文芸部の2人   作:中落ちカルビ

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06:決壊

 

 

 先輩と手を繋いで階段を登る。

 

 昇降口に辿り着くまで何匹かあの顔のない化け物が現れたが何も問題ない。出会い頭にサクッと頭をナイナイしておいた。

 

 襲撃が余りにも散発的すぎる。飛行できて場所を広く使える兵士を単品でよこすとか何考えてんだあのメガネ? 

 指揮官として無能すぎる……倫理観の無い倫理教師とかいう矛盾した存在はこれだから……。

 

 

「…………」

 

 

 チラリと横を盗み見る。

 学校入ったあたりから分かってたんだけど、まぁー先輩の顔色が悪い。

 多分メガネに合ったら何を話すかとか、何を聞くかとか、最終的にどうするかとか考えているのだろう。

 申し訳ないのだがメガネの処遇はもう決まっている。

 だから先輩には余計な悩みで自分の心を削って欲しく無い。

 

 

「…………」

 

 

 だが考えるなと言ったって先輩は考えてしまうタイプだ。

 私にはどうしようもない。

 

 

「…………」

 

 

 階段を登って屋上に近付くにつれどんどん先輩の顔から血の気がひいて青白くなっていく。

 呼吸が浅くて、頻度が多い。過呼吸だ。

 さっさと対処してしまおう。

 

 

「…………わっ! な、なに!?」

 

「ほら先輩、落ち着いてください」

 

 

 私は先輩を自分の方に引っ張って抱きしめる。

 そのまま背中をゆっくりとさすった。

 

 

「落ち着いて……ゆっくり息を吐いてください」

 

「う……うん……はぁぁぁ……」

 

「大丈夫です。私がいますから。先輩は安全です」

 

「……うん…………ありがとう……」

 

 

 ゆっくりと、気持ちを込めて丁寧に、柔らかな感触を楽しみながら先輩の背中をさする。

 先輩あったかいなぁ。ホカホカだよ。体温高くて赤ちゃんみたいだ。

 

 

「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ」

 

 

 あー……幸せだなぁ。なんか甘い匂いするんだよな先輩。

 あんまり食べられないのにいつもお菓子持ってるし、そのせいなのかな。

 

 

「んっ……もう良いよ、大丈夫」

 

 

 私がまったり柔らかい先輩の身体を楽しんでいると彼女がパンパンと私の腕を叩く。離してくれコールだろう。

 

 どうするべきか? 

 

 私は全然、全く、これっぽっちも満足していない。

 しかしここはクソ雑魚しか居ないとはいえ鉄火場だ。これ以上のイチャイチャはジェイソンの法則に則って考えると非常に危険だ。

 私はともかく先輩が狙われるとヤバい。

 大抵男より女の方が狙われやすいのだ。

 私は男ではないが先輩を彼女認定した場合当然私は彼氏側だ。

 なので狙われやすいのは先輩という事になる。でも犠牲になる女は大抵金髪のグラマラス系だ、銀髪ロリである先輩は対象外か? 

 いやでもなぁ……万が一がなぁ……。

 

 

 私は脳内で協議した結果、渋々先輩を解放した。

 

 

「……はぁ……うん、だいぶ落ち着いたよ。

 ありがとうね……その……那由多」

 

「………………」

 

「……え?! ど、どうしたんだい急にうずくまって?! どこか痛いのかい?!」

 

「いえ、気にしないでください。大丈夫です」

 

「だ、大丈夫なら良いんだけど……」

 

 

 はー……相変わらず先輩は天使だ。

 たまんねぇなおい。

 性欲を持て余すよ。

 

 

「……ふぅ……じゃ、いきましょうか」

 

「うん、行こ……きゃっ!」

 

 

 天井に貼り付いてたやつが先輩めがけて飛びかかってきたので軽やかにジャンプ。昇竜拳だ。顔面を拳と天井でサンドしてやる。

 

 私の対空技を受けた顔のない化け物の頭部はぐちゃりと潰れ、頭を失った首から噴水みたいに多分化け物の血液だろう体液が降り注ぐ。

 

 失敗したな……床に叩きつけるべきだった。

 

 

「出てこなければやられなかったのに。なんてね」

 

 

 いや、出てこなくてもやってたけどね、うん。

 

 

「はぁ……はぁ……び、びっくりした」

 

「先輩を驚かすとはふてぇやろうですね。懲らしめてやりましたよ」

 

 

『懲らしめる』なんて言葉は使わない。『懲らしめた』なら使って良い。思った時には私の行動は終わってるのだ。

 

 

「はぁ……はぁぁぁ……いや、ほんとごめん。

 キミの言ってた事、理解したと思ってたけど……思ってただけだったみたい。

 ようやくちょっと思い知ったよ」

 

「何がです?」

 

 

 なんか先輩に言ったっけ? 私。

 全然覚えてない。

 多分マックでの話だと思うんだけどあそこでの私の記憶は曖昧だ。

 覚えてるのは先輩が私の物になったという素敵な事実のみ。

 ただそれだけだ。

 

 

「……たっぷりお説教してくれたでしょ……殺す気でいかないとやられるのはこっちだーとかさ……全くもう」

 

「はぁそうですか。役に立ったのなら良いですけど」

 

「むぅ……かっこよかったのになぁ」

 

「なんです?」

 

「何でもないよ!」

 

 

 私は難聴系主人公ではないから先輩がどれだけ小声で言っても聞き逃さない。

 は? なに? 私そんなかっこいいこと言ったの? マジで? それマジ情報? 

 かー、さすがは私だよ。きっとそれで先輩は私に惚れたんだな。かー、モテモテで辛いなぁ。

 

 

「っ! またきたよ!」

 

 

 お、今度のやつは男らしいな。階段の上から堂々登場だ。

 先輩もいいね、ハムスターみたいに機敏な動きでさささっと私の背中に引っ付く。

 そうそう、非戦闘員はそれでいいの。

 余計な事せずに戦闘員を盾にしようね。

 どうせ私殴ることしかできないし、喋る盾だと思った方が後腐れなくていいよ。うん。

 

 

 

 ほー、こいつは戦闘経験ありなのかな? 

 素早く近寄って私の肩をガッシリ両手で掴んできた。

 強みを活かすつもりなんだろう、羽をばたつかせて飛びたとうとしている………………うん、天井ある屋内で飛んでどうするんだ? 

 

 

「よっと」

 

 

 必死に羽をばたつかせる化け物が可哀想なので手首と肘の間、前腕を掴んでブチリと握り潰す。

 

 

「ほいほいほい」

 

 

 そして痛みにのけぞろうとするところを逃さず五連釘パンチ。パンチパンチパーンチ。

 ぐしゃぐしゃのミンチにしたらあとは肩にくっついたままの前衛的なアクセサリーをポイして終わり。

 楽勝だ。

 

 

「うん……戦ってくれてるキミに申し訳ないからもっと何か言えればいいんだけど……本当にヤバいとしか言いようがないね……」

 

 

 先輩が私の背中からヒョコっと顔を出して残骸となった元生命体を見る。

 そこで少し眉を顰めるだけでオエッとえづかない辺り先輩のグロ耐性は本物なんだなぁ。適当に殴ったから内臓とか結構飛び散ってるんだけど平気みたいだ。

 

 

「凄すぎて言葉が出ないってこういう感じなのかな……」

 

「そんな、その小さな胸一杯の感謝を込めてお礼を言ってくださいよ」

 

「ねぇ、その小さなって形容詞必要だったかい?」

 

「必要です」

 

「……ロリコン」

 

 

 唇を尖らせボソリと呟く先輩。

 あぁ……なんて可愛らしいんだ。

 本当に……天使のようだ。

 私の天使。

 私だけの天使。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩は私が人間の皮を被った下劣な悪魔なのだと知ったらどう思うだろうか。

 先輩は私が彼女を犯して汚したいのだと知ったらどう思うだろうか。

 先輩は私があのメガネに何をするつもりか知ったらどう思うだろうか。

 

 きっと離れていくのだろう。

 恐怖の視線を残し、私から遠いところへ離れていく。

 それが一番良い。先輩には是非そうしてもらいたい。

 

 私みたいな悪魔に先輩みたいな天使は似合わない。

 告白は冗談だった事にして離れるべきだ。

 文芸部にも、もう顔を出さない方がいい。幽霊の1人になった方がいいだろう。

 

 

「………………」

 

 

 先輩がまた黙り込んでいる。

 

 やっぱり連れてこない方が良かったのかもしれない。

 家に部屋を用意させて、外から鍵をかけて、閉じ込めておくべきだった。

 でもそれは先輩の意思を折る行為だ。そういうことはしたくない。

 私は先輩に嫌われたくないんだ。先輩から片時も離れたくないんだ。ずっと一緒にいたいんだ。だから学校に連れてきた。ずっと一緒にいたいから連れてきたんだ。先輩の意思を利用したんだ。

 

 

 自分の手で守りたい何てただの建前で、いい訳だ。

 

 

「………………」

 

 

 ああ、まずいな……マズイ……かなり……マズイぞコレは。

 さっきからメンタルが安定しない。

 おちゃらけて誤魔化していたが、もう耐えられない。

 限界なんだ。もう無理だ。私の心はここらが潮時で、もうとうに終着点に達していて、レールのない荒野をガタガタガタガタと車輪を削りながら走っている。

 

 

「…………」

 

 

 先輩から離れるべきだとか、離れたくないとか、一緒にいたいとか、一緒にいるべきでないとか、共にありたいとか、別れるべきとか、相反する心が幾つも幾つも私の頭の中で暴れている。

 

 脳みそが溶ける。訳がわからない。

 頭が割れるように痛い。

 

 

「…………那由多?」

 

 

 メンタル不調の理由は分かってる。

 先輩に私が汚れている所を見せているからだ。

 先輩に私が狂っている所を見せているからだ。

 先輩に私が壊れている所を見せているからだ。

 

 先輩の視線が怖いんだ。

 先輩に見てほしくないんだ。

 先輩に怖いと思われたくないんだ。

 

 私は殺人者だ。私は異常者だ。私は悪魔だ。

 いくら人間を殺しても何とも思わない悪魔なんだ。

 ぐちゃぐちゃになった死体を見たって眉一つ動かない。

 それが先輩にバレたくないんだ。

 まともな人間の皮を被った悪魔だと、バレたくないんだ。

 

 

「那由多?」

 

 

 ああ、何でだ? 

 私はただの暴力装置だ。嵐のように人を殺すだけでそこにはなんの感慨もない。

 誰に見られたところでどうでもいい、誰が見ていたところで関係ない。

 だから先輩がいても何も問題ない。

 その筈だった。その筈だったのに、この惨状は何だ。

 軽く暴れた所を先輩に見られた程度で手が震えるほどダメージを受けて、おどけていないとまともに喋れない。

 

 

「…………?」

 

 

 ようやく分かった。

 私は先輩の前ではちょっと運動神経が良いだけの、サブカル好きな人間でいたかったんだ。あの夕暮れの部室の中では、そうやっていられたんだ。

 

 それなのに今は化け物を化け物以上の手段で殺して回っている。二目と見れないぐちゃぐちゃの肉塊へと変えている。

 この上で私は本当にヤレるのか? 

 屋上にいるアイツに、相応しい末路を与えられるのか? 

 

 

 

 先輩の目の前で、人間を殺せるのか? 

 

 

 

「那由多? ねぇ、どうしたんだい?」

 

 

 なんでこんな事になった。

 誰のせいだ? 誰のせいでこうなった? 

 先輩の友達が死んで、先輩が泣いて、泣きながら謝って。

 あぁ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が死んだら、先輩は泣いてくれるだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「那由多!!!」

 

「…………何ですか先輩?」

 

「……大丈夫かい……キミ、さっきから顔色が……」

 

 

 じっと、不安気な青い瞳が揺れる。先輩(天使)(悪魔)を見あげる。

 私は見ていられなくて目を逸らし、前を見た。

 

 

 

「先輩、おしゃべりの時間は終わりです。

 つきましたよ、屋上」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上の重厚な鉄扉を足で蹴り飛ばして開ける。

 雑な力加減の結果、蝶番が外れて鉄扉はすっ飛んでいってしまった。

 

 

「なぁ!?」

 

 

 飛んでいった鉄扉は少し左にそれ、一体の化け物を貫通して柵を突き破り落下していく。

 ……物凄い音が鳴ってしまったがまぁいいか。

 

 

「……クソ! クソ! クソぉぁ!!! クソしみずぅぅ!!!」

 

 

 怒りを露わに私の苗字を叫ぶのはまぁ予想通りの陰険メガネ。片手にハードカバーの本を持ち、左右に怪物を二体引き連れてのご登場だ。

 

 

「てめぇ! よくも僕と刹那ちゃんとの逢瀬を! よくも邪魔してくれやがったなぁ!!! 」

 

 

 ……名前なんだったっけ……? 

 

 まぁいいか、どうでも。

 コイツの顔を見るのは今日で最後だ、名前なんて忘れて問題ない。

 

 

「…………若駒先生……」

 

「っ! おおっ! おおっ! 刹那ちゃんっ! 

 清水のクソにお前も言ってやれっ! 

 邪魔だったろう! 僕の所に来ようとしたのに来れなくて大変だったよなぁ!」

 

 

 ああ、そうそう、若駒だ、若駒。1〜2歳の若い馬を若駒と言うらしい。ロリコンのこいつに相応しい苗字だと笑った事もある。

 

 まぁ私も人の事を言えないが。

 

 

「僕が何体も何体も何体も何体もナイトゴーントを迎えに出したのに清水の野郎が邪魔をしやがる! 

 お陰でこんなに少なくなっちまった! 本当に邪魔なやつだ!」

 

「……その生き物はナイトゴーントという名前なんですか?」

 

「そうだ! そうだぞ刹那ちゃん! 

 こいつはナイトゴーント! 僕の忠実な僕だ! 

 僕の彼女であるお前のナイトになるんだ! 

 清水なんかとは比べ物にならないお前のナイトになる!」

 

 

 軽く周囲の気配を探り空を飛ぶ顔のない怪物、ナイトゴーントの数を数える。

 空中に浮かんでいるのは2体だけ。つまり目の前の突っ立ってるヤツと合わせて4体。

 一斉に来られてもどうとでもなる数だ。

 

 

「若駒先生は米田星花という生徒を覚えていますか?」

 

「は? …………米田……星花……?」

 

「覚えていないんですか?」

 

「…………ああ、ああ! 思い出した思い出した! 星花ちゃんな! 

 いやぁ刹那ちゃんみたいにちっちゃくて可愛くてなぁ! 僕の元カノだよ!」

 

 

 ああ、それにしてもなんて耳障りな声だ。神経に触る。

 成人した大人の男性の声とは思えない異常に甲高い金切り声だ。

 

 

「ん……あれ? 

 ……彼女にしてやるって言ったら拒否しやがったから追いかけて突き落としてやったんだっけ? 

 んんんんんん? ……ていうか刹那ちゃんはなんで星花ちゃんのこと知ってるんだ? 

 突き落としたから知らないはずだろ?」

 

「権田先生から聞いたんです。

 飛び降りた……いえ、突き落とされた生徒が米田星花さんだ……」

 

 

「権田ぁぁぁぉぁあ!!!????」

 

 

 

 

 爆発するような大音響に思わず耳を塞ぎそうになる。

 あぁ……こいつ本当に嫌いだ。先輩はよく会話を成立させていられるな。私にはとても真似できない。

 

 

「っち!!!! くそ! クソが! 権田のクソ野郎! 

 余計な事ばかりしやがって! セクハラの噂立ててやったのに辞めやがらねぇしよぉ! 

 くっだらねぇインタビューで星花ちゃんの事蒸し返しやがって!!!」

 

「………………」

 

 

 はぁ、なるほど。権田先生のセクハラの噂、その震源地はコイツだった訳か。それは全然気付かなかった。

 米田星花の消失を目撃した人間を減らそうとしての策略だったのかな。

 

 

「あああああああ!!! イライラする! イライラする! イライラするぅぅう!!!!! なんで僕の思い通りに行かない!!! 何で!!! 何でだよ!! なぁ刹那!! 何でだ!!」

 

「………………わかりません」

 

「わかんないか!? 分かんないよなぁ!? お前なんて見た目だけの女だもんなぁ! ええ?! 無能なメスがよぉ! お前は俺に従っておけばいいんだヨォ!!!」

 

「…………若駒先生、質問があります」

 

 

 先輩が苦しそうに眉を顰めて声を絞り出す。

 私は咄嗟に止めに入った。よくない予感がしたのだ。

 

 

「先輩、聞かない方がいいです。

 コイツに何聞いたって無駄です」

 

「あああああ!!!!! 清水てめぇ!!!! 

 デカ女は黙ってろ!!! 僕の事を見下ろすんじゃねぇ!!!!」

 

 

 聞かない方がいい。きっと傷が残るだけだ。消えない傷が、先輩の心に刻まれるだけなんだ。

 止めないといけない。絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも私に先輩の行動を遮る資格はあるのか? 

 私は汚い悪魔だ。狂った化け物だ。壊れた機械だ。

 汚す事でしか人を愛せない、若駒と同じ人非人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……田中晶を覚えてますか?」

 

「ああん……田中晶? ……誰だそれ」

 

「っ! ……あなたが顧問をやってる部活の部員です」

 

「んなこといってもよぉ、新聞部の顧問なんか七不思議を調べるやつが来るからやってるだけだしなぁ。

 大人はくっだらない子供のお遊び新聞になんか参加しないの? わかる?」

 

「……それなら、一週間前に若駒先生が突き落とした生徒なら分かりますか」

 

「先輩、ダメです。もうやめましょう。

 さっさとコイツをぶん殴って」

 

 

那由多は黙ってて! ……ボクは、ボクは聞かないといけないんだよ……!」

 

 

 

 ああ……なるほど……なるほど……ようやく分かった、先輩がここに来ようとしていた、本当の理由。

 

 先輩は分かってたんだ。自分1人じゃどうにもならないことなんて、先輩は承知の上だったんだ。先輩は承知の上でここに、若駒の前に立ちたかったんだ。

 

 

「助けられたんだよ! 一週間前に会ってれば! 

 一週間前に新聞部で何を調べてるのか聞いてれば! 

 七不思議を調べていれば! 間に合ったんだ! 

 そうしたら晶ちゃんは今も元気に校舎中を走り回って! 

 新聞部の友達と楽しく笑い合って! 

 部室でキーボードを打って記事を書いて! 

 そのはずだったんだ!」

 

 

 大粒の涙をポロポロと溢しながら先輩が泣き叫ぶ。

 

 

「ぜんぶ! せんぶ! ぜんぶ! ぜんぶ!!!!! 

 ぜんぶボクが悪いんだ! ボクが遅かったのが! 

 ボクが調べなかったのが! ボクが! ボクが! 

 たったの一週間だ! たったの一週間で! ぜんぶ!」

 

 

 先輩は自傷しようとしていたんだ。

 

 

「教室に来ないけど忙しいのかなって! 

 学食こないけどお弁当作ったのかなって! 

 連絡来ないけどどうしたのかなって! 

 そんなこと考えてさ! 何もしないでさ! 

 友達のこと放っといて、自分は楽しく那由多とおしゃべりしてさ!」

 

 

 凄絶な傷を、決して消えない傷を、自分の心に残そうとしていたんだ。

 

 

「一週間前だ! 若駒! 

 一週間前に誰を突き落とした! 

 どうやって突き落とした! 

 言ってみろ! 言え! 言えよ!!! 若駒ぁ!!!!!!」

 

 

 若駒は泣き叫ぶ先輩を見てにたにたと嗤う。

 そして何かを思いついたのか、片手を皿にしてもう片手でそれを叩く。

 

 ポンっと鳴らしてニヤリと唇の端を吊り上げた。

 

 

「ああ、ああ、一週間前な、それなら覚えてるわ」

 

 

 私はその邪悪な顔を見て耐えられなくなった。

 先輩の前で人間を殺す覚悟を決められていない以上、私に出来ることはこれしかない。

 例え先輩自身が望んだ贖いだとしても、私は……私は先輩に傷ついて欲しくない。

 

 

「その前にさぁ……お前ら誤解してるみたいだけどさ、僕は突き落とすなんて面倒な事やってないんだよ。

 大人はそんな野蛮なことしないの」

 

 

 烈火のように燃える怒りを胸に、歯を食いしばり、見た事もない歪んだ顔で若駒を睨みつける先輩。

 ああ、だめだ、ダメだよ先輩。貴方はそんな顔をしちゃいけない。

 

 

「ナイトゴーントを使うんだ」

 

 

 これは私のエゴだ。きっと先輩には恨まれる。

 それこそ顔も見たくないと言われるだろう。

 ……2度と口も聞いてくれないだろう。

 

 だけどそれでも、それでも私はやると決めた。

 先輩は繊細なんだ。だからこうしないと、きっと先輩は壊れてしまう。

 

 

「先輩、ごめんなさい…許してください」

 

 

 先輩を後ろから抱きしめて耳元で囁く。

 これ以上前に進まないように、傷付かないように。

 私はそっと、彼女の頸動脈に指を当てた。

 声を聞きたくなくて、口も塞ぐ。

 

 

「っ!? ぅっ!?」

 

 

 先輩が私の腕の中で暴れる。

 私が先輩にやっている事を理解したんだろう。

 四肢を出鱈目に動かして、必死になって暴れる。

 でも何の問題もない。私の身体はぴくりとも動かない。

 

 覚えてるだろうか、先輩は。

 今日の放課後、部室で座る私を動かそうと引っ張って、動かなくて、揶揄われて、プンスカ怒ってた事を。

 

 

「ナイトゴーントに、落とすヤツを持ち上げさせるんだ。

 そんで屋上の外にいく、あんまり遠くに行きすぎないのがコツだ。

 あんまり遠くに行くと消えないからよ」

 

 

 楽しかったよね? 

 私はすごく楽しかったよ。

 あれからどれくらいたったかな? 

 今は何時だったっけ? 

 マックを出たのは確か20時位だったよね。

 放課後のスタートが15時だから……5時間くらいかな? 

 なんだか随分遠くまできた気がするよ。

 たったの5時間で色んなことがわかったね。

 先輩はやっぱりすごいよ。名探偵だ。

 

 

「で、まぁ落とす訳なんだけど……ナイトゴーントは面白いことができてなぁ」

 

 

 先輩の身体からふっと強張りが抜ける。

 

 良かった、ギリギリだけど間に合った。おやすみ先輩。

 いい夢は……無理かな? 

 でもぐっすり眠って、明日は早起きするといいよ。

 私とは疎遠になっちゃうかもだけどさ、先輩は可愛いから、友達なんていくらでも出来るよ。

 それこそ両手で数え切れないくらいにね。

 消えた人も、去った人も、全て忘れるといいよ。

 

 

「ナイトゴーントはな……尻尾でくすぐるんだよ! 空中で! 持ち上げたやつを! 

 面白いぜぇ! 落ちないように必死にナイトゴーントにしがみついてる奴が限界を迎えて笑いながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前はもう喋るな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




若駒郁夫
所属クラス:3-D
所属部活動:新聞部
身長:169.8cm 体重:68.8kg
好きなもの:幼くか弱い見た目の少女
嫌いなもの:自分より背の高い人間
趣味:フィリピンへの海外旅行
夢:中学教師
備考
 黒髪を短く刈り上げた中肉中背のメガネをかけた男性。
 ニコニコと優しい微笑みを浮かべた倫理教師。
 しかしそれは全て汚い心のうちを隠す為の擬態でありその正体は3年間続いた少女消失事件の犯人。
 本性は男尊女卑と選民思想を拗らせた傲慢で品性下劣な殺人者。
 肝心の擬態も好みの女子の前では纏えておらず、彼女達自身や周りの人間からは嫌われていた。
 自己評価が高く、自分こそがこの世で一番優秀な存在だと信じていて自己のパーソナリティから離れた人間を劣等だと決めつけている。
 他人に見下ろされる事が嫌いで自分より背の高い人間が嫌い。
 女で自分より背の高い那由多は彼の嫌悪の象徴で自分の彼女である刹那に絡んでいることも含めていつか殺そうと計画していた。
 

 
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