囚人No.13 安心院なじみ 作:囚人
薄暗い──どころか
気配感知のスキル「
……どうやら三人組の方は、奇怪な雰囲気の奴を始末しようとしているらしい。まあまず間違いなくこのバスが到着する方が早いんだろうが、万が一ってこともあり得るだろう。そんな雰囲気を醸し出していやがる。
そのことに気が付いた僕は、「
「ヴェルギリウスくん。少し真面目なお話がある──つーかマジな提案があるんだがよ、聞いてくれるかい?」
「……俺の仕事が増えることになるだろうから、あまり無茶苦茶なことはしないでくれると助かるんだが」
「おや、意外と言えば意外な反応だね。僕はてっきり『大人しく座っていろ』とか、そんなことを言われるもんだと思っていたんだけど」
「それならお前は、俺がやめろと言えば大人しくやめてくれるのか、
赤く煌めく視線を僕に向けつつ、そんなことを言いやがるヴェルギリウスくん。都市全土どころか、世界全土を見渡したところで。僕にそんな口を叩けるのは数えられるくらいしかいないだろうね。
ま、数えたところで意味もないだろうけど。
僕の前では数なんて、ただの数字列でしかねーんだから。
指折り数えることにも、もう飽きた。
……そんなことよりも今は、ヴェルギリウスくんにことの経緯を説明しないとね。
「まあつまりだね。どうやらこの黒い森に次なるリンバス・カンパニーの人材──囚人と言うべきかな? ともかく、共に地獄を巡るべき
「口の利き方は気に入らないが、内容については申し分ないな。……それで? 問題児筆頭である
「なに、簡単なことさ。どうやら新たに迎え入れる予定の囚人が危機に陥っているらしいから、この僕が
「……ふむ。有益か無益かで判断するのならば、間違いなく有益ではあったな。もちろんそれと同時に無駄な申し出でもあるが。カロン、ここから目的地まではあと何分程度だ?」
「あと五分くらい。でもメフィ、これいじょう速くしたらがっしゃん確定。どうする、ヴェル。もそっとぶるんぶるん、する? カロンはそれでもいいよ」
「いや、このままでいい。お前が怪我をしたら元も子もないからな──」
突如として柔らかめの表情(とは言ってもその差は微々たるものだ)になりつつ運転手の女──カロンという名前らしい──に話しかけたヴェルギリウスくんは、カロンちゃんの答えを聞くと再び僕の方へと向き直り、その眉間に皺を寄せ直してしまった。
……なるほど。
いやあ、そういう手口を見ると僕が通って(というか僕が創設者だ)いた『箱庭学園』における様々な事件を思い出しちまうぜ。あちらの世界が少年マンガの世界だったとするのならば、それは例えば六巻辺りの事件だったのだろう。
昨日のことのように思い出せるぜ。“完全な人間を作る”という名目のもと行われていた人体実験、“フラスコ計画”。
その実験の主な被検体たる
つってもまあ、僕は実際に見たわけじゃねーんだけどさ。それに、あちらはカロンちゃんに施されたのだろうそれよりかは、
だからまあ、こんなのはただの懐古だ。
僕のキャラには合わねえぜ。
……とにかく。
現状、僕のやるべきことは一つしかないだろう。
ヴェルギリウスくん。それはきみだって分かっているはずだぜ。
「──
「おいおい、随分と意味深な言い回しをしてくれるじゃないか、ヴェルギリウスくん。もしかして案外きみも僕のことが気に入ってくれたりしたのかな?」
「あぁ〜、そうみたいだな、“
「……きみ、いい性格してるぜ。この僕のお墨付きだ、喜んでくれたまえ」
「そうか、古ぼけたカビ臭い賛辞の句をどうも。何にせよ、耳にタコが出来るほど聞かされたからな……。ところで“
「ちょっとムカついた程度で手を出すほど、僕は子供じゃないんでね」
「へえ、そりゃすまなかったな
……都市ってところにはこんなに
まあいいさ。今の僕はとにかく人と話していたい気分だし、こんな風に言葉で殴り合う──というか傷付け合うのも、言うなればコミュニケーションの一種って奴だろうし。
まあ、何でもいい。つーか、どうだっていい。
遠回しとはいえ、明確に自由行動の許可は降りたわけだし。
僕が動こうが動かなかろうが、きっと何にも変わらねーとは思うけども。それならそれで、やはり好き勝手やらせてもらうとするかな。
──さて。
そんなこんなでうだうだやってる間に、どうやら
視界を飛ばすスキル「
うーん、ありとあらゆる攻撃がありとあらゆる方向から殺到しているというのに、運動神経がいいのか、それともただ単に運がいいのか。時計頭は未だに致命傷の一つも負っていないようだね。しかしいずれは三人組の持つ刀やらハルバードやら、あるいは鋼鉄製の爪やらによって刈り取られてしまうのだろうということだけは容易に想像できる。
よし、まあ確認はこんなもんでいいだろう──そう考えた僕は、そこでさっさと「
「ファウストちゃん。人違いでめんどくさいことになる前に聞いておきたいのだけれど、僕は三人組とひとりぼっち、どちらに加勢すればいいのかな?」
「そういうことでしたら、ええ。単独で行動している方が私たちと行動を共にすることになるでしょうね。もっと言うのであれば、追いかけ回されている方です」
「ふうん、なるほど。よく分かったよ。つまり僕は見るからに弱っちそうな方の味方をすればいいってわけだ。いやあ、胸が弾むぜ、心が躍るぜ。僕は弱いものいじめが大嫌いなんだ──強いものいじめが大好きなんだ」
そんな風に思ってもいないことを口走った僕は、直後に先ほど視界を飛ばした場所へと瞬間移動した──のだけど、どうやら連中は既に少し離れた場所まで移動してしまったらしい。こんな黒い森の中で一人取り残されてしまうと、少し物悲しい気分になっちまうぜ。
さて。
それじゃあ仲間に入れてもらいに行こうか。
僕は即座にリミッターを解除するスキル「
そうと決まれば話は早い。速攻で森を走り始めた僕と連中との距離は、まるで時間を加速させているかのような勢いで縮まっていく。しかしそれと同時に、ついに三人組が時計頭の命を刈り取るため、武器を振り下ろし始めたところも見えてしまった。
あーあ、こりゃあ完全に僕のせいだね。
余裕ぶってメフィストフェレスに乗るまで無駄に時間を使ってしまったからこそ──その結果として出発が遅れてしまったからこそ、こんな状況に陥っているんだから。
つまりこれは、僕が招いた事態だってことだ。
それなら張本人である僕こそが、責任をとってやんねーとな。
視界の先では、時計頭がへたり込んでしまっている。もう、逃げる気力もないらしい。まあ全身怪我まみれっぽいし、見るからに痛々しいし、そうなるのも仕方のないことか。
右手側からは寸鉄の爪が。
左手側からは鋼鉄の刀が。
正面側からは黒鉄の斧が。
それぞれ時計頭の身体を引き裂かんとしていた。
だから僕は、
さて。それじゃあ都市での初陣、ほんの少しだけ派手にやらせてもらおうか──そう心に決めた次の瞬間。
途轍もない衝撃と。
脈絡もない爆音を伴って。
三人組から時計頭を庇うかのように、僕は地面へと着地した。
当然ながら、僕はただそこを目掛けて着地したわけではない。これ以上ない程に明確な目的を持った上で、こんなにド派手な真似をしているんだぜ。
そう。
そうして守られれば、少なくとも悪い気はしないだろう?
──だから、
──だから、
──だから、
いかに頭抜けた強者だろうと、存在感消滅のスキル「
ここまでおおよそ、僕の想定通りだった。
想定通りだった──から。
「──はっはー」
そいつらの顔を、これ以上なく凝視して。
「ほんときみたちは、元気いいなぁ──」
そして、わざとらしく見渡してから。
「──
僕はキメ顔でそう言った。