「あの、なんで僕に構うんですか」
学校からの帰り道、当たり前のように、とても上機嫌に僕の隣を歩く東雲さんに問いかける。
「それは
「……どっちも、ですかね」
「ははっ、好きだからに決まっているだろう? それ以上の理由はないよ。それで十分だろう?」
何を今更、と言わんばかりにきょとんとした表情で小首を傾げられる。とびきりの美少女は、どんな仕草をしても様になっている。
だからこそ、なぜ僕なのか、とも思う。
東雲さんはクラスの人気者で、アイドル的存在だ。誰にでも分け隔てなく接し、いつの間にか心の壁を取り払って内側に入ってくる天性の人たらし。
対して、僕はどこにでもいる普通の男。学業も、運動も、得意な訳ではない。背も大きくない。顔立ちが良い訳でもない。以前、中性的で可愛い顔立ちだね、と褒め言葉なのかよく分からない評価を受けたことがある程度。
相手なんか幾らでもいる。
それなのになぜ僕にこんなにも構うのか、構い続けるのか、理解が出来ない。
「一目惚れ、としか言いようがないかな。君の貼り付けたような笑みと、その裏に見え隠れする諦観。そして何よりその可愛い顔立ち。それらの全てを好いている。
そう答える東雲さんの瞳に愉しげな色が浮かび、その口もまた弧を描く。その笑みに何故かぞくりとした寒気を覚えて、思わず目を背ける。
「いま、蓮君と話しているのは私だよ?」
視線の先に回り込んだ東雲さんは笑顔のまま。しかし、僕の顔を覗き込んでくる夏の日の晴天のような碧眼に、
「ひっ……」
その笑みと瞳、そこから向けられる感情に、僕は反射的に顔の前に手を
「……ふぅむ。好き、はまだ大丈夫。愛している、だと重すぎるのか。愛の言葉が枷になるとは、
開けられた距離を詰めることなく、東雲さんは自身の顎に片手を当てて何やら小声で呟いていた。
僕は敢えてそれを聞こうとは思わなかった。
踏み込む理由が、僕にはもうない。
踏み込もうという気概なんていうものも、
「その辺は追々……かな。さ、帰ろっか!」
東雲さんは僕の手を引いて歩き始める。
自然と手を繋ぐ形になってしまった。
彼女としては、意図的にそうしているのだろうけど。
その証拠に、ちらりと僕を
夕暮れの街を、現実離れした容姿を持つ少女と共に歩いていく。
足下はふわふわとしていて、何処か現実感がなく、まるで体の中にあるテレビ越しから眺めているかのようだった。
いつの間には僕は何かを考えることを止めていて、ただ導かれるままに歩いていく。
「蓮君」
不意に声を掛けられるが、それに咄嗟に返事をすることはできなかった。現実感を僅かに喪失していた故に、心の中のテレビ越しに見ている故に、その声が僕に向けられたものだと理解するのに一拍の時間がかかったからだ。
「蓮君には、私が必要だよ。君の心の穴を、私が埋める。私が癒す」
僕の手を引いて少し前を歩く東雲さんが言葉を続ける。
その声色は機嫌が良さそうだった。ただ、顔はこちらを向いておらず、その表情を伺うことは出来ない。
「それは、私にしか出来ないことだよ」
東雲さんは、こんな僕に今も構ってくれているというのに。優しさと慈愛に満ちているに決まっているのに。
何故だろう。
何度か見た、歪んだ愉悦に満ちたような、どこか寒気を覚える笑みを浮かべているのを幻視した。
ただ、そこから先に思考は進まない。何故、という疑問は霧散していく。
──僕はもう、何も考えたくない。