ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~ 作:ロキシード
感想・評価はげみになります。BIG LOVE。
声が聞こえた。
次に、瞼の向こうから刺す日の光を感じた。
バージルは、ゆっくりと目を開ける。
「……ここは……何処だ」
見慣れぬ街、青空が照らす道にバージルは立っていた。徐々に意識が覚醒していく。
「…っ!」
頭の中に鋭い痛みが走った。目を覚ます前の最後の記憶を辿る。ダンテと魔界で悪魔を狩り、そして突如現れた裂け目に入った。そこから先が――靄に包まれたように掴めない。確かに何かがあったはずだった。しかし、それを思い出そうとしても、まるで記憶そのものが蓋をされたかのように一切の光景が浮かばなかった。
「俺は、どうやって……何があった……?」
思い出そうとするほど遠ざかっていくような感覚がある。だが一つだけ――胸の奥に、強烈な"何か"が残っていた。それは、映像でも言葉でもない。"意志"だった。守らねばならない。救わねばならない。一体何を?自らに問いかける。
「託された未来を」
誰に言うでもなくバージルは自答する。
「……救わねばならないものがある」
その言葉は、自分でも驚くほど自然に口をついて出た。何を救うのか、誰に託されたのか。そのすべてが思い出せない。しかし、意志だけが心臓の鼓動とともに胸にある。ならば――
「俺は進むだけだ」
閻魔刀を握り直し、バージルは見知らぬ街を往こうと、一歩踏み出す。そのときだった。乾いた破裂音が連続して響き渡る。
「この音…銃声か?」
音の出どころはさほど遠くはないらしい。バージルは導かれるようにそちらへ足を運ぶ。先ほどから視界に入っていたが、あらためて周りの景色に意識を向けると、街にいる者たちは皆、当然のように銃を携行していた。ある者はスクールバックにその一部が飛び出した状態で。またある者は色とりどりに飾られた銃を肩から下げていた。歩みを進めながらバージルは思考する。
(ここは銃社会なのか?いや、そんなことより――)
違和感。それは、銃を持った者――"彼女"たちが皆、制服に身を包んでいる学生のように見えることだ。それに、銃声。先ほどから続くその音に、周りの少女らは逃げる様子もない。まるで日常のように、友人たちと談笑しながら歩いている。
(それに、頭に浮かぶあれは一体…?)
バージルの視線の先には、周囲の少女の頭上に浮かぶ、光輪のようななにか。まったくもって原理がわからない。よく見れば、頭に獣のような耳がある者、尾を生やしている者、極めつけに、背中から翼を伸ばすものまでいる。
(まるでおとぎ話の中だ。それに、あれはなんだ?)
視線を上げたバージルの視界には、距離は遠いが確かな存在感を放つ、白い塔のようなものが映る。そして、空に浮かぶ、数々の輪のような光が。
「ちっ、考えても無駄か」
どうやら自分は知らない世界に来てしまったらしい、そう理解する。気になる点はあげればきりがない。バージルは、ひとまず音の方向へ進むことにした。銃声が近づくにつれ、徐々に人通りは少なくなっていった。そして道を曲がって進んだところで、大きな交差点につく。
「……ここか」
目の前には、交差点の中で二つの集団が銃を向け合う異様な光景があった。一方は、改造された制服や露出の多い恰好など、ばらばらの装いの少女たち。俗にいうスケバンのような格好で、手にはそれぞれ軽機関銃やショットガンを構えている。もう一方は、黒い制服に身を包んだ規律正しい少女たち。腕には、"風紀委員"と記された赤い腕章を身に着けている。ばらばらな格好のスケバンたちと異なり、彼女たちは皆統一された衣装で綺麗に隊列を組み銃口を向けていた。
「子供が、銃を撃ち合っているのか……?」
その光景は、魔界の狂気とはまったく違う種類の"異常"だった。先ほど見かけた少女たちが当たり前のように持ち歩いていたそれを、目の前の連中はどうやら撃ち合っていたらしい。もしかしたら玩具か何かで、ファッションの一部かもしれないなどという可能性は、この光景によって否定される。スケバンの誰かが吠える。
「ハッ!風紀委員長のいない風紀委員なんて、敵じゃないなぁ!お前ら、撃て!」
その言葉に、彼女の周囲が一斉にトリガーを引いた。
「っ!」
バージルは、目の前で少女が少女に向けて銃を撃つ、そんな光景に目を見開き、反応が遅れる。思わず、撃たれた集団の方に目を向けると、さらに驚きの光景が入り込む。
「総員、射撃開始!力量は訓練された我らの方が上だ!鎮圧するぞ!」
放たれた銃弾をものともせず、風紀委員と呼ばれた黒い制服の集団も一斉に射撃を開始する。何より驚くべきは、銃弾を受けても出血すらせず、わずかに肌が赤くなるほどのダメージしか受けていないように見えることだった。
「実弾ではないというのか…?」
被弾をものともしない銃撃戦、少女が銃を向け合っているという異常な光景にバージルはそのように考える。しかし、銃弾の当たったアスファルトや店の看板などが砕け散る様子を見て、そうではないことを悟る。
「そういう世界、ということか」
ここは自分の常識が通用しない世界と、目を覚ましてからの今までの記憶からバージルは判断する。彼女らは銃弾をその身に受けても致命傷には至らないらしい。しかし――
「見過ごすことはできんな」
バージルは銃弾が飛び交う戦場へ歩き出す。
「っ!総員、射撃を中止しろ!」
こちらへ向かってくるバージルを視認した、黒い制服の少女の隊長らしき人物が言い、隊列の少女の視線がバージルに集中する。
「どういうこと?周囲に避難勧告は出したはず」
「あの人、ヘイローもないし、一般人じゃない?」
「危険です!そこの方、下がってください!」
バージルは構わず、二つの集団の間に進む。突如現れたその存在に、スケバン集団は驚きながら、しかし攻撃的な態度で言葉を放つ。
「こいつ、どこから現れやがった?」
「構うな!風紀委員の連中が撃つのを止めたぞ、今がチャンスだ!撃て!」
「退け!さもないと、痛い目を見てもらうことになるぞ!」
バージルは向けられた敵意に対し、体を向けて答える。
「痛い目、か。ならばせいぜい、自衛をさせてもらおうか」
その言葉にスケバンの少女たちが疑問符を浮かべた途端、バージルが大地を蹴り、駆ける。
「っ!撃てぇ!」
目にもとまらぬ速度で向かってくる存在に対し、一斉に銃弾が放たれる。しかし、銃弾の雨の合間を縫うように駆けるバージルには一発も命中することはなかった。
「なんて速さだよ!?」
「しっかり狙えよ、ちゃんと当てろ!動きを止めるんだ!」
「ちっ、おい!そっちは味方だ!ちゃんと射線を…」
自分たちの陣地の中に切り込みながら駆け抜けるバージルに、スケバンの少女たちは翻弄される。互いの銃弾を受け、次々にその場で倒れ気絶していく。その様子を捉えながら、バージルは思案する。
(やはり、銃弾では禄に傷も着かないのか。しかし、ダメージはあるらしい。ならば…)
バージルは、こちらの動きを追えていない少女に向かって一気に距離を詰める。
「なっ…急に目の前に!くそっ、これでも喰らえ!」
少女は眼前に迫るバージルに一気に銃弾を放つ。しかし、彼は姿勢を低くし射撃を躱すと、銃を持つ彼女の腕を掴み、引き寄せる。
「うわぁ!」
体が宙に浮き、直後大きな遠心力を感じながら少女が叫んだ。バージルは少女を腕一本で振り回すと、近くの集団にその身体を投げ飛ばす。
「くっ!」
「こっちにきた!」
「どんなパワーしてやがる…」
「ちょっと、撃たないでよ!?」
投げ飛ばされた少女がそう叫びながら飛ばされていき、その先に立つ少女らはよける間もなく飛んできた少女と激突する。少女たちはうめき声をあげなら、その場で倒れ伏し、無力化された。
「あの人、銃も持たずに…」
「なんて戦い方だ」
「ていうか、銃弾を避けるって可能なの!?」
その様子を見ていた風紀委員の面々が、目の前の光景に驚愕の言葉を漏らす。
「しかし、援護しようにも、ああして敵の間を走り回られては、迂闊に撃てないな…」
隊長格の少女が呟く。ひとまず、あの者はスケバン連中を徐々に減らしてくれている以上、こちらに利をもたらす存在だ。正体は不明、警戒するに越したことはない。だが、今だけでも協力し、ともに連中を倒すべきだ。しかし、ヘイローもない一般人であるのには違いない。敵集団の中を縦横無尽に駆け回っているため、援護射撃はかえってあの者を危険にさらすことになるだろう。しかし、このまま何もしないというわけにもいかない。
「ヒナ委員長との連絡は?」
「先程いたしました!まもなく、こちらに合流するそうです!」
「よし、端にいるスケバンどもを撃て!それならあの者の邪魔にもならんだろう」
「了解!」
そうして、風紀委員の少女たちが射撃を再開する。完全に趨勢が傾いたと確信した、そのときだった。
「増援、か」
バージルが一言発し、新たにスケバンたちに合流する集団を確認する。その場にいたスケバンたちの倍以上の増援が、バージルと風紀委員に対し迫っていた。
「間に合ったか…ふん、お前も風紀委員もここまで、多勢に無勢だなぁ!」
「……」
バージルは黙って言葉を発したスケバンの方を睨む。
「っ…そんな風に睨んでもビビんねぇぞ!いくら動きが速かろうと、この数の前じゃ敵じゃない!」
「そうだ、銃も持たずに向かってきて、おまけにその手の刀は飾りか?」
バージルの握る閻魔刀を指しながら少女が煽るように言う。
「……子供は斬らん」
「はあ?」
バージルは静かに告げる。そして目を閉じ、考える。そう、彼は大人であり、彼女たちは子供だ。どんなに彼女たちが暴れようと、その事実は変わらない。バージルは自身の胸に問う。自分のするべきことは何か。答えはもう、揺らがない。一度閉じた目を開き、口を開く。
「大人として、託されたものを守るだけだ」
「何をわけのわからないことを…!わたしたちは敵だぞ!」
「ふん、俺にとっては守るべき子供だ」
その言葉に、一瞬少女たちは呆然とする。それは、この場にはあまりにも場違いな発言だった。
「――かかってこい、お前たちが全員倒れるまで付き合ってやる」
右腕を伸ばし、突き出した掌を扇ぐように自分のへ向ける。それは紛れもなく相手への挑発だった。
「っ…舐めるなぁ!全員、こいつを撃て!」
スケバンたちが一斉にトリガーに指をかける。膨大な数の銃口が今まさにバージルに火を噴こうとしていた。バージルがその身をわずかに強張らせた、その瞬間だった。
「間に合ったみたいね」
紫電のごとき閃光とともに、轟音が響き渡る。閃光と煙が視界を覆っていく。バージルは唐突に視界に入ったその光に、おもわず目を向ける。そしてすぐに、向けられた無数の銃口から意識が逸れた自分に舌打ちが出る。
(ちっ、まあいい。多少面倒だが、何発か食らったところで支障はない)
そう考えながら、来るであろう衝撃に構えていた。が、いつまでたっても正面から銃弾が飛んでこない。それどころか、銃声すら聞こえてこなかった。
「……なんだ?」
バージルが訝しげな表情で、眼前に広がった硝煙が晴れていくのを待っていると、目の前に降り立った存在が徐々にその姿を露わにしていく。白髪に禍々しい角、その頭上に大きく攻撃的な形の光輪を浮かべ、背から蝙蝠のような翼を伸ばすやや小柄な少女。ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナが立っていた。
「風紀委員長…!」
「どういうことだ?ここには来ないはずだ!」
「…まさか別動隊がすべてやられたの?」
「そんな馬鹿な…」
「おい、今ので何人やられた!?」
先ほどまでの態度が嘘のように狼狽するスケバンたちに、バージルは目を細める。
「随分と集まっているようだけど、これは一体何の騒ぎかしら?」
どこか気だるさを感じる声でヒナが問う。
「まあいい。とりあえず、全員眠ってもらう」
彼女は握っていた銃――彼女の身体に対して大きすぎるそれを、軽々と持ち上げて銃口をスケバンたちに向けて言い放つ。彼女の発する圧に、スケバンたちが一歩、後ずさる。
「……後で詳しく話を聞かせてもらう」
銃口をスケバンたちに向けたまま、わずかに顔をバージルに向けてヒナが告げる。バージルが黙って視線だけを返すと、彼女は再び銃口の先へ目を向ける。
「――覚悟して」
その言葉を発すると同時に、彼女の持つマシンガンから、轟音と閃光を纏いながら目標を蹂躙する、圧倒的な暴力が解き放たれた。
なんとか納得できる形でまとめることができた気がする……
初めてながら、文章を書く難しさを実感しています。前回まででバージルの心理描写をどうにかこうにか転がしたおかげで、大人として向き合うバージルというキャラの土台を組み立てたつもりですが、如何せん脳内のバージル像と違うせいで難しいですね。
それに、ブルアカに関しても常設のイベストまだ消化しきれていないので、キャラ理解が浅い部分とか今後結構出てくると思いますが、どうか暖かかい目で見守っていただけたら嬉しいです。