囚人No.13 安心院なじみ 作:囚人
「世の中に存在する生命体は勝者と敗者に分けられる──したり顔でそんな決まり文句を述べる奴が多すぎると思うんだ、僕としてはね」
物騒な三人組の攻撃を押し留め、未だ狼狽えてチクタク鳴らしまくっている時計頭くんを守り始めてから実に四分半が経過したところで、僕はそんな風に言葉を放ってみることにした。
まあ早い話がいわゆる挑発ってやつなのだけど、流石に手だれらしい三人組は迂闊に飛び込んでくるような真似はしなかった。
もし仮に飛び込んできてくれたのならば、その時は返す刀で返り討ちにできたのによ──素っ首叩き落としてご覧に入れたっつーのによ。なかなか迂闊な行動を取ってくれないものだから、僕としてももどかしいっつーの。
ちなみにだが。
この世界はどうやら
人を何人殺したところで。
何かが変わるわけでもないし。
「……さて。つまり僕としてはいつでもきみたちをぶちのめしてやることが出来るわけなのだけれど、それでも未だきみたちが五体満足でいられるのは何故だと思う?」
「……まあ、分かりやすいね。視線がちょくちょく私たちの武器に向けられているから」
「その通りだぜ、大正解だよ爪の子。きみたちが僕の扱う
余裕たっぷりにそう返した瞬間、いつの間にか距離を詰めてきていた斧使いの男が僕に獲物を振り下ろす──のと同時に。刀使いの女もまた、時計頭くんに向かって斬撃を放った。
が、しかし。僕は再びそこ両方を呆気なく防いでみせた。どうやら彼らは僕を打倒することが不可能だと判断し、さっさと時計頭くんを始末することに決めたらしい。それこそが不可能であるという点を除けば、おおよそ完璧な作戦だろうね。
……ぶっちゃけた話、既になんとなく光輪の仕組みは分かっている。四分半もの間観察させてもらったのだから、これくらいは流石に分かるってもんだぜ。
何なら今ここで再現してやったっていいんだぜ。
その場合。きみたちの勝ちの目は、万に一つもなくなるだろうけれど。
「チッ……。お師匠さまからはこんな奴がいるだなんて聞いてなかったのに。豹、どうする?」
「どうするもこうするも、この者がまだ油断してくれている内に目的を果たすしかないだろう。狼もそのことは分かっているな?」
「もちろん。でも、どうやって? 獅子の攻撃でもビクともしない奴相手に──目的を果たすのは、至難の業だと思うけど」
ふむ、なるほど。
どうやらこいつらは互いのことを獅子・豹・狼と呼び合っているらしい。それとももしかすると、それこそが本当の名前なのかもしれねーがよ。
ここまで結構こてんぱんにしてやったと思うんだが、しかしそれでも眼前の三人組は、未だに目的の遂行──時計頭くんの抹殺──を諦めていないらしい。
でも。ぶっちゃけ僕はもう、きみらを相手取るのには飽き飽きしちまった。だからここいらですたこらさっさとトンズラこかせてもらおうかな。
ちょうどタイミングよく、あいつらもやってきたみたいだしねぇ。つまるところが、僕の感覚は確かに、メフィストフェレスの接近を察知していた。そしてそれは、三人組も同じことだった。
「……地響きみたいな音がしてるけど、これ、何の音? まさかコイツがまた何かとんでもないことを──」
「いや、どうやらそうではなさそうだ。先程あの者のせいで起きた脈絡のない地割れとも、また別関係だろう」
「……まさかこの音、
「何にせよ。道を間違えたことの代償は、高くつくだろうね。あの世で『こんなバス乗るんじゃなかった』って後悔してもら──」
両腕にガントレットを装着した爪使いの女こと獅子ちゃんは、しかしその言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。わざわざ言わなくたって分かることだろうが、しかしあえてその理由を述べるのならば。
獅子ちゃんはメフィストフェレスに猛スピードで激突され、勢いそのままにぶっ飛ばされたからだ。
都市ともなると(厳密にはこの黒い森は外郭と呼ばれるらしいけど)、轢き逃げの迫力も段違いだね。斧使いの豹くんと刀使いの狼ちゃんも流石に驚きを隠せないようだ。
メフィストフェレス、果たして何馬力あるんだろうか。今度ファウストちゃんに聞いてみるとしよう。
「……やあ、遅かったじゃないか、ファウストちゃん。道にでも迷っていたのかい?」
「いいえ。道に迷ったのはファウストではなく──こちらの方でしょうね。未だ私の目に狂いがないのであれば、あなたは栄光の港に辿り着くでしょう」
僕の言葉を半ば無視したファウストちゃんが、時計頭くんに話しかけると。彼は何やらカチカチと音を立てて喚き始めた。
側から聞いている分には時計の針が進んだり戻ったりする音にしか聞こえないのだが……、どうやらファウストちゃんはその辺り完璧に把握しているらしく、淡々と会話を進めることができているようだった。
時計頭くんの言語には何らかの規則性があり、ファウストちゃんはそれを既に解読している──
その後も、僕のことなど構わずに。二人の会話は素早く、それでいてつつがなく進んでいた。
「暗い森で道に迷ったのですね」
時計頭くんは「な……なんて?」とでも言いたげにチクタクと音を立てた。
「しかしあなたは怖くありませんでした。何故でしょうか?」
時計頭くんは「それは──顔を上げ……、星を探せばいいから」と言っているかのようにチクタクと音を立てた。
「そうです。今からその形相を繰り返しながら、私が言うことを心の中で叫んでください。
時計頭くんは「お前の……、星に従え」と、
──すると、その瞬間。
……いや、厳密にはそうではない。
恐らくは、刺されて繋がれたのは僕だけではない。きっと、先程バスに乗っていたリンバス・カンパニーの囚人全員が、この鎖に繋がれているはずだし。
もっと言ってしまえば。時計頭くんの方だって、むしろ僕たちが鎖で
一方的ではない、相互的な
言ってしまえば、それは
そして、それと同時に。僕の身体に──あるいは心に──
……ふむ、僕はネタバレを好まない
まあ、そんなことは後から僕の持つ一京のスキルでどうにかしてしまえば、それでおしまいだろう──そんなことを考えながら例の三人組の方へと振り返った、次の瞬間。
僕の眼前には、刀をこちらに突き刺そうとしてきている狼ちゃんの姿があった。
おいおい、確かに僕は油断していたぜ? まさかこんなタイミングで攻撃を仕掛けようとする無粋な奴がいるだなんて、想像すらしていなかったからさ。
でもやはり、その行動は短慮であったと言わざるを得ないね。僕はこれまた余裕たっぷりに右手を突き出し、手のひらで刀を受け止め。
そして、その刀がいとも容易く僕の手のひらを刺し穿ち。
「は?」
勢いそのままに、僕の喉元目掛けて突っ込んできて。
「っ、ぐ」
防ごうとした左手も切り裂き、ついには喉すら穿ち抜いて。
「──っか、は」
そのまま力任せに刀をぶん回されたせいで、僕の首は丸ごと引っこ抜かれたみたいな状況に陥り。
「──……」
先ほどまで余裕たっぷりだった人外はどこへやら。
あまりにも呆気なく、僕は何度目かの絶命を迎えた。
……いやあ、情けないね。
つーか、普通に不甲斐ないし。
そして何より。
恥ずかしい。