信用のおける愉悦の使令がいるってマジですか? 作:どっちかと言うとメリバ好き
……わぁ、わ、わぁ…!
な、なんか、みんなすごい評価くれるね…?
ありがとうございます…?
もうちょっとだけ頑張ろう。
『……ルナ?寝ぼけてるんですか?』
それは、遠い記憶。
生命体が俺以外存在していない地球に、会話のすることができた唯一の機体。
『……いやー、感慨深いなって。こうして、こんな場所でも、誰かと会話ができるなんて思ったらね』
『誰か、ですか?私はアンドロイド……機械ですよ?いよいよ頭までおかしくなってしまいましたか…』
こちらを楽しそうに煽ってくる点だけは、欠点と言えたが、それ以外は完璧であった……と思う。
『これは毒キノコです。加熱しても意味ないですよー?』
『……猪ですか。もしかしなくても……こちらに突っ込んで来てますね……はぁ、対処を開始します』
『……はい。完成しましたよ。我ながら自信作、というやつです』
何でもできて、人間味溢れる……最高のパートナーであった。
まぁ、機体はボロボロで、本来は麗しいはずの人間型の顔の左半分が消えてたけど。
『クレオパトラ。そう呼んでください』
『じゃあ、クレオとパトラ、どっちがいい?』
懐かしい。
まだ地球にやってきてだいたい20年頃の思い出だ。
あの頃は、よかった。楽しかったんだ。
「──ルナリスっ!!」
……あぁ、そうだったな。
「悪い、少し飛んでた……よっと!」
音を置き去りにした銃弾が、視界を無数に白く染める。
避けた………はずだった。
「…はっ、!?」
だが、背後の壁を叩いたはずの銃弾が、火花を散らして反転する。
なんだ、これ…跳ね返って……
「跳弾だよ、ルナリス。当たればひとたまりもない」
「……えぇ、殺す気満々じゃん」
目の前の蜘蛛女はあいも変わらず不敵な笑みを浮かべ続け……てかさ。
「なんで、俺攻撃されてんの…??」
「ボクは知らないよ。そーゆー運命だったんじゃないかな?」
「……お前が言うと洒落にならない気がする」
蜘蛛女が銃口を下ろし、再び口を開く。
…もしかして、さっきのやつか?
「聞いて、答えて……そこの黒猫ちゃん。君、何かした?」
……身構えていたが、効いていない。
対象はどうやら、黒猫らしいが、そちらも効いている様子はない。
俺にこれをどうこうできる力はないから……黒猫ぉ!
「……はぁ、仕切りなおしましょう」
蜘蛛女の指先から、シュルリと不穏な音を立てて糸が伸びる。
それは凄まじい速さでこちらへと迫り……避けられ、ないっ…!
「これじゃあ本当に蜘蛛みた──いっ!?」
「なんでそう人の地雷を踏みたがるのかな…?」
油断したわけじゃない。
恐らく……さっきの銃弾よりも、速い。
かすった瞬間に身体が跳ね上がった。
骨の奥まで突き刺さる、凄まじい紫電。
……雷を乗せてやがったのか…?
糸は身体にピンと張り、身動きが完全に取れなくなる。
隣を見ると…、どうやら黒猫も捕まったらしい。
「やっと、捕まえたわ」
わぉ、色気溢れる笑み。
状況が状況じゃなかったら見惚れていたレベルだ。
「……話を聞いてもらえそうな雰囲気…?」
「逆よ、逆。私が、君に質問をするの」
…質問?
いやでもどうせ、質問が終わったら殺されそう。
黒猫を巻き込んでしまったのは後味が悪いし……どうにかして逃げたいん、だけど……まぁ厳しいか。
「君は……なんで、そうまでして生きたいと思えるの?」
「……は?」
生きたいと思える…?
いや、誰だって死にたくはないだろ。
俺も別に生きていたいってわけじゃない。
ただ、死にたくないだけだ。
「……生きることと死ぬことが、イコールになるとは限らないでしょ。生きていたくないけど死にたくない人がいるように、いろんな、思いがあるんだよ」
「…ふぅん。そんなものなのね」
「……あんたには、大切な人とかいないのか?」
「いないわ、そんな人」
……あぁ、そっか。
そーゆーことか。
やっと、わかった。この違和感の正体が。
「感情がないんだな?……いや、正確に言えば、恐怖がない。だから、相打ち上等で仕掛けてくる。自分の命に、価値を見出だせていないから」
苦しいよな。
いや、もう既に、その感情もないのか。
傷をつけられ血が流れる。
別にМってことはないのだろう。まぁ第三者からしてみればМか狂人かしか受け取りようがないのは事実なのだが。
自分から流れた血を見て、迸る少しの痛みを感じて、それでようやく、生を実感できる。
「……」
「ずっと、不思議だったんだ。戦闘中も、一歩間違えれば致命傷を受けるような、そんな隙が多かった。これは、推測だし、間違ってるのかもしれないけど………あんたは、『自分が生きてる』って、そう感じたいんじゃないのか?」
わかるよ。
理解も、共感も、納得も、全部できる。
俺だって通った道なんだから。
気づけば、糸は離れていた。
身体はもう動きそうにないけれど、さっきよりはマシな状況に落ち着いたんじゃないかな?
「──そろそろ、話はまとまったかな?」
静寂を切り裂くように響いたのは、黒猫の言葉であった。
いつの間にかちょこん、と俺の頭の上を陣取って座っていた。
「黒猫?」
黒猫は、長くてしなやかな尻尾をゆっくりと一振りすると、ふっと目を細めて、蜘蛛女を……いや、俺も含めて、見下ろすようにこう告げた。
「ボクが君たちの願いを叶えるのを、手伝うよ。だから、君たちもボクに手を貸してくれないかな?」
……まぁ正直猫の手でも借りたいとは思っていたけれど、そこまで行き詰まっているわけではないし……今はこの状況をなんとかしたいし。
でもなぁ、この黒猫が俺を助けてくれたのも事実だ。
だが、だが、なぁ……これから俺が行く道は果てしなく、険しい道だ。
それに命の恩人……恩猫を連れて行くわけにはいかない。
「願いを叶える、ねぇ。不思議な黒猫ちゃん、君は私の願いが何なのか分かるの?」
どうやら、あまり肯定的ではないのは俺だけのようで、彼女は面白がるように、ふっと口元を歪めて黒猫に一歩近づく。
「うん?……さっき、自分で見つけられたんじゃないかな?ほら、『自分は生きている』って実感したいんでしょ?」
何を当たり前のことを?みたいな感覚で放たれた言葉。
彼女は、きょとんとした表情を形づくりながらも、その数秒後には笑みを堪えきれずにいた。
「……ふふっ、あはははっ…!」
口元を押さえ、空を仰ぎ、彼女は笑う。
その笑い声は、どこか不格好なものであり、同時に、心の底から笑う少女のようでもあった。
ひとしきり笑い、涙の浮かんだ目を黒猫へと向ける。
「そうね、そのとおりね。私は変化を欲してる。こんなつまらない日常じゃなくて、刺激に満ちた、生きてるって実感できる、毎日を欲してる」
「じゃあ、決まりだね」
「えぇ、そうね。契約成立、ってところかしら」
視線だけで互いの意思を通じ合わせ、完璧なコンビネーションでくすっと笑う一人と一匹。
完全に二人の世界が出来上がっている。
……なんか、置いてきぼりにされてるんだけど?
完全に蚊帳の外に置かれた俺は、ただただ時間が過ぎるのを待つだけであった。
「ルナリス。君はどうかな?」
「んー?やめとくよ。確かに俺にはやんなきゃ行けないことがあるし、それにあんたらの力を借りられたら目標に近づく第一歩になる……だけど、」
「……だけど?」
「巻き込めない、ってのが強いな」
仮面野郎との勝負事。
それには、明確な敵が存在している。
俺が、仮面を奪うべき敵。
そいつがどれだけ強いのか、どんな能力を備えているのか、本当は複数なのではないか……まぁ、様々な憶測が飛び交うが、一つだけ言えることがあるとするのなら………
「仲間がいるから負けることだってある。それにはもう、懲り懲りなんでね」
我ながら酷い言い方だ。
だが、断らないといけない。
ここで許してしまえば、痛い目を見るのは俺だけでは済まなくなる。
『──ルナ。愛していますよ。ずっと、ずっと。あなただけを想っていました。だから、泣かないで…』
「……っ」
もし、仲間が人質に取られたら?
もし、女神様がこの世界に、俺に干渉できたら?
だめだ。
仲間がいる方が、負ける確率が高くなる。
「……そっか。じゃあ、今回はここで引こうかな」
黒猫が背を向ける。
「でも、諦めないよ」
だが、会話は終わらない。
「いつか絶対に、君を振り向かせてみせるから」
俺はその決意に、手を振って応える。
「あら、会話はおしまい?あの子は来ないの?」
「うん。ルナリスには、やることがあるからね。だから、またあとで、かな」
「……そう。ねぇ、エリオ。君、あの子に自分の名前を伝えなくてもよかったの?」
すると黒猫は一瞬、ハッ!とした表情を見せ、後ろに振り返る。
そこにはもう、ルナリスはいなかった。
「……まぁ、次に会った時に伝えればいいさ。でも、そうだね……再会は、早くなりそうだ」
「……あれ、そういえば……俺、黒猫の名前聞いてないや。まぁ、あんな癖の強い猫、そうそういないし、いつかまた、会えたら……うん。次合う時が楽しみになってきた」
しょーせつってむっずいね!
ぼくちんにはもうむりだよ。
ここまでみてくれてありがとね!
続きません。