現在連載しているもの以上に恋愛要素が強いです
こちらの作品はpixivにあるものを手直ししております
まだまだ夜の寒さが残る冬の朝。冬暁とは、正にこのことを言うのだろうか。
「こんな時だからこそ、こたつが良いんだよね〜……♪」
間延びした声を漏らしながら、あたしは机に顔を伏せる。
むむ……ちょっとヒンヤリしてる……。
予想外の冷たさにピンと伸びた尻尾と耳も、すぐにペタリと倒れていく。
机の上の冷たさとは裏腹に、コタツの中はポカポカだ。
足先からジンワリと、確かな温かさが全身に広がっていく。
「ふぅ……ここから出たくないなぁ……」
お助けキタちゃんにあるまじき発言。だけど、今くらいは許して欲しい。
あたしの朝は早い。五時前には起きて、朝ご飯を作ったりと結構忙しいのだ。
ようやくすべての準備が終わって、今は至福のくつろぎタイム。……お助けキタちゃんにだって、お休みは必要なのだから。
「ふわぁ……おはよう、キタサン……」
なんて思っていたけれど、それももう終わりみたい。
眠気を誘うような、ふわふわした声。だけど、その声を聞いただけで、スイッチが入ったようにぱっちりと目が冴えてしまう。
机に伏せていた顔をゆっくりと上げ、お寝坊さんの顔を拝見してみる。
「……ふふ、おはようございます、トレーナーさん」
ピョンと跳ねた髪に、まだ重たそうな瞼。
現役時代は、あんなに頼もしいところしか見ていなかったのにな。一緒に暮らすようになって初めて、彼がこんなにも朝に弱いのだと知った。
こういう隙だらけで抜けている部分を見られるのも、一緒になった特権なのかな。
……なんて、ちょっと恥ずかしいことを思ってみたり。
「……ふふ」
「?」
小さく笑う彼の声に、甘い思考からハッと現実へと引き戻される。
あれ、なんで笑ってるのかな? あたし何か変なこと言ったっけ? ……はっ!? もしかして、今の恥ずかしい頭の中を覗かれたとか!?!
「いや、久しぶりに聞いたなって思ってさ」
「な、何のことですか!?」
バクバクと鳴り響く心臓の音をごまかすように、あたしは少しだけ視線を逸らす。
そんな必死な姿がおかしかったのだろう。トレーナーさんは寝ぼけ眼のまま、優しく変わらない笑みでこちらを見つめていた。
「トレーナーさん」
「えっ?」
「君が俺をそう呼ぶの、久しぶりだなって」
「あ、ああ……そっちですかぁ……」
よ、良かったぁ……。頭の中を覗き込まれたわけじゃなかったんだ……。
ホッと胸を撫で下ろし……そこでピタッと動きが止まる。
――あれ? それはそれで、なんか恥ずかしいやつではないだろうか?
「……っ」
耳から尻尾の先までブワッと熱くなる。
いや、別におかしいことは言ってないよ? 元トレーナーさんなんだから!
……でも、もう『担当』じゃないのに、未だにそう呼んじゃうなんて……なんだか子供っぽいというか……うぅ……。
「キタサン?」
くっ……人の気も知らないで、そんな眠たそうな可愛い目で見ないで下さい……!
「そ、そんなところにいたら寒いんじゃないですか! 早くこっちに来て温まりましょう!」
理不尽な八つ当たりは心の中にしまって、勢い任せに彼をこっちへ誘う。
パタパタと揺れる尻尾までは隠しきれなかったけれど、今はそんなことに構っていられない。
「……ん? ああ、分かった……」
幸いにもトレーナーさんは寝ぼけたままで、素直にこっちの言葉に乗ってくれた。
よし、これなら誤魔化せる! 彼のおねむ状態に感謝しかないね!
心の中でガッツポーズをしながら待っていると、彼がトボトボと歩いてくる。まだまだ重たそうな瞼が、妙に可愛らしく思えた。
そして、彼はすぐにコタツへと辿り着く。
「ほら、ここに座ってください!」
「……これでいいのか?」
「はい! ……よしっ♪」
「?」
何も疑うことなく、彼はあたしの隣に腰を下ろしてくれた。
少し大きめのコタツとはいえ、ひとつのスペースにふたりで入れば、当然かなり窮屈になってしまう。
だけど。
「……」
狭い分、彼に寄りかかることが出来る。
あたしをすっぽりと包み込んでくれる、大きくて安心できる体。
「えへへ♪」
思わず笑みがこぼれる。
昔はこうなるなんて、思ってもみなかったな。ただの担当トレーナーとウマ娘で、それ以上の関係なんて、望んでも叶わないと思っていたのにな。
――それでも、あたしと彼は一緒になれた。
「……幸せだなぁ」
彼の肩に頭を預けながら、ぽつりと呟く。
窓から差し込む冬の柔らかな朝日が、ふたりを優しく包み込んでいった。
「……ん? キタサン?」
光に包まれるのと同時に、耳に届く声の温度が変わった。
さっきまでのとろけた響きは消え、いつもあたしを支えてくれる、あの頼もしい声に。
……うん、これで甘えタイムはおしまい。今度こそいつものあたしに戻らなきゃ。
少しの寂しさと、それ以上の嬉しさを胸に、預けていた頭を離して彼の顔を覗き込む。
ふふ、目はもうパッチリだ。これでいつもの、あたしの大好きな貴方に戻ったね。
トクトクと胸が高鳴るのを感じながら、あたしはその真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
「……おはようございます、旦那さん」
彼は一瞬キョトンとした顔をしたけれど。
「ああ、おはようキタサン」
いつも通り、大好きな笑みで挨拶を返してくれた。
変わりのない、だけど何よりも大切な1日が始まる。
しばらくはこちらのシリーズを毎日投稿していきます