文芸部の2人   作:中落ちカルビ

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01:夕暮れの文芸部室

 

 

「それはまるで神話の戦いの様だ」

 

 

 

 

 夕陽に照らされ天使のように可愛らしい銀髪の美少女がぼそりとつぶやいた。

 

 

 

 

「なんて、ありきたりかな?」

 

 

 

 

 机の対面に座り、はねた癖っ毛を片手で押さえこちらを見るショートカットの彼女。この文芸部の部長である彼女はこちらの返答を待っているようだ。

 

 

「…………」

 

 

 今までに何度も見たことがある顔だ。

 絵に描いたようなドヤ顔。ドヤ顔イズドヤ顔。

 今まで記録されてきた先輩ドヤ顔レコードのNo. 1を軽く上回りニューレコードとして記録されるほどのドヤ顔だ……非常に鼻につく。

 

 今すぐ頭を叩いてその青色の瞳を涙に潤ませてやりたい。

 

 

「……はぁ……そうですね……」

 

 

 私はそんな彼女の様子を見て、頬杖をつきながらいつも通り適当にあしらうことに決めた。

 

 

「まず、爽やかミステリアスを装った渾身のドヤ顔が非常に鼻につきますね。どんな名文でもその顔から吐き出されたと思うと……ちょっと」

 

「え、ええ?! 顔かい!? 言うに事欠いて顔なのかい!?」

 

「ええ、顔が良いのを鼻に掛けた感じが堪らないですね。吐き気を催します」

 

「そ、そこまでいうほどのことかなぁ……」

 

 

 ムニムニと柔らかな頬を揉む彼女を見て私は続けた。

 ……まぁちょっとくらいはアドバイスというか一般論的なことを言っておいた方が収まりがいいだろう。

 

 

「先輩のドヤ顔は放っておくとして、識者によれば『〇〇の△△の□□』みたいに『の』が二つ以上続いた時点で黄色信号。三つ続いたらNGらしいですよ」

 

「そうなんだ……でも他に言い換え方がなぁ」

 

「でもも糸瓜もありません。そういう物だと思って受け入れてください」

 

「むむむ……」

 

「何がむむむですか。横山三国志ですか」

 

「あれ面白いよね!

 図書室の本の中でもトップクラスの評価だよ!

 でもでもボクは三国志系二次創作の中では蒼天航路の方が好きだなぁ。劉備より曹操の方が好きなんだ」

 

「まぁ気持ちはわかりますよ。私も先輩から三国志の恋愛ゲーム借りてやった身としては曹操推しですね」

 

「アレはもうあからさまに魏贔屓だからね…。荀彧ちゃんとか可愛いよねぇ…」

 

「可愛いですよねぇ…」

 

 

 猫耳、良いよね……。

 

 

 

 

 …………話がとっ散らかってしまった。

 コホンと咳払いを一つする。

 

 

「話を戻します。……詰まる所気にしない人は気にしないものですけど気にする人は気にする……って程度の話な気がしますけどね」

 

「そういうものかい?」

 

「ええ、そして気にしない人は態々『気にしてないです』なんて言いません。気にした人が『気にしてるよ』と反応します。

 それを見れば気にしてない人も『うーん、そうなのかな……そうかも』となって多くの人が気にする状態になるわけですね」

 

「そういうものなのか……」

 

「他にも『そして〜』で始まる描写を入れた後次の文をまた『そして〜』で始めたりすると結構違和感があるそうです。

 ……要は同じ枕詞を続けて何回も使うと違和感があるって話ですね」

 

「うーん……私は語彙力に自信がないんだよなぁ……」

 

「そう思ってるなら挿絵のない小説とかもっと読んだらどうですか? 

 先輩の部屋漫画とラノベとゲームばっかりじゃないですか。文芸部部長なのに」

 

「むぅ、失礼な。ちゃんと普通の小説も読んでるよ! 

 それに漫画もラノベも立派な文芸作品だし、ノベルゲーなんて実質ハードカバー小説みたいなもんさ」

 

「ノベルゲーですか………棚に金髪の子のフィギュアと一緒にでっかい桐箱飾ってるの見ましたよ。年齢制限は守りましょうね、先輩」

 

「うっ……いや、仕方ないじゃないか。名作だし、飾ってもいいでしょ。めちゃくちゃ面白かったし、大好きなメーカーの10周年作品だったんだよ。

 それにどっちかっていうと首とか腕とか足が飛ぶ意味の年齢制限だからね、バイオとかとおんなじ意味の年齢制限だよ、アレは」

 

 

 先輩が『アレはかっこいい系だからセーフ』『泣きゲーみたいなもん』『アレなシーンは薄目で見た』『GTAよりは教育にいいよ』『ちょっと血生臭いガンダムだよ』などと言い訳を並べる。

 

 まぁ未成年の学生としてどうなのだろうかと思わなくもない。だがそのゲームで感動して先輩は小説を書いてみようと決意したのだ。先輩が走り出すきっかけになったのなら年齢制限なんて根拠のないルールなどクソくらえだ。

 

 

 ……うん、あまりハードルを上げて先輩の気持ちを折ってもしょうがない。

 ここらで種明かししておこう。

 

 

「まぁ私も別に自分で書いてる訳ではないので、正確な知識かどうかは保証しかねます。ですので先輩は細かい事を気にせずに書いてよろしいかと」

 

 

 ガタリと音を立てて先輩が椅子から立ち上がる。

 

 

「えぇっ!? キミここまで未経験でボクにダメ出ししてたのかい!?」

 

「はい、この通り、さっきまでの話はネットで調べただけですよ。私はお話なんて一文字たりとも書いたことがありません。ど素人ですね」

 

 

 目を見開く先輩の前にスマホを掲げて『小説の書き方』なんて書かれた画面を見せてやる。すると彼女はワナワナと震えて……力が抜けたようにドサリと椅子に落下した。

 

 

「うう……完全に経験者だと思って相談したのに……唯一の幽霊じゃない文芸部員じゃないかキミは……」

 

「サッカー部の新入部員が皆サッカー経験者ってわけではないでしょう。それと同じです」

 

「いや、それはそうだけども……」

 

「ほら、別に自分で経験したわけでもないのにネットの知識でマウントを取る人がいるでしょう? 私もその一人というわけです。

 良かったですね先輩、作品を発表する前に受けるであろうマウンティングを事前に経験する事ができましたよ」

 

「えぇ……ねじくれ過ぎじゃないかキミ……」

 

 

 肩を落としコチラを半目で見つめる先輩。

 うん、ジト目も可愛らしい。どんな顔でも可愛く見える程顔面偏差値が高くて羨ましい限りだ。

 

 

「そういえば先輩」

 

「……なんだい後輩」

 

「結局どんな話を書くんですか?」

 

「む!気になるかい!?バトルものの長編予定だよ! 

 600話は続けてみせるさ! 1話10000文字平均くらいが理想だね!」

 

 

 600話?!

 10000文字!?

 

 

「6、600……10000文字……先輩は……その……そのお話を完結させる予定なんですか……?」

 

「そりゃあね。描き始めたならゴールまで頑張ろうとは思ってるよ」

 

 

 そうか……マジか……マジか……。

 

 

「そうですか……察するに、その小説は戦闘シーンから入るんですよね?」

 

「あ、うん。その予定だよ。それがどうかしたの?」

 

 

 ジト目からドヤ顔を経由して小首を傾げた疑問顔に切り替わった先輩。コロコロと変わる彼女の表情は見ていると嬉しくなってしまう。

 

 ……ここから曇らせると思うと心が痛いが先輩の執筆を応援する意味でも話を進めていこう。

 これに関してはネットで調べた情報というよりも私の経験談というか、今まで生きてきて小説やら漫画やらを読んでいてわかった事だ。

 

 

「先輩はなんでそこからお話を始めようと思ったんですか?」

 

「……えーと…まぁ、ボクが面白そうだと思ってる部分だからかな? 先ずは面白い話で読者の心を掴んでおかないと」

 

 

 先輩が無い胸を精一杯張りながらムフーと鼻息荒くドヤ顔で語る。

 いやちょっとはあるらしいけど……。慎ましやかな可愛らしい膨らみだ。

 身長も含めて高校生なのが嘘みたいだ。

 

 

「一話目はいわば話の顔だからね。

 諸説あるが初対面の印象の大部分は見た目、顔だ。

 漫画やラノベなら表紙絵が、ウェブ連載なら書き出しの第一話が顔にあたるだろう? 

 そこに一番面白い場面を持ってきて読者の心をキャッチするわけだ」

 

「なるほど。その戦術は概ね有効そうですね」

 

「そうだろうそうだろう!」

 

 

 実際そういう書き出しの作品は前例がある。

『こんなお話になるよ』という未来の光景を読者に見せる事でその展開が好きな読者を一話目から確保しようという作戦だ。

 

 だが素人の私から見てもこの作戦には大きな落とし穴がある。

 

 未だにドヤ顔で可愛い胸を張り続けている先輩には申し訳ないが忠告させてもらおう。まずはそう、彼女の本当の思惑についてだ。

 

 

「でも先輩、本音はそうじゃ無いですよね」

 

「え?」

 

 

 ピシり、と顔が固まる先輩。

 しかし私は容赦しない。

 これは彼女のためでもあるのだ。

 決してドヤ顔にイラついた訳ではない。

 

 

「先輩、頭に浮かんだカッコいいシーンから書こうって思ってませんか?」

 

「うっ」

 

「ていうか、そこ以外大して考えてないでしょう」

 

「い、いやいやいや、そんなことは無いよ! ちゃんと考えてるさ!」

 

「本当ですか?」

 

「本当だよ! 疑いすぎじゃ無いかキミ!? なんだそのチベットスナギツネみたいな目付きは!」

 

「はぁ……」

 

「ため息をつくんじゃ無いよ!」

 

 

 うん、まぁそんな気はしていたがやはりそうだ。

 

 

「まとめると先輩は、書きたい所から書く予定だけれども、そこまで行くつなぎの展開も、その後の結末への流れも、しっかり考えていると」

 

「も、勿論だとも! かっこよく戦ってるとことか主人公の能力とかだけ考えて他に何も考えて無いなんてあるはずないだろう!?」

 

 

 じっとバタ足クロールで泳ぎまくっている先輩の目を見る。彼女の宝石のように輝く青い目を見る。

 あぁ……綺麗だなぁ。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………」

 

 

 

 じーーっと先輩の目を見る。穴が空くくらい見続ける。

 

 多分10秒経ってないくらいで、先輩はギブアップした。

 

 

「……ごめんなさい」

 

「よろしい」

 

 

 気まずそうに私から目を逸らし、先輩は根を上げた。

 ふぅっと一つ息をついて話を続ける。

 

 

「まぁ別に着地点無く書きながら続き考えても良いとは思いますよ。

 お金をもらってる訳でもないんですから。例え続きを書けなくなっても、或いはいくらでも待たせてしまっても、とは思います」

 

「だ、だろ!?」

 

「ただですね先輩。最終的には完結を目標にするんですよね?」

 

「う、うん、そりゃあね」

 

「……書きたい所から書いて、先輩のモチベーションは続くんですか?」

 

「う……」

 

 

 正直クリエイターとして一歩踏み出そうとしている先輩にお説教のような事をするのは申し訳ないし恥ずかしい。恥ずかしいが……ここは心を鬼にして忠告しておくべきだろう。

 

 連載中で数年放置された作品がズラリと並ぶマイページは心にくるものがある。お待たせしてるのに感想とか評価とかついて嬉しいけど罪悪感がすごいんだ。そんな思いはできる限りしない方がいい。

 

 

「先輩……残念ながら結構な割合のWEB小説は、完結しないんですよ」

 

「……うん」

 

「ちなみに、製本されて書店に並んでいる作品でも完結しない作品は沢山あります。私の好きな宇宙戦艦で戦うSF戦記小説は2018年に新刊が出て第二部が始まった後音沙汰ないです」

 

「…………」

 

「プロでも大変なんですよ、広げた風呂敷を畳むのって。ちゃんとプロットを作って走り出すならともかく、行き当たりばったりでスタートする長編は……かなりきついです」

 

「ぅぅ…………そんなことわかってるよぉ」

 

 

 

 私に詰められすっかり気落ちした先輩は下を向いて椅子を掴み、足をパタパタとさせている。ああ、いじらしくて可愛らしいなぁ。もっと虐めたくなる。

 

 

「……そこで先輩。根本的な解決にはならないかも知れませんが、私から提案があります」

 

「むー……何かあるのかい?」

 

 

 でも先輩を虐めすぎるのも可哀想だ。

 ただでさえ小さい身体がもっと縮こまる様子はまるで突かれたハリネズミのようで心が痛む。

 

 

「既にある話を骨子において書いてみませんか? 元ネタというやつです」

 

「うんむ? 二次創作ということかな? でもそれはこう、ボクの求めてるものとは違うというか……それにこう……色々問題があるんじゃないか?」

 

「著作権のない話を参考にすればいいんです。それにあくまでも骨子。

 ゲームで七つの大罪の悪魔が出てきたりするようなもんですよ。先輩の好きなゲームでも村正やら政宗やらでてきたでしょ?

 ちょっとした元ネタとして使って、詳細や肉付けは先輩が考えればいいんです」

 

「ふむぅ」

 

「どうです? ある程度外殻が定まっていれば、1から全部作るより簡単そうじゃありません? 

 長さもそうですね……5〜10話くらいを目安に一部完みたいな感じで区切って短めに作りましょう。別に長ければ偉いってわけでもないんですし」

 

「うーん……それは……そうだなぁ……うん、ボクって言っちゃえば創作素人だしね。最初はそれくらいが無難なのかなぁ」

 

「ええ、最初はそれがいいと思いますよ」

 

 

 ある程度納得したようで先輩がコクリと頷く。それを見たところで私は肝心の参考にする『既にある話』を彼女に告げた。

 

 

「この学校、七不思議ってあるの知ってますか?」

 

「そりゃ知ってるよ。これでもボクは2年生だからね」

 

 

『結構有名だよねー』なんていいながら先輩が指を折りつつ七不思議を数える。

 

 顔のない女神像

 3階につかない階段。

 消えた飛び降り少女。

 読むとおかしくなる本。

 存在しない地下室。

 いつのまにか増えている机。

 

 以上6つ。

 

 

「七つ目は六つの不思議を全て回るとわかるんだ。定番だよねー」

 

「ええ、ステレオタイプな良い七不思議だと思います」

 

「因みに嘘だっ!!!てなって消された噂もあるんだよ。

 実は4番目のおかしくなる本が一番古い噂なんだってさ」

 

「はぁ、そうなんですか……それでどうでしょう。

 これを調査してネタ元にすれば良いと思いませんか?」

 

「七不思議を調査する学生探偵ものみたいな話を書けってこと?」

 

「7個もあれば一つくらいはネタになる話があると思うんですよね。お話ですから七不思議が嘘でも問題ありません。話の中で本当にして仕舞えば良いだけです」

 

 

 先輩は小首を傾げて腕を組み思考モード突入だ。

 

 

「うーん…………うん、良いんじゃないかな? でもこう、パクリ感が……やっぱり完全オリジナルの方が……」

 

「冷静に考えてください先輩。

 オリジナルを標榜する小説にクーフーリンやエクスカリバーが出てきたからってパクリだ何だと告発する奴なんかいますか?居ませんよね?

 改変だって上等ですよ。本来魚のバハムートを最強の竜として出しても誰も怒らないしアーサー王も織田信長も上杉謙信もみんな美少女で問題ありません。

 そんなどうでもいいことに文句つける奴は文句つけられる場所を探してるだけの文句つけたいだけの人、どうでもいい人なんで無視しても大丈夫です」

 

「きゅ、急に強い思想入ってきたねキミ…」

 

「滅べば良いんですよアイツら」

 

「過激派だぁ……」

 

 

先輩が若干引いた目でコチラをみている気がするがきっと気のせいだろう。

 

コホンと咳払い。閑話休題。

 

どれ、ここは一つ私もちょっとはカッコつけてみましょう。

椅子から立ち上がり、先輩に向かって恭しく腰を折りながら右手を差し出す。

 

ライヘンバッハの滝の上、ぺこりと挨拶、なんてね。

 

 

 

「というわけでどうです先輩。私と一緒に七不思議、調べてみませんか?」

 

 

 

おてて繋いで、にっこり笑って、楽しい冒険に出発だ。

 

 

 




九重刹那(先輩)
所属クラス:2-C
所属部活動:文芸部
身長:139.8cm 体重:40.2kg
好きなもの:お話、ハッピーエンド、たくさん食べる人、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
嫌いなもの:怒鳴る人
趣味:カラオケ、ぬいぐるみ集め、お絵描き
夢:お嫁さん
備考
 あんまりいない小さな小さな少女。
 銀髪青目で顔面偏差値がかなり高い。APP18
 体温が高いため冬場はよく友達に抱きつかれている。
 放課後の予定は大抵文芸部室での後輩とのおしゃべり。
 あまり家に帰りたくないらしく日が落ちるまでいる。
 記憶能力が高く頭も良い、だが素直で真面目なので騙されやすい。
 文芸部の頭脳担当。格ゲーの持ちキャラはザンギ。
 金木犀の香りが好きで運命の出会いに憧れている。
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