ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~ 作:ロキシード
空崎ヒナ――ゲヘナ学園の風紀委員長にして、ゲヘナ中の不良から恐れられるキヴォトス最強の一角。彼女の登場により塗り替えられた戦場で繰り広げられる光景は、もはや戦いと呼ぶこともできないほどの一方的なものだった。
「ぐっ、奴がいるなんて、聞いてねぇよ…うぐっ」
「ついてねぇ…ぐはぁ!」
ヒナの銃から射出された弾丸は、的確にスケバンたちの身体、その中心に命中する。反撃の余地すらない物量で飛来するそれは、次々に彼女らの意識を刈り取って無力化していった。
地面に転がっていく彼女らを横目に、バージルはヒナから目を離せない。突如として目の前に現れた新手、周囲の反応と彼女の腕に巻かれた腕章から後ろの連中――風紀委員の者だろう。今の状況からみて判断したバージルは、そんな思考を置き去りにしてヒナの戦闘に見入る。
(――強い)
数百は下らない数のスケバンたちがたった一人の少女に蹂躙されていく様をみて、バージルはこの世界に来て初めて強者の存在を認める。
彼女の動きは見えている。しかし、理解が追い付かない。先程までの戦闘から、この世界の少女たちが銃弾をものともしない存在であることはわかっていた。だが、閻魔刀は空間すら断ち切る魔剣。バージル自身、自分が斬れないなどとは考えていないことももあり、対峙する少女たちとの交戦はあくまで同士討ちによる銃撃、あるいは素手による格闘をメインに無力化していく算段だった。
そのため、スケバンたちが大幅にその数を増やしたことにより、ただでさえ銃を使わずに戦っていた彼は、大幅な増援でこの戦いが泥沼化すると踏んでいたのだが――空崎ヒナの参戦により、バージルの懸念していた状況は容易く覆されることとなる。
(…すべて一撃で連中を倒している)
バージルの目が捉えたのは、彼女の発射した弾丸、それによってもたらされた結果――一瞬で意識を失わせながらも、相手に撃ち込まれる弾丸はどれも一発であり、撃ち込まれた箇所はすべて頭部。恐ろしい精度である。
彼女の技量は、他の者らのそれと隔絶したものであると、まだこの世界に疎いバージルにも見てとれた。だが、技量という言葉のみでは、今の状況はいささか不自然な部分があった。それは――
(連中が同士討ちで銃弾を受けたときはもっと耐えていた)
バージルは近くで倒れている少女を見ながら思考に耽る。これまでのことから、彼女たちが銃弾を数発もらったところで碌に傷も付かないことはわかっている。的確に頭部を揺らされることで意識を奪うに至ったのだろうか。
(それに、奴の攻撃から感じる力、あれはなんだ?)
ヒナが使用するマシンガン、その銃口から放たれた弾丸が描く軌跡は、通常の発射光にない、強いエネルギーを感じる紫色の閃光によって光の尾を伸ばしていた。彼女の銃弾には、そこらの少女――スケバン集団や後ろの風紀委員の連中が撃ったものからは感じられない力を感じた。もしその力がこの驚異的な戦闘力、そしてその結果につながっているとすれば――
「――この世界の超越者か」
バージルは呟き、そう結論付ける。目に映る戦場を瞬く間に塗り替えていく、小さな少女を。
「……ふう、終わった」
数分後、交差点の中心で銃を下ろしながらヒナが口を開いた。周囲には、おびただしい量の薬莢と、地に伏したスケバンたちが地面を埋め尽くす様子が広がっていた。
「――さて」
周囲一帯の敵を無力化したことを確認した彼女は振り向き、バージルの姿を視界に入れる。そのままバージルに向かって歩いていく中、二人の視線がぶつかる。徐々に距離が詰まっていき、あと一歩のところで彼女が足を止めたあと、ヒナがバージルに向かって尋ねた。
「…あなたは一体、何者?」
バージルの顔を見上げながら、ヒナが問う。その声は平静を保っているように落ち着いているが、その瞳は目の前の存在に対する警戒を隠さない。
「……何者、か」
「その質問に答える前に、まずはこちらから聞きたいことがある」
バージルの言葉に、ヒナは眉を僅かに寄せ、一瞬だけ迷の色を見せる。やがて、それを押し流すように短く息を吐いた。
「…とりあえず、言ってちょうだい」
「――ここは何処だ?」
「………それは――」
一言。その問いはシンプルだ。しかし、その言葉の意味をヒナは正しく理解する。
「ここがどの地区か、なんて聞いているわけではなさそうね」
バージルは沈黙したまま、ヒナの次の言葉を待つ。それを肯定と受け取り、彼女が再び口を開いた。
「ここは学園都市"キヴォトス"。そしてあなたは――」
「キヴォトスの外から来た存在、であっているかしら?」
風紀委員の設置した救護テントの中、その最奥に用意されたテーブルで、バージルは組織の筆頭たる少女――空崎ヒナと対面していた。
戦闘終了後、集まってきた風紀委員から警戒の目を向けられたバージルに対し、ヒナは彼がキヴォトスの外からやってきた存在であることを告げ、保護するべきだと主張した。彼女の言葉に対し、風紀委員の面々の反応は懐疑的なものや驚きであったりと様々だった。一方ヒナは、混乱している少女たちをそのままに、バージルをその場から引っ張り出し、怪我の確認や治療を名目に風紀委員の設置した救護部隊のテントへ連れてきたのだ。
「つまりバージル、あなたは気づけばここにいた、と」
「ああ」
「……はぁ」
バージルは短く応じ、ヒナの言葉を肯定する。一方で彼女は何度目になるかわからないため息をつきながら、次々に入ってくる報告を処理していた。時折周囲の風紀委員に指示も出しているようだ。
「外の世界から人が来ることは稀にあるけれど、こんなパターンは初めてね…」
机に広げられた資料に目を通しながらヒナがそう零すが、彼女の言葉を意に介さずバージルは尋ねる。――その内容は、
「先程の連中、……スケバン、だったか。奴らはどうなるんだ?」
その問いに対し、ヒナは資料を確認していた手を止めて顔を上げると、紫の双眸でバージルを捉えた。
「……どうしてそんなことを気にするの?」
「それは……」
彼女の疑問に、バージルは口を噤む。自分でも、なぜそんな質問をしたのかはっきりしていなかった。しばらく、沈黙が二人の間に落ちる。
「奴らは、子供だ」
「……子供?」
バージルの口から出た言葉に、ヒナが思わず聞き返す。
「そうだ。子供である奴らは、まだ未来を閉ざすべきではない。」
「………」
そう言いながら、バージルは自分の胸に手を当て、握りこむ。ヒナは黙ったままバージルの拳を見つめる。バージルは、胸の奥から強い熱が沸き上がっていくのを感じながら言葉を続ける。
「子供の間違いに対する責任は、大人が負うべきだ」
ヒナはその言葉にはっとしたように顔を上げると、バージルの目を見て静かに問いかける。
「……あなたが、その責任を負うと?」
机に置いた自分の手に力が入るのを感じながら、ヒナは鋭く問い詰める。
「彼女たちはあなたを撃った。それなのに、そんな連中の罪まで背負うというの?」
先程までの気だるげな口調から打って変わって糾弾するように詰め寄るヒナに、バージルはただ、当然の事実を告げるかのごとく言い放つ。
「罪などない。俺には傷一つ付いていないぞ」
「っ!それは結果論であって…」
「ああ、そうだ。だが事実だ。だから俺が責任をもって、奴らの俺に対する未遂を帳消しにすると言っている」
「なっ――!」
ヒナは言葉を失い、驚愕に目を見開く。目の前の男は、自分を襲った連中に対して、怪我をしていないからと、その行為を自ら有耶無耶にしようというのだ。それは、あまりにも――
「あなたはキヴォトスの外の人間。つまり、銃弾一発でも致命傷になりうる存在。そんなあなたを危険にさらした存在を、あなたは許すというの?」
キヴォトスの外の世界。そこでは銃を撃つことはおろか、所有することすら厳しく管理されていると聞く。スケバンたちは知らなかったとはいえ、彼はそんなキヴォトスの外の世界から来た存在である。銃で撃たれれば命を落とすこともあるほど、脆いのだ。
「俺はそんなものでは死なん」
「……は?」
予想だにしていなかった返答に、ヒナは思わず気の抜けた声を漏らす。バージルは胸の前で握った手を下ろし、閻魔刀の柄に触れる。
「俺には力がある。だから、問題ない」
「――それに俺は、大人だからな。子供のしたことだ、こっちで責任を取らせてもらう」
「………」
ヒナは口を開けたまま、呆然とする。この男の言葉は、まるで滅茶苦茶だ。自分の命を危険にさらした連中を子供だからと庇い、挙句の果てには自分が無傷だからと、その行為に対する責任すら大人である自分が取るというのだ。
ヒナには到底理解できなかった。――否、理屈はわかる。しかしバージルが彼女たちのためにそこまでする理由が見つからなかった。
「……どうしてそこまで、彼女たちのために?」
その問いは、バージルだけではなく、ヒナ自身にも向けられたものだった。不良たちのために、なぜそこまでできるのか。それがわかれば、今の自分が欲する答えが得られるような気がする。
ヒナはバージルの瞳に映る自分を見ながら、彼の言葉を待つ。バージルは目を閉じ、そして自分の胸にある意志を今一度掬い上げる。そして、確かになったそれを言葉にすべく、目を開き、一度息を吸った。
「――救うために」
「託されたものを、すべての未来を、子供たちを、救うために」
静かだが確かな声色で紡がれるそれを、ヒナは黙って受け止める。
「そのために、俺はここへ来たからだ」
真剣な眼差しでそう告げたバージルとヒナの視線がぶつかり、静寂がその場を包む。一瞬にも永遠にも感じられる時間が過ぎ、先にその静けさを破ったのはヒナだった。
「……わかったわ。今回はあなたのその思いに免じて見逃してあげる」
ヒナは息を吐き、そう告げる。その顔には呆れと納得、そしてわずかに憧憬が混じっていた。望んでいた答えは得られなかったが、いつかは自分もそうありたいと、目の前の男を見据える。一方バージルは、ヒナの言葉を受けて、肩の力を抜きながらわずかにその表情を和らげて言う。
「…そうか、なら――」
「でも」
遮るようにヒナが再び口を開いた。
「街への被害については無理よ。風紀委員にも面子がある」
机の上の報告書に指を置きながらヒナが告げる。その指先には、先の戦闘でもたらされた公共施設への被害総額、その概算が記されていた。バージルは彼女の主張に言い返す言葉を探しているのか、顔を曇らせながら唸っている。
「…むぅ」
「安心して、別に矯正局に叩き込んだりしない。ただ少しの間、奉仕活動に勤しんでもらうだけよ。あの人数を収容できる牢は、風紀委員にはないもの」
矯正局。この世界で言う刑務所のようなものだろうか?バージルは思案する。とにかく、そこに彼女らが送られることはないらしい。その事実に、バージルは息をつくと、
「……礼を言う」
一言、ヒナに向かって言った。
「お礼を言うのはこちらの方よ。あなたのおかげで、私たちの被害は最小限で済んだ」
ヒナはあの場にいた風紀委員からの報告で、自分が到着するまでの戦闘の一部始終を聞いていた。スケバン集団との大規模戦闘が始まった直後、突然現れたバージルが間に入ってきて、大立ち回りでスケバンたちを無力化していったということを。
「……どうやら力があるっていうのは、自惚れではないようね」
「当然だ」
「はぁ…まあそれはいいとして……あなた、これからどうするの?」
「……何の話だ?」
バージルは疑問符を浮かべながら、彼女に質問の意味を問う。
「気づいたらキヴォトスにいたってことは、こっちでどうやって生活するつもり?」
「………」
バージルは思いもよらなかった内容に目を瞬かせる。
「……知らん」
「………」
二人の間に、今日何度目かわからない沈黙が訪れた。
救護テントの外に、三つの影があった。
「それじゃあ、私は他の部隊の様子を見た後、一度ゲヘナに戻らないといけないから。後のことはよろしくね、チナツ」
「はい、お任せください。ヒナ委員長も、七囚人の件もありますので、どうぞご注意を」
「…どうやらここ以外でも不良生徒たちが纏まって決起しているみたいだし、組織的に動いているのは確かね。自治区の向こうとはいえ、こう暴れられると無視できない。はぁ……今日は遅くなりそう」
「……用事が済み次第、すぐお手伝いに向かいます」
そんな会話をヒナと交わす少女――火宮チナツは、やや申し訳なさそうな顔で後から合流するよう約束すると、バージルに向き直る。
「それでは、行きましょう。その…バージルさん」
「…ああ」
チナツがヒナと挨拶を交わしたのを確認すると、バージルは風紀委員のテントを背に進みだす。その目的地は、連邦生徒会――学園都市キヴォトスの行政を担う統括組織である。
これからの生活について尋ねられ、まるでなんの展望もないバージルに今日一のため息を吐いたヒナは、バージルに連邦生徒会を訪ねるよう伝えた。ヒナ曰く、外から迷い込んだバージルのような存在への対応は一自治区の管轄を超えているとのことで、もとより連邦生徒会へ赴く予定のあったチナツが彼を連れていくこととなったのだ。
『あそこならこういう事態にも対処できるはず。……彼女が行方不明になったというのが本当なら、それも怪しいけれど』
『どうしようもなくなったら、私のところに来て。なんとかするから』
テントの中でヒナから向けられた言葉を振り返りながら、バージルは顔を顰め不満げにぼやいた。
「…子供に生活を頼るなど、プライドが許さん」
しかし、発言をした当の本人の目はこちらを慮ったものであり、彼女を前にバージルは終ぞ何も言い返すことはできなかった。
「…?バージルさん、どうかしましたか?」
急に歩く速度をおとしたバージルを振り返り、チナツが言った。
「…なんでもない。行くぞ」
バージルは思案を切り上げると、連邦生徒会のもとへ向かうのだった。
おおよそ序盤のプロットで描きたかった場面は出せたかなと思います。
書いてる途中でどうしても展開に納得できない部分が出てきたり、そもそも語彙が少なく表現がワンパターンになってしまったりと、実際に書くと本当難しいですね、小説って。
でもとりあえず完成させて投稿しないと止まっちまいそうだから構わず投稿するぜ!Let's Rock!(Devils Never Cryを流す)
そのうちbgmの表記とか入れてみるのもありかもしれませんね。(ちなみに書いてるときはずっとブルアカの生徒欄とストーリーの見直しして、背景でdivine hateかtaste the blood流してる)
次回、ようやくブルアカ原作のプロローグ時系列に突入します