----シリアルNo.55『ATM-3』適合成功----
----意識レベル上昇を促進-----
目が覚めたら悲しいくらいぺたぺたのぺったんこだったはずの胸がおっきくなっていた。何を言っているのかわからないと思うが私も何が起こっているのかわからない。
「おっぱい?…おっぱいッ?!」
ひとまず揉んでみて感触と感覚からそれが紛れもなく自分のものだということが分かった。嬉しいは嬉しいけどやっぱり訳わからん。もしやこの間まで飲んでいた霊験あらたかな水(通販限定税込み1,980円)の効果でも現れたのか?いや無いなだってアレ絶対ただの水だし。昨日ニュースで社長捕まってたもん。返せ私のボーナス16万。
思考が明後日の方向に向かい始め失った大金に悶えていた私はふと、そこで私が一切の服を着ておらずいつも眠るベッドではない寝具に横たわっていることに気づいた。
改めて自分がどういった状況に置かれているのか見回してみる。
恰好、全裸。
寝てた場所、カプセルホテルLv.100みたいな謎空間。
結論、なにこれ。
どうやら私は某強酸性の血を流すエイリアン映画に出てきそうなポッドの中に幽閉されているようだ。閉所恐怖症じゃなくてよかった。
ポッドの上半分を覆う透明で巨大なキャノピーから外に目をやると私を挟んで左右に一つづつ私が閉じ込められているものと同じ形状のポッドが置かれている。
中では10代半ばくらいに見える少女が目を閉じて片方はスヤスヤと、もう片方は豪快にイビキをかいて眠っていた。両者ともにやはり裸で私にソッチの気はないにもかかわらず思わず見とれてしまいそうになるほどとても整ったルックスをしている。
とりあえず状況を整理しよう。私はいつものようにセクハラキモデブ上司からの攻勢に耐えながら6徹目の残業を終わらせにかかっていた筈だ。
休憩の為に仮眠室のベッドにダイブしたところまでは覚えている。つまり今のこれは夢?
しかし頬を抓ってみてもやたら痛いだけで再び目を開けたら仮眠室の天井というようなことは無かった。
「何がどうなってるの?」
『T-Doleの意識覚醒を確認。拘束解除』
「あ?うわ」
突然の機械音声と共にキャノピーのロックが外れSFチックな圧縮空気の排出音を鳴らしながら私を閉じ込めていたアクリル製のドームが開け放たれる。同時にオイルと消毒液混じりの独特な臭いが流れ込んでくる。
「出ても良い…のかな?」
上体を起こし恐る恐る足をポッドの外に出す。リノリウム張りの床はひんやりと冷たく汚れも無かったが数本の太い電源か通信用のケーブルが這っておりそれらは私と謎の少女A・Bが収められているポッドに繋がれていた。出入口は1つ。大きな機材も難なく搬出入できそうな大型スライドドアが正面に鎮座し固く閉ざされていた。試しに開かないか触ってみたが専用のカードキーを用いなければ電子ロックが解除できない仕組みになっているようだ。
カプセルホテルにしては殺風景で病院にしては薄暗く人の気配もない。事ここに至りやっと私の頭に拉致という単語が浮かんだがすぐ新たな疑問を覚えた。誘拐だとしてなぜ私?別に美人でもない金もコネもないアラサー社畜女なんて攫うリスクとリターンが釣り合ってないように感じるんだけど。
「とりあえずなんか棒的なヤツないかなオッサン1人くらいならノックアウトできそうなの。あと服どこだし」
護身具となけなしの羞恥心を鎮める布を求めて薄暗い安置室?の中を右往左往していると突然この部屋を外界から隔離していたスライドドアから開錠されたことを示す『ピッ』という電子音が鳴る。間を置かず頑丈そうな金属製扉が左右に滑り私がいる室内に明かりが挿し込む。
咄嗟に両腕で身体を隠しポッドの影に隠れる。部屋に差し込んだ光に人影が混じる。数は2人、白衣を着た女性と赤っぽい制服を着たモノクルの女性。
2人とも30歳前後といったところか。
鍛えていたり反社っぽくはない。しかし服装からは素性が分からず特によく見ると奇妙な見た目の白衣女に私は警戒を解くことができずにいた。
最初は医者の類だと思った白衣の女は見ればかなりだらしない恰好をしている。靴を履かず白衣の下のシャツはヨレヨレでボタンも危ういところまで外してある。おそらくタイトスカートであろうボトムもしわが寄れだらしなく怪しい印象に拍車をかけている。
悪人ではなさそうだけど堅気でもなさそうだ。そんな不審者白衣は開かれたポッドと隠れて様子を窺っている私の姿を見て濃い隈の滲んだ目を少しだけ見開き面白そうに口元を歪めた。
「あれぇ?おかしいなぁ外部からの操作が無いと目覚めないはずなんだけど」
「トラブルかペルシカ?」
「トラブルと言えるほど大げさなものじゃない。こんにちわお嬢さん、そんなに警戒しなくても別に取って食べたりはしないって」
白衣女は意外にも人の好さそうな笑みを浮かべ羽織っていた白衣を被せてくる。
私はそのコーヒーとケミカルな臭いが染みついた白衣で身体を隠し立ち上がる。見たところ、少なくとも今すぐ私を害そうという雰囲気は感じられない。
「ここはどこなの?私をひん剥いたってなにも楽しくないわよ。早く会社に戻って今日の業務終わらせないといけないんだから」
「??」
「な、なによ」
「いや、随分と初期設定と違う性格をしてるものだから。一応聞くけど自分が誰か分かってる?」
設定?何の話だと思いながら私は自分の名前を名乗る。フルネームと勤め先、生年月日と年齢。あとここで目が覚める直前まで何をしていたのか。
が、私の一言一言を聞くたび2人の頭の上に?マークが飛んでいく。
「ちょっと待って。何を言っているの?自意識が戦前の人間?一般企業に勤める民間人?初期化直後の目覚めたてのAIが吐き出した偶然の産物にしては設定が凝りすぎている…」
顎に手を当てうんうん唸る白衣女(白衣無し)の様子に今度は私の中に疑問と不安が沸き上がる。え、私ヘンなこと言ってないでしょ。…言ってないよね?
「改めて聞くが今の自分の状況は全く把握していないのか?」
今度はモノクルを掛けた制服の女性が話しかけてくる。彼女の鋭い目で見据えられ私は身体がすくむ感覚に襲われた。
「わかんないわ。6徹終わって軽く寝てたら素っ裸でポッドに閉じ込められてたんだもの。あなたたちこそ何なのよ。暴力団?マッドサイエンティスト?家に帰してよ」
私の反応を慎重に値踏みするように観察していたモノクルの彼女はやがて嘆息と共に口を開いた。
「本当に何もわかっていない戦前生まれの自意識なんだな。最初に名乗っておこう。私はヘリアントス。ヘリアンとも呼ばれている。民間軍事会社『グリフィン&クルーガー』の上級代行官だ。こっちはペルシカリア、お前たち人形の生みの親だ。マッドサイエンティストというのも…まったくの間違いではない「ちょっとひどいなぁ」…悪かった。で、ここからが大事なのだが結論から言わせてもらうとお前は自分が自称しているような人間ではない。『戦術人形』、有り体に言えば戦闘用アンドロイドの一種だ」
目の前の彼女が言っている内容をすぐには理解できなかった。私がロボット?本気で言っているのだろうか。てかPMCって何。
「は?…………失礼だけど頭大丈夫?私がターミネーターみたいなロボットだっていうの?ありえない。冗談にしたって笑えないわそれ」
「事実だ。お前も薄々気が付いているだろう。自分の身体の違和感に。体型が変わっていると言ったな。数時間眠っただけで見た目が変わるわけないだろう?第一今のお前は20にも満たない子供にしか見えないぞ」
そう言ってへリアンはポケットから化粧品の入ったコンパクトを取り出し蓋に付いた鏡で私の姿を見せる。
「は?」
それは間違いなく私の顔だった。しかし過労に擦り切れた今の私ではなく若かりし頃の何も苦労を知らなかった私だ。化粧で誤魔化せなくなっていた目の下の隈もガサガサの肌や唇も、全てのダメージが消えていた。それどころかバストと同じように顔面偏差値も上方修正されているように思えた。
「うそ……若返ってる…」
「理解できたか?」
「う~ん、いまいち実感ないけどこんなの見ちゃったら信じざるを得ないわね」
自分が人ならざる者になってしまったというのは正直まだ飲み込めてないしかなりショックだけど、考え方を変えればあのクソ上司にセクハラされながら8徹する生活とは永遠におさらば出来ると捉えることもできる。やったぜ。
「でも私に何をしろっていうの?電話番と会計ですか?」
「前線だ」
「はい?」
ZENSEN…ぜんせん…前線?なんの?
へリアンの言葉が脳内をリフレインする。
「お前にはそこの2人を率いて重装部隊ATM-3小隊を編成し訓練の後に紛争の最前線に向かってもらう。とはいえ、だ」
へリアンは未だポッドの中で眠り続けている少女たちを指差しながら言いそこで一旦言葉を区切って私の目を一瞥する。そしてペルシカリアに一瞬視線を向けた後続けた。
「こちらとしてもお前の今の状態は想定外だ。ペルシカリアのラボで素体とスティグマのダブルチェックを行ってしばらくは慣らしに専念してもらう。…大丈夫か?」
がくり
腰が抜けた私は両膝をつき項垂れる。
「そんなぁーー!あんまりだー!ビィールゥー!」
社畜は転生しても社畜みたいです。しかも今回は人権ないタイプのドブラック。