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「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
走る。
走る。
走る走る走る。
右足を前に出して、左足を前に出して、両手を振りまわし、手芸部所属の米田星花が必死になって走る。
「はひっ……ひゅーっ……はっひっ」
あの人の手を振り払い、私は走った。
必死になって走った。
「ひっ……いっ……かはっ」
こんな事ならもっと運動しておけば良かった。
体育の授業だって、真面目に受けておけば良かった。
私は運動が苦手で体育の時間はいっつも端っこに座って友達とお喋りしていた。
権田先生は優しくて出席さえしていれば3はくれるから、それに甘えてサボってたんだ。良くないと思ってたけど、友達とお喋りするのが楽しくて、それで……それで……。
『せーちゃんは手先器用だよねー料理もうまいし、可愛いし、お嫁さん向きだんね』
『せーちゃんお嫁さんにする人はヤバくない?』
『確かに……通報待ったなし』
『もー! 何でそんなこと言うのさ! 絶対素敵な人見つけるからね!』
『その素敵な人が変質者じゃない事をあたしは祈ってるよ』
そう、そうだよ。
私はこの学校を卒業して。
ケーキ屋さんとか、カフェとか、花屋さんでバイトして。
大学に入って、好きな人見つけて、告白して。
一緒にカラオケ行って、楽しく歌って。
一緒に映画を見て、感想を言い合って。
一緒にレストランでご飯を食べて、笑い合って。
結婚するんだ。大事な人と、新しい家庭を作るんだ。
隙間の時間でパートとかして、お金を貯めて、お母さんとお父さんと月と、一緒に旅行に行くんだ。
『せーちゃんは全然大きくならなかったねー』
『うるさいなーもう。遺伝だよ! 遺伝!』
『でも月ちゃんは大きいよ』
『うっ……じゃあ栄養の問題だよ! お母さんの献立が悪いの!』
『はいはい、お母さんのせいお母さんのせい』
それから……私は。
私は……。
「ふふふ。やぁ、星花ちゃん。君の彼氏の登場だよ」
「ひっ! こ、来ないで! やだっ! 知らない! 彼氏なんかじゃない!」
「あはは何言ってるのさ星花ちゃん。
ここには僕と君しかいないんだから恥ずかしがらなくても良いのに」
「ぅっ……ぅぅぅ!!!」
私の小さな身体はもう限界で走れない。
力を振り絞って背後の扉を何とか押し開ける。
振り向いて必死に抑えるけど、簡単に跳ね飛ばされて……。
「星花ちゃんはバカだなぁ。
逃げるにしても何で屋上に逃げるのさ。
でもそう言うおバカな所が星花ちゃんの良い所だよね」
「いや! やだぁ! 来ないで! こないでよぉ!」
「は? いやいやいや星花ちゃん。
それは不味いよ、良くないなぁ、落ち着いて話し合おう」
私はとにかくあの人から距離をとろうと柵を登って屋上のヘリに立つ。
下を見たら、高くて、怖くて、目眩がした。
「おい! 何騒いで……な、何やっとるんだ米田! お、おちつけ!」
後ろを見る。
アイツの後ろに先生。
きっと私の叫び声を聞いてきてくれたんだ。
「っち! ……そうですよ米田さん。
ゆっくり落ち着いて。さぁ、先生が今から行きますからね」
「来ないで! こないでってばぁ!!!」
「お前も何やっとるんだ!
近寄って興奮させるんじゃない!
距離を置いて呼びかけて……」
アイツが近寄ってくる。
逃げないと、でも何処へ逃げればいいの?
アイツが柵を登ってこっちに来る。
「来ないで! 来ないでってば!」
「いてっ! …………はぁぁぁぁ……クソ女が」
手を振りまわして、それがアイツの顔に当たって、メガネが飛んで、それで…………
「死ねよお前」
米田星花
所属クラス:2-C
所属部活動:手芸部
身長:142.2cm 体重:42.5kg
好きなもの:友達、お母さん、お父さん、妹
嫌いなもの:ゴキブリ
趣味:小物作り
夢:お嫁さん
備考
どこにでもいる小さな小さな少女。
小物を縫っては友達に配っていた。
小さい身体でチョコチョコと歩く姿が可愛らしく皆に愛されていた。
幸せになる筈だった
全ては過去形