさを感じていた。

 しかし、見知らぬ世界について知識を深めたり、書類仕事など新しい技術を身に着けたりするのは彼にとって新しい自分を形作る、静かな鍛錬のように思えていた。

 

「………。今度トリニティから茶葉を仕入れてみるか」

 

 ティーカップに口をつけ、ひと息ついたところでそんな予定を思いつく。穏やかな時間がゆっくりと流れていく。

 

「――っ!」

 

 その平穏は、突如響いた銃声によって断ち切られた。

 端末に入った不良少女による銃撃事件発生の報せを見て、思わず眉間にしわを寄せる。

 

「ふう……まあいい、そろそろ運動が必要だと思っていた頃だ」

 

 音からして、現場はシャーレのすぐそばであることは間違いない。ここからならヴァルキューレより自分が赴いた方が早いだろう。

 

「アロナ、詳細を」

【はい先生!場所は――】

 

 

 

 

「D.U外郭第十三通りにて銃撃事件発生との通報あり」

「現場には犯人と思しき人物を確認との通報あり、特徴は銀髪に長身、黒いコートを着ている模様」

「当該地域周辺を巡回中の公安局員は至急向かわれたし」

   

 通信機越しにノイズ掛かった少女の声が車内に響く。

 

「……近いな」

 

 低く鋭い声が短く反応する。

 

「こちら尾刃カンナ、直ちに現場へ向かう」

「カンナ局長!?いえっ局長の手を煩わせるような案件では……」

「事件に立場など関係あるか。犯罪に対処するのは、我々ヴァルキューレの仕事だ」

 

 ハンドルを握りマイクに言い放つのは、鋭い犬歯を覗かせ薄金の髪を靡かせる、どこか草臥れた雰囲気の少女――ヴァルキューレ警察学校公安局局長、尾刃カンナである。

 

「しかし、局長がわざわざ出向く必要は……!すぐに別の生徒が出動するでしょうし、ここは任せて……」

「いや、この地点なら私が向かった方が早い。市民の安全のためだ、急ぐぞ」

 

 にべもなく応答すると、カンナはすぐに現場へと車を走らせる。

 ここ最近、こういった銃撃事件は減少傾向にある。それは偏に連邦生徒会の行政権復帰によるものだ。しかし依然として、連邦生徒会長がいたときとは比にならないほどの犯罪率であり、こうして局長自ら巡回に出向くことも必然的に増えていた。

 

「ここを過ぎて……もうすぐだな」

 

 めまぐるしいハンドルさばきで現場へ急行したカンナは、車を止めるや否や周囲の状況を確認する。そこには倒れた不良少女たちと薬莢が散乱しており、硝煙の匂いがまだ残っていた。

 そして――その中心に、ひとり立つ男がいた。

 銀髪。長身。黒いコート。通報にあった特徴と一致する。

 

「そこのお前、動くな!」

 

 カンナが腰から拳銃を抜き、男へ向けて構える。

 その瞬間、空気が変わった。男――バージルがゆっくりとこちらへ視線を向ける。ただそれだけで、背筋を撫でるような冷たい圧が走った。獣が牙を隠したままこちらを睨んでいるかのような感覚に襲われ、息が漏れる。

 

「……っ」

 

 彼が発する威圧感は、訓練されたヴァルキューレの中でも随一の実力者であるカンナでさえ反射的に体を強張らせるほどであった。

 拳銃を握る手に自然と力がこもる中、ギリと奥歯を鳴らし、平静を保つ。緊張に冷や汗が頬を伝う中、カンナは冷静に状況を判断しようと、バージルを観察して――

 

「……?」

 

 違和感に気づく。通報では彼の男による銃撃事件とのことだったが、目の前に立つ男は銃を所持していない。小型の拳銃のようなものを隠し持っている可能性はあるが、周囲の損壊状況はアサルトライフルやマシンガンでなければ説明がつかない。

 カンナは徐々に状況を読み取る。倒れた不良少女たちの位置。薬莢の散り方。破壊の方向。そして、彼が立つ位置。――この男は、犯人ではない。

 バージルの足元からゆっくりと視線を上げ、カンナはやがてその腕に着けた腕章へ目を移す。

 

「あれは、連邦捜査部の……」

「お前は……ヴァルキューレの者か?」

 

 不意に向けられた声に、カンナは目を見開く。その声音は低く、落ち着いていて、敵意はない。彼の放つ威圧感は鳴りを潜めていた。

 カンナは深く息を吐くと、銃口を下げて答えた。

 

「……はい。私はヴァルキューレ警察学校公安局の尾刃カンナです。……シャーレの先生とお見受けします。あなたが、鎮圧を?」

「暴れていたから止めただけだ。ヘルメット団と不良少女どもの抗争だとか言っていたが、詳しくは知らん」

 

 淡々と答えるバージル。周囲をよく見てみれば、転がっている少女の中にはヘルメット団らしき装備の者も混ざっていた。

 だが、今はそんなことより――

 

「失礼しました。どうやら市民があなたを犯人と勘違いしたようです」

「……構わん。よくあることだ」

「よくあること……ですか。以前もこのようなことが?」

「俺を犯人と勘違いしたそちらの生徒に銃口を向けられた」

「それはっ……!私の部下が大変失礼しました、どうお詫び申し上げればいいか……」

 

 報告書ではそんなことがあったなど全く上がってきていない。戻り次第すぐに確認し、厳しく指導しなければ。

 

「いい。その場で話はつけてある」

「ですがっ……」

「……俺の見た目が原因だろう」

「……は?」

 

 思わぬ方向に話が進み、カンナは間の抜けた声を発した。バージルは変わらぬ調子で続ける。

 

「見慣れない格好に長身、それに――この眼。少女や街の住民たちからすれば馴染みなく、怯えるのも無理はない」

「記憶より幾分か若い気もするが……それはまあいい」

 

 その言い方は、怒りでも自嘲でもない。ただ事実を述べているだけの乾いた響き。しかし、彼の表情には微かな感情が浮かんでいた。

 カンナは一瞬言葉を失った。それは自分もよく知るものだった。"怖い"と言われ、本当は市民を守りたいだけなのに、誤解される。

 その感覚が、目の前の男の言葉と重なる。

 

「それは……あなたが悪いわけではありません。誤解されやすいのは……その、分かります」

 

 バージルはカンナに視線を向け、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「お前がか?見たところ、普通の少女に見えるが」

「へっ?……そ、そうでしょうか?自分で言うのもなんですが、巷では「狂犬」なんて恐れられているのですが……」

「ふっ……狂犬か」

「……なにかおかしな点でも?」

 

 目を伏せ笑みを零すバージルにむっとし、カンナが抗議する。

 

「いや、随分かわいらしい狂犬がいたものだ、と思ってな」

「なっ……それはどういう……いえ、誉め言葉として受け取っておきます」

 

 カンナが小さく咳ばらいをし、息を整える。

 

「コホン……恐れられる――そういう評判もときには「鎧」として機能するものです。公安局局長が舐められていては面目が立ちませんから」

 

 バージルの一言につい早口になってしまったが、その言葉に嘘はない。警察たるもの舐められては威信に関わる。その鎧を着ることを選んだ以上、傷付くことなど気にしてはいられない。

 

「……。そうか……。尾刃カンナ局長…だったか」

「……カンナ、で結構です。バージル先生」

「強いのだな、カンナは。だが――」

 

 バージルはカンナの頭に手をそっと乗せて、穏やかな声で告げた。

 

「カンナ、お前がその鎧を着ていようがいまいが、俺がお前を恐れることなどない。俺からすれば、お前は守るべき生徒だ。覚えておけ」

 

 バージルにとって、恐れられることはもはや日常であり、心を動かすほどのものではない。だが、彼女は違う。そんなふうに割り切れるほど大人ではない。

 市民を守るために奔走する彼女の思想は立派なものだが、彼女はまだ子供だ。その思いは、報われるべきなのだ。もし彼女の立場がそれを許さないのであれば、せめて自分の前でだけは。そんな思いからの行動だった。

 そして、彼の行為は少女には劇的な結果をもたらした。

 

「……っ」

 

 カンナは一瞬固まった。

 頭に置かれた手の平は自分よりずっと大きい。不器用で男らしいそれは、優しく頭を包み込むような温かさを帯びていた。

 触れられているだけで落ち着くような感覚を覚えながら、同時に触れられ慣れていない彼女は、ただ置かれているだけのそれに胸の奥をざわつかせる。

 薄金の髪が揺れ、犬歯がちらりと覗く。その表情に滲むのは、照れか戸惑いか。おそらくは両方だ。

 

「わ、私は……」

 

 言葉が続かない。

 普段なら毅然とした態度で部下を導き、事件現場では誰よりも冷静でいられる彼女が――

 今は、ただの少女のように言葉を探している。

 バージルはそんな様子を見て、静かに手を引いた。

 

「あ……」

「俺はシャーレに戻る。現場のことは任せるぞ」

 

 惜しむような声を発したカンナの横を、バージルが静かに通り過ぎていく。

 カンナは、縫い付けられたようにその場から動けずにいた。

 

 

 

 

「カンナ局長!ご無事でしたか!」

「応答がないので心配しましたが、どうやら杞憂でしたね!お一人でこれだけの数を……ってあれ?通報内容と違くない……?」

 

 どれほどの間そこに立ち尽くしていたのか。

 応援に来た隊員たちの声で我に返ったカンナは、弾かれたように肩を上げる。

 

「局長?どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。現場周辺の封鎖は終わったか?」

「はい、現在負傷者の確認中です。……あの、通報にあった黒いコートの人物については……?」

「……誤報だ。見ての通り、ヘルメット団と不良による抗争だよ」

 

 辺りに倒れ伏した少女たちを、ヴァルキューレの生徒たちが回収していく。

 

「鬼人、か」

 

 最近、生徒たちの間で囁かれている噂。圧倒的な戦闘力と、どこか人ならざる気配を纏うシャーレの先生につけられた呼び名。先程の光景を思い出し、カンナは小さく息を吐いた。

 戦う場面こそ立ち会えなかったが、彼の放つ覇気は見るものを震わせるだけのものがあった。二つ名に違わぬ実力者なのだろう。だが、その実態は不器用なだけの一人の大人だった。きっと、あの調子で誤解と噂が広まってしまったのだろう。

 カンナの脳裏に、彼の落ち着いた声と共に告げられた言葉がそっと反響した。

 

「あなたは、そうやって全てを背負って……」

「……先生は、ずるい人です」

 

 小さく、聞こえるか聞こえないかの声で。

 それは、公安局局長ではなく――ただの尾刃カンナとしての、本音だった。

 

「もし、少しでも寂しさを感じるなら、どうか――」

「私にも、それを分かち合うことを許してくれませんか?」

 

 人々から恐れられる者として。誰かのために自分を削る者として。

 彼が生徒の味方であろうとするなら、私は――

 その続きは、少女の胸の内でそっと熱を帯びた。




思考錯誤してくうちにキャラ崩壊していって難しかった……

とりあえずカンナとバージルは本作では共通点のあるキャラとして描きたかったのですが、やってくうちにカンナがデレすぎてたりと筆者の願望が出てきて大変でした。

まだそのときではない……慌てるな……



今後どっかで出したいセリフ一覧

「先生……?あいつが?おい、こりゃ悪い冗談か?」

「この気配……あいつもこの世界に来ているのか」

「嘘!?銃弾で銃弾を撃ち落とした!?」

「まさかネロも、親父の再婚相手が自分より若いとは思わねぇだろうよ……なぁバージル?」
「……死ね!」

「えーと……つまり、あの水着は筋肉の動きを検知して……」
「そう。バルクアップした瞬間にパージして、そのボディを晒すんだ。素晴らしいアイデアだろう?」
「先生が危ない!」

「貴様は私と同じだ!他者を利用し、踏みにじってきたはずだ!何故子供たちのために……」
「そうだな……過去は消えない。だが、これから歩む道は俺が決める。俺は子供の未来を守るために生きると決めた。」

「お前の罪など俺には関係ない。ここにいるのは、ひとりで苦しむ、俺の生徒だけだ」
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