ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~   作:ロキシード

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覆面水着団

「さて、どいつから遊んでくれるんだ?」

 

 両手を広げ、場にいる者すべてを挑発するように声を張ったダンテに、客席から腕に覚えのある者たちが次々と立ち上がる。

 

「奴め……面倒なことを」

 

 気配を頼りに辿り着いてみれば、闇市の非合法な催しに白昼堂々と姿を見せたダンテ。相も変わらず奔放な弟の振る舞いに、バージルは眉間の皺をさらに深く刻む。

 これまで行方に関する情報は一切掴めなかったというのに――なぜ今になって急に姿を現したのか。今すぐ問い詰めたいところだが、

 

「邪魔が多いな」

 

 ダンテは今まさに『ブラッドステージ』と呼ばれる舞台の上。周囲には戦意に満ちた獰猛な視線が渦巻いている。

 ダンテに届く実力者などいないだろう。だが、最後の一人になるまで大人しく待ってやる余裕もない。ホシノたち対策委員会の動向も気になる。騒ぎは起こさぬよう言い伝えたが――不安だ。

 すぐに決着をつける必要がある。であれば、

 

『さあ、早速最初のチャレンジャーは……』

「どけ、そいつには用がある」

 

 広場の中央――客席後方から響いた声に、挑戦者たちが一斉に振り向く。

 

「なんだ?てめぇは。見ねえ顔だな」

「この俺『三つ腕の田中丸』を差し置いて横入りたぁ、いい度胸じゃねえか」

「おい、誰かあの野郎に身の程を教えてやれ」

 

 刺すような視線を一挙に集めたバージルは、向けられる物騒な言葉を気にも留めずステージへ進んでいく。

 すると、複数の砲身が一体化した機械腕をローブから覗かせた、バージルより頭一つ分も背丈のあるロボットの男が肩を掴んできた。

 

「おいあんた、ここじゃ強い奴がルールだ。新顔なら大人しく順番を――ぶっ」

 

 言い切る前に、男はその場に崩れ落ちた。彼の顔があった位置に裏拳を振り抜いたバージルが、つまらなそうに吐き捨てる。

 

「強い奴がルールか。おい、ここにはこんな雑魚しかいないのか?」

 

 その瞬間、バージルに向いていた意識が、敵意一色に染まった。

 

『おーっと、これはどういうことだ!?突然の乱入者、見慣れない風貌、まさにダークホース登場だ!』

「はっ、せっかちなこった。いいぜ、じゃあこうしよう。俺に挑む気がある奴、今すぐ全員でかかってきな。どうせすぐに終わっちまうんだ、何人で来ても一緒だろ」

『なんと!まさかの発言!この人数を一気に相手をするつもりか!?これは面白くなってきた!』

 

 勝手に進行を決めるダンテに、機械音声は止めるどころか興奮した様子で捲し立てる。運営としてはどんなにカオスな状況でも、盛り上がれば構わないらしい。

 だが、面白く思わない者――客席の挑戦者たちは、舐められていることに我慢がならない。武器を構え、口々に罵声を浴びせる。

 その矛先は、乱入して周囲を雑魚呼ばわりしたバージル、そして全員を相手に取るに足らないと宣言したダンテ、両方へ向けられていた。

 

「ふん。いくら束になったところで変わらん」

「さあ、ガッツ見せろよ!」

 

 客席とステージ、二つの点を中心に、猛烈な攻撃が襲い掛かる。赤と青、二対の悪魔が、銃弾の降り注ぐ戦場で舞う。

 ブラッドステージ、最初で最後のコラボレーションが幕を開けた。

 

 

 

 

「誠に残念ながら、今回はご期待に添えません」

「はあ!?ちょ、ちょっと待って!どうしてよ!?」

 

 陸八魔アル――便利屋68の社長にして、ゲヘナ学園から手配を受けているお尋ね者。そんな立場の彼女が、まともな銀行で融資を受けられるはずもない。

 そこへクライアントからの催促。底を尽きかけた活動資金。追い詰められた末、アルはブラックマーケットの闇銀行へ足を運んだのだが――結果は芳しくなかった。

 

「提出いただいた書類を拝見した上での判断です」

「だから、なんでそうなるのよ!理由を教えなさいよ!」

「理由、ですか。はあ……」

 

 アルの正面に座る銀行員は、声を荒げて立ち上がった彼女を前にしても、ディスプレイの眉一つ動かさない。

 それもそのはず、ここは幾多の犯罪資金が動く闇銀行であり、日頃多くの危険な組織を相手に営業している。当然、そういった連中を相手にするために備えて、構内は厳重に警備されている。――マーケットガードによって。

 アルもそれを理解しているからこそ、軽率な行動は取れない。しかし、後ろで待機している社員たちに啖呵を切ってここまで来た以上、簡単に引き下がるわけにもいかなかった。

 

「まず、あなたの経営する便利屋68。これは実質、ペーパーカンパニーと言えるでしょう」

「そんなわけないでしょう!ちゃんと事務所だって構えて…」

「ええ。こちらでも確認しております。しかしその事務所は借用地で、財政状況は破綻寸前。維持費ばかり高く、定期的な収入もない。資産と呼べるものは重火器くらいのものです」

「それは……今の仕事が終われば依頼料だって入るのよ!」

「ですが、担保も信用もないあなたに融資するのは困難です。そうですね……まずは堅実に、日雇いや期間工などから始めてみてはいかがでしょうか?」

「はあ!?」

 

 はらわたが煮えくり返る。何を言い出すかと思えば、日雇い?期間工?これでも数々の依頼を受けてきた実績はある。報酬は……受け取れなかったこともままあったが、それはそれだ。

 こちらの事情も知らずに、見下した態度で突き放す銀行員には、これ以上我慢できない。握った拳に力が入る。

 

(ムカつく……!もういっそ大暴れして、銀行のお金を持ち出しちゃおうかしら……?)

 

 ふと、背後から心配そうに自分を見つめる社員たちの姿が目に映る。

 

(……いや、それはダメね。マーケットガードがいるし、脱出は困難だわ……)

 

 銀行の出入り口は、マーケットガードが厳重に目を光らせている。仮に建物内から抜け出しても、広大なブラックマーケットから追っ手を振り切って逃げるのは非現実的だ。

 あるいは、便利屋4人でなら……

 

(いや、それはできないわ)

 

 社長として、彼女たちを危険に晒すわけにはいかない。ここまでついてきてくれたのだ。なんとしてでも報いなければ。

 

「くそっ……」

 

 思わず悪態が口をついて出る。

 情けないことこの上ない。キヴォトスで一番のアウトローになると決めたから、ゲヘナを飛び出してきたのではないのか。それなのに、今の自分はどうだ。融資だのなんだのと、つまらないことに悩まされて、ハードボイルドとは程遠い。

 自分の不甲斐なさに、目頭が熱くなるのを感じる。

 

「………」

 

 しかし、目に浮かぶ涙は、誰にも目撃されることはなかった。

 

「!? 電気が……!」

 

 突然の停電に、銀行員たちが戸惑いの声を漏らす。

 

「すぐに復旧するはずだ! ……おい、なんで端末の電源まで落ちてる!」

「外部からの攻撃……? くそ、どうなってる」

 

 ロビー内が騒がしくなる中、耳をつんざく衝撃音と共に、正面入り口が爆ぜる。

 

「うわあああ!」

 

 何度かの銃声の直後、どさどさと誰かが倒れる音が重なる。

 数秒後、照明が復旧する。

 

「全員、武器を捨てて。その場に伏せて」

 

 再び照らされたロビーで、青い目出し帽を被った少女――制服と声色から恐らく少女であろう人物がそう告げた。

 

「銀行強盗……?」

 

 咄嗟に伏せたが、まさかここに強盗に入る怖いもの知らずはいまい。アルは身体を起こし、声の主たちへ振り返る。

 青い目出し帽の少女の後ろには、同じように覆面で顔を隠した制服姿の少女たちの姿が。彼女たちの手には、どこか見覚えのある銃が握られている。

 マーケットガードは何をしているのか?連中が警備していたはずの場所を見てみれば、全員武器を手放して倒れている。突入の瞬間、照明が復旧するまでのわずかな時間で即座に制圧したのだろうか。

 

「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」

「あ、あはは……みなさん、ケガしないように大人しく伏せててくださいね……」

 

 緑色の目出し帽の少女が場違いに元気な声で武器を振り回す。一方、どこか緊張した様子で抵抗しないよう呼びかけるのは、目出し帽――ではなく、一人だけ紙袋を被った少女だった。

 

「外部への通報システムは落としたし、ここまでは順調だね。さあ、リーダーのファウストさん!次の指示をよろしく~」

 

 桃色の目出し帽の、一際小柄な少女が紙袋の少女に向かって言い放った。

 

「え?……ええーっ!?」

 

 ファウストと呼ばれた少女は、気の抜けた声で一度後ろを振り返り、自分が呼ばれているのだと気づき今度は驚愕の声を上げた。

 

「ヒフ……いえ、ファウストさんがボスです!ちなみに私は――」

 

 緑の目出し帽の少女は一度言葉を切り、わざわざ武器を置いてその場で一回転。そして正面に向き直ると同時に決めポーズと同時に、

 

「覆面水着団のクリスティーナだお♧」

 

 そんなやりとりを陰から眺めていたムツキが、何かに気付いたように口を開く。

 

「あれ?あの子たちって……」

「アビドスの……。どうしてここに?」

「ねっ、狙いは私たちでしょうか?返り討ちにしましょうか……?」

「いや――」

 

 肩に力が入るハルカを制止しながら、カヨコが指をさすのは、青い目出し帽――砂狼シロコがいる場所。そこには、我らが社長、陸八魔アルの姿もあった。

 

「ターゲットは私たちじゃないみたい」

 

「カメラの死角や警備の動線、建物の構造は全て把握している。全員、無駄な抵抗はしないこと」

 

 こつこつと歩きながら銀行員のいる窓口へ近づいていくシロコ。彼女の言葉通り、銀行が用意していた対強盗用の設備は全て先手を打たれ封じられていた。

 

「ひぃ!」

 

 どさ、と窓口の机にバッグを広げ、銃口を突きつける。

 

「さあ、そこのあなた。少し前に到着した現金輸送車の…」

「わかりました!現金でも、金塊でも、債券でも、なんでも差し上げます!」

「いや、私たちは集金記録を……」

「そちらのバッグに詰めればいいんですね!?」

 

 まるで話が通じていない。突入時に抵抗させないよう攻撃手段――マーケットガードを含む警備や設備を潰した効果が大きすぎたようだ。

 困惑しながら、バッグに札束が詰め込まれていく光景を止めるに止められずにいるシロコ。そんな彼女を、近くで目撃していた者が一名。ついさっき、現金を必死に詰め込んでいる銀行員に融資を断られた陸八魔アルだ。

 

(や、ヤバーい!!この人たち何なの!?ブラックマーケットの銀行を襲うなんて!!)

 

 彼女は、目の前で繰り広げられた強盗、それを行った人物とその手腕に目を感激していた。

 

(めちゃくちゃ手際いいし、超プロフェッショナル!こんな大胆な計画を立てちゃうアウトローが、未だに存在するなんて!)

 

 アルの賞賛は、目の前の少女だけにとどまらない。この状況を作り出した、覆面の少女たち全員が、今のアルには輝いて見えた。特に注目すべきは、やはりリーダーと呼ばれていたファウストなる人物だろう。

 

(かっ、かっこいい……!シビれるっ!これぞまさに真のアウトロー!うわぁ……涙出そう)

 

 先ほどまでとは全く別の理由で目頭が熱くなる。そんなアルの様子を、遠巻きに眺めていた便利屋の面々は、

 

「全然気づいてないみたいだけど……」

「むしろ目なんかキラキラさせちゃってるし」

「はあ……」

 

 あの様子では、こちらの言葉も届かない。そう判断し、カヨコたちはひとまずこの場は息を潜めることにした。

 

「シロ……いや、ブルー先輩!ブツは手に入った?」

 

 ぱんぱんに膨れ上がったバッグを前に、シロコは聞こえていないのか、返事をしない。

 

「先輩……?」

「あ、う、うん。確保した」

「よーし、それじゃあ逃げるよー。全員撤収~」

 

 桃色の目出し帽の少女――ホシノが素早く離脱を呼びかける。

 その時だった。

 

『この反応は……!?皆さん、伏せてください!』

「え?どうしたの?ってうわぁ!」

 

 コンクリートでできた頑強な壁が、突如として崩壊する。

 正面入り口へ向かっていた赤の目出し帽――セリカが、横からの爆風で吹き飛ばされる。

 

『大丈夫ですか!?』

「けほっ……大丈夫、転んだだけ。もう、何なのよ……」

「まさかもう応援が?いや、それにしては……」

 

 シロコが冷静に状況を分析する。事前の調査通りなら、まだ追っ手は来ないはず。それに、連絡手段は封じていたはずだ。なにより、銀行を巻き込むような攻撃に出るとは考えにくい。

 埃交じりの煙に袖で口元を抑えながら、攻撃の正体を探る。徐々に煙が晴れていくにつれ、そこには二つの人影が見えてきた。

 

「おいおい、随分派手にやったな。どこだよここは」

「俺の知ったことか。ここを根城にしていたのなら、貴様の方が詳しいだろう」

 

 聞こえてくるのは、男の声。一人は聞いたことのないものだが、もう一人は、よく知った低く冷徹な声だった。

 

「……先生?」

「む?お前は……待て、なんだその覆面は」

『先生!今はそんなことより、ここを脱出しなければ!あと、今は名前を呼ばないでください!』

「お前までそんなものを被って――」

 

 バージルは一度周囲に目をやり、そして順番に対策委員会の少女たちとヒフミを見る。銀行と思しき場所で、地面に伏せる者たちと覆面の武装集団。おまけに、シロコの手には大きく膨らんだバッグ。おおよその状況を察したバージルは、大きく嘆息すると、

 

「はあ……騒ぎは起こすなと言ったはずだが?後で詳しく聞かせてもらうぞ」

「おいバージル。なんかいかにもって連中がこっちを狙ってるぜ」

 

 バージルがダンテの指す方へ視線を向けると、複数のロボット兵――爆発の混乱に乗じて再び武装したマーケットガードが、銃口をそろえて構えていた。

 

「貴様らも強盗の一味か?このまま帰れると思うなよ!」

「ブラックマーケットを敵に回すとどうなるか、思い知るが良い!」

「へぇ、威勢のいいこった。さっきの連中よりかマシなんじゃねぇか?おい、どっちが多く倒せるか、今度こそ決着つけようぜ」

「構っている時間などない。一気に蹴散らすぞ」

 

 息の合った調子で会話を繰り広げる二人に、対策委員会の少女たちはポカンとしている。一方、ファウスト――もといヒフミは、ダンテを見て大きく目を見開いていた。

 

「だっ、ダンテさん!?」

「ん?……なんだ、例のペロペロ好きじゃねぇか。何してんだ?こんなとこで」

「おいダンテ、こいつと面識があるのか?」

「いやなに、レアグッズを集めてるとかで、前に不良どもに恐喝されてたんだよ」

「はい、その節はお世話に……いや、そんなことより、訂正してください!ペロペロではなく、ペロロ様です!」

「ヒフ……ファウスト、今はそんなこといいから!」

 

 どうしても譲れないとばかりに抗議するヒフミを、セリカが羽交い絞めで抑え込む。

 

「ダンテだと……?」

「あの赤い悪魔がどうしてここに?」

 

 一方、マーケットガードたちは、ダンテの名を耳にして明らかに動揺していた。

 

「おい、お前たち、何故攻撃しない?早く連中を捕らえるんだ!」

 

 敵を前にしていつまでも発砲しないマーケットガードに業を煮やした銀行員が、イラつきを滲ませた声で命令する。

 しかし、その声に従おうとする者はいない。

 

「……」

「おい!どうした!さっさとあいつらを…」

「無理だ。あいつには勝てない」

「何を……?」

「あそこにいるのは、最強の便利屋――ダンテだ」

「一か月ほど前に突然現れた、最強の二丁拳銃使い。便利屋を名乗って、いくつもの荒事に首を突っ込んでは無傷で相手を屠る、赤い悪魔だ」

「便利屋だと?」

「便利屋と言っても、気に入らない依頼は断る上に、報酬は法外。相手の財布に合わせて吊り上げるといった具合だ。それなのに、どうして強盗風情が……」

 

 その場にいるマーケットガードは、以前発生した暴力事件の鎮圧にあたった際に、騒ぎの中心にいたダンテと対面したことがあった。

 ブラックマーケットという無秩序で秩序を築き上げる程の圧倒的な戦力を誇る彼らでさえ、たった一人の生身の人間に手も足も出なかった。挙句の果てには、ダンテは退屈そうにあくびをしながら彼らを相手にしていたのだ。そんなことが、自分たち以外にもあちこちで報告された。

 以来、マーケットガードの間では、かの男が関わっている事件からは手を引くようにしていた。理由は単純――割に合わないからだ。彼と戦うことで生じる損害と、彼を放置することで生じる損害。それを比較した、単純な勘定の問題だ。

 

「そんな奴が……くそっ、どうなっている」

 

 マーケットガードが役に立たない以上、指をくわえて奴らが逃げていくのを見過ごすしかないというのか。

 

「そんなことは、認められない……お前たち、クビになりたくなければ、あいつらを少しでも足止めするんだ!不安だというなら、応援を呼べばいい!」

「そういう問題じゃ……やれやれ。これだから下っ端は辛い」

「やるしかないな……お前たち、悪いがここで一緒に地獄行きだ」

 

 あくまでも雇い主の意向には従うしかない。マーケットガードたちは腹を決める。

 

「なんだ。お話は終わりか?って、お前ら前にボコった奴らじゃねぇか」

「お前はどこでも面倒を引き起こすんだな……もはや呆れもせん」

「うるせぇよ。おい、手加減はしないからな!」

「っ……総員!攻撃開始!」

 

 号令と同時に、一斉に銃口が火を噴いた。無数の弾丸が正確無比に二人へ迫る。

 ダンテは笑みを浮かべたまま、バージルは興味なさげに、そろってその場から動かない。

 

「先生!何してるの!?避けて!」

 

 セリカが叫ぶ。マーケットガードの装備は不良のそれとは異なり、軽い装甲など容易く貫く。甘く見ていたら、痛い目を見る羽目になる。

 

「さあて、いくか相棒」

 

 ダンテが短く呟くと、いつの間にか握っていた白と黒、二丁の拳銃を平行に構える。まるで狙いのつけられない、出鱈目な構え方だ。

 しかし、拳銃とは思えないほどの速度で連射された銃弾は、飛来する銃弾を全て正面から撃ち落としていく。

 

「何が起こってるの?」

「……銃弾に銃弾を当てて、撃ち落としてるんだ。うへ、これはたまげた」

 

 放たれたはずの銃弾がバージルたちに当たらなかった光景を見て、理解が追い付かなかったシロコが疑問の口にすれば、ホシノが驚きを滲ませながらも冷静な声で答える。

 

「はあ?そんなことできるわけ…」

「――ダンテさんなら可能です。信じられないかもしれませんが……」

 

 信じられないとツッコむセリカに、ヒフミが食い気味に告げた。確信に満ちた声でもたらされた言葉に、対策委員会の少女たちは息を呑む。

 

「先生も大概だけど、あの人も相当な化け物だね」

「さすが先生のお知り合いです!あ、髪色も一緒ですね!」

「もしかしたら兄弟だったり?いや、雰囲気違いすぎるか」

「どうでしょう……」

 

 ヒフミが最初にバージルを見たとき、固まった理由はまさしく彼がダンテに似た顔をしていたからだったのだが――知れば知るほど、正反対の人物だった。

 しかし、こうして一緒に現れ、目の前で阿吽の呼吸で戦っている様を見せつけられては、彼らに何かしらの繋がりがあるのは否定できない。

 

「どうした?もっと本気出せよ!」

「くっ……化け物め!」

「もう一人の方を狙え!あっちから先に無力化するんだ!」

「ほう……俺があいつより弱いとでも?冗談は寝て言え」

 

 バージルが空中に青白く光る剣――幻影権を出現させる。彼の身体を中心に計8本のそれが、標的に向かって真っすぐ狙いを定める。

 

「あれは……何だ?」

「っ! 伏せろ!」

 

 反応が遅れたマーケットガードが、光の剣で壁に串刺しにされる。

 

「応援はまだか!?」

 

 今の攻撃で陣形を崩された。方々へ散った仲間たちが、必死に応戦している姿が見える。

 

「ちっ……これじゃそう長くは保たないぞ」

 

 何か手はないか。周囲へ目をやると、端で縮こまっている少女が目に入った。強盗の一味、紙袋を被った少女だ。

 

「お前、手を上げてゆっくりこっちへ来い!」

「えぇ!?やめてください!私は無関係ですー!」

「っ……ファウスト!」

 

 銃を向けられたヒフミが声を上擦らせる。咄嗟に対策委員会も銃を構えるが、位置的にヒフミを巻き込みかねないため、迂闊に撃つことができない。

 

「無関係なわけあるか!お前たちの仲間だろう!人質になってもらうからな!」

「うぅ……今日はついてないです……」

 

 どこか能天気さを感じさせる台詞を口にしながら、ヒフミは両手を上げてマーケットガードの元へ。

 

「よし。おい!そこのお前!仲間の身が惜しかったら、今すぐ降伏しろ!」

「あ? ……やれやれ。舐められたもんだぜ」

 

 銃を向けられているヒフミに気付いたダンテが、人質作戦の下手人を青色の双眸で鋭く射抜く。

 

「武器を捨てろ!そのまま手を頭の後ろに組んで、そこに座れ!」

「はいはい……ふぁ、なんかこうしてると眠くなってきたな」

 

 言われた通り頭の後ろで手を組む――が、伸びをしながら脱力するダンテの様子は、降伏というよりただの休憩にしか見えない。

 ダンテはどすん、と尻から地面に落ちると、そのまま腕を枕にして仰向けになった。

 

「誰が横になれと言った!おい、手が空いてる者は……くそっ、全員やられたか」

 

 周囲を見渡しても、立っている味方は一人もいない。倒れ伏す者ばかりで、戦力は壊滅していた。

 

「――?」

 

 もう一人、暴れていたやつがいたはずだ。姿が見えない。

 

「一体どこに…」

「いいとこは譲ってやるよ、なあ先生?」

「貴様にそう呼ばれると虫唾が走るな。――これで1点リードだ」

 

 その声が聞こえた瞬間、背筋に、氷のような悪寒が走った。振り向こうとした――だが、その"動作"すら最後まで完遂できなかった。

 バージルの手刀が、音もなく男の意識を刈り取る。倒れた男の身体が地面に触れる音が、やけに遅れて響いた。

 

「今、何が……?」

 

 ヒフミは目を瞬かせる。あまりの素早さに、何が起こったのかまるで理解できなかった。

 ダンテは仰向けのまま、片目だけ開けて兄を見た。

 

「なんだよ、興味ない振りしてしっかり数えてたのか」

「……よし、とっととここから出るぞ」

「無視かよ」

 

 ダンテの軽口にバージルは耳を貸さず、生徒たちの無事を確認する。そして、

 

「……」

「あ、バレた。やっほー、先生」

 

 物陰からこちらを窺っていた連中――便利屋68の社員たちと目が合う。

 当初ブラックマーケットを訪れた目的の一つに、アビドス襲撃を裏で手引きする何者かと便利屋68の繋がりを探るというのも含まれていた。だが、

 

「今は脱出が先決だ。これ以上騒ぎが大きくなるのはまずい」

 

 バージルはシロコの元へ歩み寄り、他の者に聞こえないよう声を抑えながら確認する。

 

「で、ここまでしたんだ。何か成果はあったんだろうな?」

「ん、ここに私たちが返済したお金を乗せた現金輸送車が入っていった。これは集金記録」

 

 得意げに掲げられたバッグは、書類数枚が収まったぐらいではありえない程大きく膨張している。チャックの隙間からは、明らかに札束が見えていた。

 

「……話は移動しながら聞く。おいダンテ、お前も来い」

「へいへい。こっちにも色々詰まる話もあるしな」

 

 地べたに寝そべっていたダンテがゆっくりと立ち上がる。対策委員会とヒフミ、バージルとダンテの、7人が揃った。

 

「とりあえず合流できて良かったよ、先生。ずっと聞きたかったんだけど、そっちの大人は?」

「こいつは――」

 

 対策委員会の突入で風通しの良くなった入り口で、外から刺す陽光に目を細めながら、バージルは短い沈黙の後、淡々と言った。

 

「……ダンテ。俺の双子の弟だ」




遅くなってすみません。最近は別作品を読み漁ったりサバゲーの装備弄ったりで全然手を着けられなかったです。

HK416のカスタムがようやく終わったので、ネルのツインドラゴンを再現したい。今年中に終わるかなぁ。

いい加減オデュッセイアのエピソードやらないと……

夏空のやくそく復刻ありがとう。とりあえずセイアだけ確保しやした。あのカードゲーム難しい。
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