ブルーアーカイブ~Wish of Blue Devil~   作:ロキシード

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UA1200、ありがたや…急に倍近くに増えてビビってます。


連邦捜査部シャーレ

 廊下に響く二つの足音。それを発するうちの一人、バージルが口を開く。

 

「で、具体的には何をするんだ?その先生というのは」

 

 学園都市キヴォトスでは、学園の生徒が自治区の統治を行っている。当然先生という肩書の持つ意味も違ってくるはず。そのように考えたバージルが前を歩く少女――七神リンに問う。事態は一刻を争うとのことで、移動しながらの会話である。

 

「あなたには、シャーレの担当顧問として行動していただきます。もちろん、連邦生徒会長の立ち上げた部活ですので、一般的なそれとは大きく異なります。」

 

 リンの言葉を聞きながらバージルは呟く。

 

「この世界の部活とやらが、そもそも俺からすれば普通ではないがな」

「…そればかりは、慣れていただくしかありませんね。あなたがいたところとこちらとでは、色々なことが違っているでしょうから。ともかく――」

 

 リンは一度言葉を区切り、足を止める。目の前で急に立ち止まったリンに、バージルが視線を上げる。気づけばエレベーターに着いていたようだ。

 

「続きは降りながら話しましょう」

 

 いつの間にボタンを押していたのか、開いた扉に足を踏み入れるリンに続き、バージルは階下へ向かった。

 

 

 

 

 「代行!ようやく来たわね、待ってたんだから!さぁ、連邦生徒会長に合わせてもらおうかしら」

 

 ロビーについて早々、こちらに向かって詰め寄る、藍色の髪を左右で結んだ少女。その声に対し、リンは思わず顔を顰める。そしてその少女の後ろから、さらにいくつかの人影が近づいてくる。

 

「首席行政官。お待ちしておりました」

「トリニティ自警団からの陳情書について、回答がないため確認に伺いました」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求しています」

 

 藍髪の少女に続いて、三人の少女がそれぞれリンに来訪の目的を告げる。一人は黒の長髪に黒の制服、そしてその背からこれまた黒く大きな翼を生やす少女。一人はグレーの制服に白髪の少女。肩にある紋章は、黒髪の少女の制服に刻まれたそれと同じであることから、同学園に所属しているようだ。そしてもう一人は、バージルの見知った顔だった。

 

「……チナツか」

 

 自分に集まってきた面々を前に面倒そうな態度を隠しもせずため息を吐くリンを横目に、バージルがチナツの名を呼びリンの横に立った。

 

「ちょっと代行!聞いてるの?…って、そちらの大人の方は?そこのあなた、知り合いなんですか?」

 

 リンの後ろから現れた見知らぬ人物に、藍髪の少女――早瀬ユウカが疑問符を浮かべ、名を呼ばれたチナツに目の前の人物との関係を尋ねる。

 

「……ええ、まあ。……さっきぶりですね、バージルさん。随分足が速いので、驚きました」

 

 彼女の言葉は穏やかだが、その目には明らかに怒りを宿していた。

 

「遅かったな。用事というのはそれか」

 

 バージルはそんなチナツの様子には構わず、平然と彼女の来訪理由に納得の表情で応じる。目の前で繰り広げられる会話に、蚊帳の外にされた者たちが目を合わせる。

 

「…あなたが誰かは存じ上げませんが、大人の方――連邦生徒会の所属ではないとお見受けします。私たちはそちらの首席行政官に用がありますので、申し訳ありませんが、外していただけますか?」

 

 黒髪の少女――羽川ハスミがバージルにその場を外すよう告げる。その言葉に対し、リンが一歩前に出て答える。

 

「その必要はありません」

 

 その場にいたバージル以外の全員が、リンの言葉に反応し、目線を集中させる。

 

「――彼も当事者ですから」

 

 リンの発言に目を瞬かせるものが三人。チナツだけはその目をバージルに向けていたが、バージルはその視線を無視する。リンは混乱する少女たちをそのままに続ける。

 

「あなた方のような暇じ……大事な方々がわざわざここを訪ねてきた理由、それは――」

「今、学園都市に広がる混乱…その責任を問うため、でしょう?」

 

 リンが目の前の四名を順に見やり、彼女たちがここに来た理由を言い当てる。

 

「っ!わかってるならなぜ放置してるの!数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ?この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

「連邦矯正局より、一部停学中の生徒たちが脱出したという情報も入っています」

「スケバンたちのような不良生徒たちが、登校中の生徒を襲撃する頻度も最近急激に上がりました。治安の維持が難しくなっています」

「戦車やヘリコプターなどの出所がわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 藍髪の少女がリンの言葉に嚙みつくと、少女たちがそれに続くように口々にそれぞれの申し立てを述べていく。バージルは彼女らの発言、その内容から先程のリンの言葉を思い出していた。

 

(学園都市キヴォトスの命運をかけた大事なこと、か)

 

 バージルは、リンの言葉が現実味を帯びていくのを感じた。この世界の日常がどんなものかはわからないが、彼女たちの発言内容からして現在のキヴォトスは相当な混乱に陥っているらしい。

 

「とにかく!今すぐ連邦生徒会長に合わせて!」

 

 怒気を帯びた声でユウカが要求する

と、リンは短い沈黙のあと、口を開く。

 

「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

 

 驚愕の事実が告示される。

 

「……え!?」

「…!」

「やはりあの噂は……」

「……だから回答がないまま……」

 

 その反応は皆違っていたが、総じて驚愕に先ほどまでの勢いを失わせていた。

 

「彼女の不在によって、"サンクトゥムタワー"の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態にあります。」

 

 その場にいる者が、リンの話す事実に言葉を失う。

 

「認証を迂回できる方法を探していたものの、先程まで見つかっていませんでした。ですが――」

「今は、方法があるということですか?」

 

 過去形で述べたリンに、ハスミが思わず問いかける。

 

「ああ、そのために俺がいる」

 

 それまで沈黙を貫いていたバージルが一歩、前に出ながらそう言い放つ。予想していなかった人物の突然の発言に、ハスミたちが目を見開き言葉の主へ視線を移す。

 

「あなたは一体…」

 

 不意に話に入ってきた大人に対し、白髪の少女――守月スズミが何者か尋ねる。

 

「バージルだ。今日からここで先生とやらをやることになった」

 

 彼がそう宣言する。

 

「っ!…先生?あなたが?」

「キヴォトスではないところから来た方のようですが、先生だったのですね」

 

 ユウカが驚きに目を見開く一方で、ハスミが納得した表情で言う。

 

「この方は、連邦生徒会長が特別に指名した人物で、これからキヴォトスの先生として、ある部活の担当顧問として働いていただくことになります」

 

 リンの言葉にバージルが僅かに反応する。連邦生徒会長が指名したというのは、方便だった。リンは先刻のバージルとの会話で彼を信じるに値すると判断したが、キヴォトス全体ではそうはいかない。よって、バージルは連邦生徒会長本人に先生として任命されたと周知することになった。バージルは堂々と宣言される虚偽の経緯に、表情を変えないよう努める。自らを射抜く一つの視線に気づくことはなかった。

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名って…ますますこんがらがってきたじゃないの……で、その部活というのは?」

「その部活は、連邦捜査部シャーレ。連邦生徒会長によって立ち上げられた、超法規的機関です」

「単なる部活ではなく、連邦組織として、キヴォトスのあらゆる学園の生徒たちを所属させることすら可能です。また、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うこともできます」

 

 連邦捜査部シャーレ。その設立の経緯とそれが持つ権限をリンが説明する。

 

「連邦捜査部、シャーレ……」

「そのような強力な権限を、どうして……?」

 

 チナツがその名称を反復して口にし、スズミがその強大な権限に疑問を抱く。

 

「これだけの権限を持つ機関を作った理由は不明ですが……」

「バージル先生を、シャーレの部室――その地下にお連れする必要があります」

 

 そう言うと、リンは懐から端末を取り出し、誰かに連絡を取り始める。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど――」

 

 リンが眼前で通話を始めたことで、ユウカたちの興味がその場にいる先生――バージルへと移る。視線に気づいたバージルが顔を向けると、ユウカと目が合う。二人の間に、何とも言えない微妙な空気が流れる。沈黙に耐えかねてユウカが口を開いた。

 

「えーっと……こ、こんにちは、バージル先生。先生はシャーレの地下に何があるのかご存じですか?」

「さあな。リンが言うには、詳しくは行けば分かるらしいが。お前は…」

「そういえばこちらの自己紹介がまだでしたね。私はミレニアムサイエンススクールのセミナー所属、早瀬ユウカです。よろしくお願いします!」

 

 ユウカの言葉に、ハスミたちが続く。

 

「私はトリニティ総合学園の正義実現委員会に所属しています、羽川ハスミと申します。以後、お見知りおきを」

「私は守月スズミです。同じくトリニティにて自警団をしています」

「……火宮チナツです」

 

 最後にチナツがどこか不服そうな顔で告げる。一方でキヴォトスと異なる地から訪れたバージルに好奇の目を向ける少女たちは、次々に質問をぶつける。

 

「キヴォトスではないところでは、人々が銃も持たずに外へ出るって本当なんですか!」

「それに、私たちと違って銃弾一発で致命傷になるとも聞いたことがあります。にわかには信じがたい話ですが」

「そのような社会ではどのように治安を維持しているのでしょうか?気になります」

「…待て、同時に喋るな」

 

 彼女たちの勢いに圧され、バージルが一歩後ずさりする。そうして一度呼吸を整えると、少女たちに向かって言う。

 

「俺のいた場所では、銃を持ち歩く者はあまりいなかったな。まあ、まったくいないというわけではなかったが。場合によっては所持が禁止されているところもあったぞ」

「!…本当にそんな場所が?すごいですね…」

 

 ユウカが信じられないといった顔で言葉を漏らす。

 

「それに、銃を受ければ致命傷になるというのも事実だ」

「っ!ということは、先生、あなたも…?」

 

 バージルが話した内容に驚きつつ、ハスミが問いかける。目の前の大人がいたところでは、銃弾一発で死に至る。それが本当なら、当然彼自身もまた――常日頃から銃弾が飛び交うキヴォトスにおいて、彼の存在はあまりにも危うい。

 

「いや、俺は…」

「皆さん、よろしいですか?」

 

 ハスミの言葉にバージルが何事か答えようと口を開いたところに、声がかかる。いつの間にか通話を終えて近づいてきたリンが、その場の全員の意識を再度自分に集中させる。が、なぜか彼女の目には先程まではなかった怒りの色が浮かんでいた。

 

「想定外のこともありましたが、ちょうど良かった。ここには各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいます」

「……えっ?」

 

 リンの言葉にユウカが思わず声を出す。

 

「何だか、嫌な予感がしますね…」

 

 リンに見つめられたうちの一人、スズミが呟く。

 

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

 切実に必要、と語る割に強引な態度で、リンはユウカたちを押しやっていく。

 

「ちょ、ちょっと待って!?どこへ連れていくつもりなの!?」

 

 ロビーに木霊するユウカの声に、バージルは黙ってリンの後をついていくのだった。

 

 

 

 

「な、なにこれ!?」

 

 目の前に広がる惨状に、ユウカが驚嘆する。そこには、あちこちで銃を撃ち街を破壊する不良たちが蔓延っていた。周囲には爆発による噴煙が巻き上がり、銃声が絶え間なく響き渡る。

 

「ていうか、なんで私たちが不良と戦わなきゃいけないの!」

 

 ユウカが目に映る光景に自分の境遇を嘆くと、宥めるようにチナツが返す。

 

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから」

「それは聞いたけど…!なんで私が…!一応、セミナー所属なのに…!」

 

 チナツの言葉に反論するも、ユウカは現状を受け入れられない。その脳内では、少し前の光景が呼び起されていた。

 

『お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!』

 

 通話口の向こうから告げられ一方的に通信を切られたリンは、振り返りユウカたちにシャーレ奪還の任にあたるよう告げると、連邦生徒会の建物から彼女たちを追いだすように送り出してしまったのだ。回顧に沈んでいたユウカを、銃弾が襲う。

 

「いたっ、痛いってば!これ、違法JHP弾じゃない!?」

「先生、伏せてください。ここは私たちが」

「いや、その必要はない」

 

 庇うように前に立つハスミの言葉に、バージルは仁王立ちしたまま応じる。

 

「っ!危険です!あなたは、私たちと違い弾丸一発で生命の危機に…」

「心配するな。俺も戦いには慣れている。そうだろう?チナツ」

 

 バージルがチナツの方に顔を向ける。

 

「……仕方ありませんね。危険と判断したらすぐに後退してください。絶対ですよ」

「チナツさん!どうして…?」

 

 バージルが戦闘に参加することを認めるチナツにハスミが思わず抗議する。

 

「話すのが遅れましたが、バージルさ…先生がここに来る前、私は先生と会っています」

「だからあのとき…」

 

 チナツがバージルと面識があるような会話をしていた理由に、ユウカが納得する。

 

「初めて先生と会ったとき、私は風紀委員としてスケバン集団との大規模戦闘に参加していました。先生はそこに突然現れて、自分に一斉に発射された銃弾をすべて躱しスケバン集団の鎮圧に大きく貢献しています」

「……銃弾を避けるって、可能なんですか?」

「いくらなんでもそんなの無理でしょ…」

「信じがたいですね……」

 

 チナツの語る内容に、スズミ、ユウカ、ハスミが言葉を漏らす。彼女たちは全員信じられないという反応を示す。

 

「ふん、造作もないことだ」

「キヴォトスの外では普通のことなのでしょうか?」

「そんなわけないでしょ……」

「仮にチナツさんの言ったことが事実だとして、一撃も当たらないように避けたということは、やはり先生は銃弾を受けるのは危険があるということでは…?」

 

 スズミの言葉にユウカが突っ込みを入れつつ、ハスミがバージルに問う。それは先程連邦生徒会のロビーでもされた内容だった。

 

「ここの住人ほどではないが、何発かもらっても問題はない。胸を貫かれたとしても、すぐに治るからな」

「何を言ってるんですか!?それで生きられるわけないじゃない…!」

「大人ってそういうものなんでしょうか…」

「ただの冗談でしょう?…いくらなんでもあり得ないわ」

「俺は冗談など言わん、強いだけだ」

 

 そんな言葉に、ユウカは呆れた目でバージルを見やる。

 

「先生の戦闘能力の高さはわかっています。とはいえ怪我をされる可能性がある以上、私たちは先生をお守りすることを最優先とします」

 

 チナツがバージルに目を向け、毅然とした態度で宣言する。

 

「そうですね。首席行政官のお話では、七囚人によって決起した不良少女たちは戦車まで持ち出しているようですから。銃弾が体を貫くならば、私たちが先生を守らなければなりません。あの建物の奪還はそれからです」

 

 チナツの言葉にハスミが同意を示す。バージルは歯噛みする。彼女たちの認識は言葉を重ねても覆せそうにない。しかし、黙って生徒たちに守られるつもりなどバージルには毛頭なかった。

 

「……ならば俺の指示に従ってもらうぞ」

「指示、ですか?」

 

 スズミの質問に、バージルが答える。

 

「そうだ。四人でこれだけの人数を相手にするならば、連携は必須だろう」

「先生には戦術指揮のご経験が?」

 

 ハスミが尋ねる。

 

「…似たような経験があるだけだ」

 

 バージルはかつての記憶――Vとして短い間共に過ごした悪夢たちの姿を思い返していた。力を失いわずかな魔力でユリゼンのもとを目指した際、彼は同時に複数の使い魔を使役し悪魔と戦ってきた。もちろん今回は自らも戦闘に参加するつもりだ。しかし、それを話したところで反対されるのが目に見えているならば、明かすつもりはない。

 

「そうと決まれば、急ぐぞ」

 

 そう言うと、バージルが前に出る。

 

「ちょっと!危険だから下がってて…って聞いてないし!」

「無駄ですよ…ああいう人です」

「とにかく、先生の指揮に従いつつ、攻撃から守ることを意識しましょう」

「わかりました。今は早く、ここを切り抜ける必要があります」

 

 四名それぞれが銃のグリップを握る手に力を入れる。ここに、シャーレの先生と生徒たちによる初の戦闘、その幕が切って落とされた。




ようやくブルアカ本編のプロローグに入ることができました。
ゲームの最初ということもあって説明がちなセリフをどうするか悩みました。

なるべくセリフはそのままにと思ったのですが、チナツと先に会ってたり、スズミが最初から会話に参加してたりとちょくちょく違いがありますね。

次回はバリバリ戦闘やっていきたいと思います。推敲し始めると時間がみるみる溶けていく…
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