ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~ 作:ロキシード
「それじゃあこの辺で。アディオス~☆」
「行こう!夕日に向かって!」
「夕日、まだですけど……」
覆面水着団としての問答も一段落し、校舎へと向かう対策委員会。ボロが出る前にとっとと立ち去りたいというのが本音である。
「我が道の如く魔境を……! その言葉、胸に刻むわ!」
彼女たちがその場のノリで言い放った言葉を噛み締める陸八魔アルの元に、様子を窺っていた便利屋の面々が合流する。
「……いつ言う?」
「面白いからしばらく放置で♪」
「あ、あの……これ、忘れ物でしょうか?」
ハルカの指す方を見ると、膨れ上がったバッグが取り残されている。覆面水着団の置いていったものだろうか。中身を恐る恐る確かめてみると、
「ひょえぇ!?」
「こ、これは……!」
「……あれ?現金のバッグ、置いてきちゃいました」
「えーっ!?」
「……今気づいたのか。てっきり敢えて置いていったのかと思っていたが」
「そんなわけないでしょ! 先生も気づいてたなら教えてよ!」
「うへ~いいんじゃない? どうせ捨てるつもりだったんだし」
怒りを露わにするセリカに、ホシノがどのみち手放すつもりだったのだからと宥める。
「誰かに拾われるでしょ、きっと」
「お金に困ってる人が拾ってくれるといいですね」
「うう……もったいない……! みんなお人好しすぎる!!」
「……おいバージル、こいつら借金してるんだよな? こんな調子で返済できるのか?」
「………」
校舎に戻って早々、わちゃわちゃと騒ぎ立てる少女たちを前に眉間の皺を深めつつ、バージルたちは対策委員会の部室へと向かった。
「一体どういうこと!?」
「アビドスで788万円の集金、私たちの学校に来たトラックで間違いない。……でも」
「そのすぐ後に、カタカタヘルメット団に対して『任務補助金』として500万円提供、とあります」
「それって……」
入手した集金記録に記されている名前を見た少女たちが息を呑む。
「私たちの学校を襲撃した連中は、私たちのお金で武器を調達してたってことでしょ!?」
「それどころか、この記録が正しければ、集金直後にヘルメット団のアジトに向かってる。襲撃すらも連中――カイザーローンが画策していたってことになる」
「まさか、ヘルメット団の背後にカイザーローンが……!?」
シロコが整理した情報に、アヤネが驚きを隠せずにいると、ノノミが思わず口を開いた。
「ど、どういうことでしょう!? 学校が破産したら、貸し付けたお金も回収できないでしょうに……どうしてそんなことを……?」
「ふーむ……」
「……連中の目的は金ではない、ということだろう」
それまで聞くのに徹していたバージルが口を開く。
「どういうこと?」
「そもそも、既に多額の借金を抱えている学校に資金を提供すること自体、不自然な話だ」
「………」
「聞けば、カイザーとやらは悪徳なやり口でいくつもの企業を潰して利益を出してきたらしいな。であれば、むしろ借金を返済できず廃校になった方が好都合、ということかもしれん。アビドスの所有する金ではないか何かを欲している、とかな」
「それは……」
バージルの出した推論に、少女たちは言葉を失う。端から借金を返済させるつもりがなかったことに憤慨する者、目的が分からずに困惑する者、複雑な感情を浮かべる者など、形は様々だった。
自分の一言でその場に沈黙をもたらしたバージルが、その空気を紛らわせようと再び口を開く。
「……所詮は憶測だ。いずれにしても、まだ情報が少ない」
「……だとしても、この件、カイザーコーポレーション本社の息がかかってるとしか思えないのは事実」
その後も議論は続いたが、現在の情報では結論が出ないということで、一度解散することとなった。
ヒフミを校門まで送っていくと、そこには門に寄りかかってあくびをしているダンテの姿が。彼は一応部外者ということもあり、外で待機していた。……実際のところ、退屈な話し合いには興味が無いと自ら外で待つことを選んだのだが。
仮に会議に参加させたところで、ダンテは借金を増やすのは得意でも、減らすことに関してはからっきしだ。いたところで特に進展はなかったに違いない。
「なんだ、終わったのか?」
「一旦はな。貴様はこれからどうするつもりだ?」
「俺は俺でやることがあるんでね。……それに、待たせてるやつもいる」
「……? まあいい」
二人の間に連絡手段はない。だが、互いの居場所は容易に特定できる。――魔の気配によって。どういうわけか再会の直前までその気配は一切感じ取ることはできなかったが、一度捉えた以上、閻魔刀でいつでも会うことは可能だ。
「わざわざ顔を見たくはない……だが、今後も情報は共有するべきだ」
生徒たちの手前伏せたが、彼の言う情報とは即ち――キヴォトスという世界についての情報だ。
「へぇ、悪くない判断じゃねぇか。こっちに来てから随分頭が回るみてぇだな?」
「黙れ。貴様の方こそ、今まで――」
「ちょっと! 喧嘩はあとでやりなさいよ!」
白熱しかけた二人の会話をセリカが断ち切る。少し前までは双子の常軌を逸した戦闘能力に戦々恐々していたにもかかわらず、物怖じせずにツッコめる胆力は大したものだ。
「ん、とりあえず今はヒフミを家に帰すべき」
「あはは……皆さん、色々とありがとうございました」
「こちらこそ、変なことに付き合ってもらって」
アビドスの借金を巡る一連の騒動に巻き込んでしまったことに負い目を感じているのか、ノノミが眉を下げながらそう告げた。ノリノリで覆面水着団を名乗っていたときとは別人だ。
「――私、このことをティーパーティーに報告します!」
「ヒフミさん?」
唐突にヒフミの口から出たワードにアヤネが反応する。
「今回の件、カイザーコーポレーションが犯罪者や反社会勢力と繋がっているという証拠になり得ます」
「それに、皆さんの置かれている状況についても……ここまで知ったのに放っておくわけには……」
「………」
ティーパーティー――キヴォトス三大学園の一つ、トリニティ総合学園の生徒会にあたる組織であり、学園の規模と同様に広大な地域への影響力を持つ。それは、学園自治区のみに留まらない。
「ティーパーティーはもう知ってると思うけどねー」
「はい?」
「トリニティだけじゃない。ゲヘナもミレニアムも、みんなとっくにね」
キヴォトス中に情報網を張り巡らせている学園であれば、当然ともいえる。バージルは黙したままホシノの言葉を呑み込む。
「そんな……知っているなら、どうして……」
「ヒフミちゃんはいい子だね。でも、世の中そんなに甘くないからさ」
その言葉の意味するところが理解できず、ヒフミはホシノの目を見つめたまま首を傾げる。
「例え知らせたところで、かえって大変なことになるかもしれないんだ」
「どういうことでしょう?」
「……廃校寸前の学校にキヴォトス有数の大きな学園が手を貸す。一見素晴らしいことだけど、私たちにはそれをコントロールする力はない。この意味、わかるよね?」
そこまで言われてようやく合点がいったようで、ヒフミが表情を暗くする。
「サポートする名目で悪さをされても阻止できない……ということでしょうか」
ホシノが静かに頷くと、後輩たちから声が上がった。
「ホシノ先輩、悲観的に考えすぎなのではないでしょうか?」
「そうよ、本当に助けてくれるかもしれないし……」
「ホシノの言い分はもっともだ。世の中、善意だけで動いているわけではない」
「先生まで……なんなのよ!」
「はっ、お前が言うと説得力が違うな」
「黙れ」
「また始まった……」
バージルに軽口を言い放つダンテ。そしてそれにバージルが反応するという連鎖。ブラックマーケットからの帰路で何度も見た光景が繰り返されていた。数秒前までの空気は霧散し、和気藹々とした雰囲気が広がる。
――ただ一人、視線を落とす少女を除いて。
「……ホシノ先輩?」
「さ。そろそろ暗くなってきたし、お開きにしよー!」
シロコの視線に気づいたホシノが、誤魔化すように明るい声で輪に入る。
「そうですね。皆さん、遊びに来るときは是非!」
「いやぁー、ファウストちゃん、お世話になったね」
「そ、その呼び方はやめてください!」
一通りの別れの挨拶を終え、ヒフミは背を向ける。と、そこへ、
「なあ、ここからトリニティ、ってとこは結構遠いんだろ?」
「あ、ダンテさん。そうですね、ここからだと電車に乗るまでが少し……」
「なら、俺が送ってってやるよ。ちょうど行ってみたいと思ってたんだ」
突然ダンテがそんなことを言い出した。
「えと、お気持ちはありがたいのですが……ダンテさん、車か何かお持ちのようには見えないのですが……」
「ふん、まあ見てな」
にやりと口の端を吊り上げると、ダンテはその場で前に手を突き出した。するとそこには瞬く間にバイク――おそらくバイクであろう、鋼鉄の鎧に覆われた大型の二輪車が姿を現した。
「えぇ!? 今、どこから出したんですか!?」
「細けぇことは気にすんなって。ほら、乗ってけよ」
ダンテはさっさとシートに跨ると、呆気にとられているヒフミにも乗るよう促す。
「お、お手柔らかにお願いします……!」
「なんだそりゃ。じゃあな兄貴、それと、アビドスの連中も」
短い別れの言葉を言い終わるや否や、ダンテはアクセルを思い切り捻ると、唸るようなエンジン音を響かせ急加速。
「うわぁあ!! 落ちます、落ちちゃいます!」
ヒフミの悲鳴が木霊する中、取り残された対策委員会の面々は、ダンテが去った方向を見たまましばらく呆けていた。
「……何というか、先生とは違った方向でとんでもないわね」
「ん、でも似たものを感じる」
「おい、どこがだ」
「うへぇ~、今日は疲れたなー」
「みなさん、今日はゆっくり休んで、明日改めて集まりましょう」
「解散~」
ホシノの一声で、皆それぞれの帰路に就くのだった。
一方トリニティ自治区にて、見知らぬ大人とバイクで二人乗りをしている生徒がいるというお嬢様学校らしからぬ噂が流れ、ヒフミが頭を悩ませることになるのは別の話。
「さて、寄り道してたら随分遅くなっちまったな」
既に日が落ち、辺りは大分暗くなったころ。キヴォトス某所の廃墟にてダンテが独り言ちる。――否、正確には一人ではない。
「待たせたな」
「――――」
「……って、相変わらずの無口ちゃんだぜ」
ダンテがゆっくりと近づいていくのは、急拵えで用意した寝床――廃屋を巡って確保したソファで眠る少女の元だ。
ダンテの言葉に、少女は反応しない。彼女の光輪はそこには浮かんでおらず、ただ深い、深い眠りの中で、確かに生きていると分かる程度の呼吸をするのみ。
「今日はあんたによく似たやつに会った。まさか妹か何かか? それとも――」
ダンテはソファの近くに置かれた一人掛けの椅子に腰かけると、漆黒のドレスに身を包んだ銀色の長髪の少女の顔を見やる。その頭には、特徴的な獣耳があり、少しづつ違いはあれどその容姿は、日中に遭遇したアビドス高校の生徒――砂狼シロコと酷似していた。
「訳分かんねぇことだらけだぜ。クソ兄貴は再開したと思えば教師になってやがるし、まるで目覚めないお姫様と瓜二つのガキはいるし」
ため息交じりに呟くと、ダンテは思い出したように懐から何かを取り出す。
「ああ、今日も一応置いとくぜ。……まあ、相変わらず食ってねぇみたいだけどな」
トリニティ自治区に足を踏み入れた際に確保した、茶菓子と保存食。ダンテはかれこれ一ヵ月近く、こうして毎日眠る少女へ食べ物を用意してはその日あったことを一方的に話すという生活を送っていた。
勿論少女は相変わらず眠ったままで、食べ物には手を付けられた痕跡はない。だというのに、どういう理屈か少女は瘦せこけることもなく、ひたすらにゆっくりと呼吸を繰り返すだけだった。まるで時間が止まっているかのように。
「流石に異世界に飛ぶってのは経験がないが……はっ」
キヴォトスに来てからというもの、そこらじゅうの学生が銃を撃ちまくるという元居た世界では考えられないような日々の中、どうにか情報を集めてきた。初めは悪魔が作った幻想の類かとも疑ったが、ある少女とのやり取り――キヴォトスを訪れる直前に交わした会話が、それを否定させた。
「久々に毎日が新鮮な刺激ばっかりで、悪くねぇ」
漏れ出た笑みにそう付け加えると、ダンテは椅子の背もたれに深く身を預けた。
天井は半ば崩れ落ち、夜空が覗いている。
「もっとも、刺激が多すぎるのも考えものだけどな」
初日の、話しかけただけで銃弾を滝の如く浴びせられたことを思い出し苦笑する。
視線を隣のソファへ向ける。少女は相変わらず瞼を閉じたままだ。返事はなく、静かな呼吸音だけが返ってくる。
「ネロの野郎は元気にやってるかね」
思い浮かべるのは、人間界に残した、悪魔の血を引く、しかし誰よりも人間らしい青年。
「閻魔刀で顔を見に行きたいが……あのクソ真面目が試してないわけがねぇ」
あれはあくまでも人間と魔を分かつ刀であり、全く別の世界とを繋ぐ道具ではない。尤も、件の兄は空間を斬る技の応用でワープじみた芸当をこなしていたが。ダンテは肩を竦めた。
「ふぁ……」
しばらく沈黙が流れる。自然と眠気が瞼を重くする。気持ちのいい夜風が銀色の髪を揺らした。
「――ん?」
視界の端で、何かが動いた気がした。ダンテはすぐさま身体を起こし、隣の少女を見据える。
「……まさかな」
きっと服の端が風に揺られただけだろう。そう考えながらも、鋭い瞳は少女に向いたままだ。
「――――」
数秒。あるいは数分。ダンテは少女を見つめ続けたが、それ以上の変化はなかった。
「気のせいか。ったく、俺も年かね」
そう呟いて頭を搔く。けれどもその口元には、確かに笑みが浮かんでいた。
マジで私生活が忙しく執筆できなかった。隔週ペースで今後も出したいけど、積みゲーも多い……
ガチャ改変とか運営移管とかいろいろありすぎじゃない?今年。なんではまった時にこんなごたごたするんや。
全然関係ないけどエジラン2見ました。今作は延々とハピエン二次創作を探し続ける羽目にはならなそうです。ハーメルンで一週間で100万文字以上読んでた時はマジでゾンビだった。
ブルアカの話に戻ると、オデュッセイア編すっごい涙腺ブレイカーだったなー。ペット飼いにはクリティカルすぎた。
ぼちぼち恒常クエ消化しつつ、今後も続けて参りますので投稿しているうちは応援よろしくお願いいたします。