うだるような暑さが幾日か続いたと思ったら、今度は丸一日に及ぶ豪雨が王都を襲った。
前世の地球で言えば、灼熱の一日の終わりのゲリラ豪雨だった。ただ、致命的に違うのはその時間規模。数十分で通り過ぎる地球の夕立とは違い、この雨雲は丸一日もの間路面を叩きつけ続けた。
当然、そんな日は外に出る気にもならず、俺は自室に引きこもっていたが。
「……寒い。寒いじゃないか、カイ……」
トントン、と力なくノックされたドアを開けると、そこには信じられないほど毛布にくるまり、歯をガチガチと鳴らしたアリアの姿。相変わらず目の下に薄っすらと隈がある。
「アリア、お前……冷気石を作りすぎだろ」
「だって、あの暑さのなかで快適に作業を続けるには、そうするしかないじゃないか……。なのに、雨が降ったら急に気温が下がって……部屋のなかが、もう冬だよ……」
鼻水をすすりながら毛布をすぼめる彼女を見て、何か急にポンコツ感が出てきたと思った。
快活に、それこそ太陽の様な熱量で一心不乱に刻印と向かいあっている姿とは真逆で、丁度今日のように雨に負けたようでどこか滑稽さもある。
「…しょうがないな。とりあえず部屋のドアを全開にして、その冷気石は全部、水を入れた木桶の中に突っ込んでおけ」
「ええっ!? そんなことをしたら、折角彫った刻印が全部台無しじゃないか!」
「文句を言うな。水の中なら水全体の温度が下がるだけで、それ以上は部屋の空気を冷やせなくなる。冷気を全部水に吸わせろ。魔石を無駄に消費するから勿体ないが、このままだとお前が風邪を引く。夏風邪は、きついぞ」
俺の指示に従い、アリアはぶつぶつと言いながらも冷気石を水桶に沈めることに了承した。あくまで冷気石は冷気を放つだけで、その放射速度も大したことはない水が氷るほどにはならずに室温とで平衡になって終わりだろう。
もしかしたらこの雨であの暑さもひと段落だろうかと思ったところで、翌日には、何事もなかったかのようにあの地獄の猛暑が戻ってきた。熱の再来に、アリアは一日も持たずに暑さに負けた。
「カイ! 前言撤回だ! 水に沈めた石を引き上げても出力が足りない! 今すぐ新しい冷気石を作るぞ、ほら、君もタガネを握って作るんだ!」
「は? なんで俺まで作らなきゃいけないんだよ。別に俺は困ってないぞ」
「ちょうどいいじゃないか。刻印を刻むのそう得意じゃないんだろ?
下手くそでもいいから、今のうちにやりかたを身体に覚え込ませるんだよ! 綺麗に書き直す程度の美意識があるなら、基本の写経くらい指が勝手に動くまでやりなさい!」
アリアは実家の端材である3級魔石を俺の机に叩きつけ、いつものように半ば強引に共同開発を要求してきた。一向に引き下がらない姿勢に渋々、タガネを握って不格好にした難読化の刻印を魔石に刻む羽目になった。
そんな、狂ったような猛暑と、唐突な豪雨の繰り返し。
随分と不安定な季節のなかで、王都の夏は少しずつ、その熱量を失いながら晩夏へと向かっていく。
そして。
季節の移り変わりと共に、大学では研究室体験の案内が、学生たちの間で騒がれ始めるのだった。