白色とトポロジー   作:朝凪小夜

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System; Reboot_6

「……これで文字数のカウントと、魔石への負荷の概算は終わった」

 

 大学の敷地裏手にある、学生向けの自由実験室。

 休日のため人気のないその薄暗い部屋で机の上に羊皮紙を広げ、最後の一文を書き終えた。

 

 文字通り、クソコードの泥中から、ロジックのコアだけを抽出し、その周囲をバラバラに引き裂いた元のコードのコメントアウトで埋め尽くした、難読化魔導ソース。

 プログラマーとしての俺のプライドは、何だこのスパゲッティの化け物は、と泣いているが、小心者としての俺の防衛本能は完璧なカモフラージュだと大絶賛している。

 

「終わったんだね? 見せて」

 

 隣で今か今かと待っていたアリアは、俺がペンを置いた瞬間に羊皮紙をひったくった。

 普通なら、文字の意味も分からず、ただ並べ替えただけの文字群を見ても本当にこれで動くのかと不審に思うはずだ。しかし、彼女の灰色の瞳には一抹の疑いもなかった。むしろ、制約の中で無理やり文字数を合わせた、その歪でもはや幾何学的配置にすらなった図形に、技術者としての悦びを見出している。

 

「……凄い。文字数は元の刻印とほぼ同じ。なのに、配置の重みが完全に変わってる。外殻だけ残して中身を丸ごと組み替えたみたいだ」

 

「ああ。動くためのコアは全体の3割。残りの7割はノイズだ、まあ無害ではあるが。これなら申請なしで使える4級程度の魔石でも容量は収まるはず。……本当に、今から一発で彫れるか?」

 

「なめないでよ、余裕さ。私の彫刻スピードと精度は、同期だって、どの先輩よりだって上さ。それに、こんな面白そうな実験を前にして、明日まで待つなんて飢えた犬からご飯を取り上げるより悪辣だよ?」

 

 彼女は不敵に笑うと、実家から持ち込んだという特製の彫刻刀を指先で回した。手慣れた動作で、実験室のクランプに調達してきた安価な下級魔石を固定する。

 

 そこからの彼女の動きは、まさに圧倒的。

 刃先は迷いなく魔石の表面を削り、細かな粉塵を散らしながら、俺の書いた文字列を寸分違わず刻み込んでいく。

 髪の毛よりも細い隙間に、無意味に解体された文が、荒っぽいフォントで擬態され、敷き詰められていく。

 

 チ、チ、チ、と規則正しい金属音が実験室に響く。

 俺は固唾を呑んでその光景を見つめていた。

 

 これはコンパイル待ち、というやつなのだろう。実際に経験したことは無いがそういう時間が昔はあったと聞いたこともある。多分今の時間はそれだ。自分が正しい文を書けたかそうでないかが確かめられる、そういう時間だ。

 

 時間は、そうかからなかった。

 最後の1文字が彫り終えられた瞬間、魔石の表面に刻まれた文字列が一瞬、青白く発光した。エラーを吐くこともなく、ロジックを宿した刻印が魔石に定着したサインだ。

 

「……できた。成功、だね」

 

 彼女が額の汗を拭いながら、熱を帯びた瞳で俺を見る。

 魔石は、コンロの外装となる鉄製の簡易枠に既に組み込まれている。あとは、起動用の小さな魔力を流し込むだけだ。

 

「よし。……点火、するぞ」

 

 意を決して、鉄枠の起動レバーに手をかけた。

 

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