信用のおける愉悦の使令がいるってマジですか? 作:どっちかと言うとメリバ好き
猫って笑うんですかね?
笑っているところとか見たことないんですけど。
……今回の話はあんまし自信ないです。てか一話目でありったけを出し切りました。
『……は?消えた?』
それは突然のことであった。
人間とは比べようもない美しい容姿。神様という分類の中ではかなり上位に位置する圧倒的な力。
誰もが羨み、誰もがその笑みを欲し、誰もが彼女のために働いた。
そんな彼女に対して、不満を漏らす者などいるわけもなく……まぁいたら彼女の目に入る前に消滅させられてしまうだけなのだが。
【不滅の勇者、ルナリス】
それは、私の勇者の名前だ。
視線を既に枯れ果てた地球へと向ける。
そこに、生命の反応はなかった。
逃げ出した?何故?何故、私の元から離れるというの?
私の役に立てるというのに?何故?分からない。
理解が、追いつかない。
『……力を、与えすぎた。だから、こうやって調子にのる』
右の手の人差し指には、赤い一本の糸が巻き付いていた。
それは執念深く、念入りに食い込み、絶対に離さないという意思さえ感じ取れた。
赤い糸から力が流れ込んでくる。
『…あぁん、ふふ、なんて甘美なの…!』
取れた力は【不死】のみ。その他の力は保護されているようで、奪うのは厳しかった。
『ねぇ、ルナリス。私の勇者。貴方に役目があるのです。それだというのに勝手に抜け出して……逃がしませんよ』
女神は怪しく微笑み、口を開く。
『だって、あなたは──私の
『不滅の勇者。あなたに新しく名を授けましょう。その名は、ルナリス。忘れることのないように』
……懐かしい。
これは、女神様と話していた時の記憶か。
俺には有り余るほどの力がある。
だが、戦闘経験など微塵もないし、ほぼ独学で身につけた付け焼き刃の技術しかこの身体にはない。
イマジナリー師匠が言うには、剣は振るうものではなく薙ぎ払うモノ。
どれだけの技術を相手が携えていようと、俺の力がありゃ、無に帰すとかなんとか。
そんな人を終末兵器みたいに言わないでほしい。
〝にゃーん〟
それにしても…、ふむ。どうやら、この世界……いや、この銀河は、思っていたよりも退屈しなさそうだ。
まぁ、元いた世界が退屈すぎたのだから、どこに行っても大体マシになってしまう。
「さて、情報収集も終わった…と言っても、おおまかなことしか記憶できていないが。まぁよしとしとこう」
てか、あの仮面野郎の名前を聞いておけばよかった。そうしたら、探すのも簡単になるというのに。
風が吹いた。
葉が舞い散り、それは予定調和のように、まるで最初からそこにあったかのように俺の頭へと落ち……かけたが、それは可愛らしい黒い猫によって叩き落とされた。
「にゃー」
こいつ…!
さらっと俺の頭を叩きやがった。
しかも結構な威力だったぞ。
痛かった…!
「にゃー、じゃないよ、全く」
「──君は、もしこの世界が終焉に近づいていると知った時、どんな行動を起こすのかな?」
「…ん?……喋った……猫?しかもいきなり物騒」
黒猫とは、昔から不幸の兆候として知られている。
魔女の使い魔としての話も有名だし、実際、黒猫を飼っていただけで魔女だと決めつけられ燃やされた者もいたらしい。
その時代に居合わせた者からすれば、魔女であろうとなかろうと、黒猫を飼っていた方が悪いという理論だ。
なんとも残虐で非道な行い…、例え女性でなくても、男性だとしても殺されてしまうらしい。
ほんと、人間って、狂ってるね……おっと、話がズレちゃったね。
「この世界って喋る猫がいるんだ。他にどんな種類があるんだ?」
「生憎だけど、ぼく以外に会話のできる猫は見かけたことがないや。期待に添えなくてごめんね」
「いいよ。質問で返したのはこっちだしね」
「じゃあ早速、さっきの質問の答えを教えてくれないかな?」
なんとなくだけど、この問答に意味なんてない気がする。
だからといって答えない理由にはならないけど、ここでどんな答えを出したとしても、この猫はきっと、否定しない。
そんな気がしてならない。
「せっかく来たんだ。滅ぼされるなんてたまったもんじゃないよ。だから──その、終焉ってやつ?ぶっ飛ばすかな」
もう、経験済みなんだよ。
あんなつまらない世界で、もっかい過ごすのはかなり無理。
「……そっか。君について知れてよかったよ。遠くない未来に、また会うことになるだろう。だから、その時までお別れだね、ルナリス」
「……ん?」
急ぎ黒猫へと目を向けた時には、もう、黒猫はいなかった。
風とともに、最初からいなかったかのように消えてなくなってしまった。
不思議な存在だ。
「黒猫……名前、なんだったんだろ。それに、ルナリス、か」
名前を知られていた。
別に困ることではないが、警戒はしておいた方がいいか。
それにしても……随分と、好意的な猫だったな。
困る。そう、困ってしまう。
君はいつだって、ボク達のピンチに駆けつけてくる。
その姿はまるで……そう、勇者のような。
……本人に言ったら皮肉だと思われてしまうけれど、ボクはそう思ってるんだよ。
「……一番最初に、君を見つけられたのは幸運だね」
ルナリスがいない世界線だってもちろんあった。
そんな世界でも問題なく輪廻は、運命は廻る。
だが、彼が居るのと居ないのとでは、何もかもが違うのだ。
「……少なくとも、最悪は回避できたかな」
彼がいる限り、この世界が、銀河が、滅ぶことはない。彼は自分の生命を犠牲にしてでもこの世界を守ろうとする。
まぁ、彼の過去を知るボクからしたら少しは納得のできる行動だ。
だからといってそこまでする必要があるのかって思うけどね。
「愉悦の運命を歩む勇者よ。君には、数々の困難が待ち受けていることだろう………遠くない未来、君は『不滅』ではなくなる……君が、どんな選択を取るのか、楽しみにしているよ」
黒猫はおどけたように笑う。
「……おっと、そろそろかな?」
黒猫はひとこと、『にゃん』とだけ言い残して、その場を去っていった。
「──食い逃げだぁ!!捕まえろ!!」
なにもそんなに怒らなくたって。
宝払いするから…許してよ…!
いやまぁ、冗談抜きにして、なんかこの世界の人たちってなんだか強くない?
店のただの店員のスピードが俺と同じってなにそれ。
もしかして店員のふりをしている暗殺者とかなんかだったりする?
……てか、薄々感じてたけど、いやぁ、でもそうだよなぁ。それしか考えられないし。
そもそもとして、おかしいんだよ。
『にゃー』
〝こいつ…!
さらっと俺の頭を叩きやがった。
しかも結構な威力だったぞ。
痛かった…!〟
『にゃー、じゃないよ、全く』
会話のできる特殊な猫とはいえ、俺がただの猫パンチで痛がるわけがない。
これは考察でしかない。
だがおそらく、間違ってはいない。
俺がいた地球と、この世界では、多分だけど……価値が違う。存在価値が、違うのだ。
地球で一番強くなったとしても、この世界では常人くらいの力量と大差がない、ということだ。
逆に今もなお俺のことを飽きもせず追いかけている店員を地球に送り込めたら、地球で一番強い生命体として君臨できるであろう。
もし、人類がいたらって話だけど。
いやー、でもそれが本当なら、大分ショックだ。
俺が魔王も真っ青になるくらい上げてきたレベルが、この世界ではまだ常人の域をでないらしい。
「……つまり、俺は芸の多い弱者ってわけか」
「えぇ、弱者なのは間違ってないわね」
「……ん、?」
誰?とか、余計なお世話だ!とか、諸々のセリフを吐く暇もなく、それは迫ってきていた。
振り返れば、先ほどの喧騒は消え失せ、追いかけてきていた店員は地に伏していた。
「なぁ、あれ、お前がやっ──たぁ!?」
刀が、迫っていたのだ。
「──あぁ…あの人ね。私のことを蜘蛛女だなんて呼ぶのだから、しょうがないでしょう?私、その呼ばれ方は嫌いなの」
蜘蛛女。
あぁ、確かになと、じっとりとした汗が背中を伝う中、妙な納得感が存在していた。
逃げ場所をなくして、段々と追い込み、甚振るように殺す。
その戦闘スタイルはまさしく、蜘蛛のようだった。
間違いなくつよい。
俺じゃ受け流すことが精一杯なくらいには。
火花が視界をパチパチと弾く。
「ふんっ…ぬ!」
それにしても……手応えがない。
弱点が、まるで見えないのだ。
肌を斬りつけようと、拳を叩き込もうと、相手は眉一つ動かさない。
まるで痛覚をどこかに置き忘れてきたかのように、冷徹な笑みを張り付かせている。
「……少し、過激になってしまったわね?ちょっと高いのよ、これ…!」
衣服が裂けたことへの不満か、彼女は小さく舌を打った。
押し合いになれば、力で負けることはない。
筋力的な勝負なら、流石にこちらが勝てている。
だが、問題はそこじゃない。
真に警戒すべきなのは……彼女の指先が、そのしなやかな腰に差された鉄塊──サブマシンガンへと滑った。
「これなら、どう?」
銃口が跳ね上がる。
「BANG!」
刹那、耳条を狂わせる轟音とともに、鉄の嵐が吹き荒れた。
弾丸が四散し、銃弾が乱舞する。
回避が間に合わない。
頬を銃弾が掠り、肉を、そして骨を直接殴りつけるような凄まじい衝撃が、俺の身体を容赦なく弾き飛ばした。
「……は、?」
……なんだ、これ。
規格外にも程がある。
それほど強いのなら、はじめからそれを使って、圧倒すれば……
その時、確かに俺の目には映っていた。
戦闘中ですら、傷を負う時ですら、表情の変わらなかった彼女の顔が、少し歪んでいたのを。
……ふざけるな。
無理なもんは無理なのだ。
こんなバケモン相手にここまで善戦できたのが凄い。
そう自分を鼓舞し、逃げる準備を整える。
流石にこちらにも奥の手というものがある。
だが、ここで使うようなものではないし、彼女相手に使えば後戻りできない嫌な予感がプンプンするのだ。
「……あ、ねぇ……」
年甲斐もなく、持っているモノを全て投げ捨て走り去る。
「やってられるか!世界広すぎ!俺弱すぎ!アイツ強すぎ!!」
そう、叫んだ瞬間。
貫くような痛みの感じる音が耳へと入った。
〝BANG!!!〟
「…ははは……まじか」
「『止まって』。人の話はちゃんと聞かないと駄目よ?」
身体が動かない…?
逃げられない。
唯一の退路でさえ、失った。
「く、そ…!」
どうする?
どうすればいい?
このまま死ぬ?そんなの嫌だ。
せっかく、ここまで来たのだ。
女神の頼みもブッチして、あの仮面野郎を追いかけてきたのだ。
だから、だから…!
……時間を、稼げ。
「……似て、る」
「…私と、あなたが?」
「い、や?昔の、俺と、今、のあなたが、だ」
似ている。
感情がない。
孤独なところ。
こうして意識すると、妙な親近感が湧く。
……が、こんな殺人鬼にそんなものを感じている場合ではない。
なんとか意識はそらせたようだが、こっからどうするか。
直後、それは聞こえた。
鈴の鳴るような、芯の通った凛とした……鳴き声。
〝にゃん〟
「……は?なん、で、こ、こに、?」
「──やぁ、ルナリス。早い再会だったね?」
俺の見間違いでなければ、黒猫は、笑っていた。
もう、ここで終わってもいい…!