ウマ娘キタサンブラック短編集 大人編   作:大典74

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pixivにて投稿しているシリーズものを投稿します
現在連載しているもの以上に恋愛要素が強いです
こちらの作品はpixivにあるものを手直ししております


いつも通りの朝だけど

 まだまだ夜の寒さが残る冬の朝。冬暁とは、正にこのことを言うのだろうか。

 

「こんな時だからこそ、こたつが良いんだよね〜……♪」

 

 間延びした声を漏らしながら、あたしは机に顔を伏せる。

 むむ……ちょっとヒンヤリしてる……。

 予想外の冷たさにピンと伸びた尻尾と耳も、すぐにペタリと倒れていく。

 机の上の冷たさとは裏腹に、コタツの中はポカポカだ。

 足先からジンワリと、確かな温かさが全身に広がっていく。

 

「ふぅ……ここから出たくないなぁ……」

 

 お助けキタちゃんにあるまじき発言。だけど、今くらいは許して欲しい。

 あたしの朝は早い。五時前には起きて、朝ご飯を作ったりと結構忙しいのだ。

 ようやくすべての準備が終わって、今は至福のくつろぎタイム。……お助けキタちゃんにだって、お休みは必要なのだから。

 

「ふわぁ……おはよう、キタサン……」

 

 なんて思っていたけれど、それももう終わりみたい。

 眠気を誘うような、ふわふわした声。だけど、その声を聞いただけで、スイッチが入ったようにぱっちりと目が冴えてしまう。

 机に伏せていた顔をゆっくりと上げ、お寝坊さんの顔を拝見してみる。

 

「……ふふ、おはようございます、トレーナーさん」

 

 ピョンと跳ねた髪に、まだ重たそうな瞼。

 現役時代は、あんなに頼もしいところしか見ていなかったのにな。一緒に暮らすようになって初めて、彼がこんなにも朝に弱いのだと知った。

 こういう隙だらけで抜けている部分を見られるのも、一緒になった特権なのかな。

 ……なんて、ちょっと恥ずかしいことを思ってみたり。

 

「……ふふ」

「?」

 

 小さく笑う彼の声に、甘い思考からハッと現実へと引き戻される。

 あれ、なんで笑ってるのかな? あたし何か変なこと言ったっけ? ……はっ!? もしかして、今の恥ずかしい頭の中を覗かれたとか!?!

 

「いや、久しぶりに聞いたなって思ってさ」

「な、何のことですか!?」

 

 バクバクと鳴り響く心臓の音をごまかすように、あたしは少しだけ視線を逸らす。

 そんな必死な姿がおかしかったのだろう。トレーナーさんは寝ぼけ眼のまま、優しく変わらない笑みでこちらを見つめていた。

 

「トレーナーさん」

「えっ?」

「君が俺をそう呼ぶの、久しぶりだなって」

「あ、ああ……そっちですかぁ……」

 

 よ、良かったぁ……。頭の中を覗き込まれたわけじゃなかったんだ……。

 ホッと胸を撫で下ろし……そこでピタッと動きが止まる。

――あれ? それはそれで、なんか恥ずかしいやつではないだろうか?

 

「……っ」

 

 耳から尻尾の先までブワッと熱くなる。

 いや、別におかしいことは言ってないよ? 元トレーナーさんなんだから!

 ……でも、もう『担当』じゃないのに、未だにそう呼んじゃうなんて……なんだか子供っぽいというか……うぅ……。

 

「キタサン?」

 

 くっ……人の気も知らないで、そんな眠たそうな可愛い目で見ないで下さい……!

 

「そ、そんなところにいたら寒いんじゃないですか! 早くこっちに来て温まりましょう!」

 

 理不尽な八つ当たりは心の中にしまって、勢い任せに彼をこっちへ誘う。

 パタパタと揺れる尻尾までは隠しきれなかったけれど、今はそんなことに構っていられない。

 

「……ん? ああ、分かった……」

 

 幸いにもトレーナーさんは寝ぼけたままで、素直にこっちの言葉に乗ってくれた。

 よし、これなら誤魔化せる! 彼のおねむ状態に感謝しかないね!

 心の中でガッツポーズをしながら待っていると、彼がトボトボと歩いてくる。まだまだ重たそうな瞼が、妙に可愛らしく思えた。

 そして、彼はすぐにコタツへと辿り着く。

 

「ほら、ここに座ってください!」

「……これでいいのか?」

「はい! ……よしっ♪」

「?」

 

 何も疑うことなく、彼はあたしの隣に腰を下ろしてくれた。

少し大きめのコタツとはいえ、ひとつのスペースにふたりで入れば、当然かなり窮屈になってしまう。

 

 だけど。

 

「……」

 

 狭い分、彼に寄りかかることが出来る。

 あたしをすっぽりと包み込んでくれる、大きくて安心できる体。

 

「えへへ♪」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 昔はこうなるなんて、思ってもみなかったな。ただの担当トレーナーとウマ娘で、それ以上の関係なんて、望んでも叶わないと思っていたのにな。

――それでも、あたしと彼は一緒になれた。

 

「……幸せだなぁ」

 

 彼の肩に頭を預けながら、ぽつりと呟く。

窓から差し込む冬の柔らかな朝日が、ふたりを優しく包み込んでいった。

 

「……ん? キタサン?」

 

 光に包まれるのと同時に、耳に届く声の温度が変わった。

 さっきまでのとろけた響きは消え、いつもあたしを支えてくれる、あの頼もしい声に。

 ……うん、これで甘えタイムはおしまい。今度こそいつものあたしに戻らなきゃ。

 少しの寂しさと、それ以上の嬉しさを胸に、預けていた頭を離して彼の顔を覗き込む。

 ふふ、目はもうパッチリだ。これでいつもの、あたしの大好きな貴方に戻ったね。

 トクトクと胸が高鳴るのを感じながら、あたしはその真っ直ぐな瞳を見つめ返した。

 

「……おはようございます、旦那さん」

 

  彼は一瞬キョトンとした顔をしたけれど。

 

「ああ、おはようキタサン」

 

 いつも通り、大好きな笑みで挨拶を返してくれた。

 変わりのない、だけど何よりも大切な1日が始まる。




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