目が覚めたらタンクバスター   作:桜の木の下の住人

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限界社畜、小隊長になる。そしてジェネレーションギャップにやられる

「やっぱり改めて検査しても素体は極めて一般的なI.O.P製戦術人形ね」

「つまり?」

「君が元人間だと証明してくれる痕跡はどこにもないってこと」

「ウボァ…」orz

 

私は打ちひしがれていた。ペルシカリアもといペルシカさんの言うところによれば徹底的な検査の結果、今の私が自律人形という人型アンドロイドの戦闘用モデルつまり戦術人形(危ないことを肩代わりする人の紛い物)に個体ごとの個性を形成する疑似人格として焼き付いてしまったゴースト(バグ)なのだそう。

 

人を模した機械の殻に宿った魂、さながら『GHOST IN THE SHELL』。今の私が置かれている状態をペルシカさんはそう評した。なんかそんな映画があったな昔弟がリビング占領して親父と観てた記憶がある。

自分が人ならざる者に身を落とした事実を突きつけられた私の動揺と衝撃は相当なものだった。その上でペルシカから語られたこの場所、ひいては地元を含めた世界の‘’今‘’は私から容易に平常心を失わせた。

 

曰く、世界は半分終わってしまったのだという。上海の地下に埋まっていた遺跡からコーラップスと呼ばれる平たく言えば人間をテレビゲームに登場するゾンビのように変貌させるヤバ過ぎる代物が流出し西日本含めたアジアの途方もない面積が滅亡した。海洋汚染や気流に乗って飛散したコーラップスで太平洋からアメリカ大陸の西半分も壊滅。ヨーロッパ・ロシアも桁違いの難民流入とこれまたコーラップス流出事故によりオワコン化してしまう。

で、滅茶苦茶になりすぎてとち狂ったのか核連打の第3次世界大戦まで勃発して残り少ないきれいな土地がさらに減った挙句に人口も激減して今に至る、と。

 

えぇ…先進国軒並み終わりかけてんじゃん。てかそんな状況で戦争なんかすんなしラブアンドピースの精神を持て。

 

そうして加速度的に激減した労働者人口を補い人間では耐えられない重度の汚染区域での行動を任せるため発達したのが自律人形というわけだ。

しかしまあ、人工知能関連のお約束というか著しく発達し殆ど人間と遜色ない思考を持つに至った人形たち、その中でも多くの人形関連のシェアを占める大手兵器製造会社『鉄血工造』で生産されていた戦闘用の高級仕様人形が指揮下の人形を引き連れて人類に反旗を翻した。人類対機械の生存闘争である。しかも各国の正規軍はE.L.I.D広域性低放射感染症(コーラップスに感染したゾンビ)の対応と合わさりキャパシティがパンクし旗色が悪い。

 

もろターミネーターじゃん。もう終わりだよこの国…終わってたわ。

 

でも座して死を待つほど人類は諦観していなかった。民生用の人形に武器を運用できるプログラムと改修を施したり精鋭の戦術人形を1から作ったりして戦力を嵩増ししへリアンの勤め先のG&KようなPMCを主力に据えて鉄血との闘いに投入した。

で、私は人類側を守るために作られた戦術人形つまりシュワちゃんポジのアンドロイド。

I.O.P社製火力支援戦術人形ATM-3小隊長(コマンダー)。それが今の私。第二の人生がロボット歩兵ってマジで言ってる?神様はっ倒そうかな。

ちなみにこの身体を作ったのはペルシカさんだ。というかI.O.P社製の戦術人形は大体この人が関わってるしなんなら自律人形という概念を作った張本人である。前の私よりも圧倒的オーバーワークの企業戦士の存在に心底震える。

 

「君には気の毒だけどもうこの世界は戦って勝ち取らないと明日はやってこないんだ。どうか腹を括ってほしい」

「……選択の余地はないみたいね。いいわ、出張先で事あるごとにラブホに連れ込もうとするハゲと仕事する日々よりは働けば働くだけお金になる仕事の方がいくらかマシよ」

「平和な時代も大変だったんだね…」

「まったくよ」

 

それからはつつがなく進み。

 

検査を受け終え自分がここで何をするべきなのか簡単に説明された私は検査室から会議室へと場所を移し小隊の部下になる2人(目が覚めた時に両サイドで寝ていたあの子たち)と顔合わせすることになった。

 

「にしても戦術人形か」

 

ペルシカさんに先導される形で研究所の廊下を歩きながら物思いに耽る。検査中ラボでも起動していない人形を目にしたけど見た目は本当に人間と変わらない。肌も顔つきも不自然さは欠片もなかったし彼女たちの身体に何本もの送電ケーブルが挿さっていなければとても人工物だとは信じなかっただろう。

ふと私は自分の手に視線を落とす。ペンダコ一つない綺麗な手だ。人だった頃と変わらず自由自在に動き繊細な力加減と感触も併せ持っている。一体どれだけの先進技術があればここまでに仕上げられるのだろうか。つくづく未来というのはとんでもない。

 

「あそうそう、君のグリフィンの登録名なんだけど流石に大昔の一般市民の戸籍をそのまま名乗らせるわけにはいかないからスティグマで紐づいた銃を名乗ってもらうよ」

「はあ」

「『89式短小銃T-96展』、これから表ではこの名前で通してちょうだい。君の中身が人だと知れると面倒事に目を付けられるかもしれないから」

「人につけていい名前じゃない…ちなみに面倒事ってどんな?」

十中八九拉致解体研究(イケナイコト)

「ひえ…」

「君がボロを出さない限りは私の権限で庇ってられる。だから言動には注意して」

 

顔面蒼白でコクコクと頷く私にペルシカさんは「くれぐれも頼んだよ」と少し真剣な声色で言い聞かせ踵を返した。この先まっすぐ行けば迷わず会議室に辿り着けるからあとは若い子同士でってことらしい。

 

「一応中身はアラサーなんだけど私」

 

外見に引っ張られた気遣いに複雑な気持ちになりつつも目的地に辿り着いた私はそーっと会議室のドアを開ける。するとそこには件の部下になる2人の戦術人形が近未来的なデザインの上等な椅子に座り待機していた。

その内、藍に近い黒髪を背中まで伸ばした溌溂な顔つきの人形が入って来た私の姿を見るなり足早に近寄ってきた。

 

「お?アンタが隊長かよろしくな。アタシはニューナンブM66短機関銃。ガナー(砲手)担当だ。アンタの好きに呼んでくれ」

「よろしくねニューナンブ。それにしてもいざ目の前の女の子が銃の名前を自称すると違和感がすごいわね」

「呼び辛かったらナンブでも良いぜ。グリフィンの規則なんだ。指揮官が情を持たないように武器として名乗る。ま、似たような名前の銃が多くてこれはこれで混乱するみたいだけどな。やたらいるM○○とか」

 

ダメじゃん

 

微妙な顔をした私にニューナンブM66はハハハと軽く笑うと椅子の上でじっとこちらを見つめている戦術人形を手招きした。地面に届いてない足をぶらぶらと揺らしていた彼女は音もなく椅子から飛び降りるとトテトテとやって来た。近づくにつれこの子の小ささが際立ってくる。170ちょいの私よりだいたい頭一個半ほど背が低く当人の表情に乏しい機微の読めない雰囲気と巻き毛気味な金髪も相まってラグジュアリーな猫のようだった。

 

「豊和AR-180。弾薬手(ammunition bearer)。よろ」

「まじ?」

 

運搬係?失礼なことだがとても重いものを運べるようには見えない。そんな疑念が伝わってしまったのかAR-180はむふんと鼻を鳴らすと胸を張った。

 

「大丈夫。こう見えて元介護人形。重いモノ運ぶのは慣れてる」

「はえー人は見かけによらないものね」

「だよな、アタシも最初聞いたときはジョークかと思ったけどその後すぐ片手で頭の上まで持ち上げられて認識を改めたぜ」

 

ちょっとそれは想像がつかないかな。自分より遥かに小柄な豊和ちゃんに持ち上げられる私の姿を思い浮かべるがなんともシュールだ。

 

「じゃ隊長の事も教えてくれ。アンタもアタシたちと同じ日本銃モチーフなんだろ?同郷の仲間と部隊が組めるなんて中々ないからな」

「うん。私も戦術人形改修受けたばかりだからみんなが初めての仲間…」

 

ニューナンブと豊和ちゃんがにじり寄ってくる。

彼女が言うには日本製の銃は現存数が貴重でコレクターズアイテム的性格が強くレプリカであっても戦術人形用の武装としてはなかなか降りてこない。ゆえに日頃は異邦人に囲まれて生活しているような感覚に襲われているらしい。「かなり、ストレスフルよ!」とは力の籠った彼女の弁である。

豊和ちゃんに至ってはつい先日I.O.Pで戦術人形に改造された民生人形だったらしい。元々はイエローゾーンとグリーンゾーンの狭間にあった老人介護施設で色々なサポートを行っていたのだが入所者の減少に伴ってリストラの憂き目に遭ったとのことだった。

そんな孤独感に抗いたかった彼女たちにとって分かりやすい繋がりがモチーフ元の共通点だった。

いずれも日本の国産銃として開発され期待されながらも情勢の変化で大成できなかったツイてない銃。

 

極めて信頼性の高い国産短機関銃として開発され結局アサルトライフルにお株を奪われたニューナンブM66。

 

性能は申し分ない良銃でありながらアメリカ製銃器にシェア争いで負け、挙句テロリストが使う未亡人製造機と不名誉極まるレッテルを貼られた豊和AR-180。

 

そして、そもそも賑やかしの一発ネタとして発表され続報もなく消費された(T-96展)

 

改めて見ると不憫属性ばっかり集められたのね。ちょっとモヤる。

私は何を言おうかしばらく考え、しかし何も思い浮かばなかったので無難に名乗り微笑んだ。

 

「よろしく2人とも。私は89式短小銃T-96展、この小隊の隊長をすることになったけどぶっちゃけ戦争は素人だからみんなに助けてもらえると嬉しいな」

「おう!フォローなら任せろ。代わりに小難しい計算は頼むな」

「計算は得意だよ慣れてるから」

「それは前の仕事関連?」

 

小首をかしげた豊和ちゃんのセリフに思わず企業戦士時代がフラッシュバックする。24時間働けますか、枕拒否からの嫌がらせ…ウッアタマガ。

 

「一つ言えるとすれば…大手だからって求人票の給料欄だけ見て決めちゃダメってことかな」

「あー…失敗したのか」

「ええ。とっても」

 

そのあとタイミングを見計らっていたかのように会議室に入って来たペルシカさんに親睦会をしようと3人ともども連れ出され彼女の研究室の一角で合成肉と人工甘味料100%ジュースで晩酌をした。

 

とてもケミカルな味であったことをここに記しておく。




ニューナンブM66(銃)
カールグスタフm/45によく似たオープンボルト方式のサブマシンガン。設計上故障知らずで近距離で使う分には性能は申し分ない。でも時代が悪すぎたその1。
ニューナンブM66(人形)
快活で大胆、気風が良く義理堅い昭和男の良いところを抽出して女の子の姿に押し込めたような人物。中肉中背の平均スタイルだが艶やかな髪と強い眼差しで雰囲気に華がある。

豊和AR-180(銃)
豊和工業がライセンス生産したアメリカ製AR-18のセミオートモデル。簡単にフルオート化できるうえに本家より質が良かったらしいが動乱の時代にそんなものがあったら…ねえ?時代が悪すぎたその2。
豊和AR-180(人形)
元民生出身のパワー型介護人形。物静かで表情の変化に乏しいが心優しくのんびりとしている。非常に小柄でふわふわの金髪と穏やかな身のこなしでどこか小動物を思わせる。なお膂力はアホみたいに高い。介護用としてはオーバースペックである。

89式短小銃T-96展(銃)
未来の自衛隊装備品のコンセプトモデルとして発表された89式5.56㎜小銃の近代化モデル。アクセサリーレールや銃身の大幅短縮、銃床の変更などもはやハチキューっぽい別物と化していたが20式小銃が採用されたため荼毘に付された。
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