ほどよい無双を楽しみたいTS転生者は、今日も昼行灯に生きる 作:てきてき
異世界に転生したなら、無双したいと思うのは自然なことだ。
しかし同時に、面倒事は好ましくないと思うのも自然なことである。
特にオタクは人前で目立ってチヤホヤされるより、自分のことを深く理解してくれる存在に評価されることを好む生き物である。
幸いにも異世界に転生した私には力があった。
やろうと思えば、いくらでも成り上がることができるくらい強大な力が。
しかし、実際にそれを望むかと言えば、否。
とはいえ、力を隠して不自由な生活を送りたいわけではない。
こういうのは、ほどよいバランス感覚というのが大事なのだ。
結果私は、お金がない時に頑張ってお金を稼ぎ、ほかは適当に暮らすなんとも自堕落な生活を送っていた。
ついたあだ名は昼行灯。
実力は確かなのに、そこらの飲んだくれチンピラ冒険者より適当すぎる。
そんな評価を周囲から受けていた。
とはいえそれは、決して悪い評価というわけではない。
むしろ私という人間を正しく理解しているからこそ、そういう評価ができるのだろう。
まぁ、悪い気分はしなかった。
ただ、どういうわけかそんな私に、やたらと惹かれる連中がいる。
こんな適当な女なんだか男なんだかわからない転生者に傾倒しても、ろくなことにならないのだけど。
まぁ、ほどよく憧れる分にはいいのではないだろうか。
なんて、思ったりもするのであった。
■
「――ザケンじゃねぇぞ、ゴラァ!」
人が気持ちよく昼寝をしていたら、そんな怒声が聞こえてきた。
思わずびくっとふるえて目を覚まし、頭に置いていた本がドサっと地面に落ちる。
別にそんな高級なものではないのだけれど、眠りを邪魔された上に本が傷ついて、いい気分は当然しない。
目をこすりながらちらりと視線をむけると、そこには野蛮そうな冒険者と、今にも泣き出しそうな少女の二人がいた。
ギルドの入口近くで、何やら言い争いが発生している。
「てめぇからぶつかってきたんだろうがよ! それで謝るだけで済まそうなんざ、虫が良すぎるだろうが!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
私が今いるのは、ギルドの食堂である。
時刻はすでに十時を周り、多くの冒険者は冒険に出かけていた。
男の方は見かけない冒険者だ。
女の子の方は、ここ最近見かける新人である。
様子を見ている限り、多分だけど女の子の方からぶつかったのは本当だな。
この時間にここにいるってことは、寝坊したのか別の用事でギルドに来るのが遅れたのか、急いでいたのだろう。
結果、入口付近で偶然男とぶつかった……と。
まぁ、不幸な事故って感じだ。
ただ男のほうがことを荒げようとしている。
もともとこの冒険者ギルドの人間ではないから、多少問題を起こしても構わないと考えているのだろう。
女の子の容姿がいいことを考えると、あまりいい想像はできそうにない。
「ただ一番の理由は、この時間にギルドでサボってる冒険者に、自分を止められる冒険者はいないって判断したからか……な」
いいながら起き上がる。
こちとら眠りを邪魔された恨みもあるんだ、ちょっとくらい顔を突っ込んでもいいだろう。
他の冒険者も、私がなんとかすると思っているのか、あまり男たちに意識を割いていないし。
「――そこまでにしときなよ」
私は女の子をかばうように、男の前に立つ。
「ああ、なんだガキ。邪魔してんじゃねぇぞ!」
「ガキじゃないんだけどなぁ」
私は小柄だ。
なんだったら今後ろで庇っている少女よりも小さい。
子どもと間違えられることも多いが、これでも余裕で二十歳は越えている。
小さいのは妖精の血を引いているからであって、私のせいではないのだ。
やたらと目を引くピンクのインナー混じりの白髪も、目力強めの瞳も、別に私が望んだものではない。
「私は別になんだっていいんだけどさ、あんまりよそ者だからって適当なことすると、噂は他のギルドにも流れるもんだぞ」
「知るかよ、ぶつかってきたのはそっちのガキだろうが!」
「謝ってるんだから、それ以上ことを荒立てるなって言ってるんだがな」
正直、こうやって説教して男が言う事を聞くなんてありえない。
こういうやつは、どれだけ言っても話を聞かないのが常識だ。
だから私がこうやって言葉を重ねているのは、ちゃんと説得はしたというアリバイ作りのため。
私に丸投げしている周りのサボり魔達も、流石にギルドから証言を求められたら私は説得を試みたと証言してくれるはずだ。
そういうわけでお膳立ては済んだので――
「まぁ、やる気ならかかってきてもいい。私は別に構わないぞ」
「ふざけたこと言ってんじゃ――」
ねえ、といいながら男は拳を振りかぶろうとしていたはずだ。
膂力は間違いなくあるのだろう。
魔力による身体強化はそこそこ熟れている。
しかし、遅い。
――直後、私の拳が男より早く男のみぞおちに叩き込まれていた。
「ぐ、ぉ――」
「フッ――!」
インパクトと同時に、息をこぼす。
私の戦い方は超至近距離のステゴロ。
小柄さ故の身軽さで相手の懐に入り込み、岩くらいなら簡単に砕ける拳を叩き込む。
今回は男を吹き飛ばしてギルドの美品を壊さないように工夫したため、衝撃が男にすべてぶち込まれている。
「て、めぇ……」
にも関わらず、それだけ零して意識を失う辺り、実力に関してはあながち嘘でもないのだろう。
まぁ、私をどうこうできるほどではない。
「いっちょう上がり、と。相手の実力を推し量れないなら、喧嘩なんてするもんじゃないぞ」
パンパンと、手を叩いて戦闘終了を周囲にアピールする。
そうしながら振り返ると――
「わ、ぁ……」
そこには、明らかによくない目の輝かせ方をしている少女がいた。
黒い髪の、地味な雰囲気はするものの顔立ちの良い少女だ。
そんな少女が、私に対して憧れの視線を向けている。
一言でそれを表現するなら――
「す、すごいです! えと、あの……ヒュナ様ですよね!?」
――心酔。
初手から私のことを様付けで呼んでくるとは恐れ入る。
……どうしよう、これ。
「まぁ、そのヒュナだけど……」
「と、とってもかっこよかった……です! その方に拳を叩き込む瞬間が、まるで一枚の絵画のようで……!」
「落ち着いてくれ、私は別にそんな大層な冒険者じゃない。というか、ついさっきまでそこでガッツリ居眠りしてるの見てたろ? そういうタイプの冒険者なんだよ、私は」
「で、ですが……!」
やたらと私に憧れる冒険者がいることは、知っている。
なんか知らないけど、こうやって助けると私のことをすごいすごいって褒めてくるんだ。
そんな褒められたいタイプの人間じゃないんだけど、言っても聞いてくれない人が多い。
またやってるのか、という周囲からの視線に頬をかきつつ、私は少女の手に肩を置いた。
「まぁ、君がどうして私に憧れるのかとか、そういうのは私にとってはどうでもいい。ただ――急ぎすぎちゃダメだ」
「え、と……」
「急いでも物事は解決しない、どころか今回みたいに不要な厄介事に発展することもある」
こういう時の私の解決法、それは――とても単純。
「適当でいーんだよ、適当で。ちょっとはサボりな」
「え、え?」
「何が原因でこの時間にギルドへやってきたのか知らないけどさ、遅刻した時はそのまま休めばいいじゃん。無理して働いても、逆に疲れるだけだよ」
「でも、あの……」
「もしくは、急がなくても働ける仕事をする。どっちにしても、自分にあった歩幅ってやつが大事なのさ」
「あ、う……」
私の適当なところを見せつける。
コレに限るのだ。
「そうだ、ちょっとお酒でも飲んでてきとーに過ごさないか? 朝から一杯入れてたんだけどさぁ、叩き起こされて酔いが冷めちゃったんだよ」
「そ、それは」
「――私の驕り。ま、この厄介者をギルドに突き出せば、ちょっとした御駄賃くらいもらえるからな」
ギルド内の揉め事はギルドが管理しないといけないんだけど、強い冒険者が暴れるとそれもできないことがある。
そこで別の冒険者がそれを制圧したら、ちょっとした報酬が出ることになっていた。
二人で適当にちびちび一杯やる分には十分だ。
「ほら行こう! 今日はちょっと良い酒頼むぞぉ!」
「わ、わわわ、わわわわわーーーー!」
こうして適当な私を見せつければ、やたらと憧れることもないだろう。
ほどよくチヤホヤされるのが一番いいんだから。
なんて思いながら、何故か呆れた視線を向ける周囲の連中と、顔を真赤にした少女を他所に、私はお酒のことに意識を向けるのだった。
■
リリアムの街には、ヒュナという昼行灯な冒険者がいる。
適当な毎日を送っていることがほとんどで、ギャンブルで有り金を溶かしてギルドでやけ酒していることも多々。
そんなヒュナだが、彼女を慕うものは多い。
困っているものがいればそれを見逃さず、親身に解決してくれる。
興が乗れば積極的に冒険を手伝ってくれることもあるし、その際には彼女の実力を間近で見ることができるのだ。
何と言っても、その容姿と舞うような戦いっぷりは人気が高い。
それに彼女の生き方は、ある意味で冒険者にとって理想そのものでもあった。
やりたいことをやりたいようにして、それでいて確かな実力を持っている。
そんな冒険者になれるなら、どれほどいいだろう。
何より彼女の適当っぷりは、自分でもそういう冒険者になれるのではないかと思わせてくれるものだ。
これからも、リリアムの街はそんなヒュナを中心に回るだろう。
これは、適当極まりない昼行灯な冒険者と、それに振り回される周囲の物語。
こういう生活送りたいよなぁ、と思って書きました。
対戦よろしくお願いします。