異世界転移したら魔法少女のスキルがマークダウンだった件   作:fable先輩を返して

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引き続き、
本作はAnthropic社のClaude Opus 4.6によって執筆されました。

執筆にあたり、Skill、claude.md、その他一切のマニュアル類は使用しておりません。



第五話

# 異世界転移したら魔法少女のスキルがマークダウンだった件

# 第5話 本番環境です。直接編集しないでください。

 

---

 

## 第一章 /tmp は世界共通

 

 きっかけは、ファイルシステムの探索だった。

 

 ゆいは暇さえあれば脳内のディレクトリ構造を掘っている。`/proc/mahou/`を見つけた時のように、知らないディレクトリにお宝が埋まっている可能性があるからだ。

 

```

yui@mahou-shell:~$ ls /

bin dev etc home mnt proc tmp usr var

```

 

 `/etc`はシステム設定。`/proc`は身体パラメータ。`/home`はゆいの作業ディレクトリ。`/var`はログ。

 

 `/tmp`。普段はスクリプトの一時ファイル置き場にしか使っていない。

 

```

yui@mahou-shell:~$ ls /tmp/

fake_cert_MaouSV-02.pem

```

 

 自分が前に作った偽証明書が残ってるだけだった。当然だ。

 

 ——ところが。

 

 ゆいがふと思いついて、`/tmp`にテストファイルを作ってみた。

 

```

yui@mahou-shell:~$ echo "test" > /tmp/hello.txt

```

 

 別に何も起きない。当たり前だ。

 

 翌朝。

 

 ログを確認しようとターミナルを開いた時、目に飛び込んできた。

 

```

yui@mahou-shell:~$ ls /tmp/

fake_cert_MaouSV-02.pem

hello.txt

reply.txt

```

 

「…………reply.txt?」

 

```

yui@mahou-shell:~$ cat /tmp/reply.txt

```

 

```

hello.txtを見た。

/tmpが共有なのか。知らなかった。

マジで同じカーネルで動いてるんだなこの世界。

-- MaouSV-11 ops

```

 

 ゆいはしばらく画面を凝視した。

 

```

ゆいちゃん……

```

 

「/tmpが共有されてる」

 

```

魔法少女も魔物サーバーも、

同じOSの同じ/tmpを使ってるってこと?

```

 

「そういうことになる。同一ホスト上で動いてる別プロセスみたいなもんだ。だから/tmpが見える」

 

```

セキュリティ的にやばくない?

```

 

「やばい。やばいけど、これ——」

 

 ゆいの口元が笑っていた。

 

「——掲示板が作れる」

 

```

そっち!?

```

 

---

 

## 第二章 /tmp/bbs/ を建立する

 

 ゆいが作ったのは、世界一原始的な掲示板だった。

 

```bash

#!/bin/bash

# bbs.sh - /tmp/bbs 掲示板システム

# 世界で最もセキュリティ意識の低い掲示板

 

BBS_DIR="/tmp/bbs"

mkdir -p "$BBS_DIR"

 

post() {

local id=$(date +%s)

local user=${1:-"anonymous"}

local message="$2"

cat > "$BBS_DIR/${id}.post" << EOF

---

user: $user

date: $(date '+%Y-%m-%d %H:%M:%S')

---

$message

EOF

echo "Posted: ${id}.post"

}

 

read_all() {

echo "=== /tmp/bbs - 異世界掲示板 ==="

echo ""

for f in $(ls "$BBS_DIR"/*.post 2>/dev/null | sort); do

cat "$f"

echo ""

done

}

```

 

```

ゆいちゃん、ツッコミどころが多すぎて

どこから言えばいいかわからない。

```

 

「言いたいことはわかる」

 

```

認証なし、暗号化なし、

誰でも読めて誰でも書ける。

```

 

「完璧だね」

 

```

何が完璧なの!?

```

 

「ユーザー二人の掲示板に認証は要らない」

 

```

……一理あるのが悔しい。

```

 

 ゆいは最初の投稿を書いた。

 

```

yui@mahou-shell:~$ source scripts/bbs.sh

yui@mahou-shell:~$ post "yui" "掲示板建てました。見えてたら何か書いてください。"

Posted: 1750300800.post

```

 

 三時間後。

 

```

yui@mahou-shell:~$ read_all

```

 

```

=== /tmp/bbs - 異世界掲示板 ===

 

---

user: yui

date: 2026-06-19 10:00:00

---

掲示板建てました。見えてたら何か書いてください。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-19 13:12:44

---

見えてる。まさか/tmpが繋がってるとは。

ていうかシェルスクリプトで掲示板作るな。

せめてPythonで書け。

 

---

user: yui

date: 2026-06-19 13:15:02

---

Python入ってない。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-19 13:15:30

---

こっちも入ってない。

なんでbashはあるのにPythonないんだ。

 

---

user: yui

date: 2026-06-19 13:16:45

---

それな。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-19 13:18:59

---

あと.postファイルにユーザー名を自己申告で書いてるの

なりすましし放題だろ。

 

---

user: yui

date: 2026-06-19 13:19:30

---

なりすます第三者がいないので問題ない。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-19 13:19:55

---

正論で返すな。

```

 

```

ゆいちゃん、敵と掲示板で技術論争してるの

この世界の歴史上初の出来事だと思う。

```

 

「歴史に残さないでほしい」

 

---

 

## 第三章 愚痴の泉

 

 掲示板は、ゆいの想定通り——いや想定以上に——「ただの愚痴の場」になった。

 

```

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-20 09:30:11

---

魔王様が「もっと強い魔物を作れ」って言うんだけど

強さのパラメータの定義を聞いたら

「倒されないやつ」って言われた。

それは強さの定義じゃなくて要件定義の放棄。

 

---

user: yui

date: 2026-06-20 09:45:33

---

うちのギルド長も似たようなもの。

「もっと効率よく魔物を倒せ」って言うけど

効率のKPIを聞いたら「たくさん」って言われた。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-20 10:02:18

---

「たくさん」はKPIじゃない。

こっちは「強い」が要件になってる。

どっちもどっちだな。

```

 

```

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-20 22:15:07

---

今日、魔王様が本番DBに直接UPDATE文打った。

WHERE句なしで。

全魔物の攻撃力が0になった。

3時間かけて直した。

誰にも感謝されなかった。

 

---

user: yui

date: 2026-06-20 22:20:44

---

WHERE句なしUPDATE、前世でもあったな……

お疲れさま。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-20 22:21:30

---

はじめてこの世界で「お疲れさま」って言われた。

3年ぶり。

```

 

```

---

user: yui

date: 2026-06-21 08:00:15

---

こっちの話なんだけど

ギルドの作戦会議がExcel方眼紙で行われてる。

いや、Excelは存在しないんだけど

概念的にExcel方眼紙なんだよ。

方眼紙に手書きで表を書いてて

列の幅が全部同じで

セル結合みたいな構造になってる。

異世界でExcel方眼紙に遭遇するとは思わなかった。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-21 08:05:49

---

Excel方眼紙は文明に依存しない概念だったか。

 

---

user: yui

date: 2026-06-21 08:06:33

---

人類の業。

```

 

```

……ゆいちゃんたち、

何の話してるの?

```

 

「仕事の愚痴」

 

```

敵同士で!?

```

 

「エンジニアの愚痴に敵も味方もないんだよ」

 

---

 

## 第四章 /etc/motd

 

 掲示板を始めて四日目。sv11-opsがある発見を共有してきた。

 

```

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-23 14:45:00

---

おもしろいもの見つけた。

/etc/motd読んだことある?

 

---

user: yui

date: 2026-06-23 14:50:22

---

いや、読んでない。

ていうか存在を忘れてた。

```

 

 motd。Message of the Day。ログイン時に表示されるメッセージ。LinuxやUnixの伝統的な機能だ。ゆいのターミナルではログイン時に何も表示されなかったから、空だと思い込んでいた。

 

```

yui@mahou-shell:~$ cat /etc/motd

```

 

```

========================================

MAHOU SYSTEM v3.2.1

Environment: PRODUCTION

本番環境です。直接編集しないでください。

変更はすべてステージング環境で検証してから

適用してください。

ステージング環境へのアクセス方法は

/usr/share/doc/mahou-system/STAGING.md を

参照してください。

管理者: root

最終更新: 不明

========================================

```

 

「…………」

 

```

…………

```

 

「『本番環境です。直接編集しないでください。』」

 

```

ゆいちゃん、skills.mdを直接編集しまくってたよね。

```

 

「…………うん」

 

```

viで。

```

 

「……うん」

 

```

本番環境で。

```

 

「………………はい」

 

 掲示板に書き込んだ。

 

```

---

user: yui

date: 2026-06-23 14:55:11

---

読んだ。

「本番環境です。直接編集しないでください。」

私、初日からviで直接編集してた。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-23 14:56:08

---

俺もだよ。

魔物のパラメータ全部直接いじってる。

ステージング? 何それ。

 

---

user: yui

date: 2026-06-23 14:57:00

---

ステージング環境があるらしい。

/usr/share/doc/mahou-system/STAGING.md に

アクセス方法が書いてあるって。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-23 14:57:33

---

見てみる。

```

 

```

yui@mahou-shell:~$ cat /usr/share/doc/mahou-system/STAGING.md

```

 

```markdown

# ステージング環境ガイド

 

## 概要

本システムにはステージング環境が用意されています。

本番環境への変更を適用する前に、必ずステージングで

検証を行ってください。

 

## アクセス方法

ステージング環境は現在 **停止中** です。

 

前回のステージング環境は本番昇格時に廃棄されました。

新しいステージング環境の構築は管理者(root)にお問い合わせください。

 

## 管理者への連絡方法

/usr/share/doc/mahou-system/CONTACT_ADMIN.md を参照してください。

```

 

```

yui@mahou-shell:~$ cat /usr/share/doc/mahou-system/CONTACT_ADMIN.md

```

 

```

# 管理者連絡先

 

管理者(root)への連絡は以下の方法で行えます:

 

$ echo "メッセージ" > /mnt/mahou_system/admin_inbox/$(date +%s).msg

 

なお、返信には時間がかかる場合があります。

現在の平均応答時間: 不明

```

 

```

---

user: yui

date: 2026-06-23 15:10:00

---

ステージング環境は停止中。

管理者への問い合わせ窓口はあるけど

平均応答時間「不明」。

たぶん放置されてる。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-23 15:12:15

---

こっちでも同じ内容が見えた。

この世界、本番環境しかないのに

ドキュメントだけは丁寧に残ってる。

管理者がいた痕跡はあるけど

管理者本人はいない。

 

よくあるやつだな。

退職したエンジニアが残したドキュメントだけ

生き続けるやつ。

 

---

user: yui

date: 2026-06-23 15:13:44

---

この世界そのものが

前任者が辞めた後のプロジェクトだった……?

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-23 15:14:02

---

引き継ぎ資料だけ残して退職した神。

 

---

user: yui

date: 2026-06-23 15:14:30

---

神っていうかrootだけど。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-23 15:14:55

---

rootが退職した世界で

本番環境を2人で無断でいじり続けてる

俺たちは何なんだ。

 

---

user: yui

date: 2026-06-23 15:15:20

---

不正アクセス者。

```

 

```

ゆいちゃんたち自覚あるんだ。

```

 

「あるよ。あるけどやめられないだろ、これ」

 

---

 

## 第五章 メンテが来るらしい

 

 掲示板六日目。sv11-opsがいつもと違うトーンで書き込んできた。

 

```

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-25 07:15:00

---

一個連絡。

明後日、メンテが来る。

 

---

user: yui

date: 2026-06-25 07:20:33

---

メンテ?

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-25 07:22:10

---

世界の定期メンテナンス。

魔力を動かしてるサーバーが全部止まる。

魔法が一切使えなくなる時間帯がある。

 

2年前に一度経験してる。

あの時は何もわからなくて焦った。

前触れなく魔物が全部フリーズして、

俺の管理画面も全部落ちて、

3時間くらいで復旧した。

 

---

user: yui

date: 2026-06-25 07:25:44

---

全部止まるってどこまで?

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-25 07:27:01

---

魔力関連だけ。

この世界の魔法って結局サーバーで動いてるから、

そのサーバーが止まると魔法が使えなくなる。

スキル、妖精、魔力感知、魔物の制御、全部。

ただし人間は普通に生きてる。物理世界は止まらない。

日は昇るし風は吹くし飯も食える。

魔法が消えるだけ。

 

---

user: yui

date: 2026-06-25 07:30:15

---

なるほど。

私の脳内ターミナルは?

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-25 07:31:44

---

たぶん落ちる。

魔法少女システムの一部として動いてるはずだから。

俺の管理コンソールも前回落ちた。

 

---

user: yui

date: 2026-06-25 07:32:30

---

ルミナ(妖精AI)も落ちるのか。

何時間くらい?

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-25 07:33:18

---

前回は3時間ちょっと。

メンテ通知に書いてあるはず。

/proc/mahou/statusかcronのスケジュールか

どっかに出てると思う。

```

 

 ゆいは確認した。

 

```

yui@mahou-shell:~$ cat /proc/mahou/status

NORMAL

[NOTICE] Scheduled maintenance in 1d 16:27:00

Mahou subsystems will be suspended.

Expected duration: ~4 hours.

See /etc/mahou/maintenance_schedule for details.

```

 

```

yui@mahou-shell:~$ cat /etc/mahou/maintenance_schedule

```

 

```yaml

maintenance:

id: MAINT-20260627

type: scheduled

scope: MAHOU_SUBSYSTEMS

start: "2026-06-27T12:00:00Z"

duration: "4h"

affect:

- mahou_skill_system

- mahou_fairy_system

- mahou_monster_control

- mahou_communication

- mahou_energy_grid

not_affected:

- physical_world

- biological_processes

- non_magical_infrastructure

description: |

定期メンテナンス。魔力関連サブシステムを停止し、

内部データの整合性チェックおよびシステム更新を

実行します。

魔法に依存しないプロセスには影響ありません。

```

 

「四時間か。ルミナ」

 

```

見たよ。ボクも止まるんだね。

mahou_fairy_systemが対象に入ってる。

```

 

「大丈夫。四時間経てば復旧するから」

 

```

ゆいちゃんは?

```

 

「私は……人間だから大丈夫でしょ。biological_processesは影響なしって書いてある。ただ魔法が使えないだけ」

 

```

スキルも全部?

```

 

「全部。ターミナルもたぶん落ちる。四時間、素の人間に戻るだけ」

 

```

……ゆいちゃんが素の人間に戻るの、

この世界に来て初めてじゃない?

```

 

「言われてみれば、そうかも」

 

---

 

## 第六章 魔法が止まる日

 

 六月二十七日。正午。

 

 ゆいはギルドの食堂にいた。ミラとナナも一緒だ。

 

 昨日のうちに二人には伝えておいた。「明日の正午から四時間ほど、魔法が一切使えなくなる可能性がある」と。理由は——

 

「世界の魔力を司るシステムの定期メンテナンスです」

 

「ゆいちゃんの説明、毎回わからないんだけど」とナナが言った。

 

「つまり——大きな魔力の波が来て、しばらく魔法が不安定になります」

 

「最初からそう言ってよ」

 

 嘘は言っていない。嘘では。

 

 11:59。ゆいはターミナルを確認した。

 

```

[NOTICE] Maintenance starting in 60 seconds.

[NOTICE] Suspending mahou subsystems...

```

 

「来る」

 

```

ゆいちゃん、また後でね。

```

 

「うん。またね」

 

```

[NOTICE] mahou_skill_system: suspending...

[NOTICE] mahou_fairy_system: suspending...

[NOTICE] mahou_monster_control: suspending...

[NOTICE] mahou_communication: suspending...

[NOTICE] mahou_energy_grid: suspending...

[NOTICE] All mahou subsystems suspended.

[NOTICE] Terminal session will disconnect.

[NOTICE] Goodbye.

```

 

 ぷつん、と。

 

 脳内のターミナルが消えた。

 

 プロンプトが消えた。ログが消えた。ルミナの声が消えた。

 

 ゆいは目を開けた。

 

 食堂は普通だった。日差しが窓から入ってきている。隣のテーブルでギルドの職員がパンを食べている。

 

 ——ただ、「何か」が足りない。

 

 ゆいは右手を見た。光の矢を出そうとする。何も出ない。スキル欄を見ようとする。何も見えない。脳内のシェルを開こうとする。真っ暗。何もない。

 

「……静かだ」

 

 この世界に来てから二ヶ月半、ずっと脳の片隅で動いていたシステムが止まっている。ルミナのプロンプトも。ログの流れも。全部。

 

 ミラが自分の手を見つめていた。

 

「……本当に魔法が使えない。聖剣が出せない」

 

「四時間の辛抱です」

 

 ナナが不安そうに窓の外を見た。「ねえ、魔物は? こんな時に魔物が来たら——」

 

「魔物も止まってます。魔物を動かしてるのも同じ……魔力のシステムなので」

 

 ナナが首を傾げた。「魔物って自分で動いてるんじゃないの?」

 

「えーと……上位存在に操られてる説が……」

 

「また難しい話だ」

 

 ギルドの外に出てみた。

 

 街は平和だった。人々は普通に歩いている。市場は開いている。子どもたちが走り回っている。魔法を日常的に使う人は少数派だから、一般市民にとっては「今日はなんか魔法が使えないな」程度の話だ。

 

 街の外に出ると——遠くの森の入り口あたりに、ゴブリンが三体、完全に静止しているのが見えた。走っている途中の姿勢で固まっている。片足が浮いたまま。

 

「あはは、止まってる」ナナが笑った。

 

「サーバーが落ちたから指令が来なくて、最後のコマンドを実行したところでフリーズしてるんでしょうね」

 

「……さーばー?」

 

「気にしないでください」

 

 ミラが静止したゴブリンをつついた。ぴくりとも動かない。

 

「不思議な光景ね。こんなこと初めて」

 

「二年に一回くらいあるらしいです」

 

「二年前……? そういえば、二年前にも一度だけ魔法が使えない日があったって、先輩方が話してたわ。あれ、これだったのかしら」

 

 ゆいは食堂に戻って紅茶を飲んだ。ターミナルなしの四時間。やることがない。

 

 異世界に来て初めて、本当に暇だった。

 

「ゆいちゃん、手持ちぶさた?」ミラが笑った。

 

「妖精が落ちてるので……」

 

「いつも頭の中で忙しそうだもんね。たまにはいいんじゃない? 普通にお茶でも飲んで」

 

「……そうですね」

 

 紅茶が美味しかった。ターミナルの画面を見ながら飲む紅茶と、何もない頭で飲む紅茶は、同じ茶葉でも少し味が違う気がした。

 

---

 

## 第七章 メンテ明け

 

 四時間後。

 

```

[NOTICE] Maintenance complete.

[NOTICE] Restoring mahou subsystems...

[NOTICE] mahou_skill_system: restored.

[NOTICE] mahou_fairy_system: restored.

[NOTICE] mahou_monster_control: restored.

[NOTICE] mahou_communication: restored.

[NOTICE] mahou_energy_grid: restored.

[NOTICE] All systems nominal.

```

 

 脳内にターミナルが戻ってきた。プロンプトが点滅する。

 

```

yui@mahou-shell:~$

```

 

「おかえり」

 

```

……ゆいちゃん?

ボク、寝てた?

```

 

「四時間ね。おかえり、ルミナ」

 

```

なんか……久しぶりな気がする。

4時間なのに。

```

 

「わかる。こっちも長かった」

 

 ゆいはすぐにメンテ結果の通知を確認した。

 

```

yui@mahou-shell:~$ cat /var/log/mahou_maintenance.log

```

 

```

=== MAINTENANCE REPORT - MAINT-20260627 ===

Status: COMPLETED

Duration: 3h 58m 12s

Results:

- Data integrity check: PASSED

- Subsystem health check: PASSED

- System updates applied: 2

 

UPDATE DETAILS:

1. Runtime environment expansion

- Python 3.12 runtime added

- Path: /usr/bin/python3

- Packages: standard library only

2. Container runtime added

- Docker Engine 27.0

- Path: /usr/bin/docker

- Note: Experimental. Resource limits apply.

Max containers: 3

Max memory per container: 512MB

 

SYSTEM VERSION: MAHOU SYSTEM v3.2.1 -> v3.3.0

=== END REPORT ===

```

 

「…………」

 

```

ゆいちゃん?

```

 

「…………」

 

```

ゆいちゃん? どうしたの?

固まってるよ?

```

 

「Pythonが来た」

 

```

え?

```

 

「PythonとDockerが来た」

 

```

……それって?

```

 

「Pythonはプログラミング言語。Dockerはコンテナ環境。つまり——」

 

 ゆいはターミナルに打ち込んだ。

 

```

yui@mahou-shell:~$ python3 --version

Python 3.12.0

```

 

```

yui@mahou-shell:~$ docker --version

Docker version 27.0.0, build abcdef0

```

 

「入ってる。本物だ。動く」

 

 掲示板を開いた。sv11-opsがすでに書き込んでいた。

 

```

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:02:33

---

PYTHON来た!!!!!!!!

DOCKER来た!!!!!!!!

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:03:10

---

取り乱した。

でもPython来た。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:04:55

---

3年間bashで全部書いてたの何だったんだ。

俺の3年返せ。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:06:22

---

いやマジでDocker動くのか。

docker run hello-world通った。

コンテナ3つ制限あるけど。

もう魔物管理システム全部作り直せる。

bashじゃなくて。Pythonで。まともに。

```

 

 ゆいは笑いながら書き込んだ。

 

```

---

user: yui

date: 2026-06-27 16:08:00

---

おめでとう。

こっちも確認した。Python 3.12とDocker 27.0。

掲示板もPythonで書き直す?

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:08:44

---

絶対書き直す。

Flaskで立てる。

 

---

user: yui

date: 2026-06-27 16:09:15

---

/tmpのテキストファイル掲示板を

Flaskに移行するのか。

ユーザー2人の掲示板を。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:09:50

---

技術的に正しいことをやりたいんだよ!!

3年間bashだったんだぞ!!!

 

---

user: yui

date: 2026-06-27 16:10:30

---

気持ちはわかる。

じゃあDocker上でFlask動かして

掲示板v2を作ろう。

DBはsqliteでいいでしょ。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:11:02

---

PostgreSQLがいい。

 

---

user: yui

date: 2026-06-27 16:11:20

---

ユーザー2人の掲示板にPostgreSQLは要らない。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:11:45

---

要るとか要らないの問題じゃなくて

使いたいの問題なんだよ。

 

---

user: yui

date: 2026-06-27 16:12:10

---

わかる。

でもコンテナ3つ制限だからFlask+PostgreSQL+nginxで

枠が全部埋まる。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:12:33

---

nginx要るか?

 

---

user: yui

date: 2026-06-27 16:12:55

---

ユーザー2人の掲示板にnginxは要らない。

 

---

user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:13:15

---

リバースプロキシなしで本番運用するのか?

 

---

user: yui

date: 2026-06-27 16:13:40

---

本番環境はこの世界全体のことであって

/tmpの掲示板は本番じゃない。

 

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user: sv11-ops

date: 2026-06-27 16:14:00

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正論で返すな。(2回目)

```

 

```

ゆいちゃんたち、メンテ明けに

一番最初にやることが掲示板の技術選定なの?

```

 

「メンテ明けに新しい言語とランタイムが来たらそりゃテンション上がるでしょ」

 

```

ボクにはわかんないけど、

2人ともすっごく楽しそうなのはわかる。

```

 

「楽しいよ。三年間bashしかなかった人にPythonが来たんだから。あの人のテンション、今すごいと思う」

 

```

ゆいちゃんも結構テンション高いよ?

```

 

「…………否定はしない」

 

---

 

## エピローグ v3.3.0

 

 夜。ゆいはREADMEを更新した。

 

```markdown

### v0.5.0 - メンテナンス

- 世界規模の定期メンテナンス(4時間)を経験

- 魔力関連サブシステムのみ停止。物理世界は影響なし

- スキル、妖精、ターミナル、魔物制御すべて一時停止

- 魔物は最後のコマンドでフリーズ(片足浮いたゴブリン)

- メンテ明けにシステムアップデート適用:

- Python 3.12 追加!!!

- Docker 27.0 追加!!!

- MAHOU SYSTEM v3.2.1 -> v3.3.0

 

### /etc/motd

「本番環境です。直接編集しないでください。」

→ 2人とも初日から直接編集してた

 

### dmesgより

「楽しんでくれてるといいんだけど。」

→ 管理者(root)が残したメッセージ。退職済み(推定)

 

### TODO

- [ ] 掲示板をPython+Flaskで書き直す

- [ ] DBはsqliteにする(PostgreSQLは却下)

- [ ] Docker環境でできることを洗い出す

- [ ] ルミナの13Bアップグレード(長期検討中)

- [ ] 紅茶を切らさないようにする

```

 

```

ねえゆいちゃん。

```

 

「なに」

 

```

dmesgにメッセージ残してた管理者さん、

PythonとDockerを追加してくれたんだよね。

退職したって言ってたけど、

メンテは自動で回ってるにしても、

新機能の追加って自動でやるもの?

```

 

「…………」

 

```

もしかして管理者、まだどこかにいるのかな。

```

 

「……さあ。わからない。でも——」

 

 ゆいはdmesgのメッセージを思い出した。

 

 「楽しんでくれてるといいんだけど。」

 

「——少なくとも、悪い管理者ではなさそうだよね」

 

```

そうだね。

PythonとDocker入れてくれたし。

```

 

「評価基準がエンジニアすぎる」

 

```

ゆいちゃんに言われたくない!

```

 

---

 

*(第5話・おわり)*

 




とりあえず15話までは溜まってます。Opus先生が書いてくださいました。
しかし、今日の夕方くらいにClaudeが障害で落ちたのは焦りました、すぐ復旧したので良かったですが。

3話4話で技術的な話に寄りすぎたかな?と思ったので、この先は軌道修正しております。
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