汚泥の花   作:ゆゆみみ

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第7話 Hの話 3-2

 

 無防備な眠り姫を前に、私の心臓はどうしようもなく早鐘を打っていた。

 

「兄さん……」

 

 小さく声を零して、その瑞々しい唇に吸い寄せられるように顔を近づけていく。

 

 唇と唇が触れ合った瞬間、全身がぞわぞわとした高揚感に包まれ、自然と口元が緩むのを感じた。

 頭の中に、じんわりと熱が広がっていく。

 

 啄むような、触れ合うだけのキスを何度も落とす。

 唇に舌先を這わせて、私の唾液を塗り込む。

 寝ている兄さんに、無断でキスをしている。

 ファーストキスのはずだ。

 そうでなければいけない。

 

 兄さんのファーストキスは、兄さんの知らないところで(わたし)に奪われた。

 

 その背徳的な快楽に、自らの身を抱いて震える。

 そこで、準備していたビデオカメラの存在を思い出した。

 

 いけない、欲望が先行してしまった。

 きちんと、証拠を残しておかないといけない。

 

 一旦息を落ち着かせて火照りを取ってから、兄さんの使っている椅子を借り、その上にビデオカメラを乗せる。

 

 ディスプレイを見ると、そこには変わらず寝息を立てる兄さんが写っていた。それもまた、背徳心を掻き立てる。

 

 けれど、高さが足りない。

 これでは私がベッドに上がったら顔が見切れてしまう。

 

 今度は机の上に置いて、再びディスプレイを覗く。

 少し距離があるが、これならしっかりと二人の姿が記録されるだろう。

 

 僅かに震える指で録画ボタンを押す。

 ディスプレイの右上に、録画中であることを示す赤いアイコンが表れた。

 

 ──これで、準備は万端だ。

 

 先程のように顔の横に立っていたら、兄さんの顔が映らなくなってしまう。

 今度はベッドの上へ。

 

 片膝がマットに沈み、スプリングが微かに軋んだ音を立てる。静かな室内ではやけに大きな音に聞こえて兄さんの表情を伺うが、起きる様子は見られない。

 

 もう片方の膝も乗せ、膝立ちでマウントポジションを取る。

 兄さんの両頬に手を添える。

 動く様子はない。

 

 そのまま上半身を屈めて、再び唇同士を触れ合わせる。

 

「くふっ」

 

 兄と妹のキスが、映像という記録として残った。

 その(くら)い悦びに思わず笑い声が漏れた。

 

「ファーストキス、私が奪っちゃいましたよ? 兄さん。もちろん私もファーストキスです」

 

 カメラの方を向いて、静かに語りかける。

 いつかこの映像を見せた時、兄さんはどんな反応を見せてくれるのだろう。

 

 その時を想像して、身震いをする。

 下腹部が疼き、下着を濡らす感覚があった。

 ああ、兄さんのせいだ。

 

 たっぷりと唾液を纏わせた舌で頬を舐め上げる。

 兄さんの味がした。

 兄さんのきめ細やかな肌に、私の唾液が染み込んでいく。

 下着の染みが、広がった。

 

 けれど、今日は最後までするつもりはない。

 徐々に、兄さんを侵していきたかったから。

 その過程もまた、(たの)しみたかったから。

 

 今度は唇を舌全体で舐め上げる。

 唇は、私の唾液でてらてらと濡れていた。

 

 こくり、と無意識に喉が動く。

 

 再び口を近づけ──兄さんが顔を横に背ける。

 寝返りだ。顔を動かしただけ。

 

 けれど、急速に熱が冷めていくのを感じた。

 

 兄さんに、拒絶されたのか。

 ショックよりも怒りが先に訪れる。

 何で、私を拒むのか。こんなにも、愛しているのに。

 

 上体を起こし頬を叩きそうになる衝動を、理性が止めた。

 

 そうだ、拒んだのではなくて恥ずかしがっているんだ。引っ込み思案な兄さんらしい。

 

 やっぱり、ゆっくりと関係性を進めていることを望んでいるんだ。兄さんの心情を理解すると、昂った私の心も落ち着きを取り戻した。

 

 最初は、このくらいからでいい。

 

 そっとベッドから下りて机に向かい、録画を停止する。

 

 記念すべき、最初の記録だ。

 そう考えると、やはり一気に進めなくて良かったのかもしれない。段々と、進めていけばいいのだ。

 

 出来る妹は、自分の情欲のコントロールも出来るのだ。

 

 ビデオカメラを持って自分の部屋へと戻ると、机の上にそれを置いてベッドの上に寝そべる。

 

 兄さんに向ける情欲はコントロール出来るとはいえ、一度抱いたものはそう簡単に消える訳では無い。

 

 指先を下着に伸ばすと、先程よりも更に染みが広がっているのが分かった。もどかしい疼きが、下腹部からせり上って私の脳を満たしていく。

 

 口内には、まだ兄さんの味が残っていた。

 今日は記念すべき第一歩を踏み出した日。いつも通りでは満足出来ないかもしれない。

 

 万一にも兄さんを起こさないよう、声を押し殺して、耽る。今までと比べ物にならないくらい、甘美な痺れが頭の中に広がっていく。

 

 これもいずれは、全て、兄さんに受け止めてもらうのだ。

 そう、遠くないうちに。

 

 指先を動かす。

 粘着質な水音が鳴る。

 

 指を兄さんだと思う。

 我慢できずに嬌声を上げる。

 

 

 そうして私は、兄を穢した(まちがえた)

 

 

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