ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~   作:ロキシード

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UA800ありがとうございます!今回ちょっと難産でした


責任を負う者

 ヒナと別れてしばらく経った道中。舗装された道を往く二人分の足音が、街の賑やかさの中に溶ける。二人の間に、一切の会話はなかった。チナツは何度か口を開きかけるも、そのたびに言葉は喉の奥で消えていった。

 

「その…」

「………」

 

 遠慮がちに呼びかける彼女に、バージルは聞こえていないのか相変わらず目に映る景色に夢中になっている。

 

(……なんだか少し腹が立ってきましたね)

 

 当初感じていた気まずさや警戒心はどこへやら、こちらに微塵も気づく様子がないバージルに恨めし気な視線を送る。一方バージルは、自分に向けられた視線を感じとることすら忘れるほどに、目の前の光景から得た情報について思考に沈んでいた。

 

「あの、バージルさん?」

 

 足を止めたバージルに対し、チナツが訝しげに振り返りながら声を掛ける。彼女の目の先には、考え込むように腕を組みながら地面に視線を落とすバージルの姿があった。

 

(…まだ知らんことが多すぎるな。しかし、分かったこともある)

 

 バージルは脳内で今までの景色と知識を整理する。この世界――キヴォトスについて。

 

(学園都市、か)

 

 口には出さずに、先のヒナの言葉を反芻する。ここキヴォトスは、無数の学園が集まる学園都市である。各学園はそれぞれ自治区を保有しており、その広さは大小さまざまだが、彼女らの所属するゲヘナ学園――キヴォトス三大学園に名を連ねるその学園自治区には、街どころか都市ほどの広さの区画がいくつも含まれる。もはや国家と呼ぶに等しい大きさだ。そんな広大な自治区の行政を、生徒たちが自治権をもって運営しているのだ。生徒が行政を運営しているという事実に、バージルは耳を疑った。だが、実際にヒナたち風紀委員が不良集団と対峙した後の事後処理にあたっている様子を見て、目の前の少女らが組織として成立したものであると理解する。曰く、風紀委員はあくまで治安維持組織であり、彼女らの自治区を運営するのは生徒会にあたる組織――学園に所属する組織を束ねる上位組織が行政管理をしているようだ。

 

(子供が、国家を運営しているというのか?)

 

 この世界の生徒たちが常人ならざる力を持つのはわかる。しかしそれはあくまでも肉体の話だ。この世界の生徒たちの様子は、元の世界同様、ただの子供のように見えた。

 

(一体、この世界の大人は何をしている)

 

 当然、そんな考えに至った。バージルは顔を上げ、チナツに問いかける。

 

「ここでは学園が国家を運営しているらしいな」

「…国家、というほど大げさではありませんが……まあ、似たようなものです」

 

 不意に自分に向けられた問いに対し、少し遅れてチナツが答える。

 

「治安維持、税制、インフラ、外交など……すべて学園ごとに運営されています」

 

 バージルがわずかに眉をひそめる。彼の世界では、政治は行政は"大人"の領域だった。

 

「……なぜ子供がそのような役割を担う?」

「なぜ、と聞かれても、それがキヴォトスの"仕組み"だからです。」

 

 当然のようにチナツが言い放つ。その言葉に、バージルが重ねて疑問を投げかける。

 

「この世界に、大人はいないのか?」

「いえ、そのようなことはありません。大人たちによって運営される企業はキヴォトスにいくつも存在していますし、生徒たちもいずれは卒業していきます」

 

 返ってきた内容に対し、バージルはさらに困惑する。大人が存在し、かつ生徒たちもいずれは大人になるというなら、一体なぜ。まるでこの世界そのものが、彼女たち生徒のためにあるような――

 

(なんにしても、俺のやることは変わらん)

 

 そうして思考を切り上げると、バージルはふと視界に入ったそれに視線が引き寄せられた。

 

「…あれは」

 

 その視界の先には、この世界で見てきたものの中で最も異質に感じる物体。空に突き抜けるほどの巨大な塔だった。バージルの視線の先にあるものに気付いたチナツが、口を開く。

 

「あれは、サンクトゥムタワーです。連邦生徒会がキヴォトスを管理する中枢部として存在するのは、あれの制御権を管理しているからに他なりません。」

 

 チナツは淡々と事実だけを述べるように言う。しかしバージルには、彼女の言葉にどこか別の感情が見え隠れしているように思えた。

 

「そして、現在私たちが向かっている目的地でもあります。」

「神聖なる塔……随分大げさな命名だ」

 

 バージルは一歩、白い巨塔を捉えながら踏み込む。

 

「バージルさん?」

「目的地はあそこだといったな。」

「はい、そうですが…」

「先に行っているぞ」

「…は?一体何を…」

 

 チナツが彼の言葉に、思わず聞き返そうと口を開く。しかし彼女がその台詞を言い切る前に、バージルの姿が消えた。

 

「――っ!どこに…!?」

 

 目の前でかき消えたバージルに驚愕の声を漏らしながら、周囲を見渡すが、彼はどこに見当たらない。チナツは焦燥に身を焼かれながら、直前の彼の言葉を思い出す。

 

(先に行く、ということは…)

 

 そして先程彼が見つめていたもの、サンクトゥムタワーの方向に目をやると、そこへ続く道、その遠くに黒い影が奔っていくのが見えた。しかしそれもつかの間、すぐに視界から姿を消す。

 

(なんていう速さ……あれはヒナ委員長よりも……いや、そんなことより)

 

 バージルの行き先を把握したチナツは、その場から駆け出す。

 

(私も急がなければ。……それにしても)

 

 走りながら、チナツはたった今起こった出来事を振り返る。

 

「外の世界って、あんな人ばかりなのでしょうか…?」

 

 呆れるような声色で、街を走り抜ける彼女が放ったそんな言葉は、誰の耳にも届かず空に流れていった。

 

 

 

 

「ここか…」

 

 足を止め、青空に向かって聳え立つ巨大な塔を前に、バージルは独り呟く。連邦生徒会――キヴォトスを統治する組織であり、バージルのように外から来た人間への対応も彼女らの領分、とのことだが当のバージルがここを訪れた理由は自らの保護などではなかった。

 

「……どうやらここも、学園と同じか」

 

 正面入り口からロビーに入り、バージルが零す。彼の視界には、白い制服に身を包んだ連邦生徒会の所属と思しき少女たちが、そこかしこを行き来している様子が入っていた。よほど忙しいのか、深い紺色の外套を着たバージルは彼女たちの間では相当に目立つはずが、誰も彼の登場に気づいている様子はなかった。

 

「……ふむ」

 

 ロビーを見渡し、バージルは歩き出す。その先には、顔が見えなくなるほど積み上げた資料を抱え、危なげに運搬する金髪の少女の姿があった。

 

「うぅ、前が見えません…」

「ちょっと、そこ退いてください!通りますよ!」

「えぇっ?…うわぁ!」

 

 台車を引いた別の少女が彼女すれすれを通り抜ける。後ろから近付いてきた存在に反応しきれず、金髪の少女がバランスを崩す。何とか踏ん張ろうとすれば、足がもつれそれも叶わない。手にしていた資料から手が離れ、舞い上がる。――倒れる、そう確信し目をつむる。

 

「……あれ?」

 

 しかし、いくら待っても何の衝撃も訪れない。彼女――岩櫃アユムは肩を支えられる感触を感じながら、ゆっくりと目を開ける。すると彼女の瞳に、銀髪に青い眼をした男、バージルの顔が映る。アユムは何度か目をぱちくりさせ、状況を理解し始める。舞い散る紙の中で、自分より頭一つ分は背丈のある男が、筋肉質な腕で自身の肩を抱いて、その青く深い瞳でこちらを見つめている。その事実に、彼女の顔がみるみる熱を帯びていく。

 

「…おい、大丈夫か?」

「――!~~~~~~っ」

 

 バージルの言葉に対し、アユムは自分の状況に顔を赤らめ声にならない声を漏らすことしかできない。

 

「落ち着け……怪我はないな。とりあえず深呼吸するんだ」

 

 腕の中で少女が目を回している様子に、バージルはひとまず落ち着けようとそんな言葉をかける。最も、この世界の住人ならば今ので怪我などしていないだろうが――そんな風に考える前に、バージルの身体は動いていた。自分の行動を振り返ってバージルは心の中で自分の変化に失笑する。

 

(誰の影響を受けたんだかな…)

 

 一方アユムの方は、顔のすぐ近くから届く声のままに、息を吸い、ゆっくりとそれを吐き出す。何度か繰り返すと、顔の熱が下がっていくのを感じた。

 

「え、と…もう大丈夫です…!」

 

 そう言いながら、彼女は自分の足で地面の感触を確かめる。特に違和感はない。自分の足で立った様子を見て、バージルが肩を支えていた腕を離す。

 

「ぁ……」

「?どうかしたか」

「っいえ…!その、ありがとうございます…!」

 

 半歩、後ろに下がってバージルに向き直り、アユムが礼を告げる。

 

「…前が見えないほど積むのは危険だ。気をつけろ」

 

 周囲に散らばった資料を見やり、バージルが告げる

 

「す、すみません…」

「俺に謝ることではない。お前自身のためだ」

「…はい。ありがとうございます」

 

 男の物言いは一見冷たいが、その声には不器用ながらも相手を想うことを感じさせるような、微かな温かさが含まれていた。資料を拾い集めながら、アユムは目の前の男をそんな風に評価する。――しかし

 

「…その、助けていただいたのはありがたいのですが、あなたは一体……?」

 

 突如として自分の前に現れた存在。学園都市の中枢たる連邦生徒会に似つかわしくない大人に対してふと疑問が浮かび、アユムが尋ねる。

 

「……俺は」

 

 バージルは短い沈黙の後、まっすぐアユムの目を見つめて答える。

 

「キヴォトスの外から来た。ここで、大人としての責任を果たすために」

 

 その言葉にアユムが息をのむ。

 

「連邦生徒会――ここの代表と話がしたい。これからの未来について」

 

 

 

 

 連邦生徒会本部。サンクトゥムタワーを管理するその建物の一室にて、テーブルをはさんで向き合う者が二名。

 

「……話は理解しました。バージルさん、あなたは外の世界からここキヴォトスへ訪れた存在――大人であると。そして、その目的も」

 

 バージルに対面する紺色の長髪を腰より下まで伸ばした少女――連邦生徒会長代理の首席行政官、七神リンが泰然とした態度で告げる。その瞳には、目の前の存在に対する警戒と、何か複雑な感情が見てとれた。

 

「……申し訳ありませんが、現在の我々にはあなたの処遇について、意志決定能力を持ち合わせていません」

「つまり、どういうことだ?」

「ご足労いただいたのに申し訳ありませんが、あなたへの対応をする余裕が無いのです」

 

 やや突き放すような口調でリンが言葉を続ける。

 

「それに、あなたの目的――大人としての責任を果たす。これが何を意味するのか、私には理解しかねます」

 

 リンはそこまで言い終えると、額に手を当てながら息を吐いた。彼女の頭に、かつて自分に向けられた言葉が思い起こされていた。

 

(あの人が言っていた大人が、この人だというの?)

 

 わずかな逡巡の後、リンは浮かんだ考えを即座に否定する。目の前の大人、バージルの話した内容は、到底納得できるようなものではなかった。この世界に、大人としての責任を果たすために来たという彼は、同時にここへ来るまでの記憶が無いとのたまったのだ。キヴォトスへ来るまでの記憶が無いのに目的だけがはっきりしている。それはあまりにも歪な主張だった。

 

「何を意味する、か。そうだな」

 

 リンの言葉に黙って耳を傾けていたバージルが口を開く。

 

「この世界には、責任を負う者がいない。いや、違うな。子供たちの行動に対して責任を負う"大人"がいない、といった方が正しいだろう」

 

 先ほどまで沈黙を崩し、口を開いたバージルの言葉。その内容は、連邦生徒会長なき今の状況をまるで見抜いているかのようで、リンは目を見開く。しかしその直後バージルから発せられた内容は、さらなる驚愕を彼女にもたらす。

 

「俺がなってやる。この世界の責任を負う大人に」

 

「……はい?」

 

 今彼はなんと言った?言葉の意味が理解できない。

 

「あなたは何を言って…」

「託されたからな。生徒たちの未来を」

「っ!」

 

 その言葉の意味するところを理解し、リンは言葉を失う。先程否定した考えが頭を支配する。生徒たちの未来を託す。そんなことをする人物は、彼女の知る限り一人しかいなかった。――確かめねば。もしも彼女が姿を消す前に、目の前の大人に"それ"を預けたというのなら。

 

「…託された、と言いましたね。それは一体誰に?」

 

 リンが恐る恐る尋ねる。

 

「さあな」

「…は?」

「ここに来るまでのことと同様、記憶にない」

 

 その顔に浮かぶのは、驚愕ではなく拍子抜けしたような表情。そして次に沸いてくるのは憤り。思わずリンは聞き返す。

 

「っ…ふざけないでください!あなたの言っていることは…」

「ただ、これだけはわかる。奴はすべての生徒たちの未来を守るためにあった」

 

 リンの言葉を遮るようにバージルは言葉を重ねる。その内容に、ハッとしたような表情でリンがかつての景色を思い起こす。それは、彼女が連邦生徒会長と交わした何気ない会話。

 

『――リンちゃん、私はね――――』

 

 在りし日の思い出から意識を現在に戻し、リンは弱々しい声で呟く。

 

「………その…人は――」

(連邦生徒会長、貴女なのですか?)

 

 その先の言葉が発されることはなかった。静寂だけが二人の間に響き渡る。それを破ったのは、第三者だった。

 

「リン代行、お取込み中のところ失礼します!」

 

 連邦生徒会の制服を着た少女が、扉を開いて溌溂とした声で告げる。

 

「ミレニアムのセミナー、トリニティの正義実現委員会および自警団、ゲヘナ風紀委員の方々が連邦生徒会長に面会を要求しに尋ねてきました!現在ロビーにて対応中です!」

 

 彼女の報告にリンは小さくため息をつき、目をつむる。しばらくして、瞼を上げた彼女は、覚悟を決めたかのような真剣な眼差しでバージルを捉える。

 

「報告ありがとうございます。直ちに対応に向かいますので」

「はいっ!失礼いたします」

 

 視線をバージルに向けたままにリンが告げると、登場したとき同様元気な声で少女が退室する。再び二人だけになった空間で、バージルはリンが先程までとは違う雰囲気を纏っているのを感じ取った。

 

「現在、連邦生徒会はある人の不在によりその行政運営に大きな支障が出ています」

「ある人?」

「はい。――連邦生徒会長です。彼女は現在行方が知れておらず、首席行政官である私が代行を務めています」

 

 次々に述べられる事実に、バージルが僅かに眉を動かす。リンはそんな様子に構わず続ける。

 

「彼女は姿を消す前に、責任についてよく話していました」

「――そして、それを負う大人の存在についても」

 

 その言葉にバージルが表情を変えた。

 

「彼女は、いずれそんな大人が必要になると言っていました。」

 

 言葉の内容を理解できずに、バージルは眉を顰める。そんな彼の様子にかまわず、リンは語りかける。

 

「我々生徒を導く存在――先生が」

「――先生」

 

 バージルは口にした言葉を脳内で反芻する。耳なじみのないその単語は、しかしつい最近どこかで聞いたようか気がした。

 

「あなたに我々の未来を託した存在、それが連邦生徒会長なのかはわかりません。そのため、彼女が話していた大人があなたという確証は未だありません。ですが、お願いします」

 

 リンが請願するようにバージルに言う。

 

「彼女があらゆる事態に備えて創設した組織、連邦捜査部シャーレ」

「あなたにはその"先生"として、事態の収拾にあたっていただきたいのです」

「今になって突然こんなお願いをすること、申し訳なく思います。ですが…」

 

 ――もしあなたが、彼女が言っていた先生たり得るならば。いや、もしそうでなくとも、リン自身が信じたいと思ったのだ。かつて"彼女"が語った想い、同じ内容を語った彼にならば、この状況を打開できるはず。そう考えながら、リンは目の前の大人に頼み込むように、頭を下げる。しかし、それはバージルの言葉により中断させられた。

 

「子供が大人に頭を下げる必要などない。顔を上げろ」

 

 バージルが告げる。

 

「先生、か。まるで柄じゃあないが、いいだろう」

「それがこの世界の大人の役目なら、俺がなる。生徒たちの未来のために」

 

 立ち上がり、バージルがリンに向かって告げる。

 

「今日から俺が、"先生"だ」

 

 そう、決意を表明するのだった。




全然気づいたらアユムがメインヒロインみたいな感じになってた。頭の中では完全に少女漫画の一場面を想像してました。おかしいな、連邦生徒会ならどちらかというとリンちゃんの方が好きなんだけど…

連邦生徒会の主要メンバーの中では身長が一番高そう(170cm弱?)なので、バージルとの身長差が理想過ぎて書かずにはいられませんでした。

6月開始の新規先生なので水着ホシノかミカどっちも血涙がでるほど欲しいが意志が足りねえぞ…どうしてくれよう

Q. そういえばダンテとクロコはどうしたの?
A. そのうち書くけどプロローグ中は出番ないです。
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